チート嫌いのイセカイ人 ~女神のスキルを丸裸にされた俺、美人幹部達に鍛えられ魔王軍の万能ジョーカーとして五人目の四天王になってしまう~ 作:CarasOhmi
さて、こうして始まった俺たちの旅ではあるが、なぜ俺がこの世界に召喚されたのか、何を期待されているのか。そこはしっかりと説明するべきだろう。
ただ単に記憶を引き継いで別世界に産まれてきた「転生者」と違って、身につまされる事情があっての「召喚」なんだから、そりゃ使命もあるしな。
この国の名は「アルフィード王国」。
特に説明も必要ないとは思うけど「中世から近世のヨーロッパを彷彿とさせる領域国家」であり、中央集権により王様と中央官僚が権力を掌握する国家、「絶対王政」だったっけかな……世界史弱かったからちょっと不安だな。
ともあれ、この国は王家と貴族が国政を牛耳っている。……けれど、どうにもこの国の王は言動の節々が弱腰だ。俺の召喚に際してもやけに腰が低かったし、周囲の貴族の方がふんぞり返っていて、鼻持ちならない空気があった。
そもそも、アルフィードの現国王は元は継承権下位の王子で、兄の先代国王の早逝と後継者不在を受けて即位したんだとか。
国政への参与に消極的な彼に対し、二人いる王弟はどちらも権力志向が強く、息子に王位を継がせたいと目論んでいるらしい。現国王の子は娘のみ、男系で王位を相続するこの国においては、次期国王は王弟、その次が彼らの息子のどちらかである可能性が高い。
敵対勢力に口実を与えるため、王弟の二人は暗殺などの強硬手段こそ取らないものの、現国王は常に板挟み。町で聞いた噂話に過ぎないが、苦労が察せられて切ない話だ。
……だが、その切ない境遇の反面、夜の方はお盛んなのは、いかにも権力者らしい。娶った妃だけでなく使用人も含めて節操なく手を出しているとか。うらやま……いや、やっぱり良くねぇよ。そういうの。
ともあれ、王位継承は正式な王妃の子に限定されるが、陛下はまだ「現役」というわけだ。若い妃との間に新たに男子が生まれれば、やはり火種になるのでは?とも言われていた。
* * *
「……不敬になるから他言無用だけど、専門職の王宮魔術師にまで色目使うのは、流石に不愉快だったわ」
依頼で討伐した大猪の肉を持ち込んだ酒場で、メルはワインを煽りながらぼやく。
どうやら、荒くれ物の集まる冒険者の酒場にまで、王の目は届かないらしい。
「メルは貴族家系だろ?その気になれば王妃も目指せるんじゃねぇの?」
「イヤよ。書架の利用と研究予算目当てで王宮入ったのに、家と玉座とコルセットでがんじがらめにされるなんて」
「はは、お前らしいわ」
戦士のジーンは軍人家系を出た叩き上げの女性近衛兵団の出で、魔術師のメルは地方領主の娘、王立魔導学校で見せた才覚から王宮仕えの魔術師となったらしい。ふたりとも家柄に、そしてそこで求められた「努力」によって育まれた、ガチの
「……陛下も、メルさんのような気の強い跳ね返り娘は、好まないのでは?」
「失礼ねアンタ……」
「気の強い女を組み伏せて、権力を誇示したいって男もいるぜ?」
「……やはり、世俗は不潔なものですねぇ」
カトレアは孤児院で育ち、修道院で修業を重ねた僧兵だ。ファミリーネームの「チャッペル」は、こうした教会育ちの子に与えられるもので、家柄という地位を持たない代わりに「信仰」という強固な繋がりを象徴する名でもある。
……ちなみに、ゲームの影響もあって「僧侶」というとお淑やかな優しい女性、みたいなイメージが根強いことだろう。
だが、カトレアはメルに劣らず気が強い。もちろん、貞操観や節制は聖職者らしく徹底しており、生臭坊主の類ではないのだが、とにかくお堅い。
実際、旅立ちから二日目に、彼女が孤児院育ちと知ったメルが、生まれでマウントを取って大喧嘩になり、ジーンがそれを仲裁した。「後衛組のキャットファイトなんてかわいいもの」と言わんばかりに二人を引っぺがし、潰れるまで酒を飲ませ、翌日には膿を出し尽くしたのか、なんか結構打ち解けてた。ずっとギスられるよりは大分ありがたい。
……ってわけで、このパーティーは姉御肌のジーン、それとつるむメルとカトレアの三人組という構図が出来上がっていた。
俺よりもこっちをリーダーにすべきだろと感じるが、王命は「勇者の率いる一行での魔王討伐」だ。……いや、本当、俺みたいなボンクラにそんなの任せるなよ。
「
……ともあれ、この辺の勇者信仰は、アルフィードの建国神話とも関わっているらしい。エリスのように権力や宗教権威と距離のあった農村出身者にとっての「勇者様」は、おとぎ話の世界の住人みたいなところがあるらしい。
日本で言う所のスサノオ伝説の類型のような物で、魔族に囚われた村長の娘を颯爽と救い、王になってその妻とした、みたいな。庶民の女性にとってはある種のシンデレラストーリーだ。
この辺のバックボーンをメルから聞いて、最初からエリスの好感度がやけに高かった理由を察し、微妙な気分になった。俺の後ろには、そういう幻想の影があったんだなぁ……。
ふとエリスの方に目をやると、ジーンに肩を組まれて、カウンターに向かっている。さながら、ヤンキーに絡まれてるような絵面で、治安が悪い。
「ちょっと、ワイン貰ってくるわ」
「それは、私ひとりでも……」
「いや箱ごと。エリスじゃ持てねぇよ」
この店では、カウンターに料理を並べ、配膳は客がセルフでやっているようで、エリスが定期的に注文を聞いて往復している。経理や財布の管理も彼女の仕事だ。
……対等なパーティーの仲間に、こういう雑用任せるのって、どうにも座りが悪いけれど、こういう場面のエリスは「これも、パーティーの
頑固というか、彼女なりに非戦闘の領域の仕事をする立場として、プライドもあるんだろうなと思う。
あるいは、この前、俺が雑用やろうとして、三人に「卑屈なカマトト野郎」と愚痴られてた件で、気を使われてるんだろうか。
……うん、ちょっと、それは、惨めになるから、大分イヤだな。
……俺にはキラキラの王子様なんて演じられないけど、彼女の憧れた「勇者様」の夢は、壊さないようにしたいと思うよ。本当。