東北地方のとある山中。人が踏み入れないであろう中腹の洞窟。人がかろうじて入れる程度のスペースしかなかったそこは今、雪崩呪霊の生得領域が展開し現実以上の広さを確保している。
羂索が縛りに縛った結果、原作で陀艮や少年院の呪霊が展開していたような、ただそこにあるだけの領域となっている。
中にいるのはオレと雪崩呪霊、そして羂索の三人のみ。
声をかける羂索には面倒そうな顔が張り付いていた。
「確認だ。君を呪物化したのち、この雪崩の自然呪霊を使って、残った君の遺体を冷凍保存する。一つ、未来で受肉した君が宿儺を倒す。二つ、私が君の術式に興味を抱く。この二点を達成した場合、私は保存した遺体を解凍後、その体に乗り移る。先の条件を達成できなかった場合、君の遺体は適当に処分してよい。これが縛りの内容でいいかい?」
「両者はこの契約に関する一切を他者に開示しない。それも加えてくれや」
「やれやれ。呪霊確保に協力してくれた恩はあれど、そこまでやってやる義理はないと思うんだけど?」
「飲まないのなら此処で殺すぞ」
ダメなら仕方ない。羂索もその程度だったということで、ここで原作を終わらせよう。
「君じゃあ私を殺せないと思うけどねぇ?」
「戦闘用の肉体じゃねえんだろ? それでもなお、オレ相手に勝てると?」
「……まったく、私の術式のことと言い、一体誰から聞いたのかな?」
「強いていえば、単眼猫から」
「なんだい、その呪霊は?」
残念。人間なんだよなぁ……いや待てオレ本人見たことないし、呪霊である可能性がワンチャン?
「しかし、一体何のためにここまで縛る? 例え全ての条件を達成したとて、私が君の遺体を利用するだけ。それに何の利益があるのかな?」
「利益はあるさ。オレにとってはな」
オレの目的は極めてシンプル。期せずして奪い取ってしまったこの
そのために、両面宿儺という最強を倒すと決めた。
けど思ったわけよ。
術師には呪術師と呪詛師、この2種類が居る。この
一般的には味方サイドに当たる呪術師として両面宿儺という最強を倒すことで、
だが何の理由もなく闇落ちなんてしてしまったら、それは
名誉を損なわず敵役に回る方法は何かないのか? と考えた末に辿り着いたのが、目の前のコイツ。正確には
ここで重要なのは敗死して肉体を奪われたわけじゃなく、
最強と謳われた両面宿儺を倒した、真に最強の呪術師。
その生前の肉体を羂索という黒幕に操られて現れる、最悪にして最強の呪詛師。
呪術師の
羂索が
大事なのは
完璧な計画と言っていいだろう。これで石流龍のスゴさを、余すことなく伝えられる。
「その利益が何かっていうのは、教えてくれないのかい?」
「今言う必要はないだろ。どうせ未来で知ることになる」
今ここで馬鹿正直に伝える必要はない。成功すれば羂索が肉体から記憶を読み取って自然と知るんだから。
「お前がオレに興味を抱かなければ意味がねえ縛りなんだから、気にすることはねぇだろ? 賭けとしては相当そっちが有利だぜ」
「確かにね。正直言えば私は君の術式を全く評価していないよ。興味が微塵もそそられない面白みのない術式だ。術式反転で周囲の呪力を吸い上げることは確かに脅威だが、その程度。呪術としての可能性をまるで感じないし、だから賭けだとしても正直負ける気はしない――それはそれとして、不明瞭な他人との縛りは嫌いなんだ」
「ハハハッ! 散々な言われようだな。お前の掌が返されることを祈っとくぜ」
宿儺撃破はマスト。あとは未来のオレがコイツに興味を抱かせるかどうかだが、『呪力の放出』という術式が狙い通りの拡張を遂げるなら、オレの術式に興味を抱く可能性は高い。
常人なら思いついてもやらないが、
そんなヤバい奴の前で石流龍の術式のスゴさ……いや、ヤバさを示せれば、オレの想像通りの方法で使おうとするはず。もしかしたらそれ以上にヤバく使ってくれるかも。
羂索の興味が引けないのであれば……
そんなこんなで、羂索との話し合いは上手くいった。最終的には脅したけど。
さて、この時代でできる事は全て終わった。
羂索が乗ってくれるかは不明だったが、ちゃんと望み通りの縛りを結べたことだし、下準備としてはボチボチ。
紆余曲折はあったがここまで漕ぎ着けることはできた。
であるならば、あとは呪物化して時を待ち、成すべきことを為すだけだ。
いざ行かん、平成の未来に! 原作の世界に!
……その前に修行パート、行っとくかぁ!
これにて、
……クッ! クククッ! アーハッハッハ!
いやいやいや! こんなのもう、笑うしかないでしょ!
まさか君の正体が異世界からの転生者だったなんてね! どこの『なろう』だよ!?
仮に『なろう』だとしても、そこはスライムとかにしときなよ! 転生したら石流龍だった件についてとか、それ絶対流行らないから!
あー、おなか痛い。
彼の肉体と完全同化するまでの暇つぶしがてら記憶を読み込んでいたが、その内容は想像だにしていなかった。
まさか私たちが生きているこの世界が『呪術廻戦』とかいう漫画で描かれていたものだったなんて、そんなの誰が予想できるだろうか?!
この世界は上位存在たちの遊び場である……なんて想像をしたことがないわけじゃあない。だがそれはあくまでツマラナイ哲学的な思索に過ぎなかった。証明できないことについてアレコレ時間を使うのは非効率の極みだしね――だというのに! まさかこんな形でここが漫画の世界であることを証明されるなんて、予想できるわけないじゃないか!
しかも私たちの創造神が単眼猫ってなにさ!
というか原作の私の死に様ちょっと酷くない!? ボーボボからのお笑いバトルの果てに、って黒幕の最後としてはどうなの!? 超面白そうでちょっと羨ましいぞ原作の私!
ああ――全く以って愉快だっ! インスピレーションが溢れ出して止まらない!
死後の世界とか魂の輪廻とか、そんなチャチなものじゃない! 彼の魂は、それらすら超えたより大きな枠組みが存在することを、この世界より上位の世界の存在を証明した!
それだけじゃない! 彼の魂が、
不可能ではない!
何が必要となるか見当もつかないが、エネルギーの確保は必至。上から下に降りてきた彼はともかく、私が下から上に昇るには途轍もないエネルギーが必要だというのは目に見えている。
このエネルギー確保において、彼の術式は極めて有効だ。
正直見縊っていた。面白みのない術式だと。
だが今は違う! 彼の予想通り、私はこの術式に可能性しか感じていない!
術式の拡張により、呪力とエネルギーを等しく扱うことで、最終的には物質を
つまりは彼の想像通り――
僅か1グラムで原爆の1.5倍もの
こんな面白そうなこと、試さずには居られないだろっ!
空前絶後の、まさに天文学的な呪力量。それがあれば一体どのようなことができるのだろうか!?
今思えば、一億総呪霊程度で喜んでいた自分が恥ずかしいよ、全く。
地球全ての呪力化となると流石に一朝一夕では不可能だろうから、何百年もの下準備は必要だろうけど、それはいつものことさ。いや、天元の結界術も利用できることを考えると数十年単位で済むかもしれない。
そうそう! 忘れちゃいけないのが宇宙人!
宇宙人!? 宇宙人ってなんだよそれ!? 斜め上過ぎるだろっ! 『呪術廻戦』とかどう考えてもダークファンタジー作品じゃん!? そこによくそんなSF要素ぶち込めたな!? よくやった単眼猫! ドンマイ原作の私!
第1話時点で彼が亡くなったのか、作品の続きの記憶は存在しないが、そっちの方が楽しめるから私的には助かる。
まさか地球を飛び出せる機会に恵まれるとは。やっぱり人間、長生きしてみるもんだね。
宇宙船の技術がどれほどのものかは分からないが、他天体に行けることは確実。
となると、地球以外の星も呪力に変換することも十分視野に入れられるな。
いや、更に術式を拡張していけば、
地球の外。宇宙の外。世界の外。
ああ、夢が広がっていく。
千年生きてきて、これほど楽しみに思ったことは初めてだ。
心から感謝するよ。
他ならぬこの私が保証しよう。石流龍はこの世の何よりも優れた存在であったことを。
代わりと言ってはなんだが、キミの望んだとおり今度は敵役として、
皆も待っていてくれ。私は必ず
おっと。やっと同化が完了したようだ。
身体を延ばし調子を確かめるが、万事恙なく齟齬もなし。肉体面・呪力出力共に夏油傑より明確に上。流石は両面宿儺にすら勝利した個体。彼の言う通り極めて優秀。ありがたく使わせてもらうとしよう。
この瞬間も
「――パンパカパーン! 私は石流龍(石流龍じゃない)の肉体を、手に入れた!」
ああ全く、
――史上最強と謳われた両面宿儺の術式が刻まれ、己が使命を果たさんとする『不老にして最強の呪術師』虎杖悠仁。
――史上最強を下した男の肉体と術式を手に入れ、己が欲望のままに突き進む『不滅にして最凶の呪詛師』羂索。
だがそれはまた……別のお話。
これにて本作は完結です。
番外編も少しだけ書きたいと思っています。
感想には全て目を通しております。暖かい声援や厳しいご意見など、沢山のお声をありがとうございます。
誤字報告も誠にありがとうございます。
重ね重ねになりますが、応援ありがとうございました。