石流龍(石流龍じゃない)の肉体を手に入れた   作:和尚我津

19 / 27
怪力乱神仙台会戦1 前菜(オードブル)

 目の前に居るのは最高の強敵(デザート)。平安から現代に至るまでの1000年間、最強と謳われ続けた『呪いの王』両面宿儺。

 待ちに待った、決戦(食事)の時間。ゆえにまずは――『いただきます』の挨拶代わりだ!

 

「グラニテブラストっ!」

 

 呪力をフルに使用した、石流龍(オレ)の代名詞の五月雨撃ち。

 追尾、時間差、威力の強弱。

 持てる全ての技巧を凝らした呪力砲撃の弾幕!

 

「解」

 

 その全てを、見えない斬撃によって迎撃される。

 

 両面宿儺との闘いの開幕がまさか、遠距離砲撃の撃ち合いとはなぁ。

 相殺した際に生まれた余波が仙台の街並みを砕き、切り裂き、崩壊させていく。

 

 瞬間、身体に伝わる衝撃。

 一つではなく複数、細く鋭いナニカが触れていく。

 

 威力比べは――どうやら残念なことに、両面宿儺がやや上か。

 相殺しきれなかった斬撃がオレの身体に傷をつけ、うっすらとした線を残す。

 先ほど同様、薄皮一枚、刻まれていく。

 刻まれて刻まれて刻まれて――どの一閃も肉すら切れず。

 僅かに付いた傷もオートで回し続けている反転術式が即座に塞いでいく。

 

 呪力砲は効果が薄く、宿儺の『解』もまた脅威とは言えず、か……。

 

 なら話は簡単。近づいてぶん殴る!

 

 砲撃を中断し、ひたすら宿儺に向かって接近していく。

 砲撃で相殺できていた分だろう。途端、数えきれないほどの斬撃が直撃し続ける。

 常人なら百辺死んでも足りない死の雨をされど一顧だにせず、肉体と反転術式に任せて潜り抜ける。

 

 猛然と接近するオレに対して、宿儺は斬撃を放ちつつ距離を取っていく。完全なる引き撃ちの恰好。

 並木道から国道、国道からビル内部へと弾かれる様に移動するオレたち。その最中にも絶えず放たれた『解』が、周囲を巻き込み切り刻む。

 巻きあがる粉塵、散らばる破片、降り注ぐガラス、その全てを蹴散らしてひたすら前へと進む

 

「ヒヒッ! これはどうだ?」

 

 宿儺がビルから出ていく寸前に吐き出した言葉と共に、横切らんとした壁に亀裂が走り、それは蜘蛛の巣状に広がり一気に廊下全体――そして恐らくは建物全体にまで及んでいく。

 

 原作で見せた『地面に放った捌(蜘蛛の糸)』、それを建築物に使用したか!

 壁や梁、天井が雪崩を打って落ちてくる。

 中に居る人間はその崩落に巻き込まれ呑まれていくしかない。

 術師によってはそれだけで必殺技にしかねない、余りにシンプルな質量攻撃。

 

「しゃらくせぇっ!」

「そうこなくてはなぁ!」

 

 ――この程度の障害で、オレを止められるわけねえだろ!

 

 持前の肉体強度で降り注ぐ瓦礫を弾き飛ばし、速力を落とすことなく追跡を続ける。

 とはいえ追いかけっこに進展はなく。

 オレが追い、宿儺が離れる。速さというより上手さによるもので、その差は一向に縮まることがない。出来たことはせいぜい、仙台に破壊を振りまくことのみだ。

 

 大地を嫌ったのか、宿儺が行き先を地面から上空――建屋の屋上へと変えていく。

 

 ――狙うならココだ!

 

 宿儺が地を蹴った瞬間、オレも飛翔――そして背面から大規模な呪力を放出! その様はさながらロケットのブースターのように加速した。

 

「っ!」

「呪力の放出の、ちょっとした応用ってなぁ!」

 

 飛んだ宿儺のさらに真上を陣取って、移動の最中にチャージを終えた、渾身の呪力砲を解き放つ!

 

「グラニテブラストォっ!!」

 

 開幕の乱れ打ちとは比べ物にならない、高威力呪力砲。

 

 (はす)に撃たれた一撃はビル、樹木、道路、水道管を破壊した後、大地を抉り続けた。

 ――つまり、宿儺には当たらず!

 

「頭が高いぞ」

 直撃すれば痛打は必至。その砲撃を宿儺は回避。

 身動き取れない空中戦。そんな常識は両面宿儺に通用せず。

 大気中に存在する『空気の面』を捉え、同じく呪力放出を併用することで空を歩いて回避した。

 どれだけ試してもきっかけすら掴めなかった『空気の面』を踏むなどという理解不能な神業を、さらりとやってのけてしまう技量。それを目の当たりにすることで、背中にゾクゾクとしたものが走る。

 

 奴が回るはさらに上空、オレの背後! 無様を晒すその背に宿儺が触れて――。

「捌」

 接触箇所から奔る斬撃が、オレの身体を傷付ける!

 

 頑健なる石流龍(オレ)の肉体であっても、宿儺の『捌』を前にして無傷とはいかない。

 だがその程度。致命に至るような深手ではなく、それどころか、その傷口は遭遇時に刻まれた一太刀よりもなお浅い。

 

 ――『()()()()()の、ちょっとした応用ってなぁ!』

 

 先ほどの術式開示により、オレの術式効果は一段階上昇している。

 どれほど鋭かろうが宿儺の斬撃も呪力で構成されたもの。ならば術式反転の効果が上がれば、威力が下がるのも道理。

 

 同時に、接触するほど近づいた宿儺の呪力を、急速に奪っていく。

 

「!」

 異常に気付いた宿儺は、触れたままだった手をすぐさま離し――。

 

「そんなすぐ離れんなよ! 連れねぇな!」

「ククッ! 気色の悪いことをっ!」

 

 ――その手首を、今度はこちらが掴み返す。

 

 宿儺の右手を掴んだ左手。そこに連続で『捌』が叩き込まれる。

 一瞬で指の先まで血みどろになり二人の手を鮮血で染め上げるが、生憎オレにはテメェの手を離す気は一切ねえんだよ。

 掌印も組ませず、影絵も象らせず、ただ一方的に呪力を奪えるこの好機。逃すわけがねえよな?

 どれだけ傷つこうがこの左手、1ミリたりとも緩めるつもりはなし!

 

「っふ!」

「させるかオラぁ!」

 

 流石は両面宿儺。判断が早いこと早いこと。抜け出せないと分かったら、即座に腕を斬り捨てようとするとはな。

 その動きを、至近距離(クロスレンジ)からのグラニテブラストで封じる!

 

 この距離だ。狙いはアバウトで良い。今必要なのは数と威力!

 

「解」

 驚くべきは両面宿儺の呪力操作技術。地から天へと降り注ぐ超近距離での絨毯爆撃。その全てを『解』で切り裂き相殺していく。

 

 新たに目にする神業にゾクリとしつつ、掴んだ左手から宿儺の腕に向けて反転術式を流し込む。

 簡単には切り落とさせない。手首なんて温い所じゃなくて、せめて肩から捨てていけ。

 

「大蛇」

 

 突如オレの身体から――オレの身体に落ちた宿儺の影から、十種の式神が現れる。

 宿儺の呪力で肥大化した、その名の通りの大蛇が顎に頭突きをかましてきた。

 

 痛みなし。ダメージなし。だが衝撃を消すことは出来ず。

 視線がカチ上げられ、呪力砲が一瞬途切れてしまう。

 

「捌」

 

 刹那、左手から抗力が消え、宿儺が拘束から逃れたのを察する。

 

 ――ならば!

 

 再度背面から呪力を放出。宿儺との間合いを詰める!

 併せて、右の拳で大蛇を破壊して。

 その勢いのまま右拳を宿儺にぶつける!

 

「むっ……!」

 

 大蛇(クッション)を挟んだ上、体勢が整っていない状態でのパンチなどたかが知れている。ガードもされて、ろくにダメージは与えられていないだろう。

 だがそれでいい。肉体へのダメージ目的などではないのだから。

 

 視線を戻すと、ビルを一つ突き破って宿儺が着地した所を目撃する。

 彼我の距離、ざっと100メートルっていったところか。

 

 こちらも地面にまで降下し、肘から自切された右腕を握りつぶして宿儺の元へと向かう。

 

 それまでの間に、先までの戦闘を振り返る。

 

 ――やはり術式反転『呪力の吸収』は、御廚子に極めて有効だったか。

 基本的に術式で生み出されたモノは呪力で構成されている。無下限『蒼』や『赫』、十種の式神たち、レジィ・スターのレシート呪術で生み出されたモノも、多分そう。

 そして御廚子という術式によって生み出された刃も、その例には漏れない。

 両面宿儺が持つ二振りの包丁『解』と『捌』もまた『呪力の吸収』の術式対象である。であれば威力を激減させることも可能なはず。

 その予想は見事に的中した。

 

 どれほど効果を発揮してくれるかは不明だったが、御廚子を無効化ないし弱体化できている。考えうる限り最高の結果だ。

 

 一方、遠距離攻撃での撃ちあいじゃまるで勝ち目なし。『呪力の吸収』の効果を最大限高めるため、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』を縛りとして組み込んでいる以上、これはもう仕方がない。

 攻撃力か、防御力および回復力か。その2択で後者を選んだ。それだけの話。

 

 考えるべきなのは空中での一幕。斬撃で砲撃を迎撃しながら、十種の式神を繰り出してきた。

 2つの術式を同時に使用することは出来ないと思っていたが、それは誤っていた? いや宿儺の場合、術式の切り替えがシームレスすぎて同時に見えた、ってこともありうるか。

 

 いずれにせよ、今警戒すべきは御廚子ではなく――。

 

 

 ――2人の間にあった着工前の空き地にて、オレたちは再び対峙する。

 

 宿儺の右腕は当然のように復活しており、その肉体のどこにも瑕疵はない。

 何事もなかったかのように薄ら笑いを浮かべ、首を鳴らしている。

 ……だが、内側はその限りではなかったらしい。

 呪術全盛の時代に最強として君臨した者の警戒が、その眼には満ちている。

 

 宿儺を警戒させた。その事実に、オレも釣られて笑みを浮かべる。

 

「なるほど。喰い殺す鎧と、剥がして殺す(つるぎ)。2つの武器を用意してきたか。鎧の方は、随分とまあ意地汚いが」

「そう褒めるなよ。好き嫌いせず喰うタイプなんだ。それが宿儺ご自慢の包丁だろうがな」

「フッ、せせこましい努力を重ねたわけだ」

「そりゃそうさ! 史上最強と闘るんだぜ? なら準備は万端、下拵えは入念にっていうのが礼儀ってもんだろ?」

「それゆえの魂への打撃か? 随分と迂遠な手段を取るものよ」

「動揺透けてんぞ。もう中の伏黒恵はお目覚めかい?」

「それならとっくのとうに起きている。随分と生きが良くてな。姉が死んだと思い込んでは、貴様を殺せと喧しくてかなわん」

 

 宿儺の言う通り、オレはこの戦いにおいて2つの武器を用意した。

 一つ、術式反転『呪力の吸収』。

 一つ、魂の輪郭打撃。

 

 対宿儺戦で使う技について重要視したのは極めてシンプル。

 宿()()()()()()()()()()()()()()()、または()()()()()()()()()()()()であること。

 

 オレが考える両面宿儺の最も恐るべき点とは、呪術師として完全無欠の異形の肉体でも、乙骨憂太の倍を超える膨大な呪力量でもない。

 どのような神業であろうと模倣してのける、()()()()()()()()()()()()()()である。

 世界を断つ斬撃や焼き切れた術式の回復など、どれほど高い技術を要求する神業であろうが、それが宿儺にとって習得および再現可能の範疇にあるなら、一目見れば模倣してしまう技量。これが最も恐ろしい。

 結界術や式神術といった汎用スキルをどれだけ高めようが、宿儺の眼前で使おうものなら次の瞬間にはまるっとコピーされてしまう可能性がバリ高だ。ほとんど敵に塩を送るようなもの。

 どれだけ技巧を凝らした技を身に着けようが、そのアドバンテージは即座に埋められてしまう。

 

 だからこそ、この2つの技だ。

 如何な呪いの王であっても真似できない生得術式。

 肉体の持ち主の魂が貧弱すぎるせいで、オレに対して何の意味もなさない、魂の輪郭への打撃。

 

 ゆえに、想定しているこの戦いの勝ち筋は大別して2つ……いや3つか。

 生得術式による、両面宿儺の呪力切れを引き起こすか。

 伏黒恵の肉体から、宿儺の魂を引き剥がすか。

 ……もしくは、極ノ番で肉体ごと消し飛ばすか。

 

 戦いは序盤も序盤。

 勝つのか、負けるのか、勝つとしたらどのような決着になるのか。未だ不鮮明。

 

 ただオレがこの戦いで勝利を掴むためには、必ず攻略しなければならないものがある。

 

「で、どうするよ? お得意の斬撃はオレには効かねえ。ならもうさっさと出しちまった方が良くねえか?」

「んー? 一体何を言いたいのか、さっぱり分からんなぁ」

「情報社会に揉まれたせいか? やっと痴呆が始まったみてぇだな。もう新しいことは覚えられんかもしれんが、せっかくなんで教えてやるよ。御三家の一角たる禪院家が相伝術式、その最奥に潜む式神――」

 

 それはありとあらゆる事象に適応するという、十種影法術最後にして最強の式神。

 ――八握剣異戒神将、魔虚羅。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。