石流龍(石流龍じゃない)の肉体を手に入れた   作:和尚我津

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もう聞こえてないだろうけど

 東北地方の背骨たる奥羽山脈。

 とある山の頂き付近で、一体の呪霊と相対する。

 

 目算、特級相当。

 曰く、雪崩の恐怖から生まれた自然呪霊。

 

 苦戦は免れぬ相手。鹿紫雲と戦う前であれば、だが。

 

 今のオレからすれば雑魚にしか思えなかった。

 

「領域展か」

「遅ぇ」

 

 術式順転。呪霊の胴体に大穴を開ける。

 一見すると致命傷だが、呪力によって身体を構成している呪霊には適用されない。加えてホームグラウンドであれば、この程度であれば即座に回復する。

 だが回復は遅々として進まず。続けざまの呪力砲で四肢を吹き飛ばすと、頭が落ちて雪に埋もれた。

 

 ……はー、おもんな。呪霊相手は本当につまらん。

 

 特級呪霊相手にただの呪力砲をぶつけてもこれほど容易く終わらないが、()()()()を装填できるのであれば話は別だ。

 原作でも乙骨がゴキブリ呪霊に見せたように、正の呪力は呪霊への特攻。

 反転術式のアウトプットは限られた人間にしか行使できない高等技術。ましてや呪力砲のように射出できる者は原作にもいなかった。

 つまりそれをやってのけるオレは規格外の天才……というわけではない。

 タネはオレの『呪力の放出』術式。正負が反転してようが本質的には()()。であるならば、それはオレの術式対象に他ならない。

 

 鹿紫雲との死闘から10年。反転術式を会得後、正の呪力砲を駆使して以降、特級案件だろうが呪霊相手ならばただの作業に成り下がった。奥の手を使わされたことすらない。

 

 

 断言できる。呪霊最強格だった漏瑚が相手でも、今のオレなら確実に勝てると。

「そんなわけだ。お前でいいから戦ってくれねぇか?――羂索よ」

「申し訳ないけど、今の私は戦闘が不得手でね。ご希望には沿いかねるよ」

 

埋まった雪崩呪霊の首を拾い上げながら、楽しそうに声をかけてくるのは、額に縫い目がある男。 全ての元凶。メロンパンでおなじみの羂索だ。

 

「いやはや、これは見事。これほどの規模の正の呪力放出はかつて見たことがない。なるほどなるほど。これは呪霊が相手じゃあ物足りなくなるわけだ」

 

 奴と出会ったのはつい先日。前触れなくオレの前にその縫い目を晒しに来た。

 鹿紫雲を倒して十年も待つことになるとは、正直思っても見なかった。コイツのことだから、鹿紫雲を倒したらすぐに察知して動いてくるとばかりに。

 どうせ向こうから接触してくるだろうと放置してたら、どんどん時間が過ぎ去って『もしや原作壊したから、呪物ルート外れた?!』と内心戦々恐々としていた。

 それほど待ち望んでいた出会いだってのに、いざその時を迎えた感想が『うわ出た』なのは流石の羂索クオリティ。

 

「呪霊だけじゃねぇ。呪術師だろうが呪詛師だろうが、歯応えのある奴がとんと居ねぇ。オレとバチバチに()りあえる様な強え奴を知らねえのか、羂索よぉ」

「呪霊も術師も北から南までそれなりに把握しているが、あいにく雷神と同格となると心当たりはなくてね。もう少し前なら五条や禪院の相伝持ちが居たんだけど」

「ああ、御前試合で相打ちやらかしたとかいう馬鹿どもの話か」

 

 いやホントにね。負けそうになったからってマコーラで相打ちに持っていこうとするなんて、何を考えていたんだ? 痛み分けにしたかったのかもしれないけど、最強格2人をいきなり失った呪術界全体のことを少しは考えてやれ。こんなもん、どう転んでもバカやらかした禪院の一人負けだろうに。え? 加茂家? そもそも両家と勝負できる術式を相伝にしてから寝言垂れてください。

 

「まったくもってその通り。くだらない面子争いのために相伝持ち二人を失うなんて馬鹿げている。御三家というのは脳味噌が詰まっていないようだ」

「その方がいざというとき乗っ取りやすくて、お前としては都合がいいだろ」

「……君に術式を教えた記憶はないんだけど?」

「奇遇だな。オレにも記憶はねぇな」

「ふぅん? どこで知ったのかは……教えてくれる様子はなさそうだ」

 

 ぽんぽんと呪霊の頭をリフティングしながら、羂索は警戒を滲ませた視線を向けてくる。

 ……しまった。家の乗っ取りとのダブルミーニング的な発言をして精神的マウントを取ろうとしたら、無駄に警戒させてしまったようだ。

 ここで戦っても絶対負けないと確信しているから零れた失言だったな。逃げられて今後呪物にしてもらえなかったり、勝ったはいいものの加減ミスってパンを潰しちゃったり(直喩)したら、死滅回遊に参加できなくて詰み。後者に至っては原作が始まらなくなっちゃう……それはそれで面白いけど。

 

 ここはオレの巧みな話術で矛先を変えるしかないな。

 

「どうでもいいだろそんなことは。それより、さっさとその呪霊と契約しないのか?」

「露骨に話を変えたね。まあいいけどさ」

 

 話題逸らし達成、ヨシッ! 羂索が馬鹿を見る目をしているが、必要経費だ。呪術師なんて大体がまともに生きることができない馬鹿ばっかりだし、ノーカンだろ。

 

「契約はとっくに完了しているよ。君が要望通りに弱らせてくれたおかげでね。ほら挨拶」

「……貴様ら、顔を覚えたからな」

「えらいえらい。よくできまちたね~。呪霊のくせに御三家より脳味噌詰まってるよ君」

「おう助かるわ。呪霊の顔は覚えられんタチでな。たぶん明日には忘れてるから、代わりに覚えといてくれや。けど祓われてから声掛けるような間抜けなマネはすんなよ?」

 

 ははっ。雪に関する呪霊のクセに顔真っ赤っ赤にしてんのウケる。裏梅がいる時点で氷雪系No.2以下で確定してる雑魚のクセに。

 

 しかし、流石に鹿紫雲クラスの強者は居ないのか……居たら鹿紫雲も原作みたいに不満を溜め込んでなかっただろうから、さもありなん。

 目ぼしい術師は居ない。呪霊はもはや物の数にもならない。 

 なるほどつまり、この環境ではもうロクな戦闘経験は積める見込みはないということだ。

 

 じゃあやっぱり、この時代にしがみ付く理由はないな。

 

「羂索よ。お前の話に乗れば平安最強、両面宿儺と()れるんだよな?」

「確実とは言えない。だが戦える可能性は提供できる」

「十分だ。最強なら勝ち続けてりゃ、いずれ()れるだろ。途中でくたばってたなら、その程度だったって話だ」

 

 原作通りに進めば間違いなく戦える。石流龍(オレ)の死因だし。

 ただ原作通りにいくかは分かんねぇからなぁ。鹿紫雲も居なくなったし。バタフライエフェクトで宿儺が訳の分からんところで死んじゃったりしたらどうしようかなぁ? 笑えばいいか!

 

「ということは、呪物化の話を受けてくれるということだね?」

「その通りだが、いくつか条件を付けさせろ」

「分かってるよ。この呪霊を手中に収める手伝いをしてもらう代わりに、君の要望について検討する。それが縛りだったから、話ぐらいは聞かないとね」

「話聞くだけ聞いて、ダメそうなら蹴る気満々だろ?」

「ははっ! そりゃあそうさ! ……願わくば、私の興味を引くような内容であってくれよ?」

 

 

 

 そんなこんなで、羂索との話し合いは上手くいった。最終的には脅したけど。

 さて、この時代でできる事は全て終わった。

 羂索が乗ってくれるかは不明だったが、ちゃんと望み通りの縛りを結べたことだし、下準備としてはボチボチ。

 紆余曲折はあったがここまで漕ぎ着けることはできた。

 であるならば、あとは呪物化して時を待ち、成すべきことを為すだけだ。

 いざ行かん、平成の未来に! 原作の世界に!

 ……その前に修行パート、行っとくかぁ!

 

******

 

 目を覚ますとそこは、オレの生得領域の中だった。

 

「あと400年ここで過ごすのかぁ。ちょっとツレーかもな」

 

 呪物化を果たしたことで、オレの意識は生得領域の中に封じられた。

 領域展開した時に何度も見たことがあるし、自分の内面世界だから肌感覚としてはメッチャ馴染むんだが、長期間滞在するってなると、流石にね?

 

 スマホもなけりゃネットもない。漫画もなけりゃアニメもない。退屈に圧し潰されてメンタル死ぬぞ。新手の拷問か? いや拷問としては結構ありがちか。宿儺は(かばね)の山の大将として千年間待ち続けてたんだろ。いやーキツいっす。

 その退屈耐性だけは王越えて神だろ。

 

 そんなオレが呪物化して持ち込めたモノはたったの二つ。意識と呪力。

 

「呪術があって良かったマジで」

 

 戦闘経験が積めないから呪物化しただけで、呪術としてはやりたいことがまだまだ残っている。

 脹相お兄ちゃんよろしく、術式と向き合い続けるだけでも研鑽にはなっただろうが、やっぱり呪力はあった方がいいし、基礎的な能力向上も欠かせないよな。

 

 目標は極の番の完成と魂の知覚。努力目標としては『閉じない領域』。これらを習得するため頑張りますか。

 

 よっしゃ! とりま術式解釈の幅を広げて、極の番完成させるぞー!

 

******

 

 ……ヨシッ! 極の番は行ける気がしてきたな。多分、恐らく、メイビー。

 流石にココじゃ何もないし試せないから、100%出来るとは言い切れんが……ま、受肉してから試してもいいでしょ!

 次だ次!

 

******

 

 ……たぶん、魂かな? これが。どうだろ? マジで自信ないわ。

 ていうか魂の輪郭もココじゃ確認できなくね? モノの輪郭って他の人の魂(それ以外のなにか)がないと分かんなくね? 極の番と同じく『できた気がする』止まりじゃん。カラオケの点数と一緒じゃん。

 ……ま、まあいい。呪物埋め込まれてからでも遅くないだろ。出来たってことで次に行こう、次に。

 

******

 

 ……内部情報は決定、充填呪力も十分。あとは構築すべき外殻をなく……し…………て…………。

 …………いやムッッズイ! 『閉じない結界』ムッッッッズイ!!

 

 手始めに結界術を閉じないように練習しているけど、外殻なくそうとしたら絶対に壊れるんだけど。

 マジで進歩なさ過ぎて結界術が決壊術になってるわ!

 

 反転術式の時も難しかったけど、それとは難しさの系統が全く違う。

 数学で例えるなら、反転術式は証明問題。

 前提となる公式や原理などを知ってないとチンプンカンプンだが、解き方さえ分かれば以降は問題なく回答することができる。実際、一度発動できてしまえば以降は発動方法が分からないということはない。説明は出来なくとも手順は理解できているからだ。自転車と一緒だな。

 

 対して『閉じない領域』は計算問題。

 コンマ1秒間隔で渡される10桁同士の掛け算を、ひたすら解き続けているようなもの。展開中、一度も間違わず、暗算で、エンドレスに。

 いや出来るかっ! 普通に電卓くれ! 電卓あっても無理だわ時間がねぇ!

 羂索も宿儺も、なんであんな涼しい顔で『閉じない領域』が使えるんだよ。頭にノイマンでも飼ってんのか?

 

 無駄じゃないよ? 結界術の精度は上がったのは間違いないよ? でも流石にコレを習得するのは骨が折れまくって複雑骨折すると魂が言っている。生得領域内部にある意識が魂だとすれば、つまりココに居るオレのことなんだが。

 

 ……ん? おお?

 

 今オレ、他人の魂に触れてる?

 

 ……うん。やっぱりそうだ。

 つまりはオレが『石流龍(本物)』に埋め込まれたということ。

 来たのか! 原作開始の時間軸に!

 

 体感としては、せいぜい200年くらいしか経ってないような気がするけど……領域内は時間の流れが異なることもあるしな。今回もそういうのかもな。

 

 いやー、苦節うん百年。ついに『死滅回遊』に参加できるぞー。

 テーマパークに来たみたいだぜ。テンション上がるなー!

 

 ……あれ? まだ動けない? なんか石流龍(本物)が意識不明で倒れたんだけど?

 あ~そっか、真人の術式で改造して貰えないと受肉できないんだっけ? 伏黒姉も意識不明だったのと同じ症状か。

 

 ん? てことは外の世界を覗き見することも出来ないのか? おいおいマジかよ!?

 

 くっ! ここにきてまだお預けを喰らうハメになるなんて! もう『閉じない領域』は諦めたんだぞ!

 オレはこの何もない空間で、一体何をすればいいと言うんだっ!?

 

 ……ふ~ん。これが石流龍(本物)の魂かぁ。なるほどなるほど。輪郭ってこれのことかなぁ?

 よーし! 流石に乗っ取られる心配とかはないだろうけど、とりあえずボコボコにして意識沈めとくかぁ!

 申し訳ない石流龍(本物)よ。魂の輪郭打撃の練習台になってくれ!

 

******

 

 ……お、真人式肉体改造、完了したっぽいな。

 ヒャッハー! 久々のシャバだぁ! 空気うめ! うめ!

 こりゃ宿儺も『鏖殺だ!』とか言っちゃうわ。

 

 じゃあそう言うわけで、申し訳ないけど身体貰うね。石流龍(本物)さん。

 

 ――多分、もう聞こえてないだろうけど。




次話は翌日18時ごろ投稿予定です。
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