惑星間通信、異なる存在形式、安全な接続――難題は山積み。それでもマダム・ヘルタ、スクリューガム、レイシオは、開拓者の構想に研究・文化保存・娯楽としての価値を見出した。
技術を理解していない当人だけが妙に自信満々な中、開拓者は「何のために作るのか」を守る発案者側の責任者を任される。オンパロス側の同意を得ながら進めること、安全に帰れる世界であることを条件に、個人的な願いはついに正式な開発企画へ変わった。
その名は、《オンパロス・オンライン》。
企画の種を選ぶべく、《オンパロス・オンライン》という名前を紙の一番上へ書きつけた翌日のこと。開拓者はその紙を含め、列車組との相談から技術者たちとの検討までに増え続けた資料一式を抱えて、永遠の1ページへ向かった。
専門家たちの端末にはもっと整った資料が残っているし、技術的な説明を求められたところで、自分が正確に答えられる範囲など驚くほど狭い。だって、これは私の願望の塊でしかない。だからこそ、開拓者自身が行かなければならない理由だけは、昨夜から一度も揺らいでいなかった。
作れる可能性があることは分かった。安全に作るための条件も、専門家たちがこれから検討してくれる。しかし、技術的に可能だからといって、自分たちにオンパロスを使って世界を作る権利まで自動的に与えられるわけではない。
そんなわけで、今日は、「こんなものを作ることになりました」と決定事項を持ち込む日ではなく、「こんなものを作りたいけれど、みんなの世界を使ってもいいのかな」と、当事者へ尋ねる日なのである。
もちろん、ここで断られたら《オンパロス・オンライン》は計画として消えてしまう。けれど、もし許してもらえたとしても、明日すぐに遊べるようになるわけではない。オンパロスの再生速度は結構早いらしいが、それでも世界を形にし、安全に天外との貿易ができる仕組みを整えるには、きっと長い時間がかかるはずだ。
数年単位で待つことになるかもしれない。遠足の日を指折り数える童子のように、まだ見えない完成の日をそわそわと待ち続けることになるだろう。
断られたら寂しいし、許されたとしても、すぐには願いが叶わない。その未来になったとしても、単なる自分のわがままでかの惑星の人たちに迷惑をかけるわけにはいかないから開拓者は少し寂しく思いながらも、粛々と受け入れるしかないだろうことも
「……あ~」
そういう意味では、技術者四人へ説明した時より緊張しているような気もしたが、永遠の1ページへ足を踏み入れて見慣れた顔ぶれを見つけた途端、その緊張は半分ほど別のものへ変わった。
「あっ、ヒアンシー! キャストリス! みんなぁー!」
ヒアンシーは呼びかけるより早くこちらへ気づき、キャストリスもその動きにつられるように顔を上げる。アグライアは手元にあったものを静かに置き、アナイクスは資料でも読んでいたらしい姿勢のまま視線だけを寄越し、モーディスは開拓者が両腕へ抱え込んでいる紙束の厚みに目を留めた。
少し離れたところではサフェルが何か別のことへ意識を向けているふりをしていたものの、開拓者が持ってきた投影端末へちらちらと視線だけを送っているため、聞く気がないわけではなさそうだった。
「グレーたん、今日はずいぶん大荷物ですね、もしかしてまた何か面白いことを思いつかれたんですか?」
ヒアンシーが明るく問いかけながら近づいてきたため、開拓者は抱えていた資料を落とさないよう胸元へ寄せ、少しだけ得意げに頷いた。
「面白いことを思いついたというより、思いついたことが専門家たちのところを一周した結果、思ってたより大きくなって戻ってきた感じかな、今日はそれを作ってもいいかみんなに聞きに来たんだ。」
自分で言ってみると、説明前からかなり妙な導入だった。ヒアンシーは興味を隠さず目を輝かせたが、キャストリスは「作ってもいいか」という部分へ反応したらしく、胸元で重ねていた指を僅かに動かした。アグライアも同じ言葉を拾ったらしく、先ほどまでの柔らかな表情を保ちながら、開拓者が何を持ち込んだのか確かめるように視線を向けている。
開拓者は皆が見える位置へ投影端末を置き、昨夜まで紙の中央に描いていた円と、それを囲む星々の名前を簡略化した図を空中へ映した。
「最初に言っておくと、これはまだ完成品でもないし、こうしなきゃ駄目っていう決定でもないからね、むしろ今日は、みんなが嫌なら嫌って言ってもらうために説明しに来たと思ってほしい。」
「そこまで先に念を押すということは、オンパロスそのものに関わる提案なのでしょうね、まずは内容を聞かせていただけますか?」
アグライアの声は穏やかだったが、開拓者には、その問いが単なる好奇心から出たものではないように聞こえた。オンパロスの土地や文化へ触れるならば、何をどう扱うのかを見届ける立場として聞いているのだろうと考え、開拓者は投影図の中央を指差した。
「名前は仮だけど、《オンパロス・オンライン》って呼ぶことにしたんだ、簡単に言うと、みんなが今いる場所から別の仮想世界へ入って、一緒に歩いたり、話したり、冒険したりできるオンラインゲームを作れないかなっていう企画。」
それは、神話の時代を生きたオンパロスにとっては、耳慣れない単語ではある。ゲームはいくつかあるけれど、
ヒアンシーは「オンラインゲーム」という単語を頭の中で転がすように瞬きを繰り返し、キャストリスは投影された円へ静かに視線を落とす。「黄金のスケープゴートとは違うものなの?」とサフェルの目線は先ほどより明らかにこちらへ寄り、モーディスは腕を組んだまま「ゲーム」という部分より「冒険」という単語へ反応したようだった。
一方、アナイクスは説明の途中から眉間へ僅かに皺を寄せており、このまま曖昧な説明を続けたら数分以内に訂正が飛んでくる気配が濃厚だった。
「オンラインゲームっていうのは、全員が現実に同じ場所へ集まらなくても、それぞれ別の場所から同じ作られた世界へ入って、一緒に遊べる仕組みのことなんだけど、普通のゲームと今回考えてるものには少し違うところがあるんだ。」
開拓者はそこで一度言葉を区切り、銀狼と遊んだ夜のことを思い返した。普通なら、画面の中にいるキャラクターを外側から操作する。しかし自分が欲しいのは、黄金裔に似せて作った人形を動かすことではない。
「普通なら、自分とは別のキャラクターを動かして遊ぶことも多いんだけど、今回やりたいのは、できる限り本人が本人のまま入れる形で、みんな自身が見たり聞いたり歩いたりして、その中で新しいことを経験できる世界なんだ。」
「つまり、わたしたちに似た誰かを作って動かすのではなくて、わたしたち自身がそこへ行く方法を考えてくださっている、ということですか?」
ヒアンシーの問いに、開拓者は大きく頷き意気揚々と語った。
「うん、そう。そこは絶対にそうしたいんだ、私がキャスたんたちと……皆と一緒に遊びたいからね。今すぐ!」
キャストリスが自分の愛称まで例へ出されたことに少し驚いたように瞬きをしたものの、否定する様子はなく、やがて投影図へ視線を戻した。
「もし、それが本当に可能なのでしたら……わたくしたちは、この場所から離れなくても、あなたさまと同じ景色を見たり、同じ道を歩いたりできるのですね、今までとは違う場所であっても。」
「そういうものにしたいと思ってるし、将来的には私だけじゃなくて、別の星にいる友達とも一緒に遊べるようにしたいんだ。」
開拓者が星々から中央へ伸びる線を指でなぞると、ヒアンシーの顔がさらに明るくなり、キャストリスも僅かに目を見開いた。
ベロブルグ、仙舟、ピノコニー、宇宙ステーション。それぞれの場所から、肉体ごとオンパロスへ移動しなくても同じ世界へ入ることができるなら、今まで交わらなかった人たちが知り合うこともできる。
「前に言ったことあるでしょ、私には星々を旅してできた友達がたくさんいるけど、今のままだと、オンパロスのみんなだけはその友達に直接紹介しにくいって、それがなんだかすごく寂しかったんだ。」
説明しながら、開拓者は少しだけ声を落とした。
「だから、最初は私がまたみんなと冒険したいって思っただけだったんだけど、途中で欲張って、どうせならみんなにも外の星の人と会ってほしいし、外の星のみんなにもオンパロスのことを知ってほしいって思った、それで話がどんどん大きくなった。」
「なるほど、貴方の発想が無計画に膨張した結果ではなく、少なくとも欲求の連鎖としては因果関係が存在しているようですね。」
アナイクスがようやく口を開いたため、開拓者は一瞬だけ目を細めた。
「今、アナちゃんに褒められた?」
「誰がアナちゃんですか、アナクサゴラスです。評価を確定するには説明が足りませんが、少なくとも完全な思いつきの羅列ではない、と述べただけですよ。」
「それなら半分くらい褒められたことにしておこうと思う。」
アナイクスが何か言い返す前に、開拓者は次の図へ切り替えた。
そこに映したのは、厳密な設計図ではなく、オンパロス側から相談してほしい項目を自分なりに並べた簡単な一覧だった。場所、歴史、文化、暮らし、見せてもいい記録、外へ出したくない記録、変えてほしくないもの、新しく作ってみたいもの。
「それで、ここが一番大事なんだけど、ゲームの舞台をオンパロスっぽくするからって、私たちだけで『オンパロスはこういう世界です』って決めるつもりはないんだ。」
開拓者は、投影された文字から皆の顔へ視線を移した。
「私たちが覚えてる景色や、丹恒が持ってる大地の記憶や、なのかが撮った写真は使えるかもしれないけど、それは外から来た私たちが見たオンパロスでしかないから、何を残して、何を見せて、何を外へ出さないかは、みんなと相談して決めたい。」
アグライアは静かに聞いていた。開拓者は、その沈黙を賛成だと勝手に解釈しないよう気をつけながら、最後まで言葉を続けた。
「昔のオンパロスをそのまま全部コピーする必要もないと思ってるし、逆に変えたくないものがあるなら勝手に変えない、それに、私たちが知らないけどみんなにとって大事な場所があるなら教えてほしいんだ。」
「それは、完成した後に意見を求めるという意味ではなく、何を形へするのか決める段階から、私たちも選択するという理解でよろしいのでしょうか?」
アグライアの問いは、開拓者が最も伝えたかった部分を正確に拾っていた。
「そう、それが一番大事で、こっちが作ったものを最後に見せて『これでいい?』って聞くんじゃなくて、最初から一緒に決めたいんだ。」
開拓者は少し身を乗り出した。
「だから、本当に聞きたいのは、これを作ってもいいかなってことなんだ、オンパロスっていうみんなの故郷を使って、私たちが遊べる別の世界を作ってもいい?」
その問いを口へ出した途端、思っていたよりずっと静かな時間が流れた。
誰もすぐには答えなかった。投影端末の淡い光だけが皆の顔を照らし、空中に浮かんだ星々の線が、返事を待つように静かに揺れている。
開拓者は、抱えていた資料の端を無意識に強く握りしめた。紙が僅かに歪む感触が指先へ伝わってくる。さっきまでなら、何か聞かれればすぐに答えられると思っていたのに、今は自分の呼吸の音ばかりがやけに大きく感じられた。
断られるかもしれない、という可能性は、ここへ来る前から何度も考えていた。けれど、実際に皆の前で問いかけてみると、頭の中で想像していたよりずっと重かった。オンパロスは自分にとって大切な場所であると同時に、彼らが生き、失い、守ってきた故郷でもある。そこへ外から来た自分が「遊び場にしたい」と言うのは、やはり簡単なことではなかった。
もし嫌だと言われたら、笑って「そっか、じゃあ仕方ないね」と言えるだろうか。……いいや、たぶん、言えるようにしなければならない。自分の願いを叶えるために、彼らへ無理をさせるわけにはいかない。けれど、そう思えば思うほど、胸の奥では別の声が小さく震えていた。
みんなと、もう一度遊びたい。その願いを、わがままだと切り捨てたくはなかった。だからこそ、許してほしいと願うことも、断られる覚悟をすることも、どちらも誤魔化さずに受け止めなければならない。
開拓者は一度だけ唇を結び、皆の返事を待った。技術者たちを相手にした時ほど不安にはならなかったものの、ここだけは自信満々に「大丈夫」と決めることができない。自分にとっては善意でも、皆にとっては「終わった過去を勝手に遊び場へ変えられる」ように見える可能性だってある。
アグライアは投影された一覧を見つめたあと、指先で金色の糸を整えるような小さな動きを見せた。
「ふふ。あなたがオンパロスを、ご自身の記憶だけで完成させるつもりであったなら、私は賛成しなかったでしょう。……けれど、私たち自身へ何を未来へ残したいのか尋ね、その答えを世界へ織り込むというのであれば、少なくとも話し合う価値は充分にあります。」
開拓者の肩から、気づかないうちに入っていた力が少しだけ抜けた。
「では、わたしからもいっぱい提案していいんですね、病院とか街の暮らしとか、戦いだけじゃないオンパロスも、ちゃんと見てもらえたら嬉しいです!」
ヒアンシーが両手を合わせるようにして声を弾ませる。その隣ではキャストリスも、先ほどより僅かに近い位置から投影図を見つめていた。
「わたくしも……もし誰かがオンパロスを訪れてくださるのでしたら、怖かったことや失われたものだけでなく、花や詩や、静かな時間のことまで知っていただけたら、とても嬉しいと思います。」
開拓者は二人の言葉を聞きながら、紙へ書いた『オンパロスの人たちと一緒に決める』という一文が、ようやく本当の意味を持ち始めたように感じた。外から来た自分では、最初に入れようと思わなかったものが、もう二つ増えている。
そこへ、それまで興味がないふりを続けていたサフェルが、横を向いたまま声だけを寄越した。
「あたしは別に、そういう遊びに詳しいわけじゃないけどさ。外の連中に好き勝手『これがオンパロスです』って決められるより、こっちから混ざれるならまだマシなんじゃない、それに宝箱とかあるなら中身を決める権利くらいはほしいけど。」
最後だけ急に具体的になったため、開拓者は思わず彼女を見た。
最後だけ急に具体的になったため、開拓者は思わず彼女を見た。
「サフェル~!」
「聞こえてきただけだって! こんな人数で話してたら嫌でも耳に入るでしょ!」
言いながらもサフェルの視線は投影図から離れておらず、開拓者はそこを指摘しようか迷った末、本人が参加する気になっているなら今は見逃すことにした。
「ところで、この『ゲーム』には、成長や能力強化も含まれるのでしょうか?」
ヒアンシーの指摘に今度はモーディスが腕を解き、中央の表示へ目を向けた。
「銀狼から聞いた話だと、遊び方によってはあると思うけど、現実とまったく同じ形にはしないかもしれないよ。」
「レベルアップという概念は鍛錬によさそうだが、戦闘を重ねることで段階的に能力が上がるのであれば、技量を測る指標として利用できるのではないか。」
開拓者が「早速そこに食いついた」と思うより先に、隣からアナイクスの声が差し込んだ。
「『レベルアップ』は概念ではなくゲーム上のシステムのようですよ、モーディス、しかも表示上の数値が増えたからといって、現実の肉体や技量まで同じ割合で成長すると考えるのは早計です。」
「ならば、実際の鍛錬と比較すればよいだろう、それで差が分かるなら、それはそれで利用価値がある。」
「だから、まずゲーム上の仕様が決まってから検証しなさいと言っているのです。」
いつの間にか、説明会の中心が開拓者から二人の議論へ移りかけている。けれど、そのことが妙に嬉しかった。
少し前まで《オンパロス・オンライン》は、開拓者の机の上にしか存在しなかった。次に技術者たちの端末へ移り、ようやく企画という名前を持った。そして今、モーディスは自分ならどう使えるかを考え、アナイクスはその理解を訂正し、ヒアンシーやキャストリスは何を残したいかを口にし、サフェルまで宝箱の中身へ口を出し始めている。
開拓者が決めた未来を見せているのではない。彼ら自身が、自分たちならどう関わるのかを考え始めている。
「ねえ、それなら、今のところは『作ってもいい』って思ってくれてるってことでいい?」
開拓者が改めて尋ねると、アグライアは小さく微笑み、ヒアンシーはすぐに頷いた。キャストリスも一拍置いたのち穏やかに首肯し、モーディスはまだアナイクスとの議論を続けたそうな顔をしながらも否定しなかった。
「少なくとも、貴方が私たちの歴史を一方的に再構成するのではなく、私たち自身へ検証と選択の権利を残すのであれば、現時点で反対する理由はありません、ただし技術的説明については改めて専門家から聞く必要があります。」
アナイクスらしい返答に、開拓者は力強く頷いた。
「そこは大丈夫、私もちゃんと分かってないから、詳しいところは詳しい人に説明してもらうつもり。」
「貴方が責任者だと聞いた直後に、その発言をされると不安になりますね。」
「私は『何のために作るのか』担当の責任者だから、分からないことを分かったふりしないのも仕事なんだよ。」
それは昨夜教わったばかりの役割だったが、開拓者は既にかなり使いこなしている気がしていた。英雄だの救世主だのともてはやされる彼女だが、その実、末っ子気質であるために、
何のために作るのか。皆と、また冒険するため。友達を、友達へ紹介するため。そして、オンパロスを過去の物語として外側から保存するのではなく、そこに生きてきた人たちが、自分たちの手で次に何を残し、何を作るのか選べるようにするため。
開拓者は投影端末へ手を伸ばし、星々から中央へ集まる線をもう一度表示した。
「じゃあ、ここからは私たちが勝手にオンパロスを作るんじゃなくて、みんなと一緒に作るってことで進めるね、何を入れたいか、何は外へ出したくないか、気づいたことがあったら遠慮なく全部言ってほしい。」
その言葉に返ってきた反応は、最初の問いかけよりずっと賑やかだった。
誰かが場所について尋ね、別の誰かが現実とは違う景色を作ることもできるのかと確認し、モーディスとアナイクスの間ではまだ成長システムについての議論が続いている。サフェルは興味がないという態度を保とうとしながら、いつの間にか開拓者の近くまで移動して投影内容を覗き込んでいた。
開拓者はその声を聞きながら、胸の奥へ静かに満ちてくるものを、あえて言葉へ直そうとはしなかった。自分が「またみんなと冒険したい」と願ったことで始まった世界は、もう自分だけが欲しがっている遊び場ではなくなりつつある。
まだ建物の一つもなく、歩ける道も、触れられる草木も、入るための仕組みさえ完成していない。それなのに、何もない場所を前にした黄金裔たちの間では、すでに自分たちなら何を残し、どんなものを作れるのかという声が生まれ始めていた。
やっと、やっとゲームっぽくなってきた――ッ!!! ような気がするけども、嘘だろ……? 前奏長すぎない……?