オンパロスの記憶領域「歳月の彼方」に再び降り立った開拓者は、異様な足跡の残る連絡を寄越したヒアンシーと再会する。
普段は穏やかな医者が見せた焦燥は、距離も手順も忘れた接触となって現れた。奇声と謝罪が交錯する中、開拓者はイカルンの温もりと、ふんわりとした髪に触れることで彼女の緊張をほどいていく。
やがて静けさを取り戻した木陰で、ヒアンシーは「遊び」についての相談を切り出そうとしていた。
ヒアンシーは吸い込んだ息をすぐには言葉へ変えず、膝の上で重ねていた両手をほどいた。細い指が一度、白い衣服の裾を撫でる。長椅子の足元ではイカルンが翼の先を小さく揺らし、葉擦れの音に混じって、柔らかな毛が布へ触れるかすかな音がした。
「実は、みなさんに少しお休みいただけるような催しを開けないかと考えていまして。」
「催し」
開拓者は聞き慣れたようでいて、聞き捨てならない単語を繰り返した。
催し。すなわちイベント。イベントとは、開催期間中だけ受け取れる報酬があり、限定品があり、場合によっては二度と入手できない記念品があるものだ。
星穹列車が立ち寄る世界で催しが開かれるたび、彼女は可能な限り顔を出してきた。祭典の危機を解決したこともあれば、博物館を経営したことも、荷物を運び、店を盛り上げ、動物を追い、模擬試合や戦闘をしたり、妙な競技へ参加したこともある。
忙しかったが、楽しかった。それに、催しが終わったあとには、そこへ集まった者たちの間へ小さな思い出が残るのも良かった。
誰かを休ませるための催しという発想も、悪くない。むしろ、とても良い。休みなさいと命じられて素直に横になる人間ばかりなら、ヒアンシーがこんな顔で待ち構える必要はないのだ。
仕事を取り上げれば別の仕事を見つけ、寝台へ押し込めば明日の予定を組み、暇を渡せば誰かの手伝いへ消えていく。開拓者の知る身近な働き者――たとえば、パム。カメラマンを自称するなのか、気づけばアーカイブの整理をしている丹恒やデーさん、ヨウおじちゃんや姫子。あれ、列車組みんなそう?――とは、だいたいそういう生き物だった。
「ふむふむ。それで、休ませたいのは誰?」
「黄金裔のみなさんを中心に、復興に携わっている方々ですね。今のオンパロスでも、誰もが明日のために懸命に動いてくださっています。もちろん、それ自体はとても喜ばしいことなのですが……」
ヒアンシーはそこで言葉を切った。視線が開拓者から外れ、星明かりの落ちる石畳へ向かう。膝に置いた右手の人差し指が、衣服の縫い目をゆっくりとなぞっていた。
「お身体に疲労が残るわけではなくても、ずっと働き続けてよい理由にはなりません。記憶体となった今も、気持ちは変化しますし、集中を続ければ心は張り詰めます。」
「うんうん。」
「そして、何より、ようやく終末を越えられたのですから……戦うことや、守ることや、復興すること以外の時間も、過ごしていただきたいんです。」
最後の言葉だけ、少し音が柔らかくなった。
開拓者は横目でヒアンシーを見た。彼女の頬には先ほどまでの赤みが残っていたものの、語る声には医療者としての落ち着きが戻っている。
ただ、元へ戻りきってはいない。患者の状態を説明しているときの彼女は、必要な情報を順番に並べ、相手の理解を確かめながら進む。今は言葉の端が少し急ぎ、呼吸のたびに胸元の布が普段より早く上下していた。
つまり、計画はある。目的もある。けれど、肝心の中身が思いつかない状態なのだろう。そこまで把握したところで、開拓者の頭に、きらめくような人選が浮かんだ。
「それなら、
彼女は自信満々に背筋を伸ばした。長椅子の背もたれから肩を離し、膝へ置いていた手を腰へ当てる。威風堂々たる姿勢である。吹き抜けた風に灰色の髪が揺れ、ハシバミ色の瞳には、自分は今きわめて有益な提案をしているという確信が輝いていた。
「ファイノン様、ですか?」
「そうそう。ファイノン。人の役に立つことに関しては筋金入りだし、オンパロスのことも、みんなのこともよく知ってる。オンパロスならではの遊びとか相談したら、三秒で百個くらい案を出してくれるかもしれないよ。」
百個は多いかもしれないが、しかしファイノンなら、十個ほど案を出したあと、頼まれていない会場の設営にまで手をつける可能性がある。ついでに人数分の食事を作り、足りない資材を運び、最後には自分だけ働いたまま「みんなが楽しめたならよかった」と穏やかに笑うところまで、かなり具体的に想像できた。
開拓者はその未来予測に一瞬だけ引っかかったが、それより先に、別の記憶がうっかりブレーキを忘れた大地獣のように横から勢いよく割り込んでくる。
以前のファイノンは、モーディスと顔を合わせれば、英雄や王子といった荘厳な肩書きをどこかへ置き去りにし、どちらが先に目的地へ着くか、どちらが多く敵を倒すか、果てはどちらがより大きな食事を平らげられるかと、実に少年らしい競争を始めたものだった。
彼ら二人が並ぶと、オンパロスを救うほどの知恵と力を持つ英雄たちの知能指数が、一時的に小学生男児の水準まで下がる超優秀な相棒である。遊びについて聞くなら、適任のはずだ。
「ファイノンなら、モーディスとのクソガキバトルで遊びの実績もあるし。競走、腕比べ、大食い、たぶん雪があったら雪玉もぶつけるだろうね。対象年齢を問わない優良コンテンツだよ。」
「あの、グレーたん……」
「うん。どう?」
「すみません。ファイノン様は、今回お休みいただきたい方の筆頭なんです。」
ヒアンシーの返答は穏やかだった。微笑みも崩れていない。けれど、その笑顔の向こう側から、反論を一歩も通さない静かな圧力がやってくる。開拓者は腰へ当てていた手を膝へ戻した。
「アッ、ハイ。」
撃沈まで一秒もかからなかった。
考えてみれば当然である。ヒアンシーの目的は、「黄金裔を中心に、復興に携わる人々を休ませること」なのに。遊びの計画を立てるために、休ませたい本人へ企画から準備、進行まで丸投げするのは、病人へ自分の治療計画書を書かせるようなものだ。
ファイノンは頼めば断らない。きっとではなく、絶対に。むしろそれどころか、相談されたことを喜び、必要以上に働く可能性が高い。善意へ善意を重ね、気づいた頃には、彼だけが舞台袖で資材を抱えている。
それでは勝利条件を満たさない。戦いに勝っても、誰かが帰れなければ勝ちとは呼べない。祭りを開いても、休ませるべき者が裏方として働き続けるなら、その祭りは半分失敗している。
開拓者は口元へ指を当て、「出番? 僕の出番かな?」と頭の中に浮かんだわくわく顔のファイノンへ「今回は座ってて」と書かれた札を提げた。頭のてっぺんで尻尾のように揺れてた双葉が、見るからにしゅんとした。ごめんって。
「じゃあ、モーディスは? あっちは祭りに詳しそう。王子様だし。」
「モーディス様にも、一度ご相談しました。」
ヒアンシーは少しだけ姿勢を開拓者の方へ向けた。話が具体的な経緯へ移ったためか、指先の動きも止まる。
「クレムノスには格式ある祭礼がいくつもあるそうです。戦勝を祝うものや、戦士の武勲を讃えるもの、競技を通じて神々へ力を奉じるものなどですね。ただ、どうしても戦える方を中心とした催しになってしまうようで……」
「うーん……。槍投げ、剣闘、素手で巨大な何かを倒す祭りとか?」
「最後のものは伺っていませんけれど、近いものはあるかもしれません。」
完全な否定ではなかった。さすがクレムノスである。祭りの企画書やポスターには、案内文として「武器を持参してください」と書かれていそうだ。
開拓者としては参加してみたいが、ヒアンシーが求めているのは、戦士だけが熱くなる競技会ではない。オクヘイマをはじめとする他の市町村から、子どもも老人も、職人も学者も、戦えない者も同じように集まれる催しだ。
「モーディス様も、クレムノスの祭礼をそのまま用いるのは難しいだろうと仰っていました。戦うことがお好きな方々には喜ばれるでしょうけれど、参加する方を選びますし、観戦するだけではお休みにならない方もいらっしゃるでしょうから」
「なるほど。全員参加型の休みがほしいんだもんね。」
「はい。できれば、何かを成し遂げなければ楽しめないものではなくて……上手にできなくても、強くなくても、そこへ居てよいと思えるものがいいんですけど、……なかなか思いつかなくて」
ヒアンシーの声は、風へ紛れそうなほど穏やかだった。それでも開拓者の耳には、はっきり届いた。何かを成し遂げなくても、そこへ居てよい。
オンパロスの英雄たちは、役割を果たすことで生き残ってきた。誰かを守り、火種を継ぎ、都市を導き、戦い、癒やし、道を拓いた。その強さを開拓者は知っている。けれど、その強さを理由に、これから先も永遠に何かを成し遂げ続けなければならないのなら、それは救われた未来とは少し違う気がする。
何も倒さない日があっていい。誰も救わず、何の責任も負わず、食事をして、遊んで、くだらない話をして、眠るだけの日があっていい。
開拓者にとって黄金裔は、物語の最後で神話になって飾られる者たちではない。次の約束をして、誘えば渋々でも来て、たまにはくだらない勝負へ付き合ってもらう相手だった。だから開拓者は顎へ触れたまま、次の候補を探した。
「じゃあアナイクス先生は? 頭が良いじゃん。頭が良い人は、だいたい古い本から使えそうな祭りを見つけられるでしょ。」
「アナイクス先生にもご相談しました。」
「速いね、ヒアンシー。」
「わたしも、できることはしてみたんですよぉ……」
わずかに頬を膨らませたヒアンシーへ、開拓者は小さく頷いた。疑ってはいない。むしろ、相談先の選び方はかなり的確だ。英雄、王子、学者と来て、最後に遊びのプロたるこの星様へ辿り着いた。布陣に隙がない。
「アナイクス先生は、古の文明に存在した祭礼を再現してはどうかと提案してくださいました。今のオンパロスで失われている文化を調べ、再び生活へ取り入れることにも意味があるだろう、と」
「いい案じゃん。」
「はい。わたしもそう思いました。」
ヒアンシーはそこで一度瞬きをし、唇に浮かべた笑みを少しだけ固くした。アナイクスへの信頼も信用も厚い彼女の、その表情だけで、後の展開が読めるようだった。
「ですが、調査を始めたところ、当時の祭礼に使われていた文字と、現在伝わっている解釈にいくつか食い違いが見つかりまして」
「おや」
「祭具の用途にも複数の説があり、開催時期の根拠となる天体観測記録も不完全で、そもそも一つの祭りだと思われていたものが、三つの異なる地域の風習を後世の学者が混同した可能性まで出てきたそうです。」
「おやおや」
「それから先生は、樹庭の研究者や学者のみなさんと一緒に資料室へ入られたまま、ほとんど出ていらっしゃいません!」
「あっちゃあ……」
開拓者の脳裏に、書物と石板と巻物で築かれた砦が浮かんだ。その中央で、アナイクスが眼帯の奥まで爛々と輝かせ、古代文字の一画について三時間ほど講義している。周囲には同じ熱量の研究者が集まり、食事を運んだ者まで議論へ取り込まれて帰ってこない。
祭りを調べていたはずが、研究者たちの大型連続イベントが始まっている。なんというか、余裕で想像がつく光景だった。
「現在は、古の文字も読み解けるファイノン様が、つきっきりで先生方のお手伝いをなさっています。」
「ファイノンの仕事が増えたんだ?」
「はい……」
「休ませる対象の仕事が、相談するたびに増えてる?」
「はい……」
ヒアンシーの縦ロールが、彼女の頷きに合わせて力なく揺れた。
開拓者は空を仰いだ。淡い星々が静かに瞬いている。世界はこれほど穏やかなのに、その下では、祭りを考えた者、祭りを調査した者、調査の補助へ入った者が、そろって働き詰めになっていた。これは一種の増殖性ワーカーホリックである。
放っておけば、休息を企画する会議の議事録を作るために別の会議が始まり、その議事録を確認する担当者まで休めなくなる。早期の封じ込めが必要だった。
「それで、もう後がありません。」
隣から聞こえた声に、開拓者はゆっくり顔を戻した。ヒアンシーは微笑んでいる。桃色の髪には星明かりが淡く滲み、膝の上では両手がきれいに重ねられていた。姿勢も、声も、可憐で穏やかな医者そのものだ。ただし、まろやかな瞳だけが、開拓者の返答を決して逃すまいと静かに据えられている。
彼女の背後に「ここで良案が出なければ、次に倒れるのは誰でしょうね。ふふ……」という乾いた文字が見える気がした。幻覚である。おそらく。
開拓者は勢いよく立ち上がり、胸を張った。風を受けて外套の裾が翻り、足元で伏せていたイカルンが驚いたように顔を上げる。
「まっかっせっなっさーい!」
伸ばした語尾は、記憶領域の木々へ軽やかに反響した。何を任されたのか、まだ半分ほどしか分かっていない。けれど、困っている友人がいて、休めていない者たちがいて、自分に遊びの知恵を求めている。それだけ分かれば、引き受ける理由としては十分だった。
開拓者はもう一度長椅子へ座り直し、今度は身体ごとヒアンシーへ向けた。確認のためにぴん、と指を立てて、顔を寄せる。
「それじゃあ、最初から整理しよう。誰を休ませたい?」
「できれば、みなさんです。」
「規模が大きい。いいね。どうやって休ませたい?」
「それが分からなくて……。お休みしてくださいとお伝えしても、みなさん、必要なことがあるからとお仕事へ戻ってしまいます。何もせずに過ごしてくださいとお願いすると、今度は他の方のお手伝いを始めてしまって」
予想どおりだった。
「だから、休むこと自体を目的にするのではなく、参加しているうちに自然とお仕事から離れられるような催しがあればと思ったんです。できれば大勢で楽しめて、戦えるかどうかを問わず、復興の妨げにもならなくて……準備に携わる方々へ負担を集中させないものがよいのですが」
「条件が多いね。」
「すみません……」
「褒めてるんだよ。条件が分かる方が考えやすいよ。」
開拓者は指を折りながら確認した。大勢で参加できる。能力を問わない。準備は重すぎない。仕事から自然に離れられる。誰か一人を裏方へ閉じ込めない。できれば、参加した本人が休まされたと気づかないくらい楽しい。
「難易度は高いけど、無理ではないね。」
彼女がこれまで旅した世界には、力比べ以外にも数え切れないほどの遊びがあった。食べる祭り、踊る祭り、贈り物を交換する日、奇妙な仮装をする日、星空を眺める催し。何かを競うものもあれば、ただ同じ場所へ集まり、季節が巡ったことを喜ぶものもある。
問題は、オンパロスの人々が今どこまでできるのか、どんなことなら喜べるのか、それを準備することで新たに誰かが働き詰めにならないかだった。
開拓者は考えながら、ヒアンシーの手元へ視線を落とした。話し始めてから、彼女の呼吸はずいぶん整った。肩の位置も下がり、指先の白さも消えている。それでも、説明を終えたあと、ヒアンシーはすぐに次の予定を確認するように端末へ手を伸ばしかけた。
画面へ触れる寸前で開拓者の視線に気づいたのか、その手は膝へ戻される。開拓者はハシバミ色の瞳を半分ほど伏せ、じとりと隣の少女を見た。
「ヒアンシー。……あんたは?」
「は、はい?」
「あんたはどうなの?」
「わたし、ですか?」
「みんなを休ませたいのは分かった。ヒアンシーは休めてる?」
「わたしは大丈夫ですよ。みなさんほど大変なお仕事ではありませんし、体調にも問題は――」
返答が速い。医療者としての判定が速いのではなく、用意していた蓋を反射的に被せるような速さだった。しかし開拓者は何も言わずに見つめ続けた。
ヒアンシーの声が少しずつ小さくなる。視線が開拓者の瞳から頬へ、頬から肩へ、最後には足元のイカルンへと滑っていった。膝に置いた指が衣服の端を摘まみ、すぐに離す。
「……診療の合間には、休憩も取っていますよ?」
「どれぐらい?」
「それは、日によりますけれど」
「その休憩中に、患者の記録を整理したり、薬品を確認したりしてない?」
「…………」
沈黙は有力な証言だ。
開拓者は背もたれへ深く身体を預けた。そゆことね、と胸の内で頷く。
火を追う旅の最中、ヒアンシーは笑顔で多くのものを包んでいた。怖くても、不安でも、傷ついていても、誰かを安心させる必要があれば先に微笑んだ。
いま目の前にいる彼女は、あの頃より自分の状態を言葉にしようとしている。先ほども、焦っていたと自分から認めた。けれど長く続けてきた習慣は、終末が去ったからといって簡単には消えないらしい。
それに、ヒアンシーだけではない。黄金裔たちは皆、それぞれ違う方法で平静を保つことに長けていた。穏やかに笑う者もいれば、尊大に振る舞う者も、冗談へ変える者も、理屈の中へ隠れる者もいる。彼らが本気で大丈夫な顔を作れば、外から来た者には見分けがつかないこともある。
だから、本人が少しずつ表へ出そうとしている今、それを見過ごしてはいけない。開拓者は前へ身を起こし、ヒアンシーの膝を軽く指先で示した。
「星様からの条件だよ。休ませたい人の名簿に、ヒアンシーも入れること!」
「わ、わたしが企画する側なのにですか?」
「企画する側も休むの。主催者が倒れたイベントは、だいたい後味が悪いからね。」
「倒れるほどでは、ないと思うんですが……」
「私の肩を掴んで奇声を引き出したでしょ?」
「あれは、わたしだけの責任ではないと思います……!」
「私の奇声は健康状態を示すものだから、引き出したこと自体は良いことだよ。今日も活きが良かったってさ。でも、あんたがあんな勢いで来たのは珍しいことだった。」
開拓者は軽口の調子を残しながらも、視線だけは逸らさなかった。
「みんなを休ませるのは賛成だよ、私もね。でも、ヒアンシーだけが働くイベントにはしないし、させるつもりはない。誰か一人に背負わせない方法を考える。これが、絶対条件――わかった?」
ヒアンシーはすぐには答えなかった。星明かりを含んだ風が二人の間を抜け、桃色の髪の先を頬へ運ぶ。彼女はそれを耳へかけ、膝の上で手を組み直した。
やがて、まろやかな瞳が開拓者へ戻る。先ほどの無言の圧力とは違う、少し困ったような、けれどどこか肩の力を抜いた眼差しだった。
「……はい。分かりました。頑張ります!」
「よろしい。」
開拓者は厳かに頷いた。これで問題の輪郭は見えた。ワーカーホリックたちをどうにか仕事から引き剥がし、強さも技術も成果も求めず、大勢で楽しめて、企画者まで一緒に休めるイベントを作る。説明だけ聞けば、銀河を救うより難しそうだった。けれど、開拓者は難しいものほど試したくなる性分である。
全員を帰還させたあとの生活まで勝利条件に含めるなら、こういう問題から逃げるわけにはいかない。彼女は腕を組み、顎を上げた。
まずは既知の遊びを分類し、場所、人数、準備、オンパロス人の現在の存在条件を照合する必要がある。海水浴、旅行、遊園地、祭り、宴会、競技、文化体験。候補はいくつも浮かんでくる。
その中で最初に頭へ現れたのは、ざざんと押し寄せるさざ波の音。次いで、広い海と白い砂浜だった。開拓者は、名案を見つけた者の顔でヒアンシーを振り返った。