オレ氏、石流龍(石流龍じゃない)に転生した模様。
「いやどういうことやねん」
術式の把握が完了し、その後の授業も終えた現在、お昼寝の布団にくるまりながら、下手な関西弁で自分が置かれた環境にツッコんでいた。
どういうことだとは思っていたが、どういうことなのかは理解している。
つまりオレは『大砲』などと呼ばれていたらしい石流龍(石流龍じゃない)に転生したのだろうと。
あくまで状況証拠でしかないが、限りなく黒だ。そう思えば顔もどことなく似ているような気がしないわけでもない。
名前は違うが、恐らく石流龍は受肉元となった人物の名前なのだろう。死滅回遊はそこら辺もややこしい。
流石に名前が一緒だったら秒で気付くわ。
「ん? 如何なされましたか?」
「だいじょうぶ、きにしないで~」
アブねぇアブねぇ。使用人が傍に居るんだから不用意な発言は控えるべきだな。
数えで5つの良いところの坊ちゃまが一人で居られる時間は短いのよ。
さて──想定していた人生プランは完全に破綻した。
ほどほどの呪術師として生きて、ヤバい奴は石流龍(本物)に任せて、羂索にも関わらず平穏に暮らす予定だったのに。
モブかと思っていたらネームド噛ませ犬だったでござる、てか?
そう。誤解を恐れずに言えば、石流龍とは特級術師ならぬ特級噛ませ犬なのである。
原作における活躍を列挙すると、平成の世にて受肉した
乙骨の噛ませであり、伏黒宿儺の噛ませも務めた、呪術廻戦きっての噛ませ犬。それが石流龍、すなわちオレだ。
この酷い扱いっぷり。嘆かずに居られようか?
……そう考えると、別に原作通りに進める必要、なくないか?
仙台コロニーの状況は多少変わるだろうが、結局乙骨が出張って平定するだろうし。伏黒宿儺も万と戦う前にたまたま遭遇しただけであり、戦う理由はない。強いて言えば読者に向けた宿儺アゲが一つ減る程度だろう。
つまり、オレが呪物化して未来に行く必要はない?
仮に呪物化したとしても、死滅回遊に参加する必要はない?
参加したとしても、両面宿儺と戦う必要はない?
だったら、そこそこの強キャラボディが手に入ったことを純粋に喜べばいい、のか?
でもなぁ、この手の作品だとバタフライエフェクトがどうたら、とかいう話になるんだよなぁ。俺は詳しいんだ。
嫌だよ。てふてふ如きの羽ばたきで一変する世界なんて。せめて羂索くらい努力してから一変させてよね。羂索が二人に増える? 悪夢やんけ。
うーん……今アレコレ考えても仕方ないな。ヨシッ! 一旦保留! 寝るわ!
2度目の人生は始まったばかりなのだから、方向転換はいくらでも効くはずだ。
噛ませ犬だろうが負け犬だろうが、未来の問題は未来にオレに託し、今はとにかく呪術を磨いていくことに専念するぜっ!
――それはそれとして『呪力の放出』って、よく考えなくてもスゲー微妙な術式だよなぁ……。
ぶっちゃけ、術式ガチャとしてはハズレのほう……zzz……。
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そんなこんなで、問題を棚上げすること、はや5年。
オレは早くも一級相当の呪霊を単独で討伐できるほどに成長していた。
「流石は■■様、迅速なる討伐お見事でございます!」
「大したことじゃあねぇよ。ただそこまで礼を言いたいっていうなら、団子の一つでも奢ってくれや」
現代で言うところの補助監督に当たる人物からの世辞を軽く受け取り、山中からの帰路に着く。
呪術師としての成長目覚ましいオレは、藩主――関ヶ原ののち仙台藩となった。たぶんもう江戸時代――の命を受け任務をこなす毎日を送っていた。
今のオレにとっては一級相当は軽く祓える存在でしかなかった。
正直言って舐めていた。石流龍という呪術師を。
この男のポテンシャルの高さをほとほと実感している。
未だ10年も生きていないというのに、呪術師としての能力は言わずもがな、肉体面においても圧倒的と言わざるを得ない性能をしていた。そんじょそこらの大人どころか、鍛えた武士ですら一蹴できる膂力。
原作でリカというゴリゴリの怪物相手にゴリゴリの肉弾戦を演じた男なだけはある。
そりゃ羂索も呪物スカウトするわな。
前世の凡人感覚からすれば、チートボディで動けるだけでも楽しい。体術とかもスルスル覚えていくからメチャクチャ楽しい。
そこに呪術というファンタジー的オモシロ要素まで加わるのだからもう最高だ。
いやー、娯楽の乏しい時代というのもあるかもしれんが、呪術ってマジでおもしれーわ。前世じゃ絶対に出来なかったことを可能とする力。知れば知るほど興味深い。
……あ、イカンイカン、羂索の気持ちがちょっと分かってしまったかも。
当然ながら肉体と呪力の成長は未だ止まらず。このまま育って行けば、一体どこまで行けるのだろうか。我が事ながら興味は尽きない。
……さて、そろそろ保留していた問題に向き合おう。
端的に言ってしまえば、原作に関わるか否か。
関われば、行きつく所は乙骨と宿儺の噛ませ犬。
関わらなければ、仙台コロニーでの展開がちょっと変わるだけ。
その程度。
乙骨が手にするポイントは多少異なるかもしれないが、その程度。
呪術廻戦としての物語に、大きな変化が訪れることは、恐らくない。
それがオレ、石流龍となる男だ。
「――舐めんな」
その瞬間、オレの中で何かが灯った。
噛ませ犬。負け犬。
石流龍という男は、その程度の存在なのか?
否! 断じて否!
この男は、この石流龍となる男は、本物の怪物だ!
この肉体の性能を得て、呪術の才覚を得て、術式の可能性を得て、確信に至る。
我が身は、あの両面宿儺をすら凌駕すると!
この世で最も優れた存在であると!
そのオレが、我が身可愛さにつまらん未来を甘んじて受けるなど、それは
わかった。これが『プライド』ってやつだ。オレのじゃない。
2度目の人生。娯楽もクソもない江戸時代。何を守りに入ることがあろうか。この怪物がどうでもいい存在として終わることなど、オレが許さん。
石流龍という存在が最も優れていると世界に、
それが石流龍という男の人生を奪ったオレの、生きる目的だ。
安心しろ石流龍よ。お前が最強だとオレが証明してやる――史上最強と言われた呪いの王、両面宿儺を撃破することで。
原作? 知るか。腹八分目の人生なぞ前世だけで十分だ。
待っていろ。両面宿儺。俺が、お前を
次話は翌日18時ごろ投稿予定です