オンパロスの人々自身と世界を作る方針を定めても、開拓者にはなお「離れた場所にいる黄金裔と、どう一緒に遊ぶのか」という難題が残っていた。
答えを探しあぐねる夜、気分転換に銀狼とオンラインゲームへ興じた開拓者は、ごく当たり前の光景に足を止める。
現実では離れている二人が画面の向こうでは同じ世界を歩き、同じ敵へ挑んでいる――ならば、魂だけでも同じ世界へ接続できるのではないか。思いついた開拓者は、銀狼、マダム・ヘルタ、スクリューガム、レイシオへ相談を持ち込んだ。
銀狼との通信を繋いだまま送った相談依頼は、開拓者が想像していたよりも早く三人のもとへ届き、その日のうちに簡易的な遠隔会議の場が整えられた。
もっとも、全員が同じ場所へ集まったわけではなく、開拓者は星穹列車の自室、銀狼は相変わらず所在不明、マダム・ヘルタとスクリューガムもそれぞれ別の環境から接続し、ベリタス・レイシオに至っては「要点が整理されているなら時間を割く」という一文を返しただけで、画面へ現れる直前まで本当に参加してくれるのか分からなかった。
それでも、端末の画面に四つの接続表示が揃った瞬間、開拓者は机の上へ広げ直していた紙を両手で整え、今度こそ順番を飛ばさず話そうと姿勢を正した。
銀狼から「魂だけゲームへログインさせたい、だけを最初に言ったら説明不足で減点されると思うよ」と忠告されていたため、今夜ばかりは思いついた結論から突撃せず、そもそもなぜこんな話を始めたのかというところから辿るつもりだからである。
画面の一角では、銀狼が半透明のウィンドウを指先で弄りながら待っており、その隣にはマダム・ヘルタが椅子へ深く腰掛け、長い粟色の髪を肩から流していた。スクリューガムの金属質な輪郭には通信光が淡く反射し、レイシオは既に書物型端末を片手に持ち、こちらの話がどこまで整理されているのか採点でも始めそうな視線を向けている。
「最初に言っておくけど、私は技術的な方法をまだ何も分かってないし、今日聞きたいのも『これを今すぐ作ってください』じゃなくて、まず私が何をしたいのか聞いてほしいんだ。」
開拓者がそう切り出すと、レイシオは端末から視線を上げ、ほんの僅かに顎を引いた。少なくとも零点ではないらしいと勝手に解釈し、開拓者は昼間から何度も書き直した紙へ目を落とした。
「オンパロスには、私が一緒に旅した友達がいるんだけど、今は永遠の1ページで新生の日を待ってる。私は星穹列車で旅を続けてるから、同じ場所にずっといることはできないし、向こうのみんなも今の状態で普通に列車へ遊びに来られるわけじゃない。」
話しながら、開拓者の中には自然と彼らの姿が浮かんだ。ファイノンの明るい声も、キュレネの笑みも、黄金裔たちがそれぞれ違う方向から同じ話へ口を挟んでくる騒がしい時間も、記憶の中では今なお鮮明なのに、それを新しく増やす方法だけがない。その事実を口にすると、書いている時よりも少しだけ胸の奥へ重みが戻ってくる。
「それで、また会いたいって思ったんだけど、考えてるうちに、会って話すだけじゃ足りないって分かった。もう一回、一緒に冒険したい。でも昔と同じことを再現したいわけじゃなくて、本人たちが自分で選んで、知らない場所へ行ったり、寄り道したり、失敗したり、新しい思い出を作れる場所がほしいんだ。」
マダム・ヘルタは途中で口を挟まず、鮮明な紫の瞳だけを僅かに細めていた。彼女が興味を持っているのか、単に次の説明を待っているのか、開拓者には判別しきれない。ただ、退屈した時のように画面から意識を外していない以上、少なくとも話を続ける価値はあるらしかった。
「そこで銀狼とゲームしてて気づいたんだけど、オンラインゲームなら、現実では別々の場所にいても同じ世界で一緒に遊べるでしょ。だから、オンパロスのみんなも本人の意識とか魂のまま入れる仮想世界があれば、そこなら再会しながら一緒に遊べるんじゃないかなって思った。」
説明を聞き終えた銀狼は、画面の端へ新しいウィンドウを開きながら肩を竦めた。
「今度はちゃんと最初から説明できてるじゃん。昨夜は『魂だけでも一緒に遊べる』から始めたから、急に禁断のゲーム企画でも持ち込まれたのかと思ったけど、目的から聞けば普通に筋は通ってるんじゃない?」
「昨日より成長した私は、もう昨日までの私ではないと言っても過言ではないと思う。」
「一晩で別人になったことにすると話が増えるから、その設定は今すぐ消しておいて。」
銀狼へ即座に却下され、開拓者は少しだけ口を尖らせた。
そのやり取りを聞いていたレイシオは、額へ指を添えるでもなく淡々とこちらを見つめたまま、ようやく最初の問いを投げてくる。
「君が求めているものは理解したが、現段階では『仮想空間へ接続して黄金裔と遊びたい』までしか定義されていない。そこで何をするのか、誰まで参加させるのか、その二点が曖昧なままでは規模の議論すらできないだろう。」
言われて、開拓者は紙へ視線を落とした。そこには『本人たちが自分で選べる』『一緒に新しい思い出を作れる』『オンパロスの人たちと一緒に決める』と書いてあるものの、確かに「誰まで参加するのか」については、まだ自分と黄金裔しか想定していなかった。
「最初は、私とオンパロスのみんなが入れればいいって思ってた。でも……今そう言われると、それだけじゃ少し寂しいかもしれない。」
「寂しい、という言葉をもう少し具体化してもらえますか、開拓者殿。感情そのものを否定する意図はありませんが、設計へ落とすには、その感覚がどこから生じているのかを確認した方がよいでしょう。」
スクリューガムの声は機械的な輪郭を持ちながら、不思議と急かす響きがなかった。開拓者は答えを探して一度唇を結び、窓の向こうを流れる星々へ視線をやった。
最初に思い出したのは、ベロブルグだった。雪に閉ざされていた都市で出会った人々は、今も自分たちの場所で日々を過ごしている。列車が再び立ち寄れば会いに行けるし、何かの機会に彼らが星穹列車へ来ることだって、絶対にないとは言えない。
ピノコニーも同じだった。夢境で出会った者たちにも、それぞれの生活と事情があるとはいえ、同じ宇宙を生きている。航路と機会さえ噛み合えば、一つの場所へ顔を揃える未来を想像できる。
「ベロブルグにも友達がいるし、ピノコニーにもいる。仙舟にも、宇宙ステーションにも、これまで旅した先に友達が増えたんだ。もちろん、全員が簡単に列車へ集まれるわけじゃないけど、いつかラウンジでばったり会って、私が『この人があの時話してた友達だよ』って紹介することはできるかもしれない。」
開拓者はそこまで話してから、自分の中に引っかかっていたものの形をようやく掴んだ。オンパロスだけが、その想像から切り離されている。
別の星で出会った人々について話す時、開拓者の中にはいつも「いつか」があった。いつかまた訪ねられる。いつか誰か同士が出会うかもしれない。
いつか一緒に食事をしたり、列車のラウンジでなのかが写真を見せたり、パムから車内規則を説明されたりする日が来るかもしれない。だけど、黄金裔については、その「いつか」を同じように置けない。
「オンパロスのみんなだけは、今のままだとそれができないんだよね。私の友達なのに、別の場所でできた友達へ『いつか紹介するね』って普通に言えないのが、なんか……すごく寂しい。」
言葉にしてみれば、ずいぶん個人的で小さな理由だった。銀河規模の技術者たちへ相談する話としては、もっと立派な目的を掲げた方がいいのかもしれないと一瞬だけ思ったが、取り繕う必要もない気がして、そのまま続ける。
「だって、みんな面白いんだよ。ファイノンなんて最初はすごく頼れるし爽やかなのに、仲良くなると意外と変なところあるし、キュレネは可愛いし、話してるといつの間にかこっちが考えさせられてるし、アナイクスは――説明しようとすると長くなるけど、とにかく一回会ってほしい人が多すぎるんだ。」
「理由の途中から人物紹介へ移行していますね、開拓者殿。しかし、意図そのものは理解できます。貴方はオンパロスを隔離された交流圏のまま残したくない、ということなのでしょう。」
スクリューガムの言葉へ、開拓者は勢いよく頷いた。そう言われると少し難しく聞こえるが、要するに、自分の友達を別の友達にも知ってほしいのである。
「そう、それ! 私がオンパロスのことを話すだけじゃなくて、本人たち同士で会ってほしい。私を経由しないで友達になるかもしれないし、気が合わなくて喧嘩するかもしれないけど、それも本人たちが決めればいい。再生されつつあるって言っても、私は今がいい!」
銀狼の指が、操作していたウィンドウの上で少しだけ止まった。
「じゃあ、あんたが欲しいのって、オンパロス組専用の再会部屋じゃないんだ。最初は身内用サーバーかと思ってたけど、他の星のプレイヤーまで来る前提なら話が変わるよ。」
「他の星のプレイヤー……」
その言葉を口の中で転がした瞬間、開拓者の頭へ新しい景色が浮かんだ。
ベロブルグの誰かが、オンパロスの麦畑を歩く。ピノコニーで出会った友人が、黄金裔と同じ街で何かを選ぶ。仙舟の者がオンパロスの武器や料理や文化へ興味を持つかもしれないし、逆に黄金裔たちが外の星の文化を見て驚くこともあるかもしれない。
そして、それぞれの星にいる者が、肉体ごと遠い場所へ旅しなくても、一つの仮想世界へ接続できるのだとしたら。
開拓者は紙へ伸ばしていた指を止め、大きな窓から見える星海へもう一度視線を向けた。これまではオンパロスと自分の間へ一本の橋を架けることばかり考えていたが、橋の先を一つの世界として作るなら、そこへ別の道が繋がってはいけない理由などない。
「……だったら、もっと大きくしてもいいのかも。」
マダム・ヘルタが、それまで黙っていた画面の向こうで僅かに眉を上げた。
「あなた、まだ大きくする気なの? 最初に送ってきたメモでも十分に欲張りだったけど、どうせ言うなら最後まで言ってみなさい。途中で縮める方が退屈だから。」
止められなかったので、開拓者は遠慮をやめた。
「将来的には、惑星をまたいでみんなが入れる、大型のオンラインゲームになったらいいな。オンパロスのみんなだけじゃなくて、ベロブルグの人も、ピノコニーの人も、仙舟の人も、宇宙ステーションの人も、それぞれの場所から同じ世界へ来られるくらい大きいやつ。」
言い切ってから、自分でも規模が跳ね上がりすぎた気がして、開拓者は一拍だけ黙った。昨夜までは、自分と黄金裔が一緒に遊べるかどうかすら分からなかったはずなのに、今や頭の中では銀河のあちこちから人々が同じ世界へ集まり始めている。
銀狼は目を細め、呆れたというより何かを測るように開拓者を見た。
「昨日までは『魂だけでも一緒に遊べる』だったのに、一晩で大型オンラインまで行ったんだ。拡張速度だけなら大型アップデート三回分くらい飛ばしてるけど、まあ、発想としては嫌いじゃないよ。」
「褒められた気がするから、ここは素直に受け取っておこうと思う。」
「半分くらいは呆れてるけど、それでもいいなら好きに受け取れば。」
レイシオは二人のやり取りを一度だけ視線で制し、それから開拓者の紙へ向けるように問いを重ねた。
「君は市場規模を拡大したいわけでも、不特定多数を集めて利益を得たいわけでもない。話を聞く限り、目的は単純に『自分の友人同士を出会わせたい』ということか?」
「うん、それが一番近いと思う。私がみんなのこと好きだから、みんなにも会ってほしいし、オンパロスの人たちにも外の星の人をいっぱい知ってほしいんだ。」
レイシオはすぐには答えず、開拓者の顔を数秒見たあと、端末へ何かを書き込んだ。その内容までは見えなかったが、露骨に却下する様子がないだけで、開拓者には充分だった。
マダム・ヘルタも、長い髪を肩から払うように動かしてから、画面越しに開拓者を見つめた。
「世界文化の保存とか、特殊な存在形式の接続とか、そういうもっともらしい目的は後からいくらでも足せるでしょうけど、最初の理由がそれならそのまま残しておきなさい。大きな計画ほど、途中で目的が増えすぎて最初の問いを忘れるから。」
その言葉は予想外だった。開拓者は、もっと「そんな理由で私を呼んだの?」と切り捨てられる可能性も考えていたため、思わず紫の瞳を見返してしまう。
「……友達を紹介したい、でいいの?」
「別に理由に格式なんていらないでしょ。つまらない理由から面白い結果が生まれることもあるし、立派な理念を掲げた計画が退屈な失敗になることだってある。重要なのは、その願いが何を要求するかよ。」
開拓者は、その言葉を紙の余白へ書こうとして、途中で手を止めた。今すぐ技術の話へ踏み込み始めれば、自分には理解できない言葉が大量に飛び交う未来が見える。けれど、今日ここへ集まってもらったのは、まず自分が何をしたいのか伝えるためだった。
その部分だけなら、ようやく胸を張って言える気がする。オンパロスのみんなと、また遊びたい。彼らを過去の物語へ閉じ込めず、本人たちと新しい思い出を作りたい。
そして、できることなら、自分だけが彼らを知っている状態で終わらせたくない。ベロブルグで出会った人にも、ピノコニーで出会った人にも、星々を旅する中で増えていった友人たちにも、自慢の相棒たちを紹介したい。逆に黄金裔たちにも、オンパロスの外にはこんな人がいるのだと知ってほしい。
そのための場所が一つあれば、皆が同じ列車へ乗れなくても、同じ惑星へ立てなくても、いつか出会うことができるかもしれない。
「私は、オンパロスのみんなと再会できる場所がほしい。でも、それだけで終わるんじゃなくて、いつかその場所が、星々の人たちも一緒に遊べる世界になったらいいなって思ってる。」
開拓者はそう言いながら、紙の中央へ新しい円を一つ描いた。その周囲へ、ベロブルグ、ピノコニー、仙舟、宇宙ステーション、星穹列車、オンパロスと書き込み、それぞれから中央の円へ線を伸ばしていく。
昨夜まで一本しかなかった橋は、いつの間にか何本にも増えていた。どの橋が本当に繋がるのかも、必要な技術や接続方法、安全性もまだ何一つ決まっていない。それでも、開拓者が作りたい世界の大きさだけは、ようやく見え始めていた。
それは孤立した誰かを慰めるためだけの部屋ではなく、離れた場所にいる者たちが自分の意思で集まり、新しい関係や思い出を作っていける遊び場だった。
画面の向こうでは、ヘルタが粗い図を見つめ、スクリューガムが記録を取り、レイシオが検討を続けている。銀狼だけが「規模だけ先に最終コンテンツまで行ったね」と小さく笑っていた。
開拓者は四人を見ながら、紙の中央に描いた円をもう一度なぞった。ここで、みんなが会える。そう思うと、まだ存在しない世界のどこかから、ラウンジのような賑やかな声が聞こえてくる気がした。
友だちが友だちと仲良くできてたら、なんか嬉しくなってニコニッコなっちゃうよねーっていう。