ファイノンの傷へ不用意に触れてはならないと知ったヒアンシーは、答えを急ぐのではなく、今ある穏やかな時間を積み重ねることへ思考を戻していく。
人々の笑顔や願いは、誰かを治すために存在するものではない。それでも、誰も未来を強制されることなく笑い、自分の願いを選べる景色は、ファイノンを含むオンパロスの人々が安心して生き直していくための環境になり得る。
ヒアンシーに祭りを楽しむよう促されたアナイクスは、結局ファイノンのもとへ向かい、彼の手から一枚の短冊を受け取った。その分かりやすい行動を微笑ましく見送りながら、ヒアンシーは再び主催者として人々の願いを迎えていく。
108 ほどく糸のその先
枝葉のあいだを吹き抜けていった風は、色とりどりの短冊をひとしきり揺らすと、そのまま大講義場の円形広場へ降りてきた。さらさら、かさかさと重なる紙の音へ、子どもたちの笑い声や誰かを呼ぶ声、少し離れた場所で商いを始めた屋台の呼び込みまで混ざって、ひとつの大きなざわめきになっている。
その賑わいを、若木の反対側からファイノンは眺めていた。もはや若木と呼ぶには少しばかり立派になりすぎた幹へ添えた掌から、じわりと大地の熱が返ってくる。
自分が流し込んでいる力だけではなく、地の底から根が吸い上げているものまで混ざっているのだろう。初めてここへ運び込んだ頃には頼りなかった幹も、いまでは手のひらを押し返すような張りを帯び、上へ伸びた枝のいくつかは大講義場を囲む支柱の高ささえ越えていた。
葉の数も増えた。薄緑の若葉ばかりだった頃とは違い、陽をいっぱいに浴びた葉は、風が通るたび表裏を返して濃淡を変える。その下へ結ばれた短冊まで一緒に翻るものだから、見上げる空の一角には、青でも白でもない新しい色が少しずつ増えつつあった。
「ヒアンシーさまー! これ、どこに持っていけばいいのー?」
「はーい! いま行きますから、そのまま持っていてくださいね~!」
声がしたと思えば、幹の向こう側を淡い色の外套が横切っていった。受付の机から子どもたちのいる場所まで、ヒアンシーは小走りに移動しているらしい。
ほどなくして別の方向から「ヒアンシー様、筆を一本お借りしても?」と呼ばれ、今度はそちらへ向きを変える。その途中で短冊を一枚くわえて戻ってきたイカルンを見つければ、足を止めて頭を撫で、またすぐに別の市民へ呼ばれていった。
ずいぶん、忙しそうだ。ファイノンは思わず眉尻を下げたものの、だからといって助けに入るべきかと考えたところで、すぐには動かなかった。
歩幅こそ小さく、外套の裾をせわしなく翻してあちらこちらへ駆けているが、ヒアンシーの足取りに鈍さはない。誰かに呼ばれるたび返す声にも息切れはなく、頬にはほんのり血色が差している。何より、受け取った短冊へ目を落とすたび、その顔が目に見えて綻んでいた。
「はい、こちらでお預かりしますね。……ふふっ、とっても素敵なお願いです!」
「ほんと?」
「もちろんです! せっかくですから、よく見えるところに結んでもらいましょうか。イカルン、お願いできますか?」
「ぷるるぅ!」
「やったあ!」
ぱっと弾けた子どもの声を追って、イカルンが翼を広げた。短冊を傷めないよう器用に受け取ると、枝の混み合わない場所を選びながら上へ昇っていく。その様子を見上げるヒアンシーも、子どもも、その親らしい女性も、同じように眩しそうに目を細めていた。
ああいう顔をしているのなら、きっと大丈夫だろう。誰かのために働くことが好きだからといって、疲れないわけではない。ヒアンシー本人なら、患者が同じことを言えば真っ先に否定するに違いないし、以前ならファイノンも、あれこれ理由をつけて彼女の仕事を半分ほど引き取ろうとしていたかもしれない。
けれど、いま目の前で忙しなく動き回っている彼女には、追い詰められている人間特有の硬さがなかった。呼ばれるより少し早く人の輪へ目を向け、困っている者を見つければ自分から近づき、仕事を一つ終えるごとに肩を落とすのではなく、むしろ次に何があるのだろうと空を仰ぐように表情を明るくしている。
まるで、春の陽だまりへ椅子を出して、つい長居してしまった時のような顔だ、とファイノンは思った。暖かいから、もう少しここにいたい。風も気持ちがいいから、本の続きを読んでしまおう。そんな穏やかな欲に任せて時間を使った後、人はああいうふうに満たされた顔をするのではなかっただろうか。
もっとも、エリュシオンにいた頃の彼なら、それをもう少し確信をもって言えたのかもしれない。今となっては、ずいぶん遠い記憶から似たものを探してくるしかないけれど、それでも見間違えてはいないと思う。
「ファイノン様ー!」
「うん?」
不意に呼ばれて顔を上げると、人の隙間からヒアンシーが片手を振っていた。もう片方の腕には使っていない筆と短冊の束を抱え、その肩口では戻ってきたばかりらしい
「そちら、変わりありませんかー?」
「こっちは大丈夫だよ。木も元気そうだ」
「はーい! 何かあったら呼んでくださいね~!」
「ああ。君も走りすぎないようにね」
「わかっていますよ~!」
返事だけなら満点なのだけれどな、と口元が緩んだ。ヒアンシーはそう答えた次の瞬間には、短冊を握った老婆に呼ばれてそちらへ駆けている。けれど転びそうな危なっかしさはなく、石床の段差へ差しかかる直前にはきちんと速度を落としていたから、本当に自分の状態を見失っているわけではなさそうだ。
なら、今は任せておけばいい。何もかも代わりに引き受けることが手助けになるとは限らないのだと、最近ようやく分かってきた気もする。
ヒアンシーが始めた催しなのだから、彼女自身が人々から返ってくる声を受け取り、自分の目でこの景色を見ることにも意味があるのだろう。それに、こちらはこちらで役目があった。
ファイノンは幹へ添えた手の位置を少しだけ変えた。力を押し込む必要はもうほとんどなく、根から枝先へ流れていく気配を確かめ、偏りが出たところだけ軽く整えてやれば足りる。大地へ染み渡る権能は、戦場で振るう剣のような明瞭な手応えを返してはこない。その代わり、土の中を伝う水脈や根の広がりが、掌の奥で遠い脈拍のように感じられる。
枝先へ短冊が一枚、また一枚と増えていく。黄色、青、赤。風に揺れる紙には、大きな文字で書かれた願いもあれば、端までびっしりと綴られた願いもあった。
内容までは読めないし、わざわざ読むつもりもなかった。誰かが何を望んだのか、すべてを自分が知る必要はない。それでいいのだろうとも思った。
かつては、知らなければならなかった。
誰がどこにいるのか。どこで暗黒の潮が発生したのか。どの都市があと何日保つのか。誰が火種を継ぎ、誰が倒れ、誰が逃げ遅れ、どの道が潰され、どこへ向かえば一人でも多く拾えるのか。聞こえた声も、聞こえなかった声も、目にしたものも、見落としたかもしれないものも、すべて覚えておかなければならなかった。
ひとつでも取りこぼせば、その次には同じ失敗をしないために。もう一度同じ場所を通ることになった時、少しでも違う結果へ辿り着くために。
だから、誰かの人生について「知らなくてもいい」と思えることは、本当なら随分と贅沢なことなのかもしれなかった。
「ねえ、お母さん、これでいい?」
「ええ。上手に書けてるわ」
「でも字、まがっちゃった」
「願いごとでしょう? 読めれば大丈夫よ」
聞こえてきた会話へ、ファイノンの視線が自然とそちらへ動いた。若木の根元から少し離れた場所で、小さな男の子が短冊を両手で掲げている。風に煽られた紙がぱたぱたと揺れ、そのたびに、まだ筆圧の定まらない文字が陽の光の下で見え隠れしていた。隣では母親らしい女性がしゃがみ込み、子どもが握りしめた短冊の端をそっと押さえている。
その少し後ろでは、若い二人組が互いの短冊を見せるか見せないかで揉めていた。二人とも短冊を胸元へ隠すように握りしめ、相手が一歩近づけば同じだけ後ろへ下がる。けれど離れてしまう気はないらしく、肩が触れそうな距離を保ったまま、互いの手元ばかりを気にしていた。
「絶対笑わない?」
「笑わないって」
「昨日もそう言って笑ったじゃない」
「昨日のは、そりゃ……だってお前が『毎日お菓子を三回食べても太りませんように』なんて書こうとするからだろ」
「立派な願いでしょ!」
「じゃあ見せろよ」
「やだ!」
女の方が短冊を背中へ隠すと、男は覗き込もうとして身を屈めた。けれど彼女はすぐに身体の向きを変え、淡い袖で紙を覆ってしまう。風が吹くたび、短冊の端だけがひらひらと顔を出し、そのたびに男の視線がそちらへ吸い寄せられた。
なんとも平和な攻防だった。思わず喉の奥で笑うと、男の方がこちらを振り返った。目が合った途端、彼はほんの一瞬だけ背筋を伸ばしたものの、ファイノンが会釈すると、すぐ気まずそうに頭を掻いて彼女の方へ向き直る。
英雄だとか、黄金裔だとか、そういう言葉を前にすれば、まだどうしても人の動きは固くなる。けれど、それも以前とは違う気がした。
以前の硬さには、縋るようなものがあった。どうすれば生き延びられるのか、どうすれば暗黒の潮から逃れられるのか、どうすれば明日を迎えられるのか。答えを持っている者を探し、見つければその肩へ希望を預けなければならない、そんな切羽詰まった重さがあった。
今は違う。見られて恥ずかしい願いを隠したり、家族と相談したり、どの枝へ結ぶかで悩んだり、自分の番が来るまで友人と笑って待ったりしている。誰も、命を繋ぐ方法を尋ねてはいなかった。ただ明日を思い、叶えたい願いを口にしている。そのことが、ひどく嬉しかった。
胸の奥へ何かが満ちるというより、長いあいだ無意識に噛み締めていた歯がようやく離れた時のようだった。身体のどこかへずっと入っていた力が、そこに力があったのだと気づくより先に抜けていく。呼吸を整えようと意識したわけでもないのに、吸い込んだ空気が少し深いところまで届いた。
空は晴れていた。暗黒の潮も、裂けた空から覗く災厄もない。風に押された雲がのんびりと流れ、その下では人々の笑い声と紙の音、食べ物の匂いが穏やかに漂っていた。
焼いた穀物に蜂蜜でも塗っているのだろうか。風に乗って届いた甘い香りに、少し離れた屋台の前で子どもが二人、同時に足を止めている。財布を握っているらしい父親が困った顔をし、何か条件をつけたのか、二人は顔を見合わせて勢いよく頷いた。
きっと、あの家族にも今夜がある。祭りの帰り道があって、夕食の時間があって、今日見たものを話す時間があって、眠った後には明日の朝があるのだろう。
それは、取り立てて偉大なことではない。誰かが命を懸けて勝ち取ったと毎朝唱えなければならないものでもなく、英雄の名を讃えてから享受しなければならないものでもない。日々の中へ埋もれ、いずれ当たり前になり、今日この場所で感じた感慨さえ薄れてしまうくらいで、ちょうどいい。
むしろ、そうなってくれた方がいいのだろう。朝が来ることに感動しなくなるほど朝が続いて、夜が来ることを恐れなくなるほど夜が続く。誰かが願いを書けることを特別だと思わなくなるほど、次にやりたいことや欲しいものや会いたい人が次々に増えていく。
(そういう世界なら――)
そこまで考えて、ファイノンは若木の向こうへもう一度視線を向けた。ヒアンシーは今度、何人かの子どもに囲まれていた。
何を頼まれたのか、一人の短冊を預かりながら真剣な顔で話を聞き、最後には「それでしたら、もう少し詳しく書いちゃいましょう!」と笑っている。その隣ではイカルンが短冊の束を抱えるように翼を広げ、別のペガソースがそれを一枚ずつ運び出していた。
誰か一人がすべてを背負っている光景ではなかった。ヒアンシーが受付をし、イカルンたちが短冊を運び、届く枝なら市民自身が結んでいる。背の届かない子どもには近くの大人が手を貸し、筆が足りなくなれば誰かが使い終えたものを渡す。机の上で短冊が散りそうになれば、通りすがりの人が何も言わず押さえていた。
それぞれができる範囲で手を貸し、役目を終えれば自分の場所へ戻っていく。誰かが命令したわけでも、英雄が采配を振るったわけでもない。それでも、人々の手によって、催しはきちんと回っていた。
ファイノンは幹へ触れたまま、指先をほんの少し緩めた。手元のそれは、途端に何かが崩れるわけでもなく、枝は風に揺れただけだった。根は土を捉え、幹は空へ向かい、色づいた紙をいくつも抱えながら、自分の重みでそこに立っている。
もちろん、完全に手を離してしまうつもりはまだない。この世界は、生まれ直すのを待っている最中なのだから。
いまのオンパロスは、外から見ればあまりにも無防備だろう。銀河には知らない文明も多く、開拓者たちから聞いた話だけでも、友好的な相手ばかりではないことくらい分かる。文明を資源として数える者もいれば、エネルギーや技術を求めて他所へ手を伸ばす者もいるという。ようやく終末から抜け出したばかりの場所が狙われない保証など、どこにもない。
だから、もう少しだけ。新しい根がもっと深く張って、枝が風を受けても揺らがなくなるまで。世界が自分たちで外へ声を届け、自分たちで来訪者を選び、自分たちの生活を守れる形が整うまでは、手を添えておくくらいなら構わないだろう。
それは、以前とは違う。もう、背負い続けなければ潰れてしまう世界ではない。手を放せば崩れ落ちるものを、歯を食いしばって支え続けているわけでもない。
目の前の木と同じだ。最初は支柱が必要だった。根が浅いうちは風ひとつでも大きく揺れ、枝を増やせば幹の方が耐えられなくなるから、倒れないように支えなければならなかった。だけど人々の願いを一枚、また一枚と受け止めるうち、若木は自分から根を伸ばし、枝を広げ、今では見上げなければ頂が分からないほど育っている。
もう「若木」と呼ぶのも、少し無理があるのかもしれない。
「……大きくなったな」
呟いた声は、枝葉のざわめきに紛れた。誰に聞かせたかったわけでもない。ただ、初めてここへ運んできた時の姿を知っているから、自然に零れただけだった。
その時、ちょうど上の枝へ新しい短冊が結ばれたらしい。イカルンが翼を広げて離れた直後、枝先が風を受けてゆったりと持ち上がる。
そこからさらに隣の枝へ葉擦れが伝わり、木全体が小さく息をしたように揺れた。大丈夫そうだ。そう判断したところへ、受付の方から明るい笑い声が届いた。
「ええっ、そんなにたくさん書いたんですか?」
「だって全部叶えたいんだもん!」
「でしたら、短冊をもう一枚使いましょうか。願い事は逃げませんから、ゆっくり書いてくださいね」
「やった!」
ヒアンシーだった。相変わらず忙しそうで、それでいて楽しそうに人々の願いへ耳を傾けている。ファイノンはしばらくその姿を眺め、目元をゆるめた。
彼女がこの催しを思いついた時、こんな景色を想像していたのだろうか。人々が何を書けばいいのか分からず困ることも、願うこと自体へ戸惑うこともあるだろうとは聞いていた。終末を越えたばかりなのだから、それも当然だと思っていたし、もし誰も短冊を書けなかったとしても急かすべきではないと考えていた。
けれど蓋を開けてみれば、願いはこんなにもたくさんあった。胸の奥へしまっていただけで、言葉にする暇がなかっただけで、最初からそこにあったのかもしれない。食べたいもの、行ってみたい場所、会いたい人、覚えておきたいこと、上手くなりたいこと、誰かに元気でいてほしいという願い。そして、明日も今日のような日であればいいという、小さくて途方もない祈り。
人は、終末の中にいてさえ、何も望まなくなっていたわけではない。ただ、それを未来へ託す場所がなかったのだ。いまは、その場所がある。たったそれだけの違いかもしれない。それでもファイノンには、それで十分に思えた。
もう、誰か一人が未来を全部抱えて走らなくてもいいのだろう。誰かが次の道を決めなくても、それぞれが立ち止まり、迷い、隣の人へ聞きながら、自分の進みたい方を選んで
時には慎重になりすぎる者もいるだろうし、怖くて足を止める者もいる。逆に勢い余って転ぶ者だっているだろう。意見が食い違えば喧嘩もするし、自分の正しさばかりを主張して誰かを困らせる日もあるかもしれない。
それでも。
そういう一つ一つをひっくるめて、人が生きるということなのだろう。
臆病でも、慎重でも、少し傲慢でもいい。思い切りよく踏み出す日があってもいい。誰かに背中を押してもらっても、自分で立ち上がっても、遠回りをしても、最後にまた次の一歩を選べるのであれば、それでいい。
彼らはもう、終末という一つの答えへ追い立てられてはいない。自分たちの足で歩いて往ける。そのことを、今日、この場所でファイノンは初めて形として見せてもらったような気がした。
胸へ溜まっていた息が、ゆっくりと外へほどけていく。剣を握った手から力を抜く時とも、長い戦いが終わった時の昂揚とも、敵が倒れたことを確認した時の安堵とも違う。もっと静かで、もっと柔らかな感覚だった。
雨が上がった後、濡れた麦の穂が一本ずつ頭を上げていくのを眺めているような。幼い子どもが転んだあと、泣きながらでも自分で立ち上がり、こちらへ笑ってみせた時のような。ずっと遠くから見守っていたものが、ようやく自分の力で歩き始めた時のような。
ファイノンは、幹へ触れている自分の手を見た。掌の下では変わらず温かな脈動が続いている。根が完全に張り、新しい世界が外の風へ慣れるまでは、まだ少し支えてやる必要があるだろう。もし大きな嵐が来るのなら、その時には壁になればいい。けれど、それまではもう、こんなふうに手を添えているだけでよさそうだった。
あの頃のように、何もかもを背負う必要はない。誰かに道を示し続ける必要もない。人々はもう、自分で願いを書き、自分で明日を選び始めている。
ファイノンは、もう一度枝葉を見上げた。空へ広がる緑のあいだで、数え切れないほどの色が揺れている。その一枚一枚に、自分の知らない未来が書かれていた。それでも、知らないことは少しも怖くなかった。
むしろ、知らないままでいいのだと思えた。彼ら自身が願いを読み、選び、叶えていけばいい。口元には、ごく自然に笑みが浮かんでいた。
こんな景色を見たかったのかもしれない、と考えたところで、それ以上の答えを探す気にはならなかった。答えを掘り返さなくても、胸の奥へ落ち着いていくものがある。暖かな日差しに肩を預けるような感覚に任せて、彼はしばらく人々の声を聞いていた。
また一枚、短冊が風に揺れて誰かの笑い声が響いた。その光景を確かめるたび、長い旅路のあいだ肩へ残っていた力が、少しずつ抜けていった。