ファイノンが自分のために過ごせる時間を増やしたい――ヒアンシーの提案は、黄金裔と星穹列車の仲間たちによって、新たなゲーム開発の構想へと結びついた。
王道のMMORPGとして計画されていた《オンパロス・オンライン》に、ダンジョンマスターというジョブと、住居や庭園、休憩所を整えるハウジング要素を加える試みが始まる。
それは、誰かに役割を背負わせるためではなく、自分の意思で好きな時間を過ごせる場所を増やすためのもの。
ファイノンにはまだ知らされないまま、戦いのための迷宮に、暮らしを楽しむための新しい可能性が芽吹き始めていた。
《オンパロス・オンライン》の開発が始まってから、黄金裔たちのあいだには、週に一度、星穹列車の仲間たちと顔を合わせる習慣が生まれていた。
もっとも、それを正式な進捗報告会と呼ぶには、少々くつろいだ集まりだった。アグライアが用意した円卓には季節の果実を使った菓子が並び、ヒアンシーが持ち寄った茶葉からは甘く爽やかな香りが立ち上り、誰かが開発資料を広げようとしても、「まずはお茶が冷めないうちに一杯いただきましょう」と話が逸れることも珍しくない。
女性が集まれば華やかだというけれど、やんごとなき身分の令嬢でもあるアグライアにとって、こうした集まりは社交の場ともいえた。けれど、卓上を囲む面々は、誰にも気を張らずにいられる、かけがえのない私的な時間でもあった。両親は好きにさせてくれるけれど、婚約がどうこう、後継ぎがどうこうと親族が騒ぎ立てはじめた今、アグライアはそんな時間を、密かに好ましく思っている。
以前であれば、人が集まる理由の多くは、何かを成し遂げるためのものだった。差し迫った問題を解決し、誰かの安全を確かめ、次に起こり得る事態へ備えるために、限られた時間を分け合っていた。
それが今では、完成するまで急ぐ必要のないものについて、皆であれこれと考えながらお茶を飲んでいる。卓上に置かれた焼き菓子が減る速さと、話し合いの進む速さとが、必ずしも一致しないことさえ微笑ましい。女性貴族の集まる社交の場――お茶会とは異なり、ここでは誰もが表情をあらわにし、感情を豊かにしている。
今日も、アグライアが茶器を整えていると、隣に座るキャストリスが、砂糖壺の蓋をそっと持ち上げて中身を確かめていた。
「アグライアさま、こちらのお砂糖は、もう少しご用意したほうがよろしいでしょうか……? ヒアンシーさまがお持ちになったお菓子もありますし、今日は皆さま、いつもよりお茶を召し上がりそうですから」
「ふふ、ありがとうございます、キャストリス。今のところは充分でしょう。足りなくなったら、そのときに追加すればよいのですから」
アグライアが微笑みかけると、キャストリスは安堵したように頷き、砂糖壺を元の位置へ戻した。その傍らでは、ヒアンシーが通信端末の接続を確認しており、アナイクスは配布された開発資料を眺めながら、ときおり小さく眉を動かしている。
卓の向こう側には、セイレンスやほかの黄金裔たちも席を占めていた。今日の議題に特別な緊急性はなく、都合のつく者が集まって、開発状況や気になったことを共有するという、いつもの形式である。
やがて端末が淡く光り、星穹列車側の映像が映し出された。
『やっほー! 今週も定例お茶会の時間がやってきました! って、そっちのお菓子おいしそうじゃない? なんか先週より豪華になってる気がするんだけど!』
開拓者の第一声に、ヒアンシーが弾むような声で応じた。
「グレーたん、こんにちは! 今日は皆さんに召し上がっていただこうと思って、新しいお菓子を用意してみたんです。あっ、グレーたんの分も、今度お会いするときまでに別のものを作っておきますね!」
『やった! じゃあこっちも、今度どこかの惑星で面白いお菓子見つけたら持ってくる! ……あ、そうだ、今日は進捗報告だった。危うく食べ物の話で終わるところだった』
映像の向こうで開拓者が慌てて端末を操作し始めると、アグライアの隣から、キャストリスの控えめな笑い声が聞こえた。
アグライア自身も口元を緩めながら、淹れたばかりのお茶を皆の前へ配った。こうした何気ない脱線が許されることこそ、今の彼らが手にした平穏のひとつなのかもしれない。――とはいえ、今日の話し合いには、彼女なりに確かめておきたいことがあった。
先週までに共有された資料によれば、ヒアンシーの提案を受けて追加されたハウジング要素は、開発版の設計画面へ少しずつ組み込まれ始めている。家屋や家具、植栽をそれぞれ配置できるようになり、編集内容を保存する仕組みについても、既存の機能を利用した試作が進んでいるという。ただし、それはまだ、完成した仮想世界の中で暮らせるようになったことを意味しない。現状で確かめられるのは、建築素材を選び、配置を調整し、設計図を保存するところまでである。
開拓者たちが用意した画像には、住まいらしい建物や庭園の輪郭が見えていても、そこで過ごす人物の姿はなく、椅子に腰掛けたり、部屋の中を自由に歩いたりできる段階には至っていなかった。
アグライアはその区別を踏まえたうえで、これまで届いた画像を整理していた。仕立て屋として服を作るときにも、完成図を描くことと、実際に布を裁ち、身につけたときの具合を確かめることは別の工程である。
平面の図案では美しく見える意匠も、身体の動きを妨げるなら調整が必要になるし、布地の性質によっては、思い描いた形をそのまま実現できないこともある。仮想世界の開発も、それによく似ているのだろうと感じていた。
『じゃあ、まず今週の更新から! ハウジング用の素材がちょっと増えました。家具の配置と保存については、まだ細かいところの確認が必要なんだけど、前より組み合わせの幅が広がってるよ』
開拓者の声に合わせ、通信画面へ開発用の設計図が映し出された。小さな家屋の内部には机や椅子が置かれ、窓辺には植木鉢が並んでいる。屋外には石畳の小道と低い柵が設けられ、その先には、庭園として整えられそうな空間が残されていた。
画像を拡大し、家具と壁の間隔を確かめた。室内に収められたものは、まだ試作素材らしい簡素な質感を残しているものの、置き方によっては、誰かがそこで生活していると想像できる。窓際に机を寄せるか、部屋の中央へ置くかによって、同じ空間でも過ごし方が変わりそうだった。
「以前より、随分と細かなところまで整えられるようになりましたね。家具の配置によってお部屋の印象が変わるのも、なかなか興味深いものです」
『でしょ? こういうの、やり始めると結構止まらないんだよね。さっきまで家具を並べてたんだけど、机を動かしたら椅子も気になって、椅子を動かしたら今度は窓との距離が気になって……』
「まあ。それは、仕立てでもよくあることですよ。ひとつ整えると、今まで気づかなかったところが見えてくるものですから」
アグライアがそう返すと、開拓者は画面の向こうで大きく頷いた。
『そうそう、それ! アグライアなら分かってくれると思った!』
開拓者はさらに別の画像を開き、家具を置く前と置いたあとの室内を並べて見せてくれた。壁や床の構造は同じなのに、長椅子を窓辺へ置くだけで、そこが誰かの休憩場所として使われる光景を思い描けるようになる。
その変化を見比べながら、アグライアは、何を配置できるかという情報だけでは、こうした楽しさはなかなか伝わらないだろうと感じた。実際に試してみた開拓者が楽しそうなのは、操作そのものを通じて、少しずつ景色が変わっていくからなのだ。
しかし、まだ触れたことのない人が、家屋や家具を配置できると説明されただけで、同じ楽しさを想像できるとは限らない。アグライアは茶器を置き、画面の向こうへ穏やかに問いかけた。
「ところで、星さん。こちらは、今のところ皆さんが使える素材や機能を確かめるための設計図、という理解でよろしいのでしょうか?」
『うん、そうだよ! 実際に遊べるようになるのはもう少し先だけど、開発用の画面ではこういう配置ができる、っていう確認だね』
「ありがとうございます。それでしたら、ひとつ気になることがあります。いずれ初めてこの仕組みに触れる方へ説明するとき、こうした資料だけで、どこまで使い方を想像していただけるのでしょうか」
開拓者は少し考えるように画面へ顔を近づけた。
『あー、確かに。操作の説明だけならできるけど、何を作ればいいのって聞かれたら、ちょっと困るかも』
返答にアグライアは頷き、机上に置いてあった紙を一枚引き寄せた。
そこには、以前送られてきた試作画面を参考に、彼女が簡単に描き写した建物の輪郭が残されている。仕立ての図案を考えるときと同じように、全体の形を確かめるためのものだったが、完成した景色を示すには、まだ情報が足りなかった。
例えば、庭園を作ると聞けば、草花を並べることは想像できる。しかし、どのような道を設けるのか、誰がどこへ腰掛けるのか、何を眺めながら過ごすのかによって、その場所の印象は大きく変わってくる。
ファイノンに勧めるなら、なおさらである。彼は以前から、何かを頼まれれば誠実に取り組む青年だった。曖昧な説明だけを受け取れば、自分が何を作るべきなのかを真剣に考え、誰かの期待に応えようとするかもしれない。
それでは、休息のために用意しようとしている遊びが、彼にとって新しい課題になってしまうおそれがある。アグライアは目の前の端末へ視線を戻した。
「実際にモデルケースがあれば、彼も分かりやすいと思うのですが……」
その言葉に、画面の向こうの開拓者が「あっ」と声を上げた。
『あっ、それ実は作ってないんだよね。すごくごめんなんだけど、列車は今、ゲーム開発に向けてたくさんの惑星に足を運んでて作れないっていうか……』
開拓者は申し訳なさそうに眉を下げ、手元の資料を少し持ち上げた。そこには、異なる惑星から集められた建築物や地形の参考資料がいくつも並んでいる。
アグライアが以前、オンパロスの意匠について相談を受けたときにも、別の惑星の建築様式が混ざっていると指摘したことがあったが、こうして改めて見ると、実に幅広い景色を参考にしていることが分かった。
『この前も別の星で資料集めしてきたんだけど、戻ったら戻ったで確認することが山ほどあってさ。街とかダンジョンの雛型はあるんだけど、ハウジングの使い方を説明できる完成形のダンジョンまでは、まだ手が回ってないんだよね』
開拓者はそこで少し声を落とし、肩をすくめた。
『せっかくヒアンシーがいい案を出してくれたのに、実際に見せられるものがないのは申し訳ないなって思ってる』
アグライアは、画面に並んだ資料を見つめながら、ゆっくりと首を横に振った。
「いいえ、謝る必要はありませんよ。皆さんが多くの惑星を巡り、さまざまな文化や景観を集めてくださっているからこそ、この世界も少しずつ形になっているのでしょう。モデルケースがまだ存在しないことと、開発が進んでいないことは、同じではありませんから」
その言葉に、開拓者の表情が少し和らいだ。ヒアンシーも、隣で何度か頷いている。
「そうですよ、グレーたん! わたしも、こんなに素敵なものを考えていただけるなんて思っていませんでした。新しい素材が増えるたび、どんな場所を作れるのかなって楽しみにしているんです」
『ありがと、ヒアンシー。そう言ってもらえると助かる……でも、やっぱり何かひとつ、分かりやすいものが欲しいよね』
開拓者はそう話すと、資料の一覧へ戻り、試作された家屋や庭園の画像をひとつずつ並べ始めた。その操作を眺めながら、問題の所在が少しずつ明らかになってきたことを感じていた。
必要な素材がまったくないわけではない。建物を置くことも、庭を整えることも、家具を配置することも、開発版では試せるようになり始めている。
しかし、そこから先の使い方を示すものが存在しない。いわば、美しい布地と糸と道具は揃っているものの、それをどのような衣服へ仕立てればよいのか、見本がない状態なのだ。
アグライア自身なら、素材を見ただけでいくつもの形を思い描くことができる。しかし、仕立てに馴染みのない人へ同じものを渡したところで、何から始めればよいのか分からず、手を止めてしまうこともあるだろう。
それを思えば、ファイノンに必要なのは、何を完成させるべきかを示す課題ではなく、どのような遊び方もできるのだと伝えるための、ひとつの具体例なのかもしれなかった。考え込んでいると、向かい側からキャストリスの声が聞こえた。
「……あの、モデルケースというのは、実際にどこかの景色を作って、それを見本としてお見せする、ということなのでしょうか?」
開拓者は端末越しに頷いた。
『そうそう! 例えば、家と庭があるダンジョンをひとつ作って、こういう感じにもできるよって見せられたら、初めての人も想像しやすいでしょ? まだゲームの中には入れないから、今なら設計図とかスクリーンショットで説明する形になると思うけど』
「まあ……それでしたら、わたくしにも少し分かる気がします。文章で説明していただくより、実際の景色を拝見したほうが、どこに何を置けるのか想像しやすいですものね」
キャストリスはそう話しながら、端末に表示された庭園用の素材を見つめていた。視線が一度、草花の並ぶ項目で止まり、そこから隣の長椅子へ移っていく様子を見ていると、彼女自身も何か景色を思い描こうとしているように見える。
アグライアはその反応を確かめ、静かに微笑んだ。作ることに慣れていない人が、完成した景色を手がかりに、少しずつ自分の好きなものを見つけてゆく。それこそ、モデルケースが持つ意味のひとつなのだろう。
「ただ、ひとつ注意したいことがありますね」
アナイクスが資料から顔を上げ、机の上へ指を添えた。
「見本があること自体は有益でしょう。しかし、それが正解として受け取られるようでは、自由に作るという本来の目的から外れてしまいます。特にファイノンの場合、与えられたものを完成させるための手順だと理解してしまう可能性も考慮すべきです」
アグライアは、その指摘に頷いた。以前からヒアンシーたちが心配していたのも、まさにその点だった。
ファイノンは、自分の負担を意識しないまま、誰かの期待に応えようとすることがある。外見から疲労が分かりにくい今の彼に、新しい役割を与えるのであれば、その役割がどのような意味を持つのか、慎重に考えなければならない。
「ええ、同意見です。見本とは、必ずその形にしなければならないものではなく、こういう楽しみ方もあるのだと知っていただくためのもの。ですから、ひとつの景色を押しつけるのではなく、作る過程そのものを想像できるようにしたいですね」
ヒアンシーも、明るい声で応じた。
「それなら、ファイノン様にも、きっと説明しやすくなると思います! 今日はここだけ変えてみようかな、とか、別の場所に木を置いてみようかな、とか……そんなふうに、ご自分で選んでいただけたら嬉しいです」
ふと、ファイノンが樹庭で学んでいた頃のことを思い出した。難しい課題に向き合う彼は、分からないことがあれば誰かへ尋ね、理解できたことは自分なりに確かめようとしていた。人の話を聞いているときの真剣な眼差しも、思いがけない発見をしたときの晴れやかな表情も、今なお彼女の記憶に残っている。
その姿をもう一度見たいと願う気持ちは、アグライアにもあった。けれど、だからといって、過去の彼をそのまま取り戻そうとするのは違うのだろう。
ファイノンは長い戦いを経て、以前とは異なる身体で、これからの時間を生きようとしている。彼の内側にどのような思いが残っているのかを、周囲がすべて知ることはできない。
それでも、何かを見て興味を持つことや、自分の手で新しいものを作ることなら、今の彼にも楽しめる可能性がある。その可能性を閉ざさないために、まずは選択肢を用意するべきでしょう、と机の上の紙へ視線を落とした。
これまで彼女が作ってきた衣服も、最初から完成した形で存在していたわけではない。ひとつの着想を線にし、布地の重なりを考え、身につける人の動きや好みに合わせて調整を重ねることで、少しずつ形になってきた。
ならば、今ここで求められているものも、まずは一枚の図案から考え始めればよいのではないだろうか。
「……星さん、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか。今の開発用の編集画面では、建物や家具の配置を、設計図として保存できるのですよね?」
『うん、できるよ! もちろん、まだ全部の機能が揃ってるわけじゃないけど、配置を考えて保存するところまでは試せる』
「それでしたら、最初から完成したダンジョンを用意しようとせず、どのような景色を作りたいのか、設計図を描くところから始めてもよいのかもしれませんね」
アグライアがそう言うと、開拓者は少し意外そうに目を瞬かせた。
『設計図から? ああ、なるほど! いきなりゲームの中で作ろうとするんじゃなくて、まずはどんな場所にしたいか考えるってことか』
「ええ。建物の配置や道の繋がりを考えるだけでも、その場所でどのように過ごせるのかが見えてくるでしょう。現時点では実際に歩いて確かめることはできませんから、むしろ、先に構想を整理しておくことにも意味があると思います」
ヒアンシーは興味深そうに身を乗り出し、アグライアの手元へ目を向けた。
「わあ、設計図ですか! それなら、わたしたちも一緒に考えられそうですね。お家の形や、お庭の広さを相談するだけでも楽しそうです!」
「……わたくしも、少し見てみたいです。実際に作る前でしたら、思いついたことを自由にお話ししてもよいのでしょうか?」
「もちろんですよ、キャストリス。最初から正しい形を決める必要はありません。どのような場所が心地よいと思うのか、皆さんのお考えを聞かせていただければ、それだけでもよい手がかりになるでしょう」
アグライアは穏やかに頷き、机の端に置いてあった筆記具を手に取った。まだ、何を作るかは決まっていない。どの程度の広さが必要なのかも、どのような素材を使えるのかも、これから確かめなければならないことばかりだった。けれど、何もない紙を前にしていると、アグライアには、初めて新しい衣装の図案を描くときに似た楽しさが感じられた。
完成した姿を知らないからこそ、自由に考えられることがある。作る人によって異なる景色が生まれるのなら、ひとつの見本が、ほかの誰かの発想を広げるきっかけになることもあるだろう。
そして、それがいつかファイノンの目に触れたとき、彼もまた、自分ならどんな場所を作りたいかと考えてくれるかもしれない。
筆記具を紙の上へ近づけたところで、いったん手を止めた。衣服を仕立てるとき、彼女はいつも、それを身につける人のことを考える。しかし今、描こうとしている場所については、特定の誰かだけに似合うものへ仕立てるべきではないように思えた。
ファイノンが訪れても、訪れなくても、そこに集まる人々がそれぞれの楽しみを見つけられる場所。そのような景色を考えること自体が、きっと彼女自身にとっても、新しい経験になるのだろう。
温かいお茶をひと口含み、卓を囲む仲間たちへゆっくりと目を向けた。
「では、まずは皆さんが、どのような場所で過ごしてみたいと思われるのか、お聞かせいただけますか? 設計図にするのは、そのあとでも遅くありませんから」
その言葉を合図に、円卓には再び穏やかな会話が広がっていった。窓の外では午後の陽光が少しずつ傾き、茶器の縁に映る淡い金色が、卓上に置かれた白い紙を柔らかく照らしている。
まだ何も描かれていないその一枚には、完成した街も、誰かが暮らす家も、訪れる人々の姿も存在しない。それでもアグライアには、これまで眺めてきた開発資料とは少し違うものが、そこに見え始めているように思えた。
誰かが作ってくれるのを待つばかりではなく、自分たちもまた、新しい世界の景色を考えることができる。ファイノンへ何かを背負わせるためではなく、いつか彼が、自分の望む場所を選べるように。
アグライアはまだ線を引かないまま、仲間たちの言葉へ静かに耳を傾けていた。