【完結】司令官(プレイヤー)の顔がわからない低レアさんの苦悩 作:ソシャゲ低レアさん
物語構成・設定・最終調整は作者によるものです。
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今日は多くの隊員と顔合わせを行った。
その後、司令官として隊員たちの能力を把握するため、資料に目を通す。
その中で、ひときわ気になっていた名前を見つけた。
【防衛隊第4班 ケーラ(R)】
今日の顔合わせで、ひどく緊張していた隊員だ。
彼女は主に基地周辺へのトラップ設置や、前線基地への補給物資輸送を担当しているらしい。
特にトラップ関連の知識は非常に優秀で、彼女の仕掛けたトラップによって、大量に押し寄せた〈カオス〉を一時的に足止めし、戦況を好転させた実績もあるという。
任務には真面目に取り組み、人柄も良好。
同じ第4班のラニやリリアーナの折衝を和らげたり、他部隊の補助要員として頻繁に呼ばれるなど、信頼も厚いようだ。
人見知りする様子もなく、新人スタッフや新米隊員ともすぐに打ち解けるため、強面の上司との緩衝材にもなっている──と、記されている。
そんな彼女が、今日の顔合わせでは明らかに様子が違った。
「……私の顔は、そんなに怖かったのか」
思わず、独り言が漏れる。
少し気落ちしたが、これから共に戦う仲間だ。
少しでも距離を縮められればと思い、第4班の明日のスケジュールを確認する。
午前中。
エルフィー、ラニ、リリアーナは遠征任務。
ケーラは、メディカルチェック。
午後からは、第4班と第6班による合同訓練が予定されている。
「司令官として、隊員たちの戦闘能力を把握する必要があるな」
そう自分に言い聞かせ、訓練見学の申請を行った。
その後は他の隊員の資料確認を続け、翌日の予定を把握してから就寝した。
⸻
翌日。
私は予約していたメディカルチェックを受けていた。
「どこも異常なし。健康体よ」
「……そう、ですか」
ドクターの言葉が、胸に引っかかる。
異常なし。
なら、昨日の現象は何だったのだろう。
検査結果用紙に並ぶ「異常なし」の文字を見つめ続けていると、ドクターが優しく声をかけてきた。
「ケーラ、何か気になることがあるの?
隊員たちのメンタルケアも、私たちの仕事よ」
……話していいのだろうか。
けれど、これを一人で抱えるのは無理かもしれない。
私は生唾を飲み込み、口を開いた。
「実は……」
⸻
「司令官、現在時刻は
もうすぐお昼の時間です」
「もう、そんな時間か……」
秘書を務めてくれているナータが時刻を告げる。
彼女は防衛隊第3班の班長で、面倒見がよく、昨日の顔合わせの際には自ら秘書役に立候補してくれた一人だ。
司令官は日ごとに秘書を指名でき、彼女たちは業務の補助をしてくれる。
新米の私にとって、非常にありがたい存在だった。
凝り固まった背中を伸ばしながら、ナータに声をかける。
「そろそろ、午前の遠征任務に出た隊員たちが戻ってくる頃か?」
ナータは端末を確認し、答えた。
「そうですね。この時間に戻るのは第4班のみです。
他の部隊は
「分かった。では、第4班の報告が終わり次第、皆で昼食にしよう」
「奢りですか!? ありがとうございます!!」
ナータが明るい声を上げた、その直後。
執務室の扉がノックされる。
入室を許可すると、勢いよく扉が開き、リリアーナが駆け寄ってきた。
「司令官さ〜ん! 遠征任務、無事に終わったよ〜!!」
「あらあら、リリちゃんは元気いっぱいね」
「……元気すぎの間違いでしょう。リリ、少し落ち着きなさい」
後ろからエルフィーが穏やかに、ラニが呆れた様子で入室してくる。
ラニがリリアーナの腕を引いて姿勢を正すと、リリアーナも慌てて背筋を伸ばした。
それを確認してから、エルフィーが改めて報告する。
「報告します。前線基地への補給任務、無事完了しました。
こちら、補給物資受領確認のサインです」
「ご苦労。確かに受け取った」
書類に目を通す。問題はない。
「これから昼食に入るが、君たちも一緒にどうだ?」
「ほんと!? やった〜! お昼ご飯何にしようかな〜!」
リリアーナが歓声を上げる。
エルフィーとラニは顔を見合わせ、小さく頷いた。
「司令官さん、お誘いは嬉しいのですが──「え〜〜! 一緒に食べようよ〜〜!」」
エルフィーの言葉を遮るように、リリアーナが声を上げる。
それを見たラニが小声で何かを耳打ちすると、リリアーナははっとした表情で目を逸らした。
──このままでは断られてしまう。
そう感じ、私は続けた。
「午後の第6班との訓練を見学するつもりだ。
それまでに、君たちのことを少しでも知っておきたい」
エルフィーが一瞬、動揺したのが分かる。
私は視線を逸らさず、待った。
やがて彼女は覚悟を決めたように息を吸い、こちらを見据える。
その眼差しは鋭く、思わず息を呑んだ。
「……分かりました。
その前に、司令官さん。一つ、聞きたいことがあります」
「どうした?」
「司令官さんと、ケーラちゃんの間に──
何か、ありましたか?」
⸻
「実は……」
私は、生唾を飲み込んでから言った。
「昨日、新しく着任した司令官さんの……顔が、分からなかったんです」
ドクターの手が、ぴたりと止まる。
「分からなかった、というのは?」
「そこに“顔がある”のは分かるんです。でも……。
目も鼻も口も、どうしても形として認識できなくて……」
言葉にするたび、昨日の感覚が蘇る。
黒と白の糸のようなものが、視界を覆っていく。
「でも、他の司令官さんは普通に見えました。
昨日、廊下で会った別の方は……ちゃんと、顔でした」
ドクターは何も言わず端末を操作し、いくつかの項目を確認する。
やがて視線を上げ、静かに告げた。
「ケーラ。あなたの話を聞く限り……。
これは
「……そうぼう、しつにん」
初めて聞く言葉だった。
思わず、そのまま聞き返してしまう。
「それは……どういう……」
「簡単に言えば、顔の認識がうまくいかなくなる状態よ。
……でも、ここからが問題」
ドクターは、はっきりと言った。
「通常、相貌失認は“特定の一人だけ”に起きるものじゃない。
多くは、顔全般が分かりづらくなったり、身近な人から徐々に認識できなくなるケースなの」
胸の奥が、静かに冷えていく。
「つまり……」
「“〇〇司令官の顔だけが認識できない”というのは、医学的にはかなり異常よ」
言い切られたことで、逃げ道が塞がれた気がした。
「検査結果はすべて正常。脳も、視覚も、認知機能も問題なし」
「じゃあ……原因は……?」
「分からない」
即答だった。
「病名は付けられる。でも、原因は不明。現時点では、治療法も対処法も存在しないわ」
「……」
膝の上で、指が強く絡む。
「それに……」
ドクターは少しだけ声を落とした。
「昨日、突然その症状が出たという点も、一般的じゃない」
私は、何も言えなかった。
「今は経過観察しかできないわ。
無理に見ようとしないこと。
違和感があれば、すぐに報告して」
そして、少しだけ柔らかい声で続けた。
「午後の訓練は、見学だけにしなさい。
班長には、私から伝えるわ」
「……えっ」
思わず、声が漏れる。
「医師としての判断よ」
(そんな……昨日も休んだのに)
(今日も訓練に出られないなんて……)
これ以上、休むなんて。
みんなに迷惑をかけて。
──私、何をしているんだろう。
検査結果の紙を強く握りしめ、俯いたその時。
頭の上に、そっと温かい感触が乗った。
「身体に異常はない。
でも、心は今、とても強く揺れている」
ドクターが、静かに私の頭を撫でていた。
「怖かったでしょう」
その一言で、張り詰めていた胸の奥が、少しだけ緩んだ。
「一人で抱え込まなくていい。
話してくれて、ありがとう」
私は小さく頭を下げ、診察室を後にした。