【完結】司令官(プレイヤー)の顔がわからない低レアさんの苦悩 作:ソシャゲ低レアさん
物語構成・設定・最終調整は作者によるものです。
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朝からリリアーナが執務室に突撃してきた。
「今日はリリが秘書やりま~す」
(……朝から元気だな)
そうして午前中は一緒に業務をしていたのだが、午後になって書類の運搬を頼んで以降、彼女は戻ってこなかった。
「……どこかで油でも売っているのか?」
そう思い、探しに出ることにした。
食堂、カフェテリア、売店、訓練場、武器倉庫。
その場にいた隊員たちに聞いて回ったが、誰もリリアーナを見ていないという。
(もしかして、居住区か?)
そう考え、居住区へ向かう途中、通路脇のベンチに人影があることに気づいた。
ベンチに座り、本を読んでいる人物。
(あの子なら、何か知っているかもしれない)
近づいてみると、その人物がケーラだと分かった。
「……ケーラ?」
声をかけると、彼女は目を見開き、
身動きが取れないまま、慌てた様子で本を顔の前に掲げた。
「お、お疲れ様、です。し、司令官さん」
その反応に思わず苦笑しつつ、用件を切り出す。
「読書の邪魔をしてすまない。リリアーナをどこかで見なかったか?」
「えっ? リリ……ですか?」
今日の秘書であるリリアーナが、書類の運搬に出たきり戻ってこないことを伝えると、ケーラの手にしていた本が一瞬だけ下がった。
直後、彼女は勢いよく立ち上がる。
──ゴン、という鈍い音。
続いて、「ぐへっ……」という情けない声。
足元を見ると、ベンチの下で頭を押さえ、うずくまるリリアーナの姿があった。
「……」
無言でリリアーナを見下ろすケーラ。
「い、いてて……ケーラちゃん、急に何~~?」
「何じゃないでしょ!! 今日秘書だって聞いてないんだけど!!
こんなところで昼寝してたらダメでしょ!!」
「あ……」
「あ、じゃないでしょ!!
司令官さん、この子、早く連れてってください!」
そう言ってリリアーナをこちらに押し付け、ケーラは本を胸に抱えたまま居住区の奥へと歩いていった。
「し、司令官さん……ゴメンナサイ……」
気まずそうに俯くリリアーナに、ため息をひとつ。
「説教は後だ。とりあえず執務室に戻るぞ」
「司令官さ~ん、本当にごめんなさ~~い!!」
ふと、ケーラが去っていった方向を見たが、
そこに彼女の姿は、もうなかった。
⸻
通路を歩いていると、前方から楽しげな声が聞こえてきた。
見ると、ラニとケーラが両手に荷物を抱えて歩いてくるところだった。
「ラニ、ケーラ、ご苦労様」
「あら、司令官。お疲れ様」
「司令官さん、お疲れ様です」
ラニはいつもの調子でこちらに視線を向け、
すぐに何事もなかったように荷物へ意識を戻した。
「その荷物は?」
「武器整備課よ。
『どうせ暇だろ』って言われて、倉庫から運ばされてるの」
ラニが肩をすくめると、ケーラは苦笑する。
「ラニ、先に届けてくるね。整備課の人たち、待ってるだろうから」
「え? ちょっ、ケーラ?」
制止する間もなく、ケーラは早足で去っていった。
「……そんなに急ぎだったのか?」
「いいえ。立ち話の数分くらいなら問題ないはずだけど」
ラニは私を一度見て、少し考えるように間を置いた。
「司令官、ケーラと何かあった?」
「何もない」
「……そう」
私とラニは、揃って首を傾げた。
⸻
訓練場の近くを通りかかると、中から怒号が響いてきた。
急いで中に入ると、第4班と第6班の姿がある。
怒鳴っているのは、全身ピンク色の人物だった。
顔も服もペイントで覆われ、誰なのか判別がつかない。
怒られている側は、案の定ポポラ。
(また、ポポラ案件か……)
エルフィーが必死に宥めているが、効果は薄い。
集団の外で困った様子のシエラに声をかけた。
「何があった?」
「あら~。司令官さん、お疲れ様です」
そのやり取りで、全員がこちらに気づいた。
第4班と第6班の、見知った顔が揃っていた。
「……もしかして、ケーラか?」
問いかけると、ピンク色の人物は無言で頷いた。
ケーラは私の方を見ないまま、淡々と言った。
「ペイント弾を落とすために、シャワー室に行ってきます」
一拍置いて、今度は低い声で続ける。
「……ポポラ。あとで、覚悟しておいて」
そう言い残し、ケーラは足早に訓練場を後にした。
ポポラは安堵したように息を吐く。
第4班は、去っていくケーラの背中をじっと見つめていた。
「……一体、何があった?」
フィアが恐る恐る説明する。
「ポポラちゃんが……ペイント銃を勝手に改造してしまって……」
「改造?」
「命中率を上げようと思ったみたいで……
当たったかどうか分かりやすくするために、塗料を増やしたらしくて……」
ミレイがため息をついた。
「ポポラの火力が想定以上だったのよ。
純粋な性能差ね……ケーラが不利になるのも無理はないわ」
ペイント弾そのものの威力ではなく、
中身の塗料が異常な量になっていたらしい。
頭が痛くなる。
「ポポラ、後で執務室に来い。反省文だ」
「えっ、そこまで!? ペイント弾だよ!?」
一蹴する。
「銃の無断改造は重大な規律違反だ。
実弾だったらどうなっていた?」
「ごめんなさい!!」
土下座するポポラ。
「反省文提出。
それと明日から一週間、ケーラの特別メニューを受けろ」
「ま、待って! それだけは!!」
そう言うとポポラは顔を上げたが、真っ青に染まっていた。
やり取りの最中も、エルフィーはケーラの去った方向を見ていた。
「何か気になることが?」
「……さっきのケーラちゃん、様子がおかしかったんです」
エルフィーは一瞬、言葉を探すように視線を伏せた。
「いつものケーラちゃんなら、あの程度で訓練を中断しません。
不利な状況ほど燃える娘ですし、ポポラちゃん相手なら尚更です。
それに……ポポラちゃんの説教を途中で切り上げるなんて、
ケーラちゃん、今まで一度もありませんでした」
「……そうか」
胸の奥に、見過ごせない違和感が芽生えた。