【完結】司令官(プレイヤー)の顔がわからない低レアさんの苦悩 作:ソシャゲ低レアさん
物語構成・設定・最終調整は作者によるものです。
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執務室から、フィアとケーラが退室した。
思わず、深いため息が漏れる。
フィアの遠征報告自体は、特に問題なかった。
だが、ケーラとは──あの症状をドクターに説明してもらってから、
元々あった距離感を、はっきりと意識できるようになり、
結果として、さらにぎこちないものになってしまっていた。
今までのケーラを、思い返す。
──目が合わない。
──すぐに顔を逸らす。
──視線を向けると、身体が反応している。
──同席すると、すぐにいなくなる。
視線を向けると、身体が反応してしまう。
それが原因で体調を崩すのなら、避けたいと思うのも無理はない。
自分のせいで相手の体調が悪くなると聞けば、
できるだけ負担にならないよう行動する。
それは当たり前のことだと思っていた。
だから、ケーラを見かけても、すぐに離れるようにした。
──誰かと話している時も。
──荷物を運んでいる時も。
──訓練を見学している時も。
だが、その行動は、ケーラに気づかれてしまっていた。
メッセージで「責めるつもりも、怒るつもりもない」と送られてきた時も驚いたが、
それを面と向かって言われた時は、正直、言葉を失った。
視線を向けるたびに身体を強張らせる姿を見るのは、正直つらかった。
それでも──私の顔をまっすぐ見て言葉を伝えたケーラを、
私は心から、立派だと思った。
その後、フィアの袖を引いていたのを見て、
すぐに退室したことを思い出す。
限界だったのかもしれない。
「……ケーラは、前に進み始めたんだ」
小さく、そう呟く。
「……なら、私も立ち止まったままでいるわけにはいかないよな……」
ケーラが前に進み始めたのなら、
私も、立ち止まったままでいるわけにはいかない。
そう思えたことで、
少しだけ、心が軽くなった気がした。
そうして、再び机の上の書類を片付け始めた。
筆の進みが、先ほどよりもわずかに早くなった。
⸻
通路を歩いていると、前方から二つの人影が近づいてくるのが見えた。
二人とも荷物を持っている。
一人はラニだとすぐに分かったが、
もう一人は──明るい通路にも関わらず、暗視ゴーグルを着けていた。
歩き方がふらついていないところを見ると、
赤外線型とはいえ、かなり扱い慣れているらしい。
すると、ラニがこちらに気づいた。
「司令官。お疲れ様」
「司令官さん、お疲れ様です」
その声で、ゴーグルをしているのがケーラだと分かった。
「ご苦労様。ラニと……ケーラ、だよな?」
「は、はい……ケーラです」
確認するように視線を向けた瞬間、
ケーラの肩が跳ねたのが分かり、慌てて目を逸らす。
二人の荷物には蓋がなく、
中には大量の暗視ゴーグルが入っていた。
「その暗視ゴーグルは、どうしたんだ?」
ラニが肩をすくめる。
「整備課の連中にね。
『定期メンテナンスするから持って来い』って言われたのよ」
「ついでに、不具合がないか確認中です」
そう言って、ケーラは自分の着けているゴーグルを指さした。
「なるほど。
整備課にも、しっかり確認しておいてくれ」
「分かったわ。じゃ、そろそろ行くわね?」
「失礼します」
そう言って、二人は整備課の方へ歩いて行った。
⸻
その後、突然リリアーナが執務室にやってきた。
「司令官さん! これ、かけてみて!!」
差し出されたのは、黒縁の眼鏡だった。
「……どうしたんだ? この眼鏡は」
「ふふん!
司令官さんも、たまにはおしゃれした方がいいと思って!
簡単にできるおしゃれとして、この伊達メガネを選んだの!!
……本当は鼻メガネにしようとしたんだけど、
ハロウィンじゃないからやめたげたの!!」
思わず、苦笑する。
「眼鏡は、結構上級者向けのおしゃれだと思うんだが……」
「そお?
いいから、リリが選んだこの眼鏡、かけてみて!
絶対似合うから!!」
「おい、無理やりかけさせるな。
弦が目に刺さるだろ……」
押し付けられた眼鏡を受け取り、試しにかけてみる。
リリアーナは、じっと私の顔を見てから、満足そうに頷いた。
「うん! やっぱり似合ってる!!
よし、これで基地内を散策だ!!」
そう言って、手を引かれる。
「分かった、分かったから、あまり引っ張らないでくれ」
こうして、リリアーナと一緒に執務室を出た。
机に、急ぎの書類が残っていなかったのが幸いだった。
基地内を歩いていると、
いろいろな隊員から声をかけられた。
「どうしたんですか?」
「似合ってます!」
中には、顔を赤らめてぼんやりしている隊員もいたが、
体調を確認すると「大丈夫です」と言って、早足で去っていった。
首をかしげていると、リリアーナが言う。
「司令官さんって、罪な男だよね~」
「……どういう意味だ?」
そう聞くと、リリアーナはため息をつき、
何か残念なものを見るような目を向けてきた。
「ん~、何でもないよ?
……ただ、背中から刺されないように気をつけてね?」
そう言い残して、先に歩き出す。
「どういうことなんだ……」
そう呟いても、リリアーナは振り返らなかった。
しばらく歩くと、前方からフィアとケーラが談笑しながらやって来た。
リリアーナが駆け寄る。
「あ、ケーラちゃん、フィアちゃん! お疲れ様~」
「リリ、お疲れ様」
「リリさん、お疲れ様です」
私に気づいた二人は、敬礼をした。
「司令官さん、お疲れ様です」
「二人とも、お疲れ様」
そう言うと、敬礼が解かれる。
フィアが、私の眼鏡に気づいた。
「司令官さん、その眼鏡、すごく似合ってますよ!」
「ああ、ありがとう。
リリアーナに勧められてな」
「はは。でも、本当に似合ってます」
そんなやり取りの最中、
ケーラから視線を感じた。
そちらを見ると、やはり身体を強張らせている。
だが──視線は、私の眼鏡に向いていた。
「ケーラ、どうした?」
そう声をかけると、ケーラは言いよどむ。
「い、いえ……ただ……」
そう言って、俯いてしまった。
これ以上見つめるのは酷だと思い、視線を逸らす。
「司令官さん、わたしたちはそろそろ失礼します。
リリさんも、またね」
「司令官さん、リリ、失礼します」
二人は、そのまま立ち去っていった。
私はリリアーナに尋ねる。
「さっきのケーラの反応、どう思う?」
リリアーナは顎に指を当てて考える。
「う~ん……
何かに気づいたけど、まだ自分の中で整理できてないから、
言わなかったんじゃないかな?」
「……そうか」
去っていく二人の背中を見つめていると、
バシッ、と腰の辺りを叩かれた。
振り向くと、リリアーナが真剣な目をしていた。
「今は、まだ言えないだけ。
でも、自分の中でちゃんと整理できたら、きっと来てくれるよ
それまで、待っていてあげて」
「ああ……そうだな」
そう答えると、リリアーナは笑顔に戻る。
「それに!
今はリリたちがいる!!
ケーラちゃんが、また一人で潰れることはないよ!」
胸を張るその姿に、私は微笑んだ。
「ああ、それは頼もしいな……」
「でしょ!!
さあ、まだまだ回るよ~~!」
そう言って、リリアーナは先へ進む。
私は振り返らず、その背中についていった。
その背中を追いながら、
私は初めて、
「待つ」という選択を、前向きなものだと思えた。