石流龍(石流龍じゃない)の肉体を手に入れた   作:和尚我津

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やっぱアイツが主人公

「……ここは?」

「お、目ぇ覚めたか」

「憂太ぁぁぁっっ!? 良かったよぉぉ!」

 

 場所は乙骨と出会ったマンションの屋上。

 朝日を浴びながら煙草を吹かしていると、乙骨が意識を取り戻した。

 

「……怪我は治してくれたんですね。ありがとうございます」

 

 静かに全身を改めた乙骨が礼を述べてくるので、片手をあげて軽く答える。

 決闘……ではなく模擬戦が終わった直後の乙骨は、これがまあ酷かった。最後らへんは呪力温存のため反転術式も打ち切ってたせいで乙骨ファン、すなわちリカちゃんが見たら悲鳴を上げるような有様。

 

 死にはしないが後々尾を引きそうな重い怪我の数々は、しかし綺麗サッパリと消えていた。

 

 問題。特級呪霊を遠距離でぶっ殺せるレベルの正の呪力砲を、人に向けて撃つとどうなる?

 正解。文字通り死んでなければだいたい治せる。

 

 反転術式を覚えた石流龍(オレ)はヒーラーとゴリラー、両方の性質を併せ持つ。

 

 技術は両面宿儺に負けているだろうけど、呪力のゴリ押しが効くから他人の心臓も治せるレベルの回復は施せる。回復も結局ゴリゴリのゴリラじゃねえか。

 

 そんなわけで。右腕はバッキバキ、内臓も実はボッロボロだった乙骨の肉体は既に万全だ。呪力が底をついてる以外の問題は即座に解決されたわけだ。

 

 まあ一番厄介だったのも呪力欠乏なわけで。

 

「今の時間を教えてもらっていいですか?」

「だいたい朝7時ってところだな」

「そうですか、結構長く眠ってましたね」

「そうだな。丸一日以上は流石に長えわな」

「え?」

 

 現在時刻、11月11日午前7時ごろ。

 決闘から丸一日以上経過していた。

 呪力切れとはいっても少しは残るのが常。肉体由来ではなく呪力が完全に0となった結果発生する気絶は初めて見る症状だったが、まさかこんな感じになるとはな。

 

 一日寝過ごしていた事実に飛び起きる乙骨。体調は万全だから激闘明けとは思えないほど機敏だ。

 

 ちなみに運んだのはオレ。宮本は5分かそこらで起きた物損状況を前に呆然としていた。

 

「元気があって大変結構。けど結界(ここ)でお前に出来ることはもう無ぇんだし、ちょっとはゆっくりしとけや」

「でも!」

「この結界(コロニー)から出られない以上、今のお前に出来るのは仲間を信じることだけだ。そしてお前のガッツはその仲間たちにも伝えてある。コガネ。昨日追加したルールについて読み上げてくれ」

 

 その合図と共に乙骨との戦闘後、頃合いを見て追加した2つの総則(ルール)が開示された。

 一つは原作で鹿紫雲が追加した総則(ルール)をそのまま引っ張ってきた。

 もう一つは原作にはなかった、新たなオリジナル総則(ルール)

 

「……この追加総則(ルール)は何ですか?」

「なに、これは楽しませてくれたお前への褒美、というかチャンス、かな?」

 

 煙草の煙を吐き出すと共に、

 

「良いんですか? 僕、負けちゃいましたけど?」

「良いんだよ。想像以上に楽しませてもらったしな」

 

 これはガチ。

 乙骨は知る由もないが、こちとら原作でのリベンジマッチ。ヤル気満々だったが、問答無用で襲い掛かるのは今のオレのスタンス的に合わない。どうやって勝負に持ち込もうかそれはもうメチャクチャ考えてた。

 はてどうしたものかと悩んでいたところにリカちゃんからの提案は渡りに船。

 久々の経験値を相手に漲っていたが、ふと入れ替え修行前(ズルしてない時)の乙骨というのを思いだし、期待は急速に萎んだ。ボチボチのところで切り上げようとすら。

 ところがどっこい。乙骨のやると決めたらやるという、ある種どこまで行っても冷たい気合を見せて、勝負を投げ出さなかった。あの乙骨の姿は流石のオレもグッと来た。

 

 しかもそれで終わらず、そこから見せてくれたのは原作でも使ってなかった術式多数。さらには領域を絡めたそれらのコンビネーション。

 石流龍(オレ)にとってのデザートにはなりえなかったのは本当だが、前菜からメインまでたっぷりと用意された品々。随分と美味しく頂かせてもらった。

 

 特に分身術式の反転による疑似フィジカルギフテッド、略して疑似ギフとの殴り合いは格別。あの打撃力は恐らく天与の暴君にも迫るものだっただろう。すなわち、完全呪肉体の両面宿儺にも、だ。

 それと事前に()り合えたのだから、文句などあろうはずがない。

 領域対策についても改善要素が見つかったのは僥倖。

 

 総じて、めちゃくちゃ得る物が多い決闘だった。

 鹿紫雲の代わりを務めるため、最初からこの総則(ルール)は追加するつもりではあったが、仮にそのつもりがなくとも乙骨に協力しただろう。

 

「正直、素直に通信できる総則(ルール)を追加していただいた方が嬉しかったんですが」

「お前負けたって自覚ある?」

 

 コイツ割と図々しいな?

 総則(ルール)追加をエサにアキラ1〇0%でもやらせてやろうか?

 ……やめよう。コイツはやる。そういう男だ

 

 乙骨とのリベンジマッチは終わった。目的の総則(ルール)は組み込めた。

 総じて、最終的には上手くいったと言っていいだろう。

 どうにかこうにか原作通りに進めることは出来ている、はず。

 

「ところで、どうして僕はずっと外に? そんなに長く寝てたなら部屋に運んでくれても良かったんじゃ?」

「それはお前さんの女に言え。誰も近づけないようにずっと警戒してたからな。強引に突っ切るのは出来たがそこまでする義理はねえし、何より可哀そうだろ? オレを蹴ろうとして逆に負傷する馬が」

 

 ――まあダメなら、その時はその時だ。

 

******

 

『伏黒恵、秤金次の両名が死滅回游に参加《エントリー》しました』

 翌12日の正午、乙骨に付いてたコガネから流れてきたアナウンスで、虎杖たちが死滅回游に参加したことを察する。

 

「ついに乙骨の仲間が結界(コロニー)に突入したか」

「はい。彼らならやってくれると信じています」

「お前さんの分まで?」

「……はい」

 

 オレのセリフにしょげる乙骨。

 さもありなん。高専側最高戦力の一角として認識されていただろうに、結果はまさかの戦果ゼロ。

 乙骨と闘ったおかげで追加された総則(ルール)はあるけど、お情けによるものだと映っているだろうし。 

 実際に聞いてはないけど『一人で羂索も仕留めて400得点(ポイント)稼いでやるぜ!』って意気込んだ結果がコレっていうのは、まあ落ち込んでも仕方なし。

 

 それ以上の言及は止めて高専突入組について考えを巡らす。

 どうやら組み合わせが原作とは違うな。

 鹿紫雲が居ないから秤を第一結界(コロニー)に回して、索敵も出来る伏黒と入れ替わったか。

 まあ大きな問題にはならんだろ。天使こと来栖華は伏黒を探しているわけだし、合流するのも早くなっていいんじゃね? パンダも兄弟が死ぬことはなくなるだろうし。

 第一も秤ならレジィ・スターと黄櫨を相手にしても問題なし。

 あとは虎杖が日車を説得すれば良し。

 これは全方位良し。間違いないな。

 

 ちょっと条件を設けたけど、別に協力したくないというわけではない。

 虎杖たちが目標を達成するのを気長に待とうか。

 

 

 

 

 

「あの肉団子ありがとうねぇ! 美味しくて嬉しかったよぉ!!」

「は、はは。そう言ってもらえると幸いです~。お、お役に立てたようでなにより。ははっ!」

「負けちゃったけどねぇっ!」

「地雷だったぁ……っ!」

 

 そう思いながら昨日に引き続き乙骨との組手や呪術の指導、時々煙草といった感じで時間を潰していると、一般人(一般人じゃない)代表の三輪が仙台結界(コロニー)に入ってきた。

 

 乙骨に対するメッセンジャーとしての参入だった。

 曰く、なんか知らんけど禪院真希がフィジギフに覚醒したから理由は分からんが結界(コロニー)間の連絡手段は後回しにしていいと。

 戦闘能力ゼロになったというのに、それだけを伝えに死滅回游に参加したらしい。

 ええ子や。弱体化していたとはいえ簡易領域で御厨子を防げるのも納得……戦闘能力ゼロとは一体?

 

 ……あれ? 日車の総則(ルール)追加前に入ってきたっけ?

 …………うん、違うな。乙骨が石流龍に勝って得点(ポイント)を譲り受けた後、堂々のエントリーだったはず。

 ちょっと時間が前後してる、というか日車の説得に長引いている感じ? まあそういうこともあるか。

 

 あと知らなかったけど三輪とリカちゃんって仲良かったんだな。

 ずっと二人でなんか肉団子という女子にしては可愛さのカケラもない料理で女子トークを繰り広げている。

 

 なんかリカちゃんの圧がやけに強くてネチネチされてたり、途中で『知らなかった』、『騙されてただけ』、『東堂先輩』って単語が聞こえてきた気がするが、多分気のせいだから気にしないことにした。

 敵でも味方でも東堂案件には絡んではいけない。これ鉄則ね。

 

 

 

 

 

「おい憂太ぁ! 聞いたぞテメェなに負けてんだっ!?」

「いや……その、皆のためを思って、死ぬ気で頑張ったんですが……」

「じゃあ勝てよっ!」

「……はい。すみません」

 

 秋の夕暮れを背景に、目の前で数少ない公式カップルが痴話ゲンカしている。

 一方的にやり込められているのを痴話ゲンカとは呼ばない? だがここに例外がある!

 

「うるさいぃ! 憂太をいじめるなぁ! あのヤンキーが強すぎただけぇ!」

「いじめてねぇよ! 事実を言ってるだけだろがっ!」

「り、リカちゃん落ち着いて……本当のことを言われているだけだから……」

「なぁにぃ!? 憂太はこの女の味方なのぉ?!」

「いや、そういうわけじゃ……」

「ハッキリしろや!」

 

 公式カップルと公式カップルが公式彼氏を巡って修羅場が繰り広げられている。

 うーんこれは女誑し。煙草が美味えわ。

 

「いやーなんかこういう光景見ると、なんかニヤけてきませんか?」

「分かるわ。青春の甘酸っぱさはヤニの苦さと相性良いのよ」

 

 頭に正の呪力を流されながら宣う三輪に同意する。

 反転術式受けてみたかったらしい。けど怖くねえのか? 人の頭部を余裕で握り潰せる(ゴリラ)に、頭を鷲掴みされているこの状況が。

 

「止める気はないんですか?」

「生憎オレは動物好きなんだよ。オレを蹴って傷つく馬が可哀そうでな。そういうお前さんは?」

「嫌ですよ死にますもん」

「端的に正解だな」

 

 平然としているのは普通にヤバいなこの子。

 

「まあいい。もう終わったことだしな……で、アンタが憂太に勝ったっていう泳者(プレイヤー)か? オッサン」

「おいおい真希ちゃん、ちゃんと名前は言ってくれねぇと困るぜ。今のオレの名前は……コガネ、読み上げろ」

『おっけぃ。当泳者(プレイヤー)の名前は石流龍(カッコ)乙骨憂太の仲間たちに告ぐ(句点)得点を掛けたオレとの勝負に乙骨憂太は負けたが(読点)――

「そのネタはもういい。つか自分でも言えてねぇじゃねえか」

 

 当たり前だろ。こんな長い名前誰が言えるか。

 オレはピカソはピカソとしか呼ばねぇタイプなんだよ。

 

「音声で聞くと句読点とかも読まれて余計分かりづらいですね」

 オレも知らなかったよこの仕様。これも死滅回游の裏ルールの一つといっていいだろう。

 

「僕の仲間たちはその条件を満たしてくれました。協力をお願いします、石流さん」

 

 茶番をぶった斬った乙骨の言う通り、つい先ほど死滅回游離脱の総則(ルール)が組み込まれた。

 条件は原作と変わらず。100得点必要となるかなり面倒な総則(ルール)

 今のオレにはさほど問題ではないがな。やっぱ世の中得点(カネ)(ゴリラ)力よ

 ただ、日車の説得にはかなりの時間が掛かったようだ。

 

 第一結界(コロニー)の話を聞くと、展開が原作と随分違った。

 対戦カードが大幅に変更されていた。

 日車と最初に戦ったのは、虎杖ではなくて秤。

 法廷と賭場の領域バトル? なにそれ超見てぇ。

 

 ただ内容は想像とは異なっていた。互いに術式に付与された、必中必殺ではない領域。才能はあるが経験の浅い日車。対して経験に富んだ秤。その領域の押し合いは互角で、幾度も競り合ったが一度も成功することなく同時に崩壊し続けたらしい。

 結果始まったのは、弁護士と賭博師による術式なしのゴリゴリの殴り合い。やはりゴリラ廻戦。最終的にモノをいうのはゴリラ力。

 

 勝負は秤の勝ち。曰く『運が良かった』だけらしい。

 

 必然的に、虎杖はレジィ・スター陣営と戦闘を繰り広げた。

 レジィ側は数的有利はあったが、如何せん戦った場所が悪かった模様。

 フィジギフを相手に、マンションというのは悪手そのもの。

 周囲の壁は足場でしかなく、障害物が障害物になりえない。虎杖が1対3という数的不利でも互角に戦っていく。

 最終的にはセンターマ……髙羽という芸人、そして上空から飛来してきた天使の助力を得て勝利を掴んだ。

 

 その後なんやかんやあってレジィ一派を仲間にして秤と合流。何をどうなんやかんやしたんだ?

 

 秤案内の下、天使が伏黒たちを回収のため結界(コロニー)外に脱出。

 そのとき綺羅羅と接触していた真希と共に第2結界(コロニー)に侵入。伏黒とパンダを回収。そのまま虎杖たちと合流。

 その間に虎杖は日車の説得に成功し、死滅回游離脱の総則(ルール)が追加された、とのこと。

 その情報を持ち帰った真希が乙骨に事の詳細を伝えようと仙台に来て今に至る。

 

 話を聞いてると随分と大所帯というかなんというか、やっぱ虎杖(アイツ)が主人公なんだなって思える。

 割と原作とは違う展開になったとて、最終的には上手くいくんだもんな。普通こんなことないよ。

 たぶんバタフライエフェクトって奴が起こったんだと思うけど、それすら何の問題にもなってない、どころか原作より良い目が出てすらある。

 

 いやー良かった。

 だからこそ、オレも自由に暴れられるってもんよ。




出張のため1週間ばかり更新停止します。
再開は来週2/13(金)予定です。
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