烈日よ、さざ波を追って   作:夜鷹ケイ

15 / 18
<前回のあらすじ>
 アグライアが開いた天文観察会(アストロノミキ・ヴラディア)は、夜を取り戻したオンパロスの人々に、静かな変化をもたらしていた。
 誰かが星を指差し、誰かが知らぬ光の名を尋ね、誰かが初めて、天蓋の向こう側にある世界へと思いを馳せる。神話の内側で終わりと再生を繰り返してきたこの地に、外へ続く問いが芽吹き始めたのである。
 その輪から少し離れた場所で、ファイノンは柔らかな草葉に触れていた。かつて剣を握り、火種を抱え、血と氷と滅びの記憶を刻んできたその手は、今、ただ夜露を含んだ草を折らぬように撫でている。消えない罪も、廻り続けた歳月も、彼の内側には残っている。それでも、傷つけずに触れられるものが、まだこの世界にはあった。
 やがて人々の問いは、星穹列車へ、天外の文明へ、まだ見ぬ朝を待つ誰かたちへと向かっていく。ファイノンは、開拓者たちの旅路を思い浮かべながら答えた。
 知らない世界へ赴き、知らない誰かと出会い、時にはその物語に踏み込んでしまう者たち。その歩みは、ただの旅ではない。閉ざされた神話の頁をめくり、次の星へと道をつなぐものだった。

 彼の旅は終わりを告げた。
 けれど、それはオンパロスの終着点ではない。

 夜空の下、星々の光を仰ぎながら、ファイノンはようやく知る。終末を越えた世界には、静かな眠りだけではなく、誰かがまた歩き出すための道が残されているのだと。


015 天路の下にて眠る

 足を向けた先に、何があるか、何もないかもしれなくても、それでも進むことへの恐れ――その問いに、わたしはどうしても、ファイノン様のお言葉にその姿を重ねてしまうのです。

 怖いこともあると思う。それでも止まらないのだと思う。怖さよりも誰かの声を聞いてしまう。そのお言葉は……きっと、グレーたんたちがやって来るまでの永く、あてのない旅路で、ファイノン様ご自身が、ずっと抱えてこられたお気持ちそのものだったのではないのですか? わたしは、そう思ってしまったのです。

 

 オンパロスの人々は、グレーたんたちの旅路に思いを馳せています。わたしも、その一人です。彼らの道行きに幸がありますように、と願いながら――同時に、その軌跡を、どこか物語のように感じていたから。

 遠い星海を巡る旅。未知へと進み続ける列車。そこにあるのは、きっと、わたしたちがまだ知らない景色ばかりで。――だからこそ、わたしは、そっと問いかけてしまいました。

 

「ファイノン様は、その星海へ行ってみたいと思われますか?」

 

 問いかけたあとで、少しだけ胸が高鳴ります。答えを急かしたいわけではないのに、どうしても、そのお心を知りたくなってしまって。

 だけど、ファイノン様は、すぐには答えられませんでした。紫の銀河を見上げたまま、ほんのわずかに唇を開いて――けれど、言葉にはならず、また静かに閉じられる。その横顔は、どこか遠くを見ているようで、けれど確かに、ここにいらっしゃいます。

 風が草を撫でて、さわさわと夜を揺らします。その音だけが、わたしたちの間を満たしていました。わたしは、その沈黙を急かさないように、ただ隣で同じ空を見上げます。

 

(……そういえば、)

 

 ふと、思い出します。

 キュレたんが、物語を綴じてしまう前。星穹列車を象った、あの記憶の箱庭で。ファイノン様は、一度だけ「開拓の旅に行ってみたい」と仰っていました。

 そのときのお声は、今のようにまっすぐなものではなくて。それがご自身の願いなのか。それとも、誰かに託された未来を確かめたいだけなのか――分からないのだと、少し困ったように仰っていたのです。

 だから、願いと呼ぶには、まだ少し難しいのだと。あのときのファイノン様の表情を思い出しながら、わたしは今、隣にいるその横顔をそっと見つめました。

 

「……そうだね。見てみたい、とは思うよ。相棒たちが見てきたものを、僕も少しだけ知りたい。オンパロスの人たちが、いつか胸を張って星海へ出ていくなら、その道がどんなものかも、知っておきたいから」

 

 口を開きかけて――やっぱりやめました。今ここで言葉にするよりも、もう少しだけ、この静かな時間をそのままにしておかなければ、そんな気がしたのです。

 アナイクス先生が、ほんの一瞬だけこちらを見ました。何も言わないけれど、先ほどの会話があるからか、「分かっていますよ」とでも言うような視線です。わたしも小さく頷いて、同じように何も言わないことを選びました。二人のあいだに落ちた沈黙は、冷たいものではなくて、夜の底でそっと結ばれる、やわらかな糸のようでした。

 一瞬だけこちらを見たファイノン様は――きっと、気づいているのでしょう。でも、気づかないふりをしてくれているのだと思います。そういう優しさを、とても自然に選ぶ人ですから。

 

 

 ファイノンは、恩師と同級生の視線に気づいていた。気づいていながら、あえて拾わない。何か言いたげなのは分かるが、どの言葉に引っかかったのかまでは読み切れない。下手に触れれば、余計なものまで引き出してしまいそうだった。

 だから、今は見ないふりを選ばせてもらう。逃げではなく、保留だ。質問内容に緊急性があればすぐにでも切り込んでくる二人だし。そう、自分に言い聞かせる。

 ぱち、ぱち、と遠い光が返事をする。まるで急かすことなく、責めることもなく、ただそこに在る。今すぐ答えなくてもいいのだと告げるように。

 

「星々を渡る旅人たちがいたから、僕らはもう知っている。空の向こうには、本当に世界がある。夢じゃない。絵物語でもない。……僕たちの知らない誰かが、今もどこかで生きている」

 

 ファイノンの声は、静かだった。

 けれど、その言葉が落ちたあと、人々の視線はもう一度空へ戻っていった。恐る恐るではない。先ほどより少しだけ、遠くを見る目で。閉ざされた天蓋の裏側を想像する目ではなく、開かれた扉の先に続く道を思い描く目。

 

 オンパロスは、星海へと続く扉の前に立っている。

 ファイノンはその輪郭を、彼らの横顔の中に見た。誰かが息を吸う。誰かが小さく笑う。誰かが、まだ見ぬ世界の名を知りたそうに、唇を動かす。

 銀河は、空想ではなかった。夢ではなく、実在だった。その事実が、この夜の星明かりよりも深く、人々の胸へ降り積もっていった。

 

「なら……それなら、空の向こうに、世界があるなら……いつか、こちらから会いに行くこともできるのでしょうか?」

 

 若い男の声だった。震えてはいない。けれど慎重だった。叶うかどうか分からない願いを、壊さないよう両手で包んでいるような声。

 その声にわずかに意識を向けた。誰のものかを確かめるより先に、そこに込められた温度を測る。恐れと期待が混じり合い、まだ形を持たないまま揺れている。彼はそれを、よく知っていた。エリュシオンからやってきた少年が、大都市を前にした時のようで。

 周囲の誰かが息を呑む。別の誰かが、幼い子供の肩をそっと抱き寄せた。子供は大人の腕の中から、まっすぐ夜空を見上げている。瞳には紫の銀河が映り、星の粒が小さく瞬いていた。

 ファイノンはその光景を、少し離れた場所から見ていた。守られる側の小さな背と、それを包む腕。そのどちらにも、今はまだ壊れていない時間がある。彼は視線を空へ戻す。星は変わらず瞬き、誰の願いも選ばずにそこにあった。

 

「行けるさ」

 

 ファイノンは顔を上げる。青い瞳に、星明かりが落ちる。そこに映る銀河は、遠く、広く、果てしない。だが、彼の声は不思議なほど穏やかだった。

 

「今すぐではないかもしれない。でも、道はもう、閉ざされていない。知らない世界があるなら、いつか誰かがそこへ向かう。オンパロスの人たちなら、きっと。」

 

 言い終えると、ファイノンはほんのわずかに肩をすくめた。大仰な宣言にするつもりはなかった。ただ、思ったことをそのまま口にしただけだ。

 それでも、その言葉は星々の下で、思いのほか遠くまで届いていったように感じる。息を呑んだ人々の音を聞きながら、自分の声が夜気に溶けていくのを、彼はどこか他人事のように聞いていた。

 その余韻が広がったあと、しばらく誰も大きな声を出さなかった。沈黙ではない、と思う。耳を澄ませば、草の擦れる音がある。誰かが衣の裾を直す、さらりという音。幼い子供が大人の腕の中で身じろぎし、眠気を噛み殺すように小さく息を吸う気配。そうした細かな音が、夜の中で確かに息づいている。

 さっきまで遠い星海へ向かって伸びていた人々の想像が、ゆっくりと足元へ戻ってくるのがわかる。ファイノンはそれを、視線ではなく、空気の変化で感じ取っていた。

 

 宇宙へ行けるかもしれない。天外の誰かに会えるかもしれない。

 そんな途方もない未来のすぐ隣で、今日の夜をどう過ごすかという話が、静かに腰を下ろす。その移ろいを、ファイノンは否定しなかった。

 むしろ、将来的には、それが当たり前のようになっている世界であってほしいとさえ思う。遠くへ手を伸ばすことと、足元に戻ること。そのどちらもが、この場所には必要なのだと、彼は知っていたから。

 

 

 ヒアンシーが両手を打ち合わせた。思いついたことをそのまま外へ出してしまう、彼女らしい仕草だと思う。ぱん、と軽い音が夜気に溶けて、妙に耳に残った。

 

「それなら、わたしたちは、“暗くなったら寝る!”という行為にも、慣れていかなくてはいけませんね。今までは時計やカンパナの音を頼りにしてきましたが、“夜空”が増えたんですから」

 

 傍らのイカルンも、それに応えるみたいに翼をぱたぱたと揺らしている。白い羽根が空気を掻いて、小さな風が足元の草を撫でていった。こういう何でもない動きまで、やけに鮮明に見えるのは、たぶん今が静かすぎるからだ。

 

「これは、とぉーっても、大切なことです! うっかり寝る時間を間違えてしまったら、朝の診療にも、配達にも、織り場の作業にも響いてしまいますからね!」

 

 空の向こうへ旅立つ話から、眠る時間の話へ。あまりにも急な転がり方に、ファイノンは一拍遅れて瞬きをした。けれど、ヒアンシーは気にしない。青緑の瞳をきらきらと瞬かせ、まるで新しい治療法でも思いついた医師のように頷いている。

 天空のヒアシンシアは、新しいものを見つければ喜ぶ。知らないものがあれば学ぼうとする。痛みを前にしても目を逸らさず、それでいて、痛みだけで世界を測らない。雨雲の切れ間に虹を見つけるような少女である。終末を越えた後ですら、その明るさは変わらなかった。

 イカルンが彼女の肩口で、もふ、と身じろぎをする。眠気が来たのか、丸い身体が少しだけ沈んだ。ヒアンシーはその気配に気づき、指先でそっと撫でる。

 

「ほら、イカルンももう眠そうです。これからはカンパナだけでなく、星の高さや空の暗さも、眠る合図になるのかもしれません。」

 

 大真面目な顔で告げるものだから、近くにいた人々の間からくすくすと笑いが零れた。

 ファイノンは彼女を見て、ふっと息を漏らした。笑った、というほど大きな動きではない。けれど、口元の力が抜ける。草葉に触れていた指先が、さわり、と小さく動いた。

 

 暗くなった寝る。眠る合図。

 ファイノンは、その言葉を胸の内でゆっくりと反芻した。あまりにも簡単で、あまりにも当たり前の響き。けれどオンパロスにとって、それは新しく手に入れた習慣のようでもあった。

 記録の中には、昼と夜があった時代のことが残っている。暦にも、神話にも、長夜の月や昼長の月という名は刻まれている。けれど、それを知っていることと、実際にその中で暮らすことは、きっと別のことなのだろうと彼は思う。

 空が暗くなって、人々が灯を落とす。家族が「おやすみ」と言ったら、布団に潜り込んで朝を待つ。その一つひとつを思い浮かべながら、ファイノンは静かに息を吐いた。どれも穏やかで、優しい流れだ。けれど同時に、どこか遠いもののようにも感じられる。

 ただそれだけのことが、今のオンパロスにはまだ少しぎこちない。何も知らない無垢なファイノンであっても悪夢に魘され、全てを知る■■■■■のときには一夜すら眠ることなく行動し続けた彼自身にとっても、同じだった。

 ファイノンは、草葉に触れていた指を止めた。さわ、と揺れていた細い葉が、ぴたりと静まる。彼の中で、いくつもの時間が重なった。黎明のミハニに照らされたオクヘイマ。終わらない白昼。カンパナの音を頼りに刻まれる生活。火を追う旅の中で眠る時間を削り、夜と呼ぶべきものさえ見失っていた日々。

 火を追う旅の中で、眠る、という行為は、無防備になることでもある。故郷を失い、愛する星は壊滅の因子に襲われ続け、――だから彼は、いつからか眠りを信用しなくなっていた。

 目を閉じた先に安らぎがあるとは限らない。夢の底に過去が沈んでいることもある。眠っている間に誰かを失うこともある。次に目を開いた時、世界がまた一つ、取り返しのつかない形へ傾いていることもあった。

 僕は、まだ眠ることを怖がっているのかもしれない。――そんな思いが、胸の奥でかすかに揺れた。けれどそれを言葉にするほどの強さはなく、ただ静かに沈んでいく。

 

「夜空を見て、そろそろ休みましょう、と思えるようになるなんて……少し不思議ですけれど、とても素敵なことだと思いませんか?」

 

 それでも、聞こえてくるヒアンシーの声は明るかった。

 彼女はそう言って、空を仰ぐ。桃色の髪が肩先でふわりと揺れる。イカルンも真似をするように首を上げ、ぷるるっ、と小さく喉を鳴らす。ヒアンシーの声音には、未知への不安よりも好奇心が勝っていた。

 

「昼が終わる合図を、鐘だけではなく空からも受け取れるようになるわけですね。食事の時間、勉強の時間、休む時間……全部、少しずつ変わっていくのでしょう。」

 

 誰かが感心したように呟いた。

 

「では、商店を閉める時刻も変えなくてはなりませんね。夜空が見えたら店仕舞い、となれば、最初のうちは皆が空を見上げて仕事を忘れそうです」

「それは困りますけど、少し見てみたいですね。街中の人がいっせいに手を止めて、あ、もう夜です、なんて言い合うところ」

「一斉にそうなったら、ちょっと面白そうだな……」

 

 くすくすと笑いが広がる。

 ファイノンは、そこにある生活の匂いを感じ取った。大きな話ではない。星海の文明でも、終末を越えた英雄譚でもない。商店を閉める時刻。食卓に並ぶ温かい料理。子供を寝かしつける声。夜更かしを咎める親。明日の仕込みを気にする職人。そうした小さな営みが、星空という新しい合図を得て、ゆっくりと形を変えていく。

 それは、救済の後にしか現れない景色だった。剣では作れない。神権では命じられない。誰かが「夜になったから休もう」と言い、別の誰かが「まだ少し星を見ていたい」と返し、やがて笑いながら家へ戻る。そんなやり取りが幾度も積み重なって、初めて生活になるのだろう。

 

 ファイノンの胸の奥で、何かが静かに軋んだ。ぎし、と古い扉が動くような感覚。痛みではない。けれど、慣れていない。彼はその感覚を表に出さないよう、指先で草を撫でる。草はまた、さわさわと小さく揺れた。

 

「……夜を見て眠る、か」

 

 零れた声は、自分でも思ったより低かった。

 ヒアンシーがこちらを見る。アナイクスも、少しだけ視線を動かした。ファイノンは空を見上げたまま、言葉を探す。あまり重くしないように。けれど、嘘にならないように。

 

「きっと、最初は慣れないだろうね。暗い空を見て、終わりだと思う人もいるかもしれない。でも……毎日ちゃんと朝が来れば、少しずつ覚えていくんだと思う。夜は、終わりじゃないって」

 

 口にしてから、彼は一拍遅れて気づいた。それは、人々へ向けた言葉であると同時に、自分自身へ向けた言葉でもあった。

 夜は、終わりではない。そんな当たり前のことを、彼はまだうまく信じきれていない。長く走り続けた者にとって、足を止めることは怖い。火を絶やさずにいた者にとって、灯を落とすことは敗北に似ている。眠ることは、守る手を離すことに近かった。

 けれど、周囲の人々は違う。彼らは今、夜を生活へ迎え入れようとしている。恐怖の名で呼ぶのではなく、休息の名で呼ぼうとしている。

 星々の巡りを眺め、夜の訪れを感じ、朝を待つ。かつて天外の世界では当たり前だった営みが、オンパロスでは今ようやく戻ろうとしていた。ファイノンは、その変化を見届けている。

 この景色を、自分が見届けられている、という事実が、どこか不思議だった。自分はいつも、次へ進むために背を向ける側だった。終わったあとの食卓も、眠りに落ちる街の灯も、朝を迎える人々の顔も、十分には知らない。

 知っているつもりで、実のところほとんど取りこぼしてきたのかもしれない。だから今、ヒアンシーの明るい声が、胸に残る。

 

「それに、夜空があるなら、夜更かしの理由も増えてしまいますね。星を見たいからもう少し起きています、と言われたら、わたしも少し迷ってしまいそうです。」

「ふ、それは、医師としては不適切な発言では?」

「でも先生だって、観測記録を取るためなら徹夜をなさるでしょう?」

「研究上必要な徹夜と、好奇心による夜更かしは区別されるべきです。」

「その区別、子供たちには難しいと思いますよ!」

 

 また笑いが起きた。今度は先ほどよりも大きい。ころころと転がるような笑い声が、星明かりの下で広がっていく。ファイノンは、その音に目を細めた。

 

 夜が来る。人々は眠る。朝が来る。人々はまた起きる。

 その繰り返しが、これからのオンパロスを作っていくのだろう。終末の回帰ではない。滅びと再創世の輪でもない。昨日が今日へ、今日が明日へ、ただ静かに進んでいくための繰り返し。

 それは、世界にとっては当たり前のことなのかもしれない。けれどファイノンには、どこか祈りにも似て感じられた。彼はそっと息を吸い、吐く。今度の呼吸は、先ほどよりも少しだけ浅くない。夜気が胸に入り、草の匂いと果実水の甘さが混じる。イカルンが肩先でもふ、と身じろぎし、羽毛の温かさが衣越しに伝わった。

 

(……もう、いいのかな)

 

 その問いは声にはならなかった。ただ、胸の奥で小さく揺れた。

 ヒアンシーは何も言わない。アナイクスも講義を始めない。人々は星を見上げ、夜を覚え始めている。ファイノンはその中で、まだ答えを持たないまま、ただ空を見上げていた。

 

 紫の銀河は静かに流れている。夜は、終わりではない。

 

(……そう思えるようになれたら、きっと)

 

 そう覚えるまでには、少し時間がかかるのだろう。オンパロスの民も、ファイノン自身も。

 けれど、星々は急かすことなく瞬いていた。ぱち、ぱち、と、遠い焚き火のように。まるで、眠っても朝は来るのだと、誰かが光でそっと教えてくれているようだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。