終末の輪廻から解放されたオンパロスで、人々はようやく昨日を過去として、明日を予定として語り始めた。ヒアンシーはその証を、七夕の準備に追われる街の喧騒の中に見出す。
願いを託す若木を会場へ運ぶ役目を引き受けたのは、かつて世界を背負ったファイノンだった。彼の穏やかな笑顔を確かめながら、ヒアンシーは祭りの始まりへ歩みを進める。
人々の賑わいを背後へ置き、ヒアンシーとファイノンはオクヘイマの会議場から続く石畳を並んで歩いていた。先ほどまで確認表を片手に行き来していた一帯を抜けても、祭りの準備を知らせる気配は途切れない。
街路を渡る風には乾いた紙と布、それからどこかの工房で削られている木材の匂いが薄く混ざり、遠くでは荷車の車輪が石の継ぎ目を越えるたび、かたん、かたん、と規則正しく鳴っていた。急ぎ足で擦れ違う市民の腕には束ねられた飾り紐が抱えられ、別の通りからは色紙を収めた箱が運ばれてくる。
目的地である大講義場は、会議場から目と鼻の先というほど近くはないが、街を端から端まで横断するほど遠くもない。徒歩で向かえば、その途中にある街並みの変化をゆっくり眺められる程度の距離だった。けれど、今日は若木を伴うので、少しばかり労力を必要とするだろう。
少し歩いた先、準備のため一時的に確保されていた広場へ着くと、そこにはヒアンシーが何度も図面の上で確認してきた一本の木が、朝の日差しを受けながら静かに待っていた。
掘り上げられた根の周囲には十分な量の土が残され、乾燥を避けるための布と縄が幾重にも回されている。とはいえ、その根鉢だけでも人が両腕を広げて抱えられる大きさではない。枝葉を含めればなおさらで、何人かで担いで運ぼうものなら根を傷めないよう細心の注意が必要になっただろう。
「じゃあ、始めるね。念のため少し離れていてくれ」
「はい。少しでも変だと思ったら、木より先にファイノン様を止めますからね?」
「そこは木も心配してあげてほしいな」
「もちろん心配しますよ? ですから、木とファイノン様を二人まとめて守れる方法を選びましょう、と申し上げているんです」
「二人って、僕と木を同じように数えたのかい?」
白銀の青年が笑いながら根元へ向き直る。彼の声音に力みはなく、腕を捲り上げて力仕事へ備えるような素振りもなかったため、ヒアンシーもひとまず確認表を胸元へ抱え直して数歩ぶん退いた。
ファイノンが木へ直接触れたわけではない。彼は根鉢から少し離れた土へ片手を向け、指を緩く開いた。何かを掴み取るというより、眠っているものを起こさないようそっと呼び掛けるような動作だ。その直後に、足裏からごく低い振動が伝わってくる。
揺れ、と呼べるほど荒々しいものではない。石畳の下を大きな水脈が流れ始めたような、厚い大地のさらに奥側だけがゆったりと呼吸をしたような感覚だった。ヒアンシーが反射的に足元へ視線を落とす間にも、根を包んでいた土の縁がぽろぽろと崩れ落ちることはなく、むしろ見えない両手で下から支えられたように形を保っていく。
「……動かすよ」
短く告げたファイノンが半歩前へ進む。それに合わせ、若木も進んだ。なんだか持ち上がる、という表現とは少し違って見えた。
土ごと宙へ浮いたのではない。根鉢の下にある大地そのものが、そこだけ柔らかな丘となってせり上がり、その丘が青年の歩みに合わせて静かに前へ移ってゆく。
根は掘り上げられた時の形をほとんど崩さず、枝葉も無理な揺さぶりを受けない。人間が巨木を運搬しているというより、大地が木の立つ場所だけを少しずつ送り出しているようで、ヒアンシーは思わず目を丸くした。
「これは……想像していたより、ずっと静かですね」
「僕も最初はもっと大掛かりになるかと思ったんだけど、木を持ち上げようとするより、根元の土にそのまま動いてもらう方が楽みたいだ。根にも余計な力が掛からないし」
「ファイノン様にも?」
「うん。今のところは何ともないよ」
答えを聞いて、ヒアンシーは青年の横顔へ視線を移した。額に汗はなく、首筋にも不自然な力は入っておらず、歩幅も先ほどまでと変化していない。片手を若木へ向けた姿勢こそ保っているものの、肩が上がったり、呼吸に合わせて胸部が大きく動いたりする様子もなかった。
本人の「大丈夫」だけで判定するつもりはないが、少なくとも現時点では身体所見との食い違いも見当たらない。
「では、そのままの出力でお願いします。もっと速く出来そうでも速くしないでくださいね」
「了解。今日はヒアンシーが監督だから、ちゃんと言うことを聞くよ」
「今日は、ではなく、体調に関してはいつでも聞いてくださっていいんですよ?」
「……それは検討しておく」
「そこは『了解』じゃないんですか?」
ファイノンは返事の代わりに少しだけ笑った。
ヒアンシーは抗議するように頬を膨らませかけたが、歩く青年の呼吸が乱れていないことをもう一度確認し、それ以上追及するのはやめた。
言葉の上では軽く逃げられたものの、少なくとも今は彼女の指示した速度をきちんと守っている。それなら、同じ注意を何度も重ねて祭りの準備まで診察室の延長にしてしまう必要はない。
そうして二人は、一本の木を連れて街を進んだ。
当然ながら、とても目立った。
若木そのものが人の背丈を遥かに越えるうえ、その根元を支える土の塊までがゆっくりと街路を移動しているのだから、通行人が振り返らない方が難しい。
最初に足を止めたのは、飾り布を抱えて歩いていた二人の女性だった。次いで、荷箱を運んでいた青年が道の端へ寄り、何が起きているのか理解した瞬間、驚きから笑いへ表情を変える。
「あ、それが七夕の木?」
「はいっ。これから大講義場へ植えるんです!」
「こんなに大きかったのか。もっと細い枝を立てるものだと思ってたよ」
「来年も、その次の年も使えるようにしたかったので。きっと、もっともっと大きくなりますよ」
答えながら歩くヒアンシーの頭上で、枝葉がさらさらと鳴った。まだ新しい葉は薄く、朝の光をよく透かし、風が吹くたび一枚ずつ異なる角度で輝きながら、重なった場所だけが柔らかな翡翠色の影を落としていた。
その下を通り抜けようとした小さな子どもが、母親に手を引かれながら首を限界まで後ろへ反らして木を見上げている。よほど興味を引かれたらしく、二人が通り過ぎてもなお何度も振り返っていた。
ヒアンシーも、その視線につられるように木を仰ぐ。願い事を書くためだけなら、もっと簡単な方法はいくらでもあった。切った枝を並べてもいい。祭りの日だけ仮設の柱を立て、そこへ紐を張って短冊を結んでもらうことだって出来る。
それでも、植えることを選んだ。一日で役目を終えるものではなく、この先も根を伸ばし、葉を増やし、昨日より今日、今日より明日へ姿を変えていくものを中心に置きたかった。終末から解放されたばかりのオンパロスで、「いつか大きくなる」という前提を誰も疑わず受け入れられる木を。
そう考えてしまうあたり、イベントを企画した本人がいちばん欲張りなのかもしれなかった。願いを書く場所があればいいと思って始めたはずなのに、どうせなら来年も使いたいと思い、どうせなら何年も育ってほしいと思い、その木を見上げた人がいつか昔の願いを思い出してくれれば、とまで考えている。
けれど、願い事というものは、そもそも少しくらい欲張りでいいのだろう。昨日まで生き延びることばかり願っていた人々へ、好きなだけ未来を欲しがってください、と勧める催しなのだから。
「ヒアンシー、事前に決めてた搬入経路って、前の道で合ってる?」
隣から声を掛けられ、彼女は意識を現在へ戻した。
「あっ、はい。ここを真っ直ぐです。その先の曲がり角を抜ければ、ケファレ様の神像が見えてきますよ」
「分かった」
オクヘイマの街路を進むにつれ、建物の間から見える空が少しずつ広くなっていった。
会議場の周辺では人の往来や荷車の音が重なり合っていたが、目的地へ近づくほど道幅にも余裕が生まれ、風が建物に遮られず長く吹き抜けるようになる。ヒアンシーの桃色の髪もそのたび肩の後ろへ流され、片手で押さえなければ頬や睫毛へ細い房が掛かった。
一方のファイノンは、空いている方の手で前髪を軽く払う程度で、歩みを止めない。その後ろを、若木がついてくる。
なんとも奇妙な一行だった。
けれど、見慣れない光景でありながら、恐れを向ける者はいない。
道を譲った市民が「頑張ってください」と声を掛ければ、ファイノンが「ありがとう」と答える。その対象が青年なのか木なのか、あるいは祭りの準備そのものなのかは分からなかったが、言葉を受けた彼は楽しそうに目元を緩めていた。
「こうして歩いていると、もう始まってるみたいだね」
「え?」
「祭りのことだよ。ほら、みんな、木を見ただけで楽しそうだから」
ファイノンが前を向いたまま言うので、ヒアンシーも周囲へ目を向ける。
確かにそうだった。木を見送る人。誰かを呼び止めて指差す人。早く短冊を書きたいと話しているらしい子どもたち。仕事の途中で手を止めるわけにはいかないのか、遠くの窓から顔だけ覗かせている者までいる。
本番はまだ先だ。受付も始まっていないし、短冊も配っていない。それなのに、願いを結ぶための木が街を通ったというだけで、祭りが少しずつ人々のものになっている。
「ふふっ。そうですね。企画書の上ではずっと前から存在していたんですけど、こうして実物が街を通ると、ようやく皆さんにも『本当にやるんだ』って実感していただけるのかもしれません」
「ヒアンシーは?」
「わたしですか?」
「実感してる?」
問われ、ヒアンシーはすぐに答えようとして、ほんの少しだけ迷った。
準備を始めた時から忙しかった。連絡をして、説明をして、協力を募り、配置を決めて、医療面の安全性を確認して、予定が増えるたびに別の予定を調整してきた。今日だって、頭の中にはまだ確認すべき項目が残っている。
達成感を覚えるには、少し早い。
けれど。頭上で若葉が擦れ合い、風に乗った青い匂いがふっと鼻先へ届いた。土を抱えたまま歩く一本の木を、市民たちが笑顔で見送っている。
「……今、ちょっとだけ」
そう答えると、ファイノンは横目で彼女を見て笑った。
「そっか」
それだけだった。
余計な祝福も、何かを成し遂げた英雄へ贈るような大仰な称賛もない。ヒアンシーにとっては、その短い返事の方が心地よかった。
七夕を始めようとしたのは誰かに褒められるためではない。ヒアンシー自身が良いと思ったから始めて、たくさんの人が面白そうだと手を貸してくれて、それがいま一本の木になって街路を進んでいる――そんな催しには、「そっか」くらいの軽さがちょうどいい。
やがて、建物の切れ間から巨大な輪郭が姿を現した。
世負いの神、ケファレ。オクヘイマの一角に立つ神像は、離れた場所からでも視界を占めるほど大きく、近づくにつれて石造りの街並みそのものが像の足元へ集まっているように見えてくる。陽を受けた輪郭には深い陰影が刻まれ、見上げれば、人が長く信仰と畏敬を向けてきた存在の大きさが否応なく伝わってきた。
その神像の前方に、目的地である大講義場はある。
「見えてきました。あちらです」
ヒアンシーが指し示す。ケファレの神像を背景に、建物という呼び方では収まり切らないほど大きく開けた空間が広がっていた。
大講義場は、空をそのまま器にしたような場所だった。
天井も、空を切り取る窓もなく。頭上を遮るものがないため、風は街路からそのまま流れ込み、円形にひらけた場所を好きなように横切っていく。雲が太陽の前を通るたび、大きな影が石床の端から端までゆっくり移動し、ほんの数秒後にはまた白い光が戻ってくる。
講義を聞くための場でありながら、閉ざされた教室とはまるで違う。言葉も声も思考も、ここでは空へ逃げていけそうだった。
石床はまだ朝の冷たさを残していて、ヒアンシーの靴底から、ひやりとした感触が薄く伝わってくる。その一方で、会場の周縁では準備に携わる人々が行き来しており、荷物を置く音や確認を呼び合う声が、円形の空間を横切って何度も返ってきた。
冷たい石と、人の熱気。その取り合わせが妙に心地よい。ヒアンシーは入口付近で立ち止まり、確認表の紙面と実際の会場を見比べた。
短冊の受付予定地点。人の流れ。休憩場所。救護用に確保した位置。飾りを追加する箇所。人が集中した場合でも塞いではならない通路。
頭の中で一つずつ重ね合わせ、問題がないことを確かめてから、最後に中央付近へ視線を移す。
木を据える場所も、何度も検討した。大講義場そのものの利用を妨げず、短冊を結ぶ人々が一方向へ密集しすぎず、将来さらに枝葉が広がった時にも通路を塞がない位置。だけど、それだけではない。根が伸びることまで考えなければならない。今日だけ立っていればいい木ではないからだ。
「ヒアンシー、この辺りで良かったんだよね?」
ファイノンの声に、彼女は紙面から顔を上げた。彼は若木を伴ったまま、大講義場の中央から僅かに位置をずらした一角で足を止めていた。
図面上で印を付けた場所と見比べる。右へ行きすぎれば、今後の人の流れへ影響する。左へ寄せすぎれば、成長した枝が別の利用区域へ張り出す可能性がある。
ヒアンシーは数歩進み、見る角度を変えた。ケファレの神像。講義場の入口。周囲の石床。日当たり。そして若木の枝が未来に広げていくだろう輪郭。
図面の線だけで見ていた時には、数字として処理していた距離が、実際の空間ではずいぶん違って感じられる。彼女はさらに数歩横へ移り、片目を細めるようにして木と周囲を見比べた。
「もう少しだけ……ファイノン様から見て、右です」
「これくらい?」
木の根元を支える土が、彼の動きに合わせてゆっくり横へ滑る。
「あと、ほんの少しです。はい……そこです!」
「了解」
ファイノンが足を止める。静かな振動とともに、若木の根元が沈み始めた。あらかじめ石床の一部には植栽のための土壌が整えられており、その上へ根鉢が乱暴に落とされることはなかった。大地が大地を迎え入れるように、盛り上がっていた土が少しずつ低くなり、その下に用意されていた地面と境界を失っていく。
ヒアンシーは傍らまで近づいた。見るからに重そうな根鉢を前に、手を添える必要がないことへまだ少し不思議な気分を覚える。けれど作業そのものは極めて穏やかで、枝が大きく振れることもなく、若葉が風に揺れる以上の衝撃は加わっていなかった。
やがて根が落ち着くと、ファイノンは開いていた指をゆっくり下ろした。
「どうかな」
「まず、ファイノン様がこちらを向いてください」
「木じゃなくて僕から?」
「もちろんです」
ヒアンシーはすぐ青年の前へ回り込んだ。
顔色に変化なし。呼吸も乱れていない。瞳の焦点は合っており、立ち姿も安定している。額へ浮いた汗もなく、手指を確かめるように握り直す動作も見られなかった。
「眩暈はありませんか?」
「ないよ」
「息苦しさは?」
「ない」
「力を使ったところに、変な感覚は?」
「それも大丈夫。言った通り、僕が直接持ち上げたわけじゃないから」
「では、一度ここで権能の使用は止めてくださいね。根元の細かな調整も必要になったら、わたしが確認してからです」
「分かった」
素直な返事に、ヒアンシーは満足して頷いた。それからようやく、患者ではなく設営対象として木を見る。
朝の光を受けた幹はまだ若々しく、枝の一本一本も、長い年月を生きた大樹ほど重厚ではない。それでも人間の尺度で見れば十分に大きく、根元から仰げば視線は自然と高いところまで引き上げられる。若木と呼んでいるものの、その背丈は大地獣の首の途中へ届きそうなほどで、開けた大講義場に置いてさえ小さくは見えなかった。
むしろ、壮観だった。昔、この場所にあった木々を知っているヒアンシーには、その姿が妙に懐かしく、それでいて同じものの再現には見えなかった。
古いものが元通りに戻ったのではなく、新しく根を張ったのだ。まだ枝は細く、葉も柔らかい。今日ここへ植えたばかりだから、風が強く吹けば人の手で守る必要もある。けれど、それは弱さではなく、これから育つものが持つ新しさなのだろう。
「支柱を入れますね」
「手伝おうか?」
「ファイノン様は今、
「休憩って言っても、あれくらいなら――」
ヒアンシーが無言で顔を向ける。
ファイノンは言葉の途中で口を閉じた。
「……分かったよ」
「はい。とっても良いお返事です」
彼が苦笑しながら近くの石縁へ移動するのを確認してから、ヒアンシーは用意されていた支柱へ手を伸ばした。
重い作業そのものは周囲の作業員にも協力を求める。三方向から若木を支えられるよう位置を合わせ、根を傷つけない場所へ支柱を固定し、最後に幹へ回す紐の高さを調整していく。
結び目がきつすぎれば成長を阻害する。緩すぎれば風を受けた時に支えにならない。指先へ伝わる張力を確かめながら、ヒアンシーは少しずつ加減した。
新しく盛られた土は、まだ踏み固められていない。表面は柔らかく、うっかり指を差し込めば砂山のように崩れてしまいそうなのに、根の周囲だけはきちんと形を保っていた。ファイノンが移動の際に整えた部分と、もともと用意されていた土が馴染み始めているらしい。
しゃがみ込んだヒアンシーが土の表面へ指先だけ触れる。温度はまだ朝に近く、少し冷たい。
そこへ日差しが落ち、柔らかな湿り気を含んだ土の匂いが立ち上がる。石と乾いた風の印象が強かった大講義場へ、その匂いだけが小さな庭を持ち込んだようだった。
立ち上がり、最後の紐を引く。きゅ、と細い音がした。ほんの僅かな摩擦音でしかないはずなのに、周囲に壁が少ないせいか、円形の空間を転がるようによく響いた。ヒアンシーは指を止め、もう一度、軽く引く。きゅ、と鳴る。その音の向こうで、木の葉がさらさらと風へ応じていた。
まだ短冊は一枚もない。色紙も、願いを書き込む人々もいない。枝にはただ陽の光が差し込み、若い葉脈を透かしているだけだ。
それでも、この木にやがて人の言葉が結ばれるのだと思うと、胸の奥がほんの少し波打った。
生き延びたい、ではなく。死にたくない、でもなく。もっと先へ行きたい。誰かと何かをしたい。何かになりたい。誰かに笑っていてほしい。
そんな、人が未来を持っているからこそ生まれる言葉が、この細い枝へ少しずつ増えていくのだろう。今はまだ何も結ばれていない姿だからこそ、これから加わっていくものの余白まで見えるような気がした。
「どうだい?」
少し離れた場所からファイノンの声が届き、ヒアンシーは振り返る。彼は言われた通り勝手に別の作業へ手を出さず、石縁の傍らからこちらを眺めていた。陽の下にある銀白の髪が風で軽く乱れ、前髪の一房が目元へ掛かっている。
ヒアンシーは改めて若木の位置を確認するため、数歩後ろへ下がった。入り口から見た時の印象。ケファレの神像との位置関係。人々が集まった場合の余白。支柱の方向。そして、この先、幹が太くなり、枝が伸び、今より遥かに大きな木陰を作るようになった時のこと。
未来の形を正確に見ることなど出来ない。それでも今は、それを考えること自体が許されている。
何年後かに、この場所を訪れた人が、今日よりずっと太くなった幹へ手を触れるかもしれない。去年より枝が増えたと言って、また願いを結ぶかもしれない。誰かが幼い頃に書いた短冊を思い出し、その願いが叶ったとか、まだ叶っていないとか、笑いながら話す日だって来るかもしれない。
その想像のどこにも、終末を挟む必要はなかった。ヒアンシーは確認表を胸元へ抱き、若木の枝先から根元までゆっくり視線を下ろした。
問い掛けながら顔を向ける。陽の光に惹かれた精霊たちまで自然と集まってきそうな、白く明るい
そして、まだ何も飾られていない若木と、その周囲へ広がる大講義場を一度見渡したあと、彼女へ緩やかに視線を戻して、静かに頷いた。
親方ァ! 空からpkmnネタが! って感じで
ちなみに本作のファイちゃんのパートナー、ルカリオだと思う。勇者と言えば? 的なイメージが強すぎて、しかも青くて、イヌ科……イヌ科だし。