開拓者はヒアンシーの提案を受け、七夕企画の実施を即決する。
一ヶ月後、オクヘイマ大講義場を中心に開催し、各地から願いを集める方式が定まる。準備段階では過労防止のため役割分担と時間制限が設けられ、黄金裔たちの暴走も想定した管理案が整えられていく。
ファイノンは参加者として迎えられ、過度な手伝いは制限される予定となった。笑い混じりの調整の中で、祭りは「全員が願いを書く場」として輪郭を得る。星の下、未来へ向けた種が蒔かれた。
067 芽吹き結ぶ祭支度
開拓者から天外の文明――七夕という祭りのことを教わったヒアンシーは、その日のうちに黄金裔の仲間たちへ連絡を送ることにした。
思いついたばかりの企画を、まだ輪郭も整わないうちから皆へ知らせるのは、少しだけ気恥ずかしかったけれど、祭りを開くためには会場も、道具も、人手も必要になる。
何より、しばらくのあいだ人の出入りが増え、復興の作業とは異なる賑やかさがオクヘイマの一角へ持ち込まれるのだ。協力を求めるにせよ、予定を調整してもらうにせよ、知らせるのが早すぎて困ることはないだろう。
個人ルトロから上がったヒアンシーは髪の水気をタオルでとりながら医療用の記録を閉じ、机の端へ置いていた
薄い板の内側に光が灯り、見慣れた文字入力欄が現れる。手紙に慣れ親しんだ身として、買った当初は、触れた場所とは少しずれたところへ文字が出たり、直そうとして別の語まで消してしまったりと、まだ完全には扱いきれていない道具だった。しかし、今やもう慣れて遠く離れた相手へ一度に言葉を届けられる便利さは、既に身へ染みている。
(問題は、……どのような内容で書くか……ですね)
ヒアンシーも知ったばかりだから、七夕という名称だけでは、きっと誰にも伝わらない。短冊へ願いを書き、空に近い場所へ結ぶ祭りだと説明する必要がある。
願いを叶える儀式と書けば、神託や火種に関わる大仰な行事だと誤解されるかもしれないし、かといって遊びだと強調しすぎれば、忙しい皆が時間を割くほどのものではないと思われる可能性もあるだろう。
ヒアンシーは青緑の瞳を細め、入力した文を最初から読み返した。削って、足して、また読み直す。患者へ治療の内容を説明するときもそうだった。
必要な情報が足りなければ不安を生み、詰め込みすぎれば、何が大事なのか分からなくなる。言葉は薬とよく似ている。少なすぎても届かず、多すぎても受け取る側を疲れさせてしまう。相手に何かを伝えるということは、とても塩梅の調整が難しいことなのだ。
「えーっと、……"皆さまへ。今日、天外のお祭りを開拓者さんから教わりました。なんだか楽しそうだったので、わたしも天外の祭りを参考にした催しを企画しようと考えています。"」
そこまで打ち込んだところで、ヒアンシーの指が止まった。医者の問診票のようだと思われないだろうか。そういう疑問がもたげたが、再び指先が動き始める。
「ここはグレーたんの言葉をお借りして……"ざっくり説明しますね。考えているのは、願いや、これからやってみたいことを紙へ書いて、一本の木に結ぶというものです。新生を待つオンパロスで、皆さまや市民の方々が未来のお話をできる場にしたいと思っています。"」
日程は、明日、と指定してしまってよいのだろうか。
女皇であるケリュドラは復元されたオクヘイマの政務を見ており、アグライアは工房と市民の生活用品を整えるために忙しく、アナイクスは学者たちと古い資料の解読へ没頭している。
キャストリスにも店の仕事があり、モーディスはクレムノスの再建に関わっていて。セイレンス、トリスビアス、サフェルにも、それぞれの場所で必要とされる役目があった。
そして、誰よりも呼び出すことをためらう相手がいる。ファイノンは、頼まれれば断らない。頼まれなくても困っている者を見つければ手を貸し、気づいた頃には誰かの仕事を半分以上引き受けている。だからこそ、休んでもらうために考えた祭りの準備で、彼へ新しい役目を背負わせてしまっては意味がなかった。
それでも、彼だけを話し合いから外すことも違うように思えた。ファイノンのことを案じるあまり、本人の知らないところで予定を決め、守られる側へ押し込めてしまえば、彼の意思を置き去りにすることになる。
休息は命令によって与えるものではなく、安心して選べるように整えるものだ。患者を寝台へ縛りつけることと、横になっても何も失わない環境を作ることは、まったく異なる。ヒアンシーは唇をわずかに結び、文章の末尾へ一文を加えた。
「よし……! "詳しいことをご相談したいので、明日、お時間のある方は、星の降るドームへお越しいただけませんか? ご都合がつかなければ、無理にお越しいただかなくても大丈夫です。後ほど、わたしから内容をお伝えします。"」
これならば、来ることを義務にはしない。参加できない者を責める響きもない。出来るだけの配慮と、逸る気持ちを両立したメッセージだろう。
とはいえ、ファイノンがこの一文を読んだからといって、本当に無理をせず欠席を選ぶかどうかは別の話だった。ヒアンシーにとって彼の「大丈夫」は、自分自身へ向けられるときだけ、どうにも診断材料としての信頼性が低かった。
「これで……本当に大丈夫でしょうか?」
ヒアンシーが問いかけると、机のそばで丸くなっていたイカルンが顔を上げた。小さな翼をぱたぱたと動かし、短い鼻先を石板へ近づける。
当然ながら文章を読み上げてくれるわけではない。それでも、ふかふかした額を彼女の手首へ押しつけてから元気よく鳴いたので、少なくとも応援はしてくれているらしい。
「ありがとうございます、イカルン。では、送りますね。……送りますよ? 本当に、送ってしまいますからね?」
決心を促すために口へ出してみたものの、送信の印へ伸ばした指は、その直前で二度ほど宙をさまよった。診察ならば迷わず必要な処置を選べるのに、自分の考えを皆の前へ差し出すとなると、胸の奥が落ち着かない。祭りをしたいという願いが、自分だけの浮かれた考えだったらどうしよう。忙しい時期に余計な仕事を増やすなと思われたら、開拓者の大切な文化まで悪く受け取られてしまわないだろうか。
イカルンがもう一度鳴き、今度は丸い鼻先でヒアンシーの指を押した。その拍子に指先が光へ触れ、完成した文章が画面の上方へ吸い込まれていく。
「あっ」
送ってしまった。正確には、送られてしまった。
ヒアンシーは石板を両手で持ったまま固まり、その隣でイカルンは大仕事を終えたように胸を張った。取り消すべきかと一瞬考えたものの、文章に誤りがあるわけではない。今さら慌てて消してしまえば、途中まで読んだ相手をかえって戸惑わせるだろう。
「……はい。思い立ったが吉日、です」
開拓者から教わった言葉を小さく唱え、ヒアンシーは息を吐いた。口にしてみれば、不思議と背中が少しだけ伸びる。心臓の鼓動はまだ速かったが、それは恐怖だけではない。昨日、七夕の話を聞いたときに灯った熱が、胸郭の内側で小さく揺れていた。
願いを紙へ書く。
未来にしたいことを、自分の手で選び、言葉にする。
かつてのオンパロスでは、夢を語ることそのものが難しかった。次の朝が来るかも分からない世界で、何年も先の望みを口にすることは、目の前の現実から逃げる行為と見なされかねなかった。
明日を生き延びるために必要なものから先に数え、叶う見込みのない願いは胸の奥へ仕舞い込む。そうしなければ、失ったときの痛みに耐えられなかったからだ。
けれど、いまは違う。すべてが元通りになったわけではないし、新生までの道もまだ途中にある。それでも、人々は終末を乗り越え、朝の先にある時間を考えられるようになった。ならば、その時間に何をしたいのかを話してもいいはずだった。役目でも使命でもなく、誰かから託された期待でもない、自分自身の願いを。
それは思いつきではない。丁寧に土を選び、水を与えれば、きっと根を張って育てられる種なのだと、ヒアンシーには思えた。
「わ!」
石板が短く震え、驚いて取り落としかけたものを胸元で抱き留めると、画面に最初の返事が届いていた。差出人はキャストリスだった。
明日の時間を空けておくこと、手伝えることがあれば遠慮なく伝えてほしいことが、控えめながらも整った文章で記されている。最後には、小さな花の印が一つ添えられていた。
「キャスたん……」
ヒアンシーの肩から、知らず入っていた力が少し抜けた。続いて、別の通知が灯る。ケリュドラからは、企画の内容を聞いた後に会場使用の可否を判断するとの返答。文章は短く、命令書のように端的だったが、末尾には「民のためになる催しならば、検討に値する」とある。
アグライアからは、紙や布を使うなら工房で準備できるかもしれないという申し出が届き、トリスビアスからは三人分の参加を知らせる柔らかな返事が来た。
サフェルの返答は、「面白そうだから顔出したげる。でも、気分次第では途中で帰っちゃうけどね~」というものだった。その直後、アグライアが「開始前に帰ることは工房の主として認めませんからね、従業員さん」と同じ伝言欄へ書き込み、さらにサフェルから猫が毛を逆立てているような印が立て続けに送られてくる。
彼女たちの表情が目に浮かぶようで、思わず笑いが漏れた。閉ざされていた頃には、こんなやり取りを交わせる日が来るとは考えられなかった。
世界の命運でも、火を追う旅の進路でもない。まだ名前しか知らない祭りへ参加するかどうかを巡って、仲間たちが軽口を交わしている。その事実だけで、祭りは既に小さな役目を果たし始めているように思えた。
やがてアナイクスから、「あなたの企画書としては珍しく情報が不足していますね。目的、対象、必要資材、開催予定地、危険性、雨天時の代替案を整理しなさい」と長い返事が届いた。その下には、参加の可否を尋ねたはずなのに、候補となる樹木の生育条件や根系についての補足まで続いている。
「アナイクス先生、来てくださるんですね」
参加する、とは一言も書かれていない。けれど、来るつもりがなければ、ここまで具体的な指摘はしないだろう。そう判断しているうちに、モーディスから「出席する」とだけ記された返答が届き、セイレンスからは祭りに歌や音楽が必要なら相談してほしいという言葉が寄せられた。
残る名前を、ヒアンシーは無意識に探していた。けれど、ファイノンからの返答は、しばらく経っても来なかった。
送った時刻を考えれば、まだ何かの手伝いをしているのかもしれない。古い学舎で資料を運んでいる可能性もあるし、復元された街路で市民に呼び止められていることも考えられる。すぐに返事がないこと自体は、何もおかしくなかった。
それでも画面を見つめる時間が長くなっていることに気づき、ヒアンシーは石板を伏せた。返事を待つために呼吸まで止めるのは、医療従事者としてあまり褒められた姿勢ではない。吸って、吐く。肩を下げ、胸郭をゆっくり開く。自分で患者へ教えている方法を、今度は自分へ適用するのだ。――そのとき、伏せた石板が一度だけ震えた。
ぱっと石板を手に取りる。「参加するよ。手伝えることがあれば言ってくれ」 表示された文章は、それだけだった。いつものファイノンらしい、迷いのない返答。無理をしないようにと書いた一文には触れず、当然のように協力を申し出ている。
やっぱり、と思った気持ちは胸の内へ留めた。けれど、口元には安堵が浮かんだ。来てほしい気持ちと、休んでほしい気持ちは矛盾しているようで、ヒアンシーの中では同じところへ繋がっている。誰かのために働くためではなく、仲間と同じ場所にいて、皆の願いを聞き、自分の願いについて考えてほしい。そのために来てほしかったからだ。
翌日、ヒアンシーは約束した時刻よりも早く「星の降るドーム」の広間へ入った。
まだ誰もいない空間には、掃除を終えたばかりの石床の匂いと、古い書物の乾いた香りが薄く混じっていた。高い天井へ声を放てば、柔らかな反響となって戻ってきそうな広さがある。
話し合いのために椅子を円形へ並べるべきか、それとも普段どおり、それぞれが好きな場所で聞けるようにしておくべきか。
ヒアンシーは迷った末、中央へ数脚だけ置き、壁際と階段の近くには空間を残した。だって、形式を整えすぎれば、会議らしくなってしまう。今日話したいのは政務でも軍議でもなく、願いを集める祭りのことだった。疲れている者が立ち続けなくてもよいよう椅子は用意し、座る場所を選びたい者の自由も残す。そのくらいの緩さが、今日にはふさわしい。
イカルンは広間を一周し、椅子の脚や机の下を確かめたあと、ヒアンシーのそばへ戻ってきた。床へ置かれた水差しを鼻先で示され、ヒアンシーは「あっ」と声を上げる。話すことばかりを考えて、飲み物の用意を忘れるところだった。
「ありがとうございます。皆さまがお越しになる前に準備しましょうね」
水と杯を並べ、窓辺の埃をもう一度払い、短冊の試作品として切った紙を机の中央へ置く。昨日、開拓者と一緒に作ったものだ。
細長い形は揃っていないし、色も手元にあった紙を使ったため統一されていない。それでも、白、赤、淡い青、若葉色の紙片が重なっているだけで、広間の中央に小さな華やぎが生まれた。
そして、その先には一本の若木があった。鉢に収められた木は、広間の古い柱や庭の大樹と比べれば、まだ頼りない。幹は細く、枝の数も多くはなく、柔らかな葉がわずかな空気の動きに合わせて揺れている。それでも、空へ向かって真っ直ぐ伸びようとする姿には、完成した古木にはない瑞々しさがあった。
けれど、これを運んだのはヒアンシーではない。そして、ここに居るのもまた、ヒアンシーとイカルんだけではなかった。
アナイクスが候補として挙げた木を、ヒアンシーは朝から荷車へ載せ、ここまで運ぼうとしていた。ところが鉢と土の重さは、見た目から想像したものを大きく上回っていた。押し始めた直後こそ順調だったものの、緩い傾斜へ差しかかったところで車輪が石の継ぎ目へはまり、いくら力を込めても動かなくなってしまったのである。
肩へ力を入れ、両腕を伸ばして押す。桃色の髪が頬へ貼りつき、白い袖の内側へ熱がこもる。イカルンも後ろから身体を押しつけてくれたが、荷車は小さく軋むばかりだった。
「もう、少し……ですっ。せーの、で行きますよ、イカルン。せーの……!」
掛け声に合わせて押しても、車輪は石の縁を越えない。むしろ植木鉢の中で土が僅かに傾き、ヒアンシーは慌てて手を止めた。
若木を傷つけてしまっては、何のために運んでいるのか分からない。呼吸を整えてから別の道を探そうと顔を上げたところで、近くを通りかかったファイノンが足を止めたのだ。
「ヒアンシー、それを一人で運んできたのかい?」
「はい。ですが、ここまではイカルンも一緒に押してくれたので、一人ではありませんよ」
答えると、ファイノンはイカルンへ視線を落とし、少しだけ目尻を和らげた。それから荷車の車輪と鉢の傾き、坂の先までの距離を順に見て、何も大げさなことではないように袖を捲った。
「じゃあ、ここからは僕も加わろう。どこまで運ぶんだい?」
「えっ、ですが、ファイノン様にもご予定が――」
「今はないよ。それに、このまま押したら、ヒアンシーの方が先に鉢へ植わってしまいそうだ」
「う、植わりません!」
「ほんとうに?」
「たぶん……」
言い切れなかったのは、既に足が土へ根を張りそうなほど踏ん張っていたからだった。からかうように問いを重ねたファイノンは声を立てずに笑い、荷車の取っ手へ手を添えた。ヒアンシーが押してもびくともしなかった車輪は、彼が力を加えると石の継ぎ目から静かに抜けた。
結局、ファイノンは若木を広間まで運び、指定した場所へ鉢を置くところまで手伝ってくれた。重くありませんか、少し休みませんかと何度か尋ねたものの、彼はそのたびに穏やかな声で「大丈夫だよ」と答えたが……。
その言葉だけを信じてよい相手ではないと、ヒアンシーは知っている。けれど、その場で彼の歩調に乱れはなく、手元にも明らかな震えは見られなかった。少なくとも今すぐ作業を止めなければならない状態ではない。そう判断したからこそ、礼を言って手伝いを受けた。それでも、若木を置いた後も彼がそのそばを離れず、枝や葉の状態を一枚ずつ確かめる姿は、ヒアンシーの意識の端へ残り続けた。
「遅刻してしまいましたか……?」
「キャスたん! まだ始まってませんよ、おはようございます!」
「おはようございます……。本日の講義場は、なんだか、素敵な空間ですね……」
広間の入口で足音がした。
最初に姿を見せたのはキャストリスだった。彼女は敷居の前で一度足を止め、室内を静かに見回したあと、ヒアンシーへ小さく頭を下げた。触れる距離を慎重に測るように壁際を通り、中央の椅子ではなく、少し離れた場所へ腰を下ろす。
続いて、アグライアとケリュドラが入ってきた。二人の衣装が立てる布擦れの音はそれぞれ異なり、アグライアの歩みには糸を引くような滑らかさがあり、ケリュドラの靴音には石床を自分の領土へ変えていくような迷いのなさがある。アグライアは机に置かれた色紙へ目を留め、指先を顎へ添えた。
「おはようございます。……これが例の”短冊”とやらですか」
「アグライア様! おはようございます。デザインはまだ決めていませんが、今日は試作品を作ってきたんです」
「なるほど……、それは図面の仕立て甲斐がありますね」
ケリュドラは広間全体を一瞥したのち、階段の一段目へ腰を下ろす。王座のような高い場所を選ばなかったことが、今日の話をまずは仲間の一人として聞くという意思表示にも見えた。
そうしてぽつぽつ、見知った顔が増えていく。トリスビアスは楽しげに目を細め、ヒアンシーのすぐそばの椅子へ座った。
赤い髪が肩から流れ、首を傾けるたびに柔らかな光を弾く。サフェルは入口付近の壁へ背を預け、いつでも抜け出せる位置を確保していたが、視線は机の上の紙から離れていない。興味がないという態度を取るには、耳の先が少し忙しく揺れすぎていた。
アナイクスは本棚の前で立ち止まり、並んだ背表紙を一度眺めてから、若木へ視線を移した。おそらく樹種や生育状態を確かめているのだろう。モーディスは広間へ入るなり全員の位置を見回し、通路を塞がない壁際へ立った。セイレンスは窓辺へ寄り、外から届くわずかな風へ耳を澄ませるように髪を払った。
誰も同じ姿勢ではない。集まり方も、話を待つときの表情も、それぞれ違っている。それでも、呼びかけに応じてこれだけの仲間が足を運んでくれた。
ヒアンシーは胸の前で両手を軽く重ねた。指先が互いの手袋へ触れ、わずかな震えを伝える。昨日の高揚は消えていない。けれど、いま胸の奥にある熱は、焦って燃え上がる炎ではなかった。皆の顔を一人ずつ見られたことで、それは小さくとも確かな火種へ変わっていた。
これは、その場の勢いだけで生まれた思いつきではない。正しい土へ蒔き、皆で水を与えれば、未来へ向かって育てられる種なのだ。
祭りは、誰か一人を休ませるためだけのものではない。忙しさの中で自分の願いを忘れかけている者も、誰かの望みを叶えることばかり考えてきた者も、これから何をしたいのか分からない者も、同じ空を見上げられる場所にしたい。願いが見つからなければ、何も書かなくてもいい。ただ、他の誰かが未来を語る声を聞きながら、そこにいてもらえればいい。
(――その種を育てる仲間は、もうこれだけ集まっているのです……!)
ヒアンシーは深く息を吸い、胸の内側で数を数えながら、ゆっくりと吐いた。視線を上げると、若木のそばにはファイノンが立っていた。
柱へ寄りかかるでも、誰かの会話へ割って入るでもなく、細い枝の先へ目を向けている。白い髪の輪郭が葉の隙間から覗き、伸ばした指は触れる直前で止められていた。状態を確かめながら、傷つけない距離を測っているようだった。
いつもと変わらない、自然な佇まいに見える。それなのに、ヒアンシーの胸の底へ沈んでいた小さな懸念は、完全には消えてくれなかった。
若木を運ぶことを頼んだわけではない。彼はヒアンシーが苦労しているところを見つけ、自分から手を貸してくれた。今日の話し合いにも、協力を求めればきっと迷わず応じるだろう。だからこそ、祭りの準備が彼にとって新しい荷物にならないようにしなければならない。
役目を増やすのではなく、役目を手放しても仲間の輪から外れない時間を作る。そのために皆を呼んだのだと、ヒアンシーは胸の内で確かめた。
彼女は重ねていた手をほどき、話し始めるために一歩前へ出た。皆の視線が少しずつ自分へ集まってくる気配を受け止めながらも、その目を最後にもう一度だけ、若木のそばに立つファイノンへ向けた。
どこから間違えたのか分かりません……石板〇 石版× 板なんです……
067以前の文章ぜったいどっか間違えてんぜ……うがぁ……!
ヒアンシー視点では出来るだけ、しかしは使わんでおきたいこの頃……。けれど、ですけれど、ですが、でも、だって、~が、なんとなくふわっとロールがやわらかく揺れる系だと思ってる。
――しかし、本当にそうでしょうか?