チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~ 作:CarasOhmi
読者の皆様は、「無自覚主人公」をご存じだろうか。
この物語を読み始めたくせに「何それ?わからないなぁ……」なんて白々しいことを言える人は、カマトト主人公の才能アリだ。今すぐ俺の立場と変わってくれ。
……うん、それで、「無自覚」。
自分の力を客観的に評価できていない主人公が、圧倒的力を無自覚に発動し、「俺なんかやっちゃった?」と意図せぬマウントを取ってしまう。これが一連の流れだ。
……いや、さ。
チートとハーレムについてはさ、俺もまあわからなくはないんだよ。才能ってのは脈絡なく発揮されるものだし、魅力的な人間は自然と異性に惚れられるもんでさ。まあひとつの甲斐性の形と言えるよな。
……けど、無自覚ってなんだよ!なんで自分のことが分かんねーんだよ!
多少ならいいよ?テストで八十点取った子が、六十点の子の前で「百点取れないなんて最悪…」って言っちゃうことだって、そりゃあるよ。
でもさ、地形を破壊する大魔法を使って、「俺なんかやっちゃった?」は、ねーだろ!迷惑だしあぶねぇだろ!
つーか、そんな
そんなわけで、俺の一番苦手なのはこの「無自覚」だ。チートとハーレムの持つ不快度を何倍にも上げる、凶悪なバフのようなものだ。
大いなる力には大いなる責任が何とやら。俺は、絶対に無自覚主人公みたいな舐めた野郎にはならないぞ!
* * *
「何って……初等攻撃呪文だけど……」
極限までセーブした【
王宮魔術師出身のメルは、わなわなと肩を震わせている。そりゃそうだ。何年もまじめに勉強や鍛錬した魔法を、つい先日初等資格取ったばかりの人間に追い抜かれるのは、最悪の気分だろう。しかも、カンニングまでやろうとした奴に。
そんな俺たち、勇者一行の空気を一言で説明しよう。
「お通夜」だ――
* * *
まず、状況を整理しよう。
勇者である俺が授かったチートスキルは【ランク反転】【無自覚最強】【ハーレムバフ】の三点。
各種ギルド協会(及びそれに類する技術集団)の認定ランクを反転した実力を与えるスキル、自身が無自覚であると装うことで無制限に魔法を打てるスキル、好感度の高い女性に戦闘能力を付与するバフスキル。この三つだ。
となると、俺の取るべき戦略は自然とこうなっていくことだろう。
・あらゆる
・平素からカマトトぶることで「無自覚」を演じる
・パーティーを女性で固めて信頼を獲得し全体の出力を底上げする
……書いててイヤになってきたが、まあもう仕事として割り切ろうと思っている。好きな事だけやって生きていけるほど、世の中って甘くないからな。
しかし、ここに俺の戦略的ミスがあった。パーティーメンバーをエリートで固めたこと。これが噛み合わせ最悪だったのだ。
・【ランク反転】で最低ランクで足踏みする俺を、パーティーメンバーは見下す
・だが、【無自覚最強】と合わせて無神経に努力の成果を蹂躙される
・必然、俺への好感度は上がらず【ハーレムバフ】の影響は最低に留まる
……すべてがかみ合っていない。
ハーレムバフの最大化を考えるなら、駆け出し冒険者でも集めるべきだったのだろうが、そこは王宮としてもメンツはあっただろうし、自国最強のプロフェッショナルの卵を俺に同行させたのだが、完全に裏目に出た。
冒険出立までの間に、剣術道場、大母聖教会、魔術師ギルド、盗賊ギルドなど、冒険技能に関わるところを一通り見学し、初級の検定を受けて回った結果、俺の技能は無意味に彼女たちの技術を越えてしまい、彼女たちのエリートとしてのプライドはズタズタになった。当然だ。
……いや、だからって駆け出しで回りを固めて「キャー!勇者様すごーい!」なんて言われて、お山の大将になって浮かれてる自分なんてマジで想像したくないんだが。ハードボイルドの正反対の軟弱野郎だな。
それに、不意打ちで俺が気絶したり、パーティーで別行動してる時に、基礎力に欠ける味方が全滅なんて悲惨な状況だってあり得るし、俺のチートに依存しきったパーティーを作るべきでもないだろ。
……とはいえ、現実として今のパーティーはギスギスの極みだ。そりゃそうだ。
* * *
「なぁ、あの野郎のことどう思う……?」
薪を取って帰ってきた俺とエリス。
その接近に気付かず、焚火を囲んだ三人は会話を続けていた。
「……力量は認めますよ。明らかに私の魔力出力を凌駕してます」
「そうですね……医療系の神聖魔法についても習熟してるようですしね」
「まあ、そうだよなぁ……剣技も多分、私より強いぜ」
……横のエリスは俺の方を見て笑顔を見せた。
「認められてよかったですね」とでも言いたげだが……これ、多分違うよ。
「……じゃあ、どうしてそれに気づいてないみたいに、振舞ってんのかしらね」
「本当に気付いてないとしたら相当な馬鹿、演技なら私らに当てこすりする相当なイヤミ野郎だよな……」
「……まあ、私も気持ちはわかりますよ。あの方、主に対する敬意にも欠けてますし、『なんであんな人が』って気持ちは、拭えませんよ」
「自分から雑用やったりとか、露骨に三下気取ってる卑屈な感じが、なお鼻につくんだよね……」
「『俺について来い!』ぐらいのこと言えるなら、むしろ頼りになるって思えるんだがなぁ……」
――つらい。つらすぎる。
……俺だって、そういうハードボイルドな、頼れる男を演じたいよ!
なのに、なんでよりにもよって【無自覚最強】なんて演じなきゃいけないんだっての!
そんな、やりたくもない、しょーもない役作りに縛られて、腰を低く接しても完全に裏目なんて、どうしようもねぇじゃん!尊厳破壊が過ぎるだろ!
……いっそ、三つのスキルの内【無自覚最強】だけを切るか?
他の二つだけでも十分……
いや、【ランク反転】による身体操作や技量補正に、明らかに魔力が作用してる感覚あるんだよな……。このリソースが【無自覚最強】に依存してるってなると、これを放棄した時点で、俺の戦闘力については、すべて御破算になりかねない。それぞれが足を引っ張り合ってるクソビルド過ぎる。
大体、「今日から頼れる男になるぜ!みんな着いてきてくれ!」とか言い出すのも、それはそれで不気味というか軽薄で気持ち悪いだろ。それに、この盗み聞きを自白するようなもんだ。信頼になんて繋がるかよ。
……第一印象が悪い人間ってのは、やすやすとは立て直せないもんなんだよな。
ふと、エリスに目をやると、彼女たちに食って掛かろうと前のめりになっていた。気持ちは嬉しいが……俺は、彼女の肩を掴んで止めた。
「反論しないでいいよ。逆効果だし、事実だから……」
「でも……」
「いや、本当、みんなの言うとおりだから……、もっと信頼されるように頑張るよ」
「………………」
……何を頑張ればいいんだろうな。
無闇で無神経な才能ってのは、本当に始末に困るもんだよ。