万を葬って、更に数日。11月18日の昼下がり。
なんとなくの予感が働いたオレは、不眠不休で取り組んでいた訓練を取りやめ、拠点にしていたマンションの屋上でタバコを吹かしながら、原作で行われた新宿決戦について思いを馳せる。
例えばの話、オレが高専側の術師たちと合流して新宿で一緒に戦えば、両面宿儺は割と簡単に倒せるとは思う。
五条悟敗死後の総力戦。そこで虎杖たちと一緒に前線へと赴いてもいいし、家入硝子が居る後方部隊に回って反転術式で傷ついた奴らを適宜治していくのもいい。
ヒーラーとして戦場に出るのも可能だ。遠距離からでも正の呪力砲を撃てるし、グラニテブラストで宿儺を攻撃しても構わない。
鹿紫雲の代わりに次鋒を務めるのも悪くない。これなら一対一という要素も満たしつつ消耗した宿儺と闘うことができる。
世界を断つ斬撃は警戒する必要があるが、予備動作は把握している以上そう簡単に喰らうつもりはない。
展開した領域を斬られる可能性を考えれば、オレも宿儺も領域を使わないまま消耗戦となるだろうが、呪力吸収が出来るオレにとってはむしろ望むところ。
捌に耐えられるのか、完全体宿儺との肉弾戦で圧倒されないのか、という疑問もあるが、この状態の宿儺に勝てる自信がないようならタイマンなぞ挑むべきじゃないな。
そして、五条悟と両面宿儺の頂上対決。そもそもこれに干渉してしまえば、勝利はあっけなく掴めるはずだ。
ちょっとダサいが五条にスピーカーを付けてもらって、東京でのレイドバトルよろしく遠隔呪言を連発してもらうという作戦。万全の宿儺相手だったら狗巻くんの喉どころか全身が反動で壊れるかもしれんが、オレが反転で治せば全てノーカン。
もっと言えばオレのレベルで反転術式が使える者――他者の四肢欠損すら治せる使い手が居れば、釘崎野薔薇の両手足をぶった切ってリカちゃんに喰わせてからの、乙骨による5分間の共鳴り連打を浴びせてしまえばいい。
何だったらついでにオレの両腕も喰わせて、乙骨版エネルギー吸収アリーナを展開してもらい、領域内部でエンドレス共鳴りを実行するのも全然アリだ。領域内の刀全部使い切るレベルで宿儺の魂をボコボコにできるはず。吸収される呪力を持たない真希が刀を回収していくことで更なる効率化を図ることも可能。
とまあ、こんな感じで軽く考えただけでも、ヒーラー石流龍が参画するだけで取れる選択肢は増える。本気で探せば、もっと簡単な方法も見つかるかもしれない。
ハッキリと言えることは、両面宿儺を倒すだけが目的ならば、虎杖たちと合流するのが一番良いということだ。
その合理的な判断を蹴って、オレは今この仙台
オレが奪い取ってしまった石流龍という男の、呪術師としての優秀さを示そうというだけの理由で。
……よくよく考える必要もなくバカの考えだと断言できる。全くもって非合理の極みだと。
石流龍という肉体の優秀さに気づいて、噛ませ犬という事実に対して怒ったときに、衝動的に設けた目標である。必死に守る必要なんてない、バカげた目的だ。
けどそれでいい。2度目の人生なんだ。バカな目的のために、バカなことをするぐらい良いだろう。
それに、仮にその目的を捨てたとしても――
生まれ変わってからこっち、石流龍の身体を使うのは――この規格外の肉体と呪力を操って
伊達家に生まれた時は、娯楽がないから体術や呪術にハマったと思っていたが、平成という前世と同じぐらいの娯楽に満ちた世界に戻ってきても、一番の楽しみが変わることはなかった。他の娯楽がつまらないわけじゃあない。ただそれ以上に
前世で凡人だった記憶と感覚があるせいか。
人類という枠組みから突き抜けた身体を自由自在に駆使できる快感が。
それに勝利し生き残った後の、一服の味が。
今もなお、オレの脳を焼き続けている。
鹿紫雲、乙骨、万という強者たちとの闘いを経て、今まさに我が2度目の人生は腹八分目という状態だろう。
泣いても笑っても次が最後。締めのデザートの時間だ
そうであれば、この身体で思う存分全力で、呪いの王と
満ち足りてない人生なんて1回だけで十分。今生は満足しきるまでやらせてもらおう。
というわけで、戦闘前の一人反省会は終了だ。
闘う前から反省会ってのもおかしな話だが、まあ死ぬ可能性も十分ある以上、やれるうちにやっといてもいいだろう。
「オレの予感も捨てたものじゃあねえな」
――なにせお待ちかねの、デザートの到着だ。
離れてても感じる圧倒的な呪力の量。そして何とも言い難い、芳醇なまでの呪力の質。
「なるほど。確かにこいつは、スウィートが過ぎるぜ」
今一度、己が準備を確認する。
心身および呪力、その全てにおいて万全。
胸ポケット、内ポケット、ズボンに付いてる全てのポケットにタバコは入れている。
コガネを呼び出し仙台
そのままコガネで通信を試みる。
「――よぅ。名前戻したんだな、乙骨」
『石流さん? どうしたんですかいきなり? というか名前についてはむしろそっちが戻してくださいよ』
繋がったのは、仙台を離れ高専に戻っている乙骨憂太。今ごろは五条悟復活に向けて動き出しているころだろうか。
「ああ。悪い悪い。今からオレが宿儺と闘るから、コガネ越しで良けりゃあ見ていいぞ。その代わりオレが闘っている間は絶対に仙台
『え? あの!? 石流さん!?』
「コガネ、オレの
『合点承知!』
その言葉を最後に向こうからの音声と映像は途絶えた。
よし、これで義理を果たしたな。もし死んだとしても乙骨たちに
『闘う前から負けることを考える奴が居るか』という意見はあるかもしれないが、オレの考えは少し違う。
勝負とは、負ける可能性があるからこそ。その可能性がある以上、それが起きた後のことについて考えないのは、勝負に対して真摯ではない。
その上で、敗北という可能性があることを理解した上で、絶対に勝つ気概で闘る。
それがオレにとっての勝負だ。
……これで原作同様、接敵した瞬間に殺されたりしたらどうしようか?
その時はまあ、盛大に笑ってくれ。オレも笑うから!
マンションを飛び降り、ゆっくりと呪力の発生源へと歩み寄っていく。
そして原作同様、どこかの並木道で強烈な呪力を漂わせる男――両面宿儺と対峙した
「ごきげんよう。待ち焦がれたぜ両面宿儺」
「……ククッ、なるほど貴様か。身の程も弁えずオレに塩を送った愚か者は」
「そう言ってくれるってことは、ちゃんと喰ってくれたわけだ。オレからのリクエスト」
「ああ。羂索がやけにうるさかったからな」
どうやら羂索は密約を果たしてくれたようだ。
縛りを結んでいたから、奴にやらないという選択肢はなかったわけだが。
つまりオレの目の前に居るのは――
恐らく、これ以上の
『
「許す。繋げ」
『申し訳ありません宿儺様。ここに居るゴミがどうしても宿儺様にお繋ぎしろと――』
『仕方ないでしょ。宿儺に着拒されてんだから、私』
宿儺のコガネが裏梅……というより羂索と繋がる。
「どうでもいい。用件は?」
『いやーちょっと謝りたくてね。そこに居る彼が、万全な状態の宿儺と闘いたいって言って聞かなくてさ。縛りのせいで喋ろうにも喋れなくてね。ま、そういうわけで申し訳ないけど、ちょっと相手してあげてよ』
『宿儺様。このようなクズの言葉を気にする必要はございません。そのような木っ端は捨て置いて――』
「おいおい、
『――貴様っ!』
「安い挑発だな。この
「……ま、そうだな。これが一番か」
タバコの煙と共に、一言吐き出した。
「――万とかいう女は、オレが殺した」
瞬間、宿儺から発せられる圧力が、一層強くなった。
「コガネ、伏黒津美紀の情報を」
『申し訳ありません。死滅回游の
「……ケヒッ、そうか」
また一層と、内側から宿儺を後押しするかのように、圧力が強くなる。
宿儺が一歩、近づいてくる。
一歩、また一歩と近づき……オレの眼前で足を止めた。
「やれやれ。一度沈めてやったというのに、たかが女一人のことでぐずりおって……これはまたしっかりと『浴』をせねばならんか。裏梅」
『はっ! こちらで準備を進めておきます』
「任せる」
『あーちょっと待って! 君たち今から闘うんだろ。私も見たいからコガネは繋げたままにしといてよ』
『……おい、いい加減にしろよカス』
「いいじゃねえか。お仲間に見せつけてやれよ。
「別に構わん――すぐに終わる」
――全くの予兆なく、オレの身体に刃が触れた。
ノーモーションで発動された『解』によるものだと気づいたのは、攻撃を喰らった直後。右胸から左脇腹に掛けて走った傷から血が垂れる。
東京のレイドバトルでも見てはいたが、実際に喰らってみると、なんとも凶悪な性能をした刃である。
――斬られたと同時に放ったオレの拳は、宿儺の頬を掠めるに留まった。
まるで何事もなかったかのように、そのまま数歩下がる宿儺。
その顔には先ほどまでとは違う類いの笑みが浮かんでいた。
「おいおい、やってくれたなぁ。超痛ぇじゃねえか」
「――ハハハッ! なるほど、大言を吐くだけある!
「これはまた安く見られたもんだな。オレの皮膚は金箔より価値があるってのに」
絶えず回り続けている反転術式が、その僅かな傷すら修復していく。
「その程度の傷で反転を使うとは。図体に反して存外、肝が小さいと見える」
それを見て宿儺は呆れたように鼻を鳴らす。
「次は本気だ。せいぜい足掻け挑戦者」
刹那、宿儺の姿がブレる。
空気の隙間でも縫っているのか、余分がない滑らかな動き。
並みの術師では何が起きたか分からないような、速さと上手さ
――宿儺の動きが見える。奴の攻撃に、反応できる!
オレの頭部に迫る魔手。それをハッキリと目で追うことができている。
回避可能な一撃――それを、甘んじて受けとめる。
油断ではない。慢心でもない。これは
今のオレが、
原作と同じようにこの一撃で沈むようなら、オレも所詮はそこまで。これまでの積み重ねには何の意味もなく、宿儺にとってただ硬いだけの路傍の石として、僅かに記憶されるだけの存在でしかない。
石流龍という存在は、宿儺と闘える資格を与えられることのない存在だったのだと。
だがこの攻撃を受けてなお、石流龍を葬った一撃を受けて立っていられるというのなら、その時は――。
――宿儺の右手が、オレの頭部に触れた。
同時に、迸る激痛。
頬とこめかみの高さに付けられた裂傷から発せられる痛みが、傷の深さを伝えてくる。
痛みには慣れているが、痛いものは痛い。
「――ハハハッ! そうかこれでも死なんか!」
そう。痛い。痛いということはつまり――オレは生きている!
振り返り、背後に居る宿儺に向けて拳を振り下ろす。
身を翻した宿儺を捕らえることは出来ず、地面をただ砕くのみ。
大地を揺らし、捲れ上がるアスファルト。
「く、ククク、ハハハ、アーハッハッハッハ!!!!」
砂塵粉塵舞い上がる中、オレの哄笑が響き渡る。腹の底から笑いが止まらない。
オレは今、明確に――
オレが研鑽した肉体は、オレが追求した術式は、確かに今、運命を覆した!
これが笑わずには居られるか!
「何を馬鹿笑いしている? もう勝ったつもりか?」
「ああ、悪い悪い……かの
「この程度で満足しているようでは、貴様もたかが知れているな」
「はは、違いねぇ! けど安心しろよ。お前も満足させてやるから」
付けられた傷を治しながら、決意を新たにする。
負けるかもしれない。だが必ず勝つ。勝って貴様を平らげる!
「貴様、名は何と言う?」
羽織を脱ぎ捨てながら宿儺が問いかける。
そのセリフに、再び口角があがる。
両面宿儺は、認めた者しか名を覚えないが故に。
「――石流龍……お前を
「……ああそうか、貴様が石流龍か。すまんすまん。阿呆のように長ったらしい貴様の本名は覚える気にならんくてな」
「いいんだよ。そっちは忘れて」
史上最強に認められたという事実に、甘い痺れが走り。
宿儺が最期に刻んだ名を、
「テメェの全部、喰らいつくして、呑み込んでやる」
「少々硬いようだからな。全身遍く、飾りを入れてやるとするか」
さあ、思う存分、
石流龍の術式スペック
術式順転『呪力の放出』
術式反転『呪力の吸収』
拡張術式『炙り』
領域展開『吞天武座』(またの名をエネルギー吸収アリーナ)
極ノ番『
領域展開中のみの拡張術式『?』
この作品独自の