【完結】司令官(プレイヤー)の顔がわからない低レアさんの苦悩 作:ソシャゲ低レアさん
物語構成・設定・最終調整は作者によるものです。
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みんなと一緒に、執務室へ向かう。
リリはフェイスガードを持って、楽しそうに少し前を歩いている。
私は、ぼそりと呟いた。
「大丈夫かな……」
それを聞いたラニが、隣に並ぶ。
「不安になる気持ちは分かるわ。でも、あまり思い詰めないこと。
うまくいけばラッキー、くらいでいいのよ」
「……分かってる、けど」
今度はフィアが静かに近づいてきた。
「確信は持てませんけど……
一応、眼鏡という実績はあります。
今回も“少し緩和できれば十分”だと思いますよ?」
「フィア……ありがとう」
エルフィー班長も振り返る。
「フェイスガード一枚で駄目なら、
眼鏡と組み合わせる手もあるわ。
私たちは最後まで付き合うし、
司令官さんも、きっと付き合ってくれる。
だから、一人で抱え込まないでね?」
「……はい!」
みんなと顔を見合わせ、もう一度前を見る。
「準備はいい? 入るわよ」
扉の前で班長が言う。
私は深呼吸をして、大きく頷いた。
ノック。
返事。
私たちは執務室へ入る。
私はラニの後ろに隠れるように歩く。
視線は、やっぱり床へ落ちていた。
「どうしたんだ? こんなに揃って」
困惑した司令官さんの声。
「司令官さん! 今度はこれを着けてみてください!」
リリが元気よく差し出す。
「……フェイスガード? どういうことだ?」
エルフィー班長が前へ出る。
「実は、ある実験をしたくて。
司令官さんに、これを装着していただきたいんです」
「実験?」
班長がこれまでの経緯を説明する。
・以前、眼鏡をしていた時に目元が少し見えたこと
・いつものプレッシャーを感じなかったこと
説明を聞き終えた司令官さんは、静かに息を吐いた。
その瞬間、視線を感じる。
私は無意識にラニの裾を掴んでいた。
「……分かった。協力しよう。
リリアーナ、貸してくれ」
「はーい!」
フェイスガードを装着する。
──その瞬間。
さっきまで胸を押していた重さが、わずかに軽くなった気がした。
恐る恐る、ラニの影から覗く。
ぐるぐるは、ある。
けれど──薄い。
顔全体を覆っていた濃さが、やわらいでいる。
輪郭が、分かる。
胸の奥のしこりが、少しずつ溶けていく。
「ケーラ、どうだ?」
「……司令官さんの、顔の輪郭が……分かります」
私はラニの後ろから、横へ出る。
視線がついてくる。
でも、押しつぶされない。
「……プレッシャーが、ありません」
一歩、近づく。
エルフィー班長の隣へ。
「……ぐるぐるが、薄いです」
さらに近づく。
「目の位置が……耳が……鼻が……口が……
ちゃんと、そこにあります」
気づけば、机の前まで来ていた。
私は深く、頭を下げる。
「今まで、ひどい態度を取ってしまって……
本当に、申し訳ありませんでした」
視界が滲む。
床に、雫が落ちる。
「どんな罰でも、受けます。
本当に、申し訳ありませんでした」
静寂。
誰も、何も言わない。
私の荒い呼吸と、鼻をすする音だけがやけに大きく響いていた。
時間の感覚が、分からない。
「ケーラ」
名前を呼ばれ、肩が跳ねる。
「顔を上げてくれ」
恐る恐る顔を上げる。
フェイスガード越しの司令官さんは、
はっきりとは見えないけれど──困っているように感じた。
「私は君を咎めるつもりも、罰するつもりもない」
「……え?」
「君の症状は病気のようなものだ。
しかも私の着任がきっかけだ。
戸惑って当然だし、こうして適応しようとしている。
それを責める理由などない」
視線が、真っ直ぐ向く。
それでも、さっきほどの圧はない。
「罰など与えたら、今度は私が罪悪感で倒れそうだ」
そう言って、司令官さんは立ち上がり、頭を下げた。
「無理をさせた。倒れさせてしまった。
本当に申し訳ない」
「や、やめてください!」
私は慌てて言う。
「私は、責めていません!
怒ってもいません!
司令官さんは悪くないです!」
見上げる。
目は、まだ強い。
でも、怖くない。
司令官さんが吹き出した。
「私も同じだ。
今までの態度を責めるつもりもない。
あれは、君は悪くない」
言葉が、詰まる。
胸の奥が、いっぱいで。
何かを返さなければいけないのに──
声にならない。
視線だけが、交わる。
──そのとき。
エルフィー班長が、ぱん、と手を叩いた。
「はい、ここまで!
お互い謝ったんだから、この件は終了!」
私と司令官さんは目を合わせ、小さく頷く。
「今後とも、よろしくお願いいたします」
「ああ。こちらこそ」
差し出された手を、握る。
──ちゃんと、見える。
司令官さんの顔が、そこにある。
そして私は、目を逸らさなかった。
────
後日。
私は一人で、司令官さんの執務室の前に立っていた。
送信済みのメッセージを、指先でそっと確認する。
これで大丈夫。
深呼吸。ノック。
「どうぞ」
扉を開ける。
「司令官さん、お疲れ様です。遠征の報告に参りました」
顔を上げる。
フェイスガード越しの輪郭が、そこにある。
「ご苦労。書類を」
「はい」
差し出した報告書に、視線が落ちる。
その目の強さは、前と同じはずなのに──胸は静かだ。
「問題ないな。怪我人もいない。よくやった」
「みんなが頑張ってくれました」
引き出しが開く音。封筒が差し出される。
「カフェテリアのスペシャルスイーツのチケットだ。参加者全員分ある」
「……本当ですか? ありがとうございます!」
封筒を受け取り、頭を下げる。
「では、失礼します」
「ああ。気をつけてな」
扉を閉めかけて──ふと、足を止める。
ほんの一瞬だけ、振り返る。
フェイスガード越しの輪郭が、そこにある。
視線が合う。
強い目。
それでも、怖くない。
──目は、逸らさない。
静かに扉を閉める。
廊下に出ると、胸の奥が、少しだけあたたかい。
完璧じゃない。
それでも、私は今日もここに来られた。
次も、きっと来られる。
──司令官さんのいる、この場所へ。
そう思いながら、私はみんなのもとへ駆け出した。