チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#2 「チーター」になろう!

 読者の皆様は、「チート能力」をご存じだろうか。

 この物語を読み始めたくせに「何それ?わからないなぁ……」なんて白々しいことを言える人は、カマトト主人公の才能アリだ。今すぐ俺の立場と変わってくれ。

 

 ……うん、それで、「チート能力」。

 書いて字のごとく、その世界における「不正行為(チート)」をする技能だ。元々はゲームの改造とか裏ワザとか、そういう所を源流とするらしい。

 その世界で努力してきたり、紡がれてきた家柄を、一撃で踏みにじる、最悪の文脈に相応しい命名だな。

 これを授かった俺は、これからこの世界で暴れまわって魔王を倒して来いと、王サマに命じられた。

 

 ……このオッサンが元凶かよ。召喚の手はずを整えたであろう、隣の宮廷魔導士も「成功です!」と大歓喜。

 反面、側近と思われる貴族連中は、さながら値踏みをしたり、奇異な出で立ちを鼻で笑うような視線を送る。……誘拐してきた初対面の相手にクソ失礼だろ。こっちからすりゃ、ファンタジー気取ったコスプレしてるオッサンどもに、服装のこととやかく言われたくねぇよ。

 

 ……とまあ、週末の楽しみを奪われた俺は、使いたくもないチート能力を使って、やりたくもない魔王退治のスタートだ。

 多少の救いは、王都の宿泊施設を無料で使えるパスを準備してもらえたことか。直近の衣食住はクリアだ。これで、一生この街から出ずにニート生活(スローライフ)してやろうかとも思ったが、まあそれはあんまりだ。

 

 不本意でも勇者として頼られる中でニートをやれるほど神経は太くもない。いくらサボり学生っつっても、進級や就活から逃げるつもりもなかったしな。

 ……何よりネットも漫画もないこの世界での引きこもりなんて、すぐ飽きることだろう。

 

 そんなわけで、まず俺は王立図書館にやって来た。

 そして、めぼしい魔法入門書を一週間ほど借りることにした。

 うんうん、こっちの世界に来ても、お勉強は大事だからな。

 

   * * *

 

「それでは、これよりF等級魔法技師免許試験を始めます。解答を始めて下さい」

 

 俺は、問題用紙のページを開き、羊皮紙の解答用紙を裏返した。

 こんな高そうな紙でテストやんのかと腰が引けたが、後から聞いた話だと漂白魔法を使って解答用紙は再利用するらしい。

 

 ともあれ、魔法技師免許だ。俺に必要なのはF等級。最下級の資格まで。

 これを取得の上で、チートスキル「ランク反転」を発動することで、最大等級のSSS相当の技能が使用可能になる。Fラン大に受かれば東大相当の学力を得られるみたいなもんだな。

 ……真面目な大学生だったわけではないけど、一応受験がんばった身としては、心底腹立つ能力だ。

 

 それで、魔法技師免許試験。俺は魔法入門書を図書館で借りて、さっさと挑むことにしたわけだが。

 ……読者諸兄は、「Cheating(チーティング)」って何を意味するか知ってるか?

「カンニング行為」だよ。……「浮気」って意味もあるらしいが。

 

 ……で、だ。

 俺はここで、あえて不正行為(チート)を活用することにした。

 

 ……「何故そんなことを」って?

 俺は、好む好まざるとに関わらず、この世界に呼び出され、これからここで暮らすことになった。

 その上で「勇者」という役割を演じ、チートスキルを使用して、魔の者と戦ったり、仲間を増やしていくわけだ。

 そんな中で、「不正行為(チート)なんて、大嫌い!」という気持ちを抱えたままやっていけるか?

 

 ……良心の呵責は、立派だよ。

 だけど、この感覚を麻痺させないと、俺はこの世界で、まともに生きていくことも出来やしない。

 

 この試験は俺にとって「チート野郎」になるための第一歩だ。

 幸いにして「絶対にバレない」不正は既に考えてきている。

 

「……ステータス表示(オープン)

 

 誰にも聞こえない小声。俺の目の前には、「俺以外の誰にも見ることのできない」空中投影のウィンドウが表示された。

 異世界転生の王道だよな。主人公の能力値を表示する、ゲーム風のウィンドウ。だが、俺の能力値を見たいわけではない。

 

 んーと……アイテム画面で……あっ、あった。「初等魔導入門」。

 このアイテム詳細画面、所有する本のテキスト内容確認できるんだよな。

 これに気付いた時、俺は悪魔の発想に至ってしまった。現実世界では、思いついてもやらない行為。

 

 そんなわけで、俺は目下最速で魔法を使用可能になるために、ギルド認定の最下級試験の突破のため「チート」を使うことにした。

 この世界において、「チート」は女神のお墨付き。魔王討伐も危急の話だ。

 

 ……好きに呼んでもらって構わない。

 チート野郎なんて、俺だって大嫌いな手合いの主人公なんだからな。

 褒められる方が、むしろ居心地悪いぜ。

 

 ………………

 

 ………………………………

 

 俺は、全ての問題の記入を終え、答案を裏返した。

 

 

 

   * * *

 

 

 

「魔法技師試験を数日で突破するなんて……流石は勇者様ですね!」

 

 宿に試験結果を通達に来た王宮の使い。彼女の賞賛に、俺はばつが悪くなって天井を眺めていた。

 

 

 

 俺はあの日、カンニングを……

 

 ………………

 

 

 

 ……しなかった。

 

 ……というか、出来なかった。

 

 

 

 もちろん、ステータスウィンドウを開くまでの俺は、あの場でカンニングしてやる気満々だった。取り繕うつもりもない。

 ……だが、その瞬間、周囲の受験者のペンを走らせる音が、試験監督の視線が、俺の胸にグサグサと突き刺さってくるような感覚に襲われた。

 

 ……情けないが、結局俺は、この世界に来ても、他人の顔色を伺って、試験でズルをすることに踏み出すことのできない、憐れな小市民だったってわけだ。

 ……どこまでも、日本人だな。

 

 まあ、実のところ「初等魔導入門」に関しては、試験前にやることも無くて、暇つぶしに読み込んでいた。漫画もゲームもない世界だしな。読書ぐらいしかやることもなかったわけだ。

 真面目に勉強しているつもりもなかったが、とは言え魔法の概念については、これから使うんだし知っていて損することもない。

 そして、F等級試験は〇×問題。意地悪な引っ掛けもなく、ニュアンスを読むだけで正解できるレベルの物だった。原付試験より簡単だったな。

 

 まあ、そんなわけで、試験合格には何の支障もなし。

「ズルをしなくて偉い!」と自分を褒めるか?

 ……馬鹿言え。まともな大人は、そんなズルなんて、やろうとも考えねぇんだよ。

 

 ……本当、俺ってチートと相性悪いんだなぁ。

 

 

 

「私、必死に勉強して、ようやく文字の読み書きも出来るようになったぐらいなので、勉強のできる方、尊敬します……!」

「……うっ」

 

 王宮より遣わされた世話係の女性は、目をキラキラ輝かせて俺を見る。

 カンニングの誘惑に駆られたことは元より、親の金で通ってた大学をサボって遊んでた俺に、死ぬほど刺さる……。

 チート以前に、現代日本でぼんやり生きてるガキを、こんな切羽詰まった世界に呼んじゃ駄目だろ。

 

 それに、この子みたいな子が、必死に読み書きや勉強を覚えて、同じ会場で試験受けてたのかもと思うと、本当に死にたくなるな……。

 他人の努力を平然と踏みにじる、見下げ果てた人間にならずに済んだことだけは、心底ホッとしたよ……。

 まともな感性してたら、いたたまれなくてやってられんわ。

 

 

「それでは、引き続きがんばってくださいね、勇者様っ!」

 

 彼女の激励を受けて勇者様(ハンパやろう)は、資格証明書を眺めながら、ベッドに横になった。

 

 ……やっぱり、ズルなんてしても心にしこりが残るだけだよなぁ。

 

 チートを使いこなすにも、やっぱ適正ってあるんだろうよ。

 見る目の無ぇ女神サマめ。

 

 

 

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