【完結】司令官(プレイヤー)の顔がわからない低レアさんの苦悩 作:ソシャゲ低レアさん
物語構成・設定・最終調整は作者によるものです。
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注)本日第四話と第五話を投稿しています。
第4班のみんなとナータとで昼食を終え、訓練所へ向かっている途中だった。
「〇〇司令官、少し時間をもらってもいいか?」
声をかけられて振り向くと、同じ防衛基地の別部隊を率いるベテラン司令官が、穏やかな表情で立っていた。
「分かりました。みんなは先に訓練場へ向かってくれ」
そう告げると、第4班は揃って会釈し、そのまま先へ進んでいく。
私は改めてベテラン司令官と向き合う。
彼はいくつもの部隊を率いているため、貫禄がある。
私は少し緊張しながら尋ねた。
「それで……お話というのは?」
「うちの部隊と、合同で演習をしないかという誘いだ」
「え、演習ですか!?」
思いがけない提案だった。
通常、演習は同レベルの部隊同士で行われる。
お互いの練度を高めるためのものであり、明らかな格差がある相手との演習は、片方にとってほとんど意味がない。
戦力差があるなら、それは自分の部隊で調整すべき問題だ。
わざわざ他の部隊を巻き込む理由はないはずだ。
そんなことを考えていると、ベテラン司令官がぽんと肩を叩いた。
「そんなに難しく考えなくていい」
穏やかな声だった。
「うちに新しく入った隊員たちと、君のところの隊員で演習をさせてみたいだけだ。
別部隊の隊員と顔を合わせるのは、新人にとっていい刺激になる。
こちらは第二部隊も出すつもりだ。君たちにとっても、練度向上になるはずだ」
そこで一度、言葉を切る。
「それに──新人をベテランが導くのは、当たり前だろ?」
朗らかに笑いながら手を差し出してくる。
その表情に、照れのようなものが一瞬だけ滲んだ気がした。
私はその手を握った。
「ありがとうございます。胸をお借りします」
「では、詳細は後日詰めよう。失礼する」
そう言って、ベテラン司令官は去っていった。
私は深く頭を下げ、相手が完全に立ち去るまで礼を崩さなかった。
顔を上げると、ナータが嬉しそうに笑っていた。
「よかったですね。早速、演習ができるなんて」
「ああ。本当にありがたい。後で参加メンバーを考えたいんだが、手伝ってくれるか?」
「もちろんです」
そうして二人で言葉を交わしながら、訓練場へ向かった。
⸻
訓練場では、第4班のメンバーがストレッチをしていた。
エルフィーとラニ、リリアーナとケーラがそれぞれペアを組んでいる。
一方、第6班は倒れているポポラの介抱中だった。
「あら、司令官さん。お疲れ様です」
第4班の面々が少し慌てる中、シエラだけは変わらずのんびりと挨拶してきた。
私は第4班にそのまま続けるように手を振った。
そのとき、一瞬だけケーラと目が合った。
だがすぐに逸らされてしまう。
それよりも、倒れているポポラが気になった。
「ポポラが倒れているが、何かあったのか?」
私の問いに、シエラは少し困った顔をする。
「ポポラちゃんがエルフィーちゃんに、とんでもないメッセージを送ったので……
そのお仕置きをケーラちゃんが……」
「ケーラが?」
その名前が出るとは思っていなかった。
意外な名前に、思わず視線を向ける。
ちょうどケーラが、リリアーナの背中を押していた。
こちらの視線に気づいたのか、ケーラの肩が跳ね上がり、その勢いでさらに押してしまう。
「ぐえっ! ケ、ケーラちゃん、痛い痛い!!」
「ご、ごめん、リリ!」
その様子に、胸の奥が、ちくりと痛んだ。
気を取り直してシエラに向き直った。
「この後の訓練は問題ないのか?」
「大丈夫ですよ~。むしろ、いつもより密度の濃いウォーミングアップでしたし」
そのとき、ポポラが目を覚ました。
「ぐぬぬ……ケーラちゃんめ~~! よくもあんな拷問を!! この恨み、訓練で晴らしてくれよう!!」
次の瞬間、ミレイが軽くチョップを落とした。
「ケーラは見学って言ってたでしょ」
「あ~~~! そうだった~~~!!」
地面に膝をついて項垂れるポポラを、フィアが慌てて慰める。
ミレイは頭が痛そうにため息をついていた。
突然、ポポラが顔を上げた。
「そうだ! 第4班をボッコボコにして、ケーラちゃんを第6班のものに──」
「へえ? 誰をボコボコにして、誰を第6班に入れるですって?」
冷たい声が背後から響き、空気が一気に冷えた。
ポポラの首が、油の切れたブリキのおもちゃのように、ぎぎぎと後ろを向く。
そこには腕を組んで睨みつけるラニがいた。
後ろではエルフィーが苦笑し、リリアーナは暴れているが、ケーラが抱き上げて抑えている。
また、ケーラの肩が小さく揺れた。
「司令官さん、第4班は準備完了です」
エルフィーが報告する。
「第6班も、いつでも大丈夫ですよ~」
シエラも続いた。
私は二人に短く頷いた。
「では、私たち見学組は移動しよう」
そう言って、訓練場の隅にあるベンチへ向かう。
移動しながら、私はナータにだけ聞こえる声で告げた。
「……ナータ。ケーラを、少し気にかけてやってくれ」
「報告の件ですね。了解しました」
ベンチは二つ並んでおり、一つに私とナータ、もう一つにケーラが座った。
訓練開始を告げる合図が響き、私は訓練場に向き直る。
⸻
ベンチに座ってから、どれくらい経っただろう。
司令官さんが訓練場に入ってきたとき、思わず視線を向けた。
けれど、やはり黒と白の糸のようなものに覆われて、よく分からない。
それでも──司令官さんの視線の向きだけは、なぜか分かった。
訓練場に入ってきたとき。
リリのストレッチを見ていたとき。
ポポラに突撃しようとするリリを抱えたとき。
見られていると分かるたび、無意識に肩が強張ってしまう。
(……司令官さんに、失礼なことをしてしまった)
自己嫌悪に沈んでいると、肩を軽く叩かれた。
「ケーラちゃん、大丈夫? 体調悪くなった?」
隣に座っていたナータさんだった。
「だ、大丈夫です。何ともないです」
そう答えたが、ナータさんはじっとこちらを見ている。
私は視線から逃げるように、訓練場へ目を向けた。
小さくため息をついたナータさんは、それ以上何も言わず、隣に腰を下ろした。
訓練では、ラニがポポラを追い詰め、組み伏せようとしている。
エルフィー班長はシエラ班長とフィアを相手に立ち回り、
リリはミレイの狙撃から必死に逃げていた。
場面が次々と入れ替わる訓練を、しばらく眺めていた。
「ナータ、そろそろ執務室に戻るぞ」
後ろから、司令官さんの声がした。
「あら、もう十分なんですか?」
「ああ。おおよその能力は把握できた。あとは実践でどう活かすかだ。それに、次の遠征部隊が戻る頃だ。報告を受けないとな」
「分かりました」
ナータさんが立ち上がる。
司令官さんの声に、体が大きく反応してしまった。
膝の上で、手を強く握りしめる。
私も立ち上がり、勢いよく振り向いて頭を下げた。
「し、ししし司令官さん、お、お疲れ様でした!」
「お、おう。お疲れ様。無理するなよ、ケーラ」
少し面食らったような返事だった。
そのまま二人は歩き出す。
私は、顔を上げられないまま、二人の足音が遠ざかっていくのを聞いていた。
(──次に声をかけられたとき、ちゃんと返事ができるだろうか)