【完結】司令官(プレイヤー)の顔がわからない低レアさんの苦悩 作:ソシャゲ低レアさん
物語構成・設定・最終調整は作者によるものです。
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ケーラが倒れたと連絡を受けた、翌朝。
私は医務室の前で、立ち尽くしていた。
連日、ケーラの様子を見ていた。
それでも、まさか倒れるほど疲労が蓄積しているとは、思ってもみなかった。
面会謝絶とは言われていたが、
せめて容態だけでも確認できないかと思い、ここまで来た。
けれど──
医務室をノックしようとした手は、上がっては下がり、
今の自分が会っていいのか、分からなくなって、
結局、そのまま扉に触れることはなかった。
私は何もできないまま、執務室へと戻った。
──
その日の業務は、
一通り仕事を終えて一息つくと、
応接用の机に、いつの間にか温かいお茶が置かれていた。
「司令官さん、お茶が入りましたよ~」
今日の秘書を務めるシエラが、そう言って微笑む。
机の上には、お茶だけでなく、煎餅などのお茶菓子も添えられていた。
私はソファに移動し、礼を言う。
「ああ、ありがとう」
一口飲むと、少し肩の力が抜けた気がした。
その様子を見て、シエラが小さく笑う。
「ふふ、お口に合ったみたいですね~。
お茶菓子もありますから、遠慮なさらないでください」
そう言って、彼女も向かいのソファに腰を下ろし、
お茶を啜った。
二人の間に、穏やかな時間が流れる。
──と、思った矢先だった。
「司令官さん、何かありましたか?」
冷や水を浴びせられたような気分になった。
私は平静を装い、答える。
「何かって、なんだ?
特に、何もないが……」
シエラは、心配そうな目で私を見つめている。
「今日の業務中、時々上の空でしたよ?
それに、端末に通知が来るたび、急いで確認していましたし。
何か、緊急の連絡でも待っているんですか?」
「……よく見ているな」
私がそう言うと、シエラはぱっと笑顔になった。
「そりゃ、司令官さんを独り占めできる絶好の機会ですもの~。
じっくり観察しないと、もったいないじゃないですか~」
思わず、噴き出してしまう。
「シエラも、そんな冗談を言うんだな」
「冗談じゃないんだけどな~」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん、何でもないですよ~」
そう言いながらも、シエラの表情は一瞬だけ不満げだった。
だが、すぐにいつもの顔に戻る。
「それで、何があったんですか?」
今度は、はっきりとした真剣な目だった。
私はため息をつき、口を開く。
「シエラは、ケーラの現状を聞いているか?」
「ケーラちゃんですか?
今朝、過労で入院したって連絡は入りましたけど……
それ以降の情報は、何もないですね」
「……そうだよな」
私が知っていることと、変わらない。
「ケーラちゃんと、何かあったんですか?」
私は項垂れ、手を組んだ。
「いや……何もない……
……と思っているのだが……ただ……」
「ただ?」
「……ここ連日、ケーラの様子を見ていたのに、
疲労が溜まっていることに、まったく気づかなかった……」
ふと、思いついたように尋ねる。
「シエラは、私と話しているときのケーラについて、
何か気になったことはないか?」
シエラは顎に指を当て、考え込む。
「う~ん……
あ、司令官さんと話しているとき、
いつも緊張しているみたいで、珍しいな~とは思ってました」
「……そう、なのか」
私は、さらに深く項垂れた。
資料には確かに、「人見知りをしない」と書かれていた。
だから、緊張させないように距離を取っていた──つもりだった。
だが、いつの間にか、
それが
「……だったら、連日の見学は、
ケーラにとって酷なことだったのでは……」
思わず、顔を手で覆う。
その瞬間、シエラが私の頭を抱きかかえた。
気づけば、いつの間にか隣に移動していたらしい。
「それは、違うと思いますよ~?」
「……?」
「見学の許可は、ケーラちゃん自身が出していたって、
私も聞いてますし。
それに──おそらくですけど」
シエラは、そのまま私の頭を撫で始める。
「司令官さんに歩み寄ろうとしていた結果、
だったのかもしれませんよ~?」
私は、その手を振り払う気になれなかった。
そのまま、胸の内を吐き出す。
「……ケーラは、限界が来る前に、
一言くらい言ってくれると思っていたんだ……
でも……」
「でも、実際は、何も言ってくれなかったのね~」
「ああ……」
言い淀んだ言葉を、シエラは自然に継いでくれた。
「私は……ケーラ自身を、見ていなかった……」
「……だったら、聞いてみればいいじゃないですか?」
「えっ?」
「ケーラちゃんが、
どうして司令官さんに緊張するのか、って」
「で、でも……
以前、エルフィーたちに、詮索するなと言われて……」
「でも、入院するまでになったんですよ~?
原因が分からないままだと、
また同じことを繰り返します」
「……それは、そうだが……」
シエラは、私の頭を撫でるのをやめ、
顔を真正面に持ってくる。
「ケーラちゃん本人に聞かなくても、
ドクターさんや第4班のみなさんに、
事情を聞くことはできると思いますよ~?
もちろん、ケーラちゃんの許可をもらってから、ですけど」
そう言って、ウィンクをしてみせた。
「……シエラは、すごいな」
話を聞いてもらったことで、
心が少しだけ軽くなったのを感じる。
「ふふふ。
この調子で、司令官さんのこと、虜にしちゃおうかな~」
私は立ち上がり、シエラの額を指で軽く弾いた。
「いた~い!?」
「馬鹿なことを言ってないで、仕事をするぞ」
「司令官さん、ひど~~い!!」
そんなやり取りをしながら、業務を再開する。
聞こえないだろう距離で、私は小さく呟いた。
「……ありがとう」
シエラの動きが、一瞬止まったように見えた。
しばらくして、背後に回った彼女が言う。
「ふふ。どういたしまして!」
その瞬間、私は机に突っ伏し、
しばらく顔を上げられなかった。
──
翌日の夕方、ドクターからメッセージが届いた。
【ケーラ隊員が本日意識を回復しました。
約三日間の睡眠状態が続いていたため、
現在は経過観察として、数日間の入院措置を取っています】
画面を見つめ、
私はようやく、安堵の息を吐いた。
すぐに、返信を打つ。
【承知しました。
今回の入院に至った経緯について、
可能であれば事情を伺いたいと考えています。
ケーラ隊員本人が不在でも問題ありません。
本人の許可が得られ次第、
ご説明いただける方をご手配いただけますでしょうか】
しばらくして、再びメッセージが届く。
【ケーラ隊員本人に確認した結果、
事情説明について了承を得ました。
本件の説明は、私が担当いたします】
それを読んだ瞬間、
私は思った。
──ようやく、前を向ける。
逃げずに、聞こう。
ケーラが、何を見て、何を感じていたのかを