チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~ 作:CarasOhmi
「――報告します!勇者の遺体を確認に向かった射撃部隊が、勇者側の増援により壊滅!救援者の女は勇者を回復させ、そのまま騎馬にて撤退を開始しました!」
「ぐっ……!」
ようやく、あの、忌々しい勇者を仕留めたと思えば……。
――何故だ。
何故、脆弱な人間如きに、吾輩が翻弄されねばならぬ。
イサミ=サイジョウ……ベルゼアル……グレタ……
長年の屈辱を耐え忍び、魔族領域に、人間領域に、覇を唱えんとする、我が悲願の物語がようやく始まろうという時に――何故、あのような些末な小僧に邪魔立てされねばならぬ。
「……いかがなさいますか、グルドンド侯爵閣下」
――許せぬ。
人間風情が、我らの叡智の結集、誉れ高き武器を使ったこと。
あまつさえ、吾輩に、「恐怖」を味わわせたこと。
ただ殺すだけでは飽き足らぬ。
この吾輩の手で、地獄を……見せてやらねばならぬ。
「……決して、勇者を逃がすなっ!」
「し、しかし……勇者との交戦で、我が軍には損耗も……人間領域の兵との連携もあるやもしれませぬ。ここは隊列を立て直し……」
――吾輩のハルバードが、臆病な讒言を漏らした愚臣の胴を両断した。
声を漏らす側近どもの前で、吾輩は弱卒の骸を、踏み砕いた。
「我ら、精強なる
「!」
恐怖に引き攣る臣下の眼つきが変わる。
ヤツを逃がすことが、更なる被害を、我らの野望の成就を遠ざけることを、理解したのだ。
「……楽に殺してもならぬっ!救援者の女もろとも、その心身を犯し尽くし、考え得る限りの責め苦を与え、その表情に絶望を刻み込み、然る後に首を刎ねるのだ……っ!」
吾輩に恐怖の眼差しを向けていた、伝令を務める斥候の瞳にも、下卑た炎が宿る。
「我らに手向かう者が、どのような末路をたどるか……勇者のその惨めな首級を晒すことで!人間領域に!魔族領域に!知らしめよっ!」
――死と向かい合う戦場。
ここに立つ兵には、体面も良識も必要ない。
ありのままの獣性を剥き出しに、敵の全てを奪い尽くさんとする「欲」こそが、兵がその場に生きることを肯定する。
「……飢えたる獣どもよ!敵を殺せ!財を奪え!女を犯せ!彼奴らの我々に向ける『恐怖』こそが、戦場に生きる貴様らにとっての、ただ一つの誉れ!」
鬨の声が上がる。
「勇者と、救援者の女、その魂に至るまで、凌辱の限りを尽くし――殺せッ!」
* * *
――魔力弾が土埃をあげ、矢が雨のように飛来する。
俺は、エリスとその胴をロープでくくられて、一頭の「送迎馬」に乗って身をかがめ、敵に背を向け、不規則に蛇行を繰り返し、戦場から走り去っていた。
「
貧血でもうろうとする意識の中、ほとんど動かない右手を無理に持ち上げ、後方に障壁を展開した。矢はこれで弾ける。魔法の銃も数発は耐える。
そして、銃については向こうも恐らく訓練が充分ではない。馬のような移動標的に命中させられる名手はそういないと見える。
「向こうに、もう一頭の送迎馬を待たせています!そこまで……」
「ああ、持ちこたえる……っ!」
――俺は、今日、ここで死ぬつもりだった。
所詮は国軍の出動までの時間稼ぎのつもりだったが、少しでも被害が減るなら御の字だと思った。
けれど、エリスは「来てしまった」。
自分のことを手ひどく突き放した、惨めなリーダーである俺を助けに。
なんでこんな危険な所に来たんだって、怒りたい気持ちもある。
俺が消えたら農場の人々の命はどうなるって、不安な気持ちもある。
助けてくれたことが嬉しくて、泣きそうな気持ちもある。
酷いことを言ったことに、謝りたい気持ちもある。
けど、今は――
今だけは、この子を無事に、べートリーまで撤退させること。
それだけだ。
……俺は、たいがい薄情で、現金な人間なんだと思う。
俺は、農場の見知らぬ人々の命より、俺に優しくしてくれる彼女の命を取った。
でも、俺には、俺が「勇者」でなくなってしまったとしても、俺の命を助けに来てくれた彼女を見捨てて、勝手に死んで満足することも、正しいこととは思えなかった。
……俺がもっと強ければ「すべて」を守れるのかもしれない。
けれど、今の俺に護り切れるものは多くなんてない。
――なら、選ばなきゃいけない。
彼女が、何を捨ててでも、俺を守りに来てくれたように。
だから、今だけは――
――周囲の空気の流れに違和感を覚えた。
俺は、狙撃への警戒から、周囲に意識を分散した。
俺たちの右側面。
何か、大きな影が、こちらに近づいてくる。
馬に乗り、高速移動する俺たちの元に、謎の、大きな影が。
「――
エリスが声を上げると同時に、黒く巨大なトカゲに騎乗した
側面からの衝撃と、馬の身のよじりで、俺たちは、勢いよく宙に投げ出された。
大地に顔を打ち付けた俺は、辺りを確認する。エリスは、俺とは別方向に、数メートルの距離を開けて落馬していた。俺は彼女に駆け寄ろうと――
後頭部に押し付けられる感触。俺の頭を丸ごと掴む掌。
それは、勢いをつけて俺の顔面を、乾いた大地に打ち付けた。
何度も、何度も、打ち付けた。
やがて、額から血を流す俺の頭を掴んだ、筋骨隆々のその存在は、
――何かを言っている。
――聞き取れてもいる。
――だが、脳が理解を拒む。
やがて、その
そこには、他の
――剣を抜く音が聞こえる。
――大トカゲから降りる足音が聞こえる。
――ベルトのバックルを外す音が聞こえる。
――彼女の、悲鳴が、
やめてくれ。
それだけは、それだけは、
俺は、彼女に、傷ついて欲しくなかった。
つらい目や、悲しい目に遭って欲しくなかった。
そのために、そのために、彼女を突き放したのに。
なんで、どうして、こうなる。
俺は、無様に暴れた。
左手で、後ろの
まったく応えていないような顔で、奴は俺の顔を再び地面に叩きつける。
集まってきた
奴は、奴らは、
お互いに目配せをし、下卑た笑みを浮かべ、
俺の頭を掴んだまま、その全身を持ち上げ、
彼女の方に、連れて行き、
これから起こることを、俺に見せつける。
エプロンを引き裂かれたエリスの、
黒いワンピースの胸元に、
エリスは、
彼女は、
俺を心配させまいと――笑って見せた。
この時、俺は、本心から、他者を殺したいと、殺さなければならないと思った。
この場にいる
体裁も良心もない、心の奥底からの殺意。
「生かしておけない」という魂からの叫び。
――その叫びは、誰にも届かない。
俺がどれだけ顔を歪めようと、四肢は一寸も動かず、力なくぶら下がってる。
――女神のチートでもいい。悪魔の契約でもいい。
今ここで動けなければ、俺は何のために、この世界に戻ってきたんだ。
俺じゃなくたっていい。
事故でも、天災でも、裁きでも、
誰か、こいつらを、こいつらを止めてくれ。
――お願い、します。
どうか、どうか、助けて下さい。
俺は、もう、どうなっても、かまいません。
だから、
どうか、
どうか、この子だけは――
――降り注ぐ「黒い刃」。
それは、祈りにも近い俺の心の叫びに呼応するように。
悪しきものを滅ぼす神罰のように。
生命を刈り取る悪魔の業のように。
振り向いた他の暴漢どもも、同様に。
黒い剣が、槍が、奴らを貫き、地面に縫い付けて行った。
エリスに覆いかぶさった暴漢も、半身を起こす。
それと同時に体の正面から無数の刃に貫かれ、背を地面につくことなく、串刺しで地面に自立した。
俺は、エリスは、その黒い刃を知っていた。
俺に向けて放たれた、自由軌道の影の刃。
「
俺たちは、天を見上げた。
そこには、月夜に浮かぶ無数の黒い刃。
そしてそのはるか向こうには、四体の翼を持った巨竜が、こちらを見下ろしながら羽ばたいていた。
* * *
一通りの刃を打ち込んだ私は、
「……警告前に攻撃するのは、先走ったかしらね?」
……状況が状況だけに、少し冷静さを欠いていたわね。
「いや、いいーんじゃない?戦場でパンツ下ろしてるアホは、後ろから刺されて当然でしょ」
「……栄えある魔族領域の兵として、恥を知るべきでしょうね」
「命令系統考えると、私らが殺っちまうのは……あんま良くは無いだろうけど、無断で人間領域の只中に攻め入って、お気楽に
……魔王も、四天王も、女になった最近じゃ、この手のアレは見なくなってたけど、統制の乱れってのはどこも大変よね。
「……それにさ、これで一応、エミリアも『借り』は返せたんじゃないの?」
ノアが、私に向かってけらけらと笑いながらそう言った。
「借り――?」
……あっ。
たしかに、それもそうかも。
ちょっと自作自演みたいな感じはするけど……
「人間の子がさらわれて、ひどい目にあってるのを見たら、助けてやってくれ」か。
……まさか、それが自分のことになるとは、あの子も思ってなかったでしょうね。
私は……彼の言うような「やさしい
それでも、約束は確かに果たしたわよ、勇者カイト。