チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#29 魔王軍剣術総師範、襲来

 ……俺の攻撃が「通った」。

 

 理由は単純。龍王が、俺との闘いで俺のことを「舐め切っていた」からだ。

 

 ……別に「手を抜いた隙に付け込んだ」とかそういう話でもない。

 チートスキル【無自覚最強】の発動条件が「それ」だっていう話だ。

 

 冒険当初から俺は、このスキルに翻弄されていた。【ハーレムバフ】や【ランク反転】と違い、このスキルの発動条件は大分ふわふわしているためだ。

 女神の説明は「敵、味方、第三者が、自分の強さを知らなければ」「自分が自分の強さに気付いていなければ」、無尽蔵の魔力が得られるというもの。そのため実力をしらばっくれる必要がある、というものだ。

 だが、実用していく上で、それは嘘ではないが、本質としては若干違うなと感じていた。

 

 これは「周囲に舐められてる」時に発動する力なんだ。いわゆる「ざまぁ展開」をやらせるための力といってもいい。

 剣術道場や忍術道場の体験入門で先輩方に嘲笑される中でも実感したのだが、俺「カイト=イセ」という人物に対する評価として「こいつはダメだな」と認識する人間がどれだけ近くにいるか。それによって魔力にバフがかかっているらしい。

 

 そして、魔力は外部に放出しない限りは「内功」となり、身体操作の俊敏性や精度を上げる。【ランク反転】と合わさることで、一流剣士の完成って寸法だ。

 

 ……この女は、アンナ=バイオレットは、当初は俺のことを「栄えある戦士」と見做して戦っていた。

 各種道場でゴミみたいな視線を送られがちだった俺としては、正直なところ嬉しくなる気持ちもあったが、それでは身体性能も魔力も上がらない。

 奴の部下にも「コイツ中々やるな…」などと思われてしまえば、どんどんと出力は落ちていく。ジリ貧である。なんだこのクソ能力。

 

 そんなわけで、初手は目潰し、ショートソードの連撃、からの武器喪失、ロングソードで悪足掻き……演技じゃなく本気で苦戦してたわけだが、卑怯な手も、創意工夫も、奴に通じることはない。……ついには、こちらに伝わってくるほどの「憐憫」だ。

 

 クソほど情けない気持ちと裏腹に、俺の体内を巡る魔力が、十分に満ち足りていくのを感じた。現状の俺の出せる最高火力を、踏み込みに、剣を握る手に、体幹と肩の運動に載せ、ヤツの剣を叩き上げた。

 間を置くことなく、困惑する奴の腕に一閃を叩きこむ。きき腕を斬り落とすつもりの渾身の一撃……だが、鱗に阻まれたそれは、浅い縦の傷を手に残しただけで終わった。

 

 ……ここで決めなければ後はない。三回目の斬撃を入れようとしたその時、奴の奥から、俺の右側面に、巨大な質量を持つ鱗の塊が迫るのを察し、俺は剣を置き去りにその場で真上に高く跳躍した。

 ――奴の「尻尾」が、俺のいた地点を横切り、大剣を横薙ぎに真っ二つにへし折った。

 

 尾の通過後、俺が着地した時、龍王アンナは後ろを向いて数歩進み、俺の弾き上げた奴の愛剣を空中でキャッチした。あのクソデカい大剣を空中キャッチしても微動だにしないの、どういう筋力してるんだ……。

 

 龍王「アンナ=バイオレット」は、こちらを振り向いた。

 海のように青かった彼女の瞳は、いつしか血のように赤く染まり、瞳孔は獲物を睨む蛇のように、切れ長のものへと変わっていた。

 

「よもや……我が鱗を正面から破り、肉体に傷をつけようとは……」

 

 奴の腕を流れ落ちる赤い血を見て、その部下の間にはざわめきが走っていた。勇者を名乗るだけの「雑魚」に、四天王を傷つけることなど叶わないと、そう思っていたのだろう。

 ……一方、俺は【無自覚最強】による強化が、急速に抜けていく実感があった。

 当然だ。この能力は「敵」であれ「味方」であれ、評価を受けた瞬間に機能不全に陥る欠陥能力だ。

 だから俺は、龍王とその配下が俺を「情けないヤツ」と認識しているうちに、流れのままに勝負を決めなくてはならなかった。

 

「非礼を詫びよう、カイト=イセ。貴殿は『勇者』と評すに足る男だ」

 

 ……「勘弁してくれ」以外の言葉は出て来なかった。この戦闘狂(バトルジャンキー)め。

 

 振出しに戻ったわけだが、ここまで昂られたんじゃ、もう降伏なんてワケにも行かねぇだろう。担保はあるから仲間は見逃してもらえるだろうが、俺は……紅葉おろしだな。絶望的だ。

 

 

 

「――カイトッ!!」

 

 ジーンの呼び声に振り向くと、彼女は手に持つショートソードを掲げていた。そして、それを持つ右手を振りかぶり、俺の方目掛けて放り投げ――

 

 

 

 

 

 

 ――響く金属の衝突音とともに、ショートソードは空中で真っ二つに折れた。

 

 突然の出来事に、俺は目を疑ったが、龍王を振り向くと奴にとっても想定外の出来事のようで、驚いた顔をしていた。

 だが、はっと何かに気が付いたように、奴は宝物殿の出入り口に視線を移した。

 

 そこには、龍王の部下をかき分けるように、一人の女が立っていた。

 

 褐色の肌に三つ編みの白い髪。緑のワンピースに白いマント。エルフ特有の長い耳。

 細身のレイピアを構えたその女は、さながら日に照らされた草原のような鮮やかな緑の瞳で、こちらを睨みつけていた。

 

 女は、石畳の上に、ブーツの音を、かつん、かつんと鳴らしながら、龍王の元へと歩み寄っていった。

 

 

 

「――決闘の邪魔立てをするつもりか」

「…………」

 

 ……奴にとっても招かれざる客のようだが、少なくとも俺たちの味方でもないのは確かだろう。折れたショートソードから視線を移し、奴らのやり取りに耳を傾ける。

 

「陛下の命をお忘れですか、龍王アンナ殿」

「……言われずとも、今回の件は陛下の御前で詫びよう。だが……裁の聖剣(バスター・パニッシュメント)の安置されるこの地下宝物殿は、緩衝地帯から魔族領域に突出している。我々の目と鼻の先にある脅威を、勇者にむざむざ渡すことが最善と言えるか?」

「……ですが、勇者がこの遺跡に足を運んでいると、事前に通達したでしょう。衝突は自明」

 

 エルフの女は、物言いこそ丁寧なものだが、物怖じをすることもなく、毅然として反論した。このことから察せられること。

 この女は、龍王と対等に近い強者かもしれない……絶望が、一層深まる。

 

「……勇者がこの場に訪れていたからこそ、だ。奴がこれを取得する前に阻止に動く必要があった。奪取の機会も、今をおいて他にない。決闘の流れをとったのも、交戦を最小限に留めるためだ」

「…………」

「そのための報告もした。急を要するので手短ではあったがな」

「……アンナ殿」

 

 

 

「……勇者を殺したいと考えているのが、あなた一人とお思いか?」

 

 エルフの女が、俺たちを睨んだ。その視線から伝わるのは、決闘を楽しむアンナとはまた違う、冷徹な「殺意」。

 

 

 

「……っ!」

 

 その冷たい殺意に当てられたメルが、反射的に杖をエルフに向けた。その刹那、ヤツは腰に差したレイピアに手をかけた。

 

森羅万世流(フォレスティアン・アーツ)――」

 

 それは、龍王の初撃に感じたのと同質の「圧」(プレッシャー)

 

 ――「何か」が、来る!

 その確信に突き動かされるように、俺はメルとエルフの女の間に割って入った。

 その距離は五十メートルほどだろうか。決して、ヤツの剣の届く間合いではない。

 

 だが――

 

 

疾翼(はやぶさ)

 

 瞬間、エルフの女の剣から放たれた鋭い刺突。その輝く剣閃は、距離を開けた俺の元へ瞬時に飛来し、その右手首から肘にかけてを貫いた。

 俺の骨によって逸らされた剣閃は、メルの後ろ髪をかすかにかすめ、そのまま後方の壁面に小さな穴を開けた――

 

 

 

 ……燃えるような痛みが、右腕に走る。

 俺が転倒し悶絶するのと同時に、我に返った仲間たちが駆け寄った。エリスはちぎれかけの腕を支えながら、俺の名を呼びかける。カトレアは治癒魔法を発動し、俺の筋繊維と血管を、急いで繋いでいく。

 

 

 

 気を確かに保てないほどの激痛。かすれた意識の中で、奴らの会話が、龍王の低く唸るような声が、遠くに聞こえていた。

 

 

 

「おい。てめェ、何やってんだ……?森王(しんおう)リナよ」

 

 

 

森王(しんおう)】――

 

 ああ、そうか――

 

 この女も――

 

 ――――

 

 

 

金環の四天王(テトラクラウン)の……リナ=ブラウン……」

 

 血の気の引いたような仲間たちの言葉が、暗く沈みゆく意識の中で、いつまでも、静かに響いていた。

 

 

 

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