チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#28 舐めんなよ

 ――「弱い」。

 

 私の、「勇者の力」に対する率直な感想はこの一言であった。

 

 無論、先の会議で想定された「聞一知全(オールラーニング)」について、その効果を実体験として味わった身としては「戦術において、こちらの虚をつく無限の組み立てが可能」という点は、一般の兵においては十分な脅威と感じる。

 

 だが、それは攻撃が通る相手に限定される。

 おそらく彼らの倒したと思われる、宝物殿を守護する上位ゴーレム「守護者(ガーディアン)」も、勇者単独で破壊したわけではないと見える。私の「鱗」や、上位ゴーレムの装甲である「アスライト鋼」を、その剣で斬ることは叶わないようだ。

 それを手数で補う戦術は見事な機転と言えるが……それでも、根本的な話として、龍魔族(マグナ・ドラゴン)の私の肉を切るには、根本的に膂力(りょりょく)が足りない。

 ショートソードという武器の重量不足もあるだろうが、身体操作の精密さや大胆さに対し、根本的な筋骨がそれに伴っていない。戦うための「身体」がまだ、出来上がっていないのだ。

 

 ……私は、ため息を漏らした。

 魔王様の話した通り、この男は放置するとあらゆる能力を吸収し成長する。鍛錬を積めば一層強くもなるだろう。

 だが、なまじ最初に「英雄技能(チートスキル)」という高下駄を履かされたのが、この男の不幸だ。その戦術は「いかに多彩な手段で敵を翻弄するか」に収束してしまっている。

 

 ヤツと戦ったエミリアも、体術において一流の戦士ではあるが、それでも彼女は魔法を主体として戦う魔術師であり、勇者の攻撃は十二分に有効打を与えうる。そのため、勝負の決め手は相手に攻撃を当てる「読み合い」となり、勇者側にも十分に勝ち筋はあった。エミリアが弱いというわけではないが、自在にスタイルを変化させるのが長所であるこの男と、エミリアの対軍掃討魔法は、いささか相性が悪い。

 

 だが、「龍魔族(マグナ・ドラゴン)」の私や、「猫魔族(ワーキャット)」のノアのような「肉体派」に対しては、そもそも彼の攻撃は通らない。

 エルフのリナであれば攻撃自体は通るだろうが……あの剣の天才と切り結んで攻撃を当てられるような者が、この世界にそう居ようはずもない。いくら奴が万能の剣才を持っていると言えども、幼き日から「剣を振るために作り上げた肉体」を持つリナとは動きが違う。彼女は「技巧」で私に傷をつけられる唯一の存在だ。

 

 ……この先、この勇者はどうなる?

 人間領域に侵入した山賊を討伐しているうちは良い。せいぜい落伍した軍人程度なら、奴の力は十全に発揮されよう。

 

 だが、私たち四天王の直属軍と戦おうものなら、常に戦術を問われ綱渡りを続けることになる。一瞬の油断でヤツの命は、泡のように消えていくだろう。

 

 

 私は、奴の……「カイト=イセ」の表情を見た。

 その表情はおおよそ、熟練の戦士のものとは思えない。

 

 例えるならば、親を殺された獣が、震えながら狩人に向けるような、「恐れ」と「怒り」が、そして「何をしても勝てない」という「諦観」の入り混じった、そんな瞳だ。

 

 エミリアやノアの報告によると、カイト=イセは異世界においては、そもそも戦士ですらなく、学校に通う研究者のような立場だったという。闘いとは程遠い所に生きていた、市井の者だ。

 それが、女神の力でこの世界に転移させられ、世界の平和だ、国の威信だ、仲間の命だを託されて、望んでもいない冒険に駆り出され、こともあろうに四天王と対峙することになった。

 

 

 

 ――憐れだ。

 

 本来「闘うべきでない者」が戦場にいる。

 戦場から逃れることを、社会から許して貰えもしない。

 この世界で生きることを余儀なくされた彼は、これから無間の苦難を強いられることになるのだろう。

 故郷に存在したであろう居場所に、愛すべき平穏なる日々に、憧憬を馳せながら。無為に命を落とすその日まで。

 

 

 

 ――ならば、ここで終わらせてやるのも、情けかもしれない。

 

 私は「龍鱗剣(ドラゴンスケイル)」を両手で握り、構えた。

 悪足掻きのように、ロングソードで通じぬ斬撃を繰り出し続けていた勇者は、私の構えの「圧」(プレッシャー)に気圧され剣を止め、後方に飛び退いた。

 

森羅万世流(フォレスティアン・アーツ)――」

 

 ――私は「構え」た。

 

 滅多に使うことの無い「技術」を、私は彼に向けた。

 それは「戦士として」ではない。彼の「生命」に敬意を払うために。

 憐れむべき被召喚者「カイト=イセ」に、苦しみを与えず、一瞬で葬り去るために。

 私は、私の持ちうる「最速の技」を彼に向けた。

 

地走(じばしり)

 

 森羅万世流(フォレスティアン・アーツ)の奥義のひとつ。高速で地を這う疾走斬撃。聖剣に近づく勇者たちを牽制した、魔族領域の剣技。

 私の膂力をもって振り下ろされた大剣の衝撃が、地面をえぐりながら、彼に迫っていく――

 

 

 

 ――彼は、私の最速の斬撃を「回避した」。回避できでしまうのだ、この男は。

 

 私の構えから、強大な破壊力と、神速の斬撃が来ることを悟った彼は、重量のあるロングソードをその場で手放し、転がるように脇に飛び退いた。私が重戦士で動き出しが遅いことを鑑みても、状況判断が早い。

 

 ……だが、武器を失って、命を長らえて、何になる。

 先ほどは「部下の剣を貸そう」などと言ったが、私としてはこれ以上、弱者をいたぶるが如き、不毛な戦いをしたいとも思わない。口八丁で諦めさせるのは……正直そういう小賢しい真似は苦手だ。

 

 そんな私の懸念をよそに、彼は転がった体勢から勢いよく走りだした。その向かう先は私の左側。奴がショートソードに持ち替えた時に投擲して、地面に刺さったままの幅広の大剣。それを拾い、私に向かって再度の突撃を敢行した。

 

 ……十分に扱い切れもしない、その重い武器で私に立ち向かおうというのか。私の龍鱗剣(ドラゴンスケイル)で粉微塵に散るしかない、図体ばかりのその(なまく)らで。

 

 私の、彼に対する憐憫は極限に達していた。

 振り絞った蛮勇だけで強大な敵に勝てるなら、誰も鍛錬などしない。

 与えられた力に無惨に溺れる彼を見て感じるのは、怒りでさえなく、女神や人間領域の王族に翻弄される彼への悲しみばかりだった。決闘開始時点の高揚感はもうどこにもない。

 

 龍鱗剣(ドラゴンスケイル)の太刀筋は、私の頭上で円を描き、彼の袈裟懸けに振り下ろされた。

 もう足掻くな。人間領域ではわからんが、龍王の剣で屠られるのは、魔族領域では十二分に誉れだ。「カイト=イセ」の勇名は私が語り継ごう。だから、この龍王の剣で跡形もなく消えてくれ。

 

 憐れな「勇者」に、私の剣が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

「――あんた、ようやく俺を『舐めた』な?」

 

 勇者の口角が上がったのを確認した瞬間、龍鱗剣(ドラゴンスケイル)が奴の大剣に弾かれ、上空に叩きあげられた。

 呆然とする私に、上段に構えた奴の大剣が振り下ろされる。私は、鱗で拳を覆い、斬撃に合わせて大剣を殴りつけた。

 

 だが、奴の剣閃は、私の鱗をばりばりと引きはがし、手の甲から前腕の半分ほどの間に、一本の切り傷を刻んでいた――。

 

 

 

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