【完結】司令官(プレイヤー)の顔がわからない低レアさんの苦悩 作:ソシャゲ低レアさん
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第十二話:忘れないための痛み
「先に入ってて」
そう言ってドクターさんは隣の部屋の鍵を開け、そのまま医務室に引き返していった。
隣の部屋には、一人用のソファーが二つと、小さな机、簡易的な洗面台が備え付けられていた。
部屋の奥にはパイプ椅子がいくつかあり、
フィアちゃんは、
そうしていると、ドクターさんが戻ってきて、扉を閉めた。
そのまま一つのソファーに腰掛け、私をまっすぐに見つめる。
「取り敢えず、エルフィーが座って」
対面のソファーを指し示される。
その様子に違和感を覚えたのか、フィアちゃんが声を上げた。
「あ、あの……し、司令官さんは?」
その一言で、空気が張り詰めた。
けれど、ドクターさんだけが淡々と答える。
「医者判断で、司令官は呼んでいない。
だから、エルフィー班長。あなたが座って」
その目は、冗談や遠慮の入り込む余地がないほど真剣だった。
思わず生唾を飲み込み、私はソファーに腰を下ろす。
それを見て、リリちゃんが続けて尋ねた。
「……じゃあ、さっき一緒に入らなかったのは?
司令官に連絡してたんじゃないの?」
ドクターさんは何でもないことのように答えた。
「ケーラにコールボタンを持たせて、端末を取りに行っていただけ。
あと、扉のホワイトボードに“この部屋にいる”って書いてきたわ」
そう言って、胸ポケットを軽く叩く。
恐らく、コールの通知はその端末に届くのだろう。
全員が席についたのを確認してから、ドクターさんが切り出した。
「ケーラの容態だけど……さっきも言った通り、今は安定している。
ぐっすり眠っているわ」
その言葉に、ほんの少し肩の力が抜けた。
「倒れたって聞きましたけど……原因は?」
「簡単な診察しかできていないけど、原因は──恐らく過労ね」
「……過労」
その言葉を、思わず繰り返していた。
思い当たることが、あまりにも多すぎたから。
「心当たりがあるの?」
ドクターさんの問いに、私は一度頷く。
「ここ数日、ケーラちゃんはポポラちゃんの特別メニューの監督役を引き受けていました。
ケーラちゃんのことだから……きっと、自分も同じメニューをやっていたと思います。
そうだよね、フィアちゃん?」
フィアちゃんは小さく頷いた。
「……わ、わたしが見たのは初日と今日だけですけど。
でも、同じメニューを、してました」
ドクターさんはフィアちゃんを見据えたまま、続ける。
「その場にいたのは、ケーラ、ポポラ、フィアだけ?」
「い、いえ……途中まで、司令官さんも」
「「「……っ!?」」」
思わず、手を強く握りしめた。
背後からも、息を呑む気配が伝わってくる。
ドクターさんは、私たちの反応には触れず、静かに質問を重ねた。
「司令官は、今日だけ?」
「ち、違います……初日から、ずっとです。
でも……訓練中ずっとじゃなくて……途中から来て、十分くらいで戻ってました」
フィアちゃんの声が、少し震えている。
「倒れたときの状況を教えて」
「……休憩中に、ポポラさんの世話をしてて……
ふと訓練場を見ると、司令官さんがいなくなってて……
そのあと、ケーラさんが……ふらふら出口の方に……」
言葉が詰まり、フィアちゃんの声が途切れる。
「……気になって、後をついていったら……倒れて……」
そこまで言って、フィアちゃんは泣き出してしまった。
「わたしが……ちゃんと、見てたら……」
その言葉は、胸に棘のように突き刺さった。
唇を強く噛みしめる。
「フィアだけのせいじゃないわ」
ドクターさんが、はっきりと言う。
「これは、この場にいる全員で向き合うべき問題よ」
手の感覚が、少しずつ遠のいていく。
口の端に、温かいものが伝った気がした。
後悔が、雪崩のように押し寄せる。
──どうして、気づけなかった。
──どうして、もっと踏み込めなかった。
──どうして、もっと早く、決断できなかった。
リリちゃんが、涙声で呟く。
「……ケーラちゃん、どうして何も言ってくれなかったんだろぉ……」
その声だけが、やけに鮮明に耳に残る。
「……リリたち……
仲間って、思われてなかったのかなぁ……」
その言葉で、視界が一気に暗くなった。
──仲間と思われてなかった。
胸を、ナイフで抉られたようだった。
その瞬間。
冷たいものが、顔に叩きつけられた。
「ぐっ!?」
「痛っ!?」
「冷たっ!?」
「わっ!?」
膝の上に落ちたのは、濡れたタオルだった。
ドクターさんが、ため息をつきながら言う。
「みんな、それで顔と手を拭きなさい。
使い終わったら、こっちのゴミ袋へ」
言われた通り手を開くと、真っ赤に染まっていた。
「「うわっ!?」」
私とラニちゃんが、同時に声を上げる。
ラニちゃんの口元からも、血が滲んでいた。
その様子を見て、顔を見合わせ──
「「「「ぷはっ!!」」」」
全員が、同時に噴き出した。
笑って、泣いて、抱き合って。
しばらく、どうしようもなく大号泣した。
──―
落ち着いた頃、タオルで顔と手を拭く。
ドクターさんは、いつの間にか持ってきていた救急箱を掲げた。
「全員、手を見せて。治療するわ」
治療が終わり、話を再開しようとした瞬間。
突然、扉が開いた。
現れたのは、ポポラちゃんだった。
部屋を見渡し、フィアちゃんを見つけると、両肩を掴んで揺さぶり始める。
「どーして急にいなくなったの!!
ケーラちゃんもフィアも戻ってこないし!!」
「わわわ……揺らさないでくださ〜い!!」
私とラニちゃんは、顔を見合わせて頷いた。
次の瞬間、ラニちゃんが背後からポポラちゃんの頭を掴む。
「ひっ!?」
「ポポラ、少し黙ってて」
「……う、うん」
そのまま、正座。
私は視線を合わせるようにしゃがみ、静かに告げた。
「ケーラちゃん、過労で倒れたの。
だから、特別メニューは中止よ」
「えっ!? ほんと!?」
一瞬輝いた目が、すぐに曇る。
「……え、でも……」
「司令官には、医者として私から説明するわ」
ドクターさんが、きっぱりと告げる。
「今日はもう解散ね。
ケーラは入院させるから、エルフィー班長、寮監への連絡をお願い」
「分かりました。ケーラちゃんを、お願いします」
深く頷くドクターさん。
胸の痛みは消えていなかった。
でも──消さなくていい。
この痛みは、忘れないためのものだから。
私はそう決めて、寮へ向かって歩き出した。