チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#30 撤退

 ……目を覚ました俺は、ジーンとエリスに肩を担がれ、両足を引きずられながら、石畳の通路を進んでいた。

 

 状況の変化に混乱しながらも、少しずつはっきりしてくる意識。龍王アンナは……森王リナは……どうなった……?

 

「……うぅ」

 

 

「っ!……勇者様っ!」

「ああ、目ぇ覚ましたみたいだな」

 

 俺を担いでいた二人は足を止めた。そして、引きずられていた俺の足が、大地に自立したのを確認し、俺の腕をその肩から降ろした。

 

「……あれから、龍王と森王が揉めてな。強制呪法(ギアス)の影響で同士討ちが発生しかねないからって、奴さんの部下が進言したんだ。そんで、私らには手を出さないまま、渋々撤退していったよ」

「…………」

 

 ……契約魔法(コントラクト)で担保を引き出せたのが命綱になったな。あれが無かったら、なし崩し的に森王に皆殺しにされててもおかしくなかった。なんでも言ってみるもんだ。

 

 ………………

 

「聖剣は?」

 

 皆が俯く中、カトレアが口を開いた。

 

「……持ち去られました」

 

 ああ、まあ、そうだよな……。

 

「龍王のヤツは、勇者は横槍で倒れただけだっつってたけどな。とは言え、もうカイトも戦闘不能だから……ってことで、決闘はノーゲームでお流れ。約束通り撤退してったけど、扱いが宙ぶらりんになった聖剣は、『自分は決闘に無関係だから』とか言って、森王が持ってっちまったよ」

「…………」

「……あのエルフ女め。後からしゃしゃり出て漁夫の利とか、何様だっつう話しさ」

 

 今日は、ジーンも随分多弁というか、いやに俺の肩を持つな。

 

 ……まあ、無理もないか。

 こんな情けない奴に追い打ちをかけるほど、ひねくれてもねぇよな。みんなも。

 

「カイト」

 

 メルが、うつむきながら俺に声をかけた。

 

「……ごめん、カイト。私を庇って、ひどい怪我負わせて、さ」

「…………」

 

 ……なるほど。ジーンがよくしゃべるのは、メルが落ち込んでるってのもあるのか。普段の状況整理はメルやカトレアに任せてるが、こういう時に背中を支えるあたりは、やっぱり姉御肌だ。

 

 ……そもそも、俺が勝手に、武器もないのに飛び出しただけだし、あんま申し訳なく思われたくもないんだよな。

 俺が、チートにかまけた軟弱者で、龍王にロクな決定打を与えられず、武器も全部おじゃんにしたのが、根本的な原因だ。

 

 ……四天王であの強さだ。魔王になると俺なんかとは比較にならんのだろうな。

 今回の聖剣回収然り、やる気満々の第一王弟から、ガチの魔王討伐命じられるのかもって考えたら……先の暗くなってくる話だな。

 ……まあ、今回の失態で即斬首にならないためには、虚勢でも「やる」と示すしかないわけなんだが。どの道、まともな死に方は期待しない方がいいかもしれない。

 ……イヤだなぁ。

 

 

 

 ……それでも。

 それでもだ。

 

 俺は女神に「チート」を与えられた人間だ。万人が、努力であったり、家の歴史であったり、地道に積み重ねて形にした才を、横入りで追い抜いていく……そんな理外の力持つ人間が、この世界の俺という存在だ。

 そんな「ズル」を与えられておきながら、人より働く事を、人より傷つく事を、情けなくも嫌がって、後ろに引っこんでようなんて、そんな道理は通らんだろ。押しのけた人たちに、どう申し開きすりゃいいんだ。

 

 

 ………………

 

 

「……俺が弱いのが、全ての原因だ。俺が……龍王より、森王より強ければ、全ては丸く収まってた。そのはずなんだ」

「…………」

「すまない。もっと、四天王ともちゃんと戦えるように、みんなに危険の及ばないように、もっと力をつけて、頑張るよ……」

 

 俺の言葉を受けて、仲間たちは沈黙していた。

 ……「葬式」こそ開かずに済んだが、冒険を始めたばかりのあの日のように、パーティーは「お通夜」の雰囲気だ。

 

 ……本当に、さ。

 こんなボンクラが「勇者」なんてやることになって、申し訳ないとしか言えないよ、俺は……。

 

 

   * * *

 

 

 私たちは、部下に国境線の守備を任せ、翼騎龍(ウィングドラグーン)を駆り、魔王城へと向かっていた。「裁の聖剣(バスター・パニッシュメント)」を、陛下に献上するために。

 

 ……正直に言おう。

 私は此度の一件を受けて、龍王アンナ殿に強い不信感を……いや、不満を募らせていた。

 

 先の四天王会議、我々の間では明確に「勇者を刺激しない」という方針が固まっていた。私個人の感情としては承服しかねる部分もあるが、「勇者を魔王陣営に引き入れる」という活用策についても、可能性のひとつとして受け入れた。……心中では歯を食いしばりながら。

 

 ……にも関わらず、この方は、功名心か、戦士としての闘争心か、独断で行動を起こし、勇者と衝突した。私が理性で抑え込んだ感情を、彼女は踏み越えて行ったのだ。

 

 確かに「裁の聖剣(バスター・パニッシュメント)」の回収は急務ではある。結果的に言えば、彼女の独断専行は、脅威的な聖剣が勇者の手に渡ることを防いだと言える。……結果だけを見れば、決して悪くはない。

 

 だが、軍紀を乱さないためには、グレタ魔王陛下や、陛下よりお目付け役を賜った私の判断を待つべきだろう。

 ……私については、まあ、いい。所詮は新参の世襲四天王だ。だが、魔王陛下を軽んじるのは、栄えある「金環の四天王(テトラクラウン)」の一角としていかがなものなのか?

 この方に、その栄誉に相応しい資質が――

 

 

 

 

「……先走って、すまなかったな。リナ」

「!」

 

 翼騎龍(ウィングドラグーン)の羽音を縫うように、彼女の言葉が私の長い耳の中に飛び込んできた。

 

「……あんたがおそらく感じてるだろう、私への不満に間違った所はない。すべては私の独断専行。『強者と戦いたい』という欲に流された帰結だ」

「…………」

「あの場であんたに飛ばした言葉は……本心ではあったが、何の正当性もない戯言だ。魔王様も、状況を知ればあんたが正しいと言うさ」

 

 それは、不平でも、怒りでもなく、真っすぐな謝罪だった。意外な言葉に毒気を抜かれた私は、つい先ほどまで頭の中で巡らせていた、彼女を非難する言葉を、一言も発することはできなかった。

 

 

 

「……自分でも間違っていると知りながら、それを、止めることはできなかったのですか?」

「ああ、止めることはできなかった」

「…………」

 

 彼女は、風を切る音にも負けないほどの、深いため息をついた。

 

「……リナ。あんたのおばあちゃん……リザ婆は、魔族領域に侵入した勇者『イサミ=サイジョウ』の『エルフ狩り』から逃げおおせて、復讐のために剣技を磨いてたって話、知ってるよな」

 

 ……勇者『イサミ=サイジョウ』。

 魔族領域において知らぬものは居ない「史上最悪の勇者」だ。

 

 大義ではなく自身の欲のために、私兵を率いて魔族領域に度々侵入し、虐殺、略奪、女子供への暴行や誘拐を働いた、人間勢力の非道の体現とも言うべき存在。

 祖母であるリザの夫……私の祖父も奴に殺され、命からがら落ち延びた祖母は、復讐のために「万世流(イモータリティ・アーツ)」を習得。それをエルフの特色に合わせて洗練させて、東方最強の剣術「森羅万世流(フォレスティアン・アーツ)」の流派を確立し、その師範となった。

 

「……だが、リザ婆は復讐を完遂することはできなかった。勇者イサミが、先代魔王ベルゼアルに殺されたからだ」

「…………」

「結果的に、リザ婆は我々とともにベルゼアルを討つことになったが、仇を自身の手で討てなかったことは、いつまでも無念だったそうだ」

「……そうですね。私もその話は、何度も聞かされました」

 

 私も、当時はまだ幼く状況を理解しきれていなかったが、祖母や父母の味わった艱難辛苦の日々を聞く中で、自然と「勇者」という存在への、ひいては「人間」という存在への反感が、怒りが、根付いていった。

 

「私も、さ」

「?」

「……私の両親は、先代魔王ベルゼアルに殺され、奴の陣に突き立てられた槍に、その首を晒された。その頃は、『必ず自分の手で、ヤツを殺してやる』と、燃え上がったものさ」

「…………」

「……そして、その復讐は、我が魔王グレタ様の手で完遂された。私自身の手でとどめを刺せなかったのは今も無念だが……あの頃の私は、今以上に未熟だったから。どの道、無理な話だったのさ」

 

 彼女は、空を仰ぎながら漏らした。

 祖母の話にも通じる、行き場のない悲しみと怒り。彼女の行動は、この思いによる所なのだろうか。

 

「……その、行き場をなくした復讐心が、魔王様への反感として今も残っている、と?」

 

 私の問いに、彼女は「冗談だろう」とでも言いたげな顔だ。

 

「ははっ、まさか!グレタ様ほど素晴らしい魔王を、私は知らないよ!私は、あのお方のために働くことに、誇りこそ感じるが、反感など持とうはずもない」

 

 彼女の表情に曇りはない。

 単純な性格をしている彼女のことだ。きっとこれも本心なのだろう。

 

「……だが、そんな素晴らしき陛下の剣として、私がふさわしい存在なのか。その疑問は晴れはしない」

 

「叡智のエミリア。謀略のノア。指南のリナ。……では、私はなんだ?先代魔王に力及ばず、グレタ様の力を頼った私が『武力のアンナ』などと名乗れるか?それを名乗るなら、勇者や魔王に比肩する力が無くては、不足なのではないか?」

 

 彼女は、ふぅっとため息を零した。

 

「……私は、四天王の最高武力のように扱われるがね、その実は最も『替えの効く』存在なのさ。だから、私は、自分の存在意義を示すために、戦場を求め続けなければならない……平和を目指すグレタ様の思惑に逆行して」

「…………」

「……だからきっと、平和な世を作っていく上で、『強さを備えた賢き者』が必要になっていく中で、私は邪魔者になっていく。……古参と言えども、このあたりが潮時なのさ」

「…………」

「魔王様の前で私の釈明をする必要はない。グレタ様が私を処断しようとしたら、そのまま看過してくれて問題ない」

 

 

 

「……アンナさん」

「……ふむ、もうじき『蝕の王城』(キャッスル・イクリプス)が見えてくるな。昔話を聞いてくれて、ありがとうな、リナ」

 

 彼女は、寂しげな表情を浮かべながら、視線を前方に戻し、翼騎龍(ウィングドラグーン)の手綱を引いた。

 盆地に広がる「魔都(まと)プシュリオール」。その眼前にそびえる連峰。

 

 ……魔王陛下への謁見は、間近に迫っていた。

 

 

 

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