石流龍(石流龍じゃない)の肉体を手に入れた   作:和尚我津

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ただ牙を研ぐ

「秤! 無事か!?」

「生きてはいるよ。つか遅っせーんだよ禪院オメェよぉ! もうこっちは全部終わった後だっつーの!」

「うるっせぇな! こっちも色々立て込んでたんだよ!」

「こっちの方がもっと立て込んでたわ!」

 宿儺が立ち去ってからしばらくして、禪院直哉を撃破した真希が秤たちと合流を果たす。

 

「あっ! テメェら今ごろになってノコノコ戻ってきたのかよ!?」

 その後ろには彼女に連行される形で現れた、ボロボロのレジィ・スターと黄櫨の姿が。

 

「ちょっと勘弁してよぉ。こっちは宿儺とやりあうなんて一言も聞いてないんだからさ」

「正直俺らが居た所で大した戦力にならねえだろ。死体が2つ増えるだけで無駄無駄。そこのメスゴリラの戦い手伝ったんだからノーカンってことで、そんな怒んなよオッサン」

「誰がメスゴリラだ? あぁ?」

「オッサン言うな! 俺はまだ学生だわ!」

 

 やいのやいのと言いながら、怪我人を連れて拠点となっているビルへと戻る一行。

 逃げ出した罰としてレジィと黄櫨がそれぞれ虎杖と日車を運ぶこととなった。

 

 よっこらっせと、日車を背負った黄櫨がレジィに呼び掛ける。

「俺ら、高専に付いたのミスったんじゃね?」

 

 気絶した虎杖を抱えながら、周囲の惨状を見たレジィは思わずぼやく。

「どうやらこの時代、野次馬すんのも楽じゃあねえなぁ」

 

******

 

 両面宿儺戦の野次馬を終えたオレは、境界近くに居た三輪の元に移動する。

 

「おう、ここに居たか三輪ちゃん、ほいこれお届けもん」

「えっあっはい……って乙骨さん!? 死んでる?!」

「生きてるぅっ! 殺すなぁっ!」

「ごめんなさいっ!」

 お約束のようなやり取りを見つつ、担いでいた乙骨を渡す。呪力を限界まで絞り出した結果発生した気絶。僅かに呪力を感じるから、オレとやった時ほど長くはないだろうが半日程度は目覚めないと見ている。

 

「まあアレだよアレ。死ぬほど疲れているってやつだ。どっか寝かしといてやれ」

「あぁはい。わかりました……負けちゃい、ましたね」

 コガネを通じて見ていたのだろう。善戦はしたが、結局のところ敗北。伏黒恵を取り戻すことは出来なかった。

 

「しょうがねえよ。元々不利な状況だったんだ」

「そう……ですね」

 なんか、やけにしょげたままだな?

 

「どうした? 似合わねぇ深刻なツラ浮かべて」

「いや……私は結局、人に無茶させただけなのかなぁ……って思っちゃいまして」

 あー。あれか? 策を出したけど勝利には結びつけることは出来ず、ただ単に乙骨に無茶をさせただけ。また役に立たなかった。とかそんな風にでも考えてんのかな?

 

 その発言に、思わず溜息が出る。

「あのなぁ。三輪ちゃんがアイディア出さなきゃ、あの場に居た虎杖やら秤やら日車やらが死んでたかもしれねぇんだぞ。それに東京の結界(コロニー)に居た他の泳者(プレイヤー)に救助とか治療の指示を出したのもお前さんだろ? お前さんが居なきゃ死んでたかもしれん」

 三輪は仙台結界(コロニー)の外に向かいながら、東京第一結界(コロニー)の高羽と甘井に、屋上で傷ついていたパンダと天使の救助を要請。自身は仙台結界(コロニー)から脱出後、そこから自身の携帯で知り合いの医者――家入硝子に連絡を取って、彼らの応急処置について指示を仰いでいた。

 十分すぎるほど働いてるじゃねぇか。

 

「お前は出来ることを最大限やった! だから胸張ってろ! ほら頭出せ。反転術式かけてやっから」

「あ、ありがとうございます!……あ~生き返るぅ……」

 

 頭に正の呪力を流し込んでやると、いつも通りのアホみてぇな声が聞こえてきた。

 うん、コイツはこれぐらいがちょうどいいんだよ。

「良し。これでもう少し働けるな。宮本の所に行けば仕事貰えるはずだから、あとは気張れや」

 反転術式で完全回復した以上もう大丈夫だ。十分な働きじゃあ足りないっぽいからな。

 今は宮本主導のもと、住民を脱出させるよう準備してもらっている最中だ。予想では今夜は危険だから今までと同じく中央部付近で過ごしてもらい、明日の昼から脱出できるようにバスやらなんやら揃えているはず。これからコイツにはそちらの手伝いをしてもらって、十二分に働いてもらおう。

 

「分かりました! 石流さんはどうするんですか?」

「オレは他にやることがある。だからオレの分までしっかり働いてくれ。そのための反転術式だからな! あと少しだけ頑張れや! それじゃあ乙骨は頼んだ。あばよ!」

 人間、暇だと余計なことをグダグダ考えてしまう。仕事に忙殺されればそんな余裕もなくなる。これはパワハラ的押しつけではない。極めて人道的押し付けである。

 石流龍はクールに去るぜ。

 

「……もしかして回復してもらったのは罠だった?」

「気づくの遅ぉい」

 

 

 

 そんなくだらないやり取りを挟んだあと、オレは根城にしているマンション……ではなく乙骨と戦った運動公園に足を運んでいた。

 ヤニを飲みながら思い起こすのは当然、先ほどまで行われていた東京での両面宿儺レイドバトル。

 

 …………いやー! メッチャ面白かったぁ! オイオイどっちに転ぶんだ!? って終始ハラハラしたわぁ~。あんまワクワクさせんなよ! 一人の野次馬として文句なし!

 オレも一応高専側ヒーラーとして参戦してたけど、乙骨の後ろで反転ぶっかけてただけだから実質働いてないしな! 乙骨気絶してからはマジで観戦してただけだし。

 日車に反転教えた? 見ただけで習得したアレを教えたとは呼ばない。苦労して会得した側の立場からすると嫉妬超えてむしろ引いたわ。

 しかし戦闘に関しては。単純に見応えが半端なかったよね! 現実(なま)で見るとやっぱ違うわ。手に汗握るってこういうことを言うんだな。思わず倒れた乙骨放り出して虎杖の応援しちゃったぐらいだし。

 

 高専陣営の皆には感謝しかない! もう本当に、宿儺戦を見れて大満足!

 

 

 

 ――本当に、宿儺の戦闘を観察できて良かった。()1()6()()()()宿()()()()()()()。それを確信できた。

 今の不完全な宿儺に勝てると思えないようじゃあ、完全体の両面宿儺に勝とうなんて夢のまた夢。あとは万全状態の宿儺が相手であっても絶望的なまでに差がなければ良いんだが。まあそれは、実際に立ち会ってみれば分かることだ。

 

 そして何よりもだ。大枚叩いても手に入らない、喉から手が出るほど欲しかった両面宿儺の戦闘能力――体術の技量や術式の運用方法、呪力の操作技術など、原作知識があってもこの目で見なきゃ分からない部分について、十二分に観察と分析ができた。

 まさに値千金の情報。

 これをオレに齎してくれた高専陣営の皆には頭が上がらない。本当に感謝している。

 

 

 そうそう。乙骨には特に感謝しないとな。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で、自然な形で泳者(プレイヤー)間の通信総則(ルール)を追加することができたからな。

 これで堂々かつコソコソとアイツと連絡が取れるようになったわけだ。

 

 さて、それじゃあオレも動くとしますかね。

「コガネ、通信だ。相手は仙台結界(コロニー)に居ない方の――」

 数コール後、相手の顔が目の前に映る。

 

『……掛けてくるのはいいけどさぁ。せめて名前は戻してくんない? 長すぎて切りそうになったよ』

「そう連れねぇことを言うなよ。久々だなぁ――本物の方の夏油傑(げとうすぐる)さんよ」

『本物って何言ってんの? 私はどちらかというと偽物側……うわ、なんか知らんけど2人居るじゃん、夏油傑(わたし)

 

 コガネのモニターに表示されるのは、額の縫い目が特徴的な袈裟の男。

 およそ全ての不幸の元凶。呪術と面白いことが何よりも大好きな人間(ひとでなし)、羂索である。

 

 

 本気の宿儺と闘る。この目的を確実に果たすため、前々から羂索とはちょっとした交渉がしたかった。けれどもオレが総則(ルール)追加したら『誰と話したの?』ってなるのは明白。

 ここで羂索陣営の人間だと思われるのは、オレの()()()()には合致しないので『誰かの要望に応える』形で導入したかった。その役目を果たしてくれたのが乙骨だったというわけだ。サンキューな乙骨。

 

「これら全ての問題を、宿儺を強化するだけでクリアできるんだ。ヤリ得だ。断る理由を見つける方が難しい。お前の大嫌いな不明瞭な縛りでもない。一体何が不満だって言うんだ?」

『……それはそうなんだが、手のひらの上で踊らされているような感覚がなんかムカつく。けど分かった。その条件で縛りを組むよ。君の言う通りこちらにはデメリットないしね』

 

 やや強引だったが、以前と同じように原作知識を駆使した脅迫という、極めて平和的な方法で交渉を終えて、縛りを結ぶことができた。

 ――これで、両面宿儺と闘うためのお膳立ては済んだ。

 オレが奴と闘う舞台。そのために出来ることは、これで全部終わりだ。

 原作とは違う流れを辿ることで、タイマンで闘うことは出来ないかもしれないが、まあその時はその時だ。

 

 

 あと準備するべきは、オレ自身。

 予想される宿儺との闘いまで、恐らく残り一週間もないだろう。

 一秒たりとも無駄な時間を過ごせない。

 

 構えを取り、指先から毛先、細胞の一つ一つに至るまで、呪力を張り巡らせる。

 目の前に思い浮かべろ。脳裏に焼き付けた、両面宿儺が戦う姿を。

 その記憶の通りに動き、そしてそれを超えてくる呪いの王の姿を。

 あとはただ闘り合え。休むことなく、眠ることなく、延々と。

 

 今はただ、ひたすらに、牙を研ぐのみ。

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