【完結】司令官(プレイヤー)の顔がわからない低レアさんの苦悩 作:ソシャゲ低レアさん
物語構成・設定・最終調整は作者によるものです。
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プロローグ
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司令官が来る日だと聞かされた朝、私たちはいつも通りに話していた。
「新しい司令官か〜、今度はどんな人だろ」
「どうせ真面目な人でしょ」
リリアーナが笑い、ラニが肩をすくめる。
私はそれを聞いて、小さく頷いた。
「でも、ちゃんとした人だといいですね」
それだけの会話。
胸が苦しくなることもなく、視界が揺れることもない。
執務室の前に整列し、エルフィー班長がノックをし、ヴァルツ司令長官の合図で扉がを開いた。
「本日よりこちらに配属になった〇〇司令官だ」
「〇〇だ。よろしく頼む。」
視線を上げた瞬間、世界が変わった。
顔が、見えない。
黒と白の糸のようなものが絡みつき、
そこにあるはずの顔を、どうしても認識できない。
息が詰まる。
周囲を見ると、みんな普通に司令官を見ている。
エルフィー班長は握手を交わし、リリは興味津々だ。
──私だけ。
自己紹介が進み、私の番が来る。
「し……司令官さん、は……初めまして……」
声が震えるのが、自分でも分かった。
「わ……私は、防衛隊の……ケーラ、です……」
目を合わせようとすると、視界がざわつく。
見えないものを、無理に見ようとしている感覚。
「ケーラちゃん緊張してる〜」
リリの声に、返事ができず俯いた。
その瞬間、
空気が一度だけ、静かに沈んだ。
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ホーマ防衛基地は、思っていたより静かな場所だった。
整然とした日常の中に、戦争が溶け込んでいる。
それが、この基地の印象だった。
隊員たちの自己紹介を受けながら、反応を観察する。
好意的な者。
警戒している者。
興味深そうな者。
その中で、一人だけ明らかに様子の違う隊員がいた。
防衛隊所属、ケーラ。
視線が定まらず、こちらと目が合わない。
自己紹介の言葉も途切れ途切れで、ひどく緊張しているように見えた。
「ケーラちゃん緊張してる〜」
リリアーナが茶化すと、彼女はさらに俯いてしまう。
内気な隊員なのだろう。
新人司令官相手なら、無理もない。
だが、自己紹介が終わった直後、空気が一瞬だけ止まった。
ほんの一瞬だ。
すぐにエルフィー班長が自然に話を進める。
ラニが、ケーラを一度だけ見た。
確認するような、短い視線。
エルフィー班長も、さりげなくケーラとの距離を詰めている。
──フォローか。
そう判断し、深く考えるのをやめた。
ケーラが退室する際、わずかに動きが遅れた。
ほんの一拍。
緊張しているだけだ。
そう思い、その違和感を心の隅に押し込んだ。
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執務室を出ると、防衛隊の廊下は妙に静かだった。
「このあと訓練だけど」
エルフィー班長が言う。
「ケーラちゃん、今日は休みなさい」
「え……?」
思わず足が止まる。
「だ、大丈夫です……」
「いいから。今日は部屋で休んで」
班長は私をまっすぐ見て、続けた。
「明日、メディカルチェックを受けなさい。……命令よ」
それ以上、何も言えなかった。
ラニは眉をひそめ、リリはいつもの笑顔を作ろうとして、やめた。
「ケーラちゃん、またあとでね」
誰も理由を聞かない。
誰も、深く触れない。
それが、少し怖かった。
私は一人、居住区へ向かった。
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廊下を歩いていると、角を曲がったところで誰かとぶつかりそうになる。
「おっと、ごめん」
顔を上げる。
司令官の制服。
左襟のバッジ。
そして──
はっきりと見える、顔。
目も、鼻も、口も、当たり前にそこにある。
「大丈夫?」
「いえ! 大丈夫です。少しボーッとしてました」
普通の声。
普通の表情。
胸の奥が、ぎゅっと縮んでから、ほどけた。
(……見える)
私の目は、おかしくない。
少なくとも、全部が。
司令官は軽く会釈すると、そのまま去っていった。
私はしばらく、その場に立ち尽くしていた。
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部屋に戻り、制服のままベッドに腰を下ろす。
端末を操作し、メディカルチェックの予約を入れる。
【明日 午前】
確認ボタンを押した指が、少し震えていた。
(疲れてるだけ)
(きっと、そう)
自分に言い聞かせて、ベッドに横になる。
目を閉じると、あの黒と白の糸が思い浮かびそうになって、慌てて考えるのをやめた。
今日は、休む日。
班長がそう言った。
だから、きっと大丈夫。
そう思いながら、私は眠りに落ちた。
〇〇司令官の名前はあなたの名前です。