チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~   作:CarasOhmi

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#35 「パーティーを解散」しよう

 ――俺は、仲間たちに俺のチートスキルの概要を伝えた。

 

 それはもちろん、俺が事前に皆に伝えていた「女性限定で能力を底上げする女神の祝福」だけではない。

「ギルドに類する社会集団で定められた等級をひっくり返す能力」と「敵や仲間に舐められるほど魔力が底上げされる能力」について。

 

 ジーン、メル、カトレア、エリスは、誰一人口を開くことなく、俺の言葉を聞いていた。地べたに尻をつき、俯きながら言葉を絞り出す、俺の姿を見下ろしながら。

 

「…………」

「…………」

 

 その場に沈黙が流れる。

 俺は、顔を上げることができなくなっていた。

 今まで通り、皆の顔を直視することなど、俺には到底できなかった。

 

 

 

「……なんで、今まで言わなかった」

「…………」

 

 低い声で問いかけるジーン。

 俺は、なにを応えていいのかもわからず、ただただ沈黙していた。

 

「話す機会は何度もあっただろ。そんな不安定な能力なら、まず事前に、パーティーで共有するべきもんだろうがよ」

「…………」

「……私らには、話したくもねぇか?」

 

 ジーンは、肺の空気をすべて吐き尽くすかというほどの、深いため息をついた。

 

「……ようやくわかったよ、カイト。お前が私たちを、どういう目で見てたのか」

 

 俺は、ジーンの言葉に肩をびくりと震わせた。

 

「私らは、アンタにとって『対等な仲間』じゃなかった。アンタにとっての私たちは『英雄技能(チートスキル)』発動のために必要な、『部品』に過ぎなかったって事さ」

「!」

「じ、ジーンさんっ!」

 

 エリスがジーンの言葉を止めようとするが、ジーンはそれを睨み付けて牽制する。

 

「そりゃあ、壁も作るはずだぜ。私たちはアンタの力を引き出すために『アンタを舐めてくるイヤな仲間』であることを求められてたわけだ。まあ、エリスの護衛程度は期待してたのかもしれねぇが……そんなことも知らずに、実力が認められた、勇者の旅の同行者になれた、だなんて浮かれてたと思うと……屈辱だぜ」

「…………」

「思えば、龍王の決闘の時も、さ。アンタは一対一の決闘を選んだ。『男』なんだなって見直したもんだったが……よく考えたらこれも違げぇよな。本来、私らを対等な仲間として見てるなら、全員でヤツと戦うことを選ぶべきだったんじゃねぇか?」

「…………」

「つまり、アンタにとってのパーティーは『守るべきもの』……自分の力を万全に発揮するための強化要因として、私らに欠けてもらっては困ると、それが本音だったんじゃねぇのか?」

 

 

 

 ――違う。

 俺は、みんなを「仲間」だと思ってた。

 一緒に困難を乗り越えて人間領域のために戦っていこうって、その過程の旅でも笑い合える戦友でありたいって……その気持ちに嘘はなかった。

 

 そのはずなのに……俺は、彼女の言葉に、一切の反論が出来なかった。

 

 何故か?

 ……他ならぬ俺が、チートスキルの発動に際して、彼女たちの俺に向ける感情を、勘定に入れていたことを知っているからだ。

 そんな自分の姿を知っていながら、何の後ろめたさもなく「仲間として信頼も尊敬もしていた」などと口に出すことは……出来なかった。

 

 

 

「……私らが、今日まで鍛えてきた専門技能も、アンタは『英雄技能(チートスキル)』でやすやす追い抜いた。……才能ってのは不平等なもんだからな。そこについてはとやかく言うつもりはねぇさ」

「…………」

「だがな、私らが指示を仰ぐリーダーがよ、自分の領分で『最上位の力を維持するために、最下級ランクだけを取る』なんて舐めたことをやってたなんて、私らはアンタに何を思えばいい?私らの努力の成果を弄ぶような人間に、部品のように扱われていたことに、何を感じればいい?」

「…………」

「最初に打ち明けてりゃ、ここまでこじれたりもしなかったさ。そういうもんだって納得することも出来たし、我慢できなきゃ志願しない選択肢もあった。だが、この期に及んで、こんなこと聞かされて、私らはどうすりゃいいよ?」

「…………」

 

 ジーンは、沈黙する俺から視線を逸らし、後ろを振り向いた。

 

「……私もメルも『才能』が残酷な者だってことは知ってる。何より自分たちが『家柄』によって才能の恩恵に預かってきたんだ。多少は割り切れるぜ?」

 

 ジーンは、カトレアに視線をやる。

 彼女は、メルに肩を支えられながら、俺をじっとりと睨んでいた。その瞳には、涙が滲んでいるように見える。

 

「……けどよ、カトレアは孤児院育ちだ。修道院で研鑽を詰んで、戦いの術や神聖魔法を習得した人間だ。年相応の欲だって抑え込んで、女神サマへの信仰を守り、献身や節制に勤め、一人前の僧兵になるために、修行に勤めてた」

 

 ……理解している。

 この世界においては、俺のような気楽な少年時代を過ごした人間などほとんどいないことも。

 

「コイツは、私らと違って、アンタを非難もできない。他ならぬ女神の采配なんだからな。どれだけ屈辱を感じようと、不公平感を感じようと、女神サマに不平を漏らしたんじゃ信徒失格になっちまう。その辺の気持ちを思えば、リーダーとしてもっと取れる行動もあったんじゃねぇのか?」

「…………」

「……なあ、何考えてんだよ、オマエ。黙ってるばっかで、何も言えねぇのか?」

「…………」

「……ちっ」

 

 

 

 ……何も、反論なんて、できない。

 ジーンの指摘は、俺自身がこの旅の中でずっと感じて来たことだ。

 

 それでもなお、俺はこの現実を直視することから逃げ続けてきた。

 他でもない、俺はずっと「俺のチートスキルは、仲間たちの努力を、人生の歴史を、踏みにじり、侮辱している」と、後ろめたさを感じながら、旅を続けていたんだ。

 

 日々を頑張って生きてきたみんなに、失望されることが怖かった。

 ……「お前なんか仲間じゃない」と言われるのが、ただ怖かったから。

 

 その恐怖で、直視すべき現実から目を逸らしていた。

 いつしか、深く考えることからも逃げ、目先の課題を協力して乗り越えた事実だけを見て、俺は「みんなの仲間になれた」気でいた。

 

 けれど、「みんなと本当に仲間になりたい」と願っていたなら、羞恥心なんかに負けず、ちゃんと伝えなくちゃいけなかった。

 彼女たちが「勇者」という偶像を俺に投影するよりも先に、醜悪なこの英雄技能(チートスキル)の本質を、俺という人間の弱さを、知ってもらわなくてはいけなかった。

 

 ……それを後回しにした結果は?

 見ての通り、俺は、彼女たちの心底からの失望を、嫌悪を、軽蔑を受けている。

 もはや、彼女たちは俺を「仲間」とは、見做していないだろう……。

 

 

 

「み、みなさん、落ち着いてください……っ!お互い、気持ちが行き違ってただけで、感情の整理がつかないなら……今日は宿で休んで、明日ゆっくりと……」

「……悪りぃな、エリス。もう無理だわ」

 

 ジーンは、エリスの言葉を遮るように吐き捨てた。

 

「……私は、もうこのパーティーでの冒険は続けられそうにない。私にも戦士としてのプライドってもんはある。……きっと、メルやカトレアにも、だ。それを踏みにじられて、何の釈明も出来ない男に、私たちの命は預けられない」

「!」

 

 三人は、おろおろと困惑するエリスから、俺に視線を移した。

 

「アンタも、英雄技能(チートスキル)が機能不全になったなんて王宮に伝わったら、先の聖剣の話も合わさって、ただじゃ済まない。最悪、第二王弟が手を回して処刑になる可能性だってある。だから……」

 

 ジーンは、失望の中に、わずかの憐憫を含む視線を、俺に投げかけ、言った。

 

「……戦友のよしみだ。英雄技能(チートスキル)を失ったアンタは、べートリーで姿を消したと伝えておく。私たちにも責は及ぶだろうが……実家や教会との関係もあるし、任務が失敗したとしても、後ろ盾を持たないアンタと違って、処刑にまで行くことはない」

 

 ジーンは、見下げ果てていたであろう俺に対しても、その生命(いのち)を案じていた。

 彼女の厚意に、俺はいっそう、自身の軽薄さを、臆病さを、恥じ入る気持ちを強めていた。

 それは、俺さえ道を誤らなければ、彼女ともちゃんと「仲間」になれていたという、証左に他ならなかったから――

 

「……あばよ、カイト。ここでお別れだ」

 

 ……もはや、三人の決意は、固まっているようだった。

 

 

 

 俺には、きっともう、引き留める権利も、資格もない。

 それが、どれほど寂しいことであったとしても、だ。

 

「……わかった。俺の不誠実な行いで、皆の矜持を、尊厳を、傷つけたことにも謝罪する」

 

 三人の眼つきは変わらない。

 もはや、俺に何も期待していないと、その瞳が語っている。

 

 既に出た賽の目は、どれだけ足掻いても変わらない。

 今の俺にできることは、現状を認識した上で、最後の決断をすることだけ、だ。

 俺は「みんなのことを、本当に頼れる仲間だと思っていた」という本心を、胸の内にしまい込み、自分の「言うべき言葉」を絞り出した。

 

 

「……本日をもって勇者パーティーは解散する。今日まで、みんなには世話になった。……本当に、ありがとう」

 

 ――俺は、皆に対して頭を下げた。

 皆は、俺を一瞥し、やがて背を向け、その場から歩き去って行った。

 

 

 

   * * *

 

 

 

「勇者……様……」

 

 その場に残ったのは俺と……エリスだけだった。

 

「……き、きっと、突然の出来事で、混乱しているだけです!ちゃんと落ち着いて話せば、勇者様が皆さんを、仲間として大事に思っていることも、ちゃんと……」

「…………」

 

 

 もう、無理だよ……。

 こじれ切ってしまったんだ、俺たちは。

 

 俺の心に「エリスも皆と一緒に失望して、俺の元を去ってくれていれば」と、弱く卑怯な気持ちが過る。

 ……その、他人任せで、自分の言うべきことから逃げてきた俺の姿勢が、パーティーを崩壊させた原因だろうに、な。

 

 ここまで惨めで、救いようのない俺を、彼女はまだ信頼してくれる。

 俺の手で、パーティーを立て直し、冒険を続けられると、信じてしまっている。

 

 

 

 …………

 

 ……ならば、だ。

 

 もう、躊躇うことは許されない。

 このパーティーの解散のために、最後の始末をつける。

 それは、無責任な俺の、果たすべき最後の責任だ。

 

 

 

 

 

 

「――エリス」

「は、はい」

「俺は……俺は、君を……」

 

 

 

 ――エリス=ブライトを「追放」する。

 

 

 

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