若木の成長を見守りながら、ヒアンシーは、ファイノンが少しずつ日常の笑顔を取り戻していることを感じていた。けれど、その穏やかな表情の奥には、いまだ壊滅とナヌークへの警戒が残されている。
かつて彼が語ったのは、オンパロスを守るためなら自らを危険因子として切り離すという、あまりにも静かな自己犠牲の理屈だった。彼の苦痛を完全に理解することはできない。それでも、笑えているから大丈夫だと見過ごすことも、ヒアンシーにはできなかった。
これから大きくなる木です。何年先まで生きるのか、今は誰にも分からない。それでも、育つことを前提にここへ植えた。未来が続くことを疑わずに。
その木の傍らへ立つファイノン様にも、同じように未来を前提としていてほしい。そんな願いが喉元まで上がってきましたが、声になったのは、もっと短い呼びかけだけでした。
「ファイノン様……」
彼はすぐにこちらを向きました。先ほどまでと変わらない柔らかな声で、何の警戒もなく、ただ呼ばれたから応じるように返してくださいます。
「なんだい?」
ファイノン様は、わたしが何を言い出すのか待つように、ほんの少しだけ首を傾げていました。返事は早く、声にも掠れはありません。権能を使ったあとの呼吸はもう完全に落ち着いていて、胸元の上下も穏やかです。歩いてこちらへ戻ってきた時の足取りにも鈍さはなく、顔色も先ほどから変わっていない。
わたしが医師として拾える範囲だけを見れば、いますぐ何かを問い質さなければならない異常は、どこにもありませんでした。口元には、つい少し前までアナイクス先生の口真似をして笑っていた名残が残っています。変わらない微笑み。
正確には、昔とまったく同じという意味ではありません。火を追う旅の頃より肩は緩み、人に合わせて作っているように見えた笑顔も少なくなりました。
今の彼は、面白ければ笑うし、困れば眉を下げます。分からないことには素直に首を傾げ、わたしに休んでくださいと言われれば、たまに渋りながらも従ってくださる。
人としての反応が、きちんと戻ってきています。だからこそ、わたしはすぐに言葉を返せませんでした。一度開きかけて、唇を閉じます。何も、ないわけではありません。聞きたいことなら、いくらでもあるのです。
ただ、その問いがあまりにも大きくて、祭りの準備で賑わう大講義場の真ん中へ、そのまま落としていいものなのか分かりませんでした。
(ど、どうしましょう……)
風が若木の枝を揺らします。つい先ほどより厚みを増した葉が重なり合い、さらさらと乾いた音を立てました。まだ木陰と呼ぶには淡い影が、ファイノン様の肩や足元で細かく揺れています。
その光の中に立つ彼は、きちんと今ここにいました。わたしを見て、呼べば返事をしてくださる距離にいます。なのに、不思議なことに。
彼がご自身のこれから先について語る時だけ、わたしにはその視線が、この場所より遥か遠くを向いているように見えることがありました。
それを最初に強く感じたのは、「永遠の一ページ」の先で彼が目を覚ましてから、それほど日が経っていない頃だったと思います。
身体の状態も、魂へ残った影響も、まだ誰も正確には把握しきれていなかった時期です。わたしは当然のように診察をし、アナイクス先生は当然のように観察と検証を続け、皆さんも代わる代わる様子を見に来ていました。
ファイノン様ご本人は、周囲が心配していることへ困ったように笑いながらも、思っていたより素直に休んでくださっていたのを覚えています。
その頃です。
暗黒の潮について、話題が出ました。
『暗黒の潮の手勢が、壊滅の因子によるものであると言うなら……』
その時の声を、わたしはまだ覚えています。怒鳴ったわけではなく、声を震わせたわけでもありませんでした。むしろ、とても静かでした。
何か恐ろしい事実を初めて知った人の声ではなく、幾度も考え抜き、可能性を一つずつ並べた末に、もっとも望ましくない結論を改めて口にしているような声音でした。その視線は、窓の外へ向けて。
今のような柔らかな表情でもありませんでしたが、険しい顔をしていたとも言い切れません。眉間にはほんの少し皺があり、口元は真っ直ぐ閉じられていた。ただ、わたしたちがそばにいる部屋ではなく、そこからでは見えないはずの遥か彼方を見ているような目をしていました。
そこで彼が気にしていたのは、ご自身の傷でも、身体の不調でもなかった。オンパロスが、再び見つかることでした。
それも、もっとも向けられてほしくない眼差しに。
かつてのオンパロスは、「記憶」、「知恵」、そして「壊滅」という、あまりにも大きな存在の干渉を受けました。
それぞれの意図が同じだったわけではありません。最後には救いへ繋がったものもあります。けれど、過程だけを見れば、オンパロスの人々が受けたものを「幸運」と呼ぶには、わたしの知る言葉では到底足りません。
暗黒の潮に呑まれ、生命は捻じ曲げられ、土地は壊れていきました。タイタンと火種を巡る戦いの果てに再創世へ至っても、終わるはずだった終末は終わらなかったのです。
わたしにも、その一部は分かります。医師として、目の前で変質していく身体を診たことがあります。手を尽くしても救えない方もいました。ついさっきまでお話ししていた方が、もうその人ではない何かへ変わってしまう場面だって、忘れられるものではありません。
けれど、ファイノン様が見たものは、わたしの経験を遥かに越えています。
いくつの再創世を。いくつの死を。いくつの「もう一度」を――どれほど繰り返してきたのか。数として聞いたことはあっても、その一つ一つをわたし自身が経験したわけではありません。だから、あの時の彼が何を感じていたのかを、わたしは断定出来ません。
ただ、彼は、言いました。
『オンパロスが星として新生したとき、崩壊した
そこで一度、声が止まりました。
ファイノン様は、膝の上へ置いていた手をゆっくり握りました。力任せではありません。爪が掌へ食い込むほどでもない。ただ、指が一本ずつ曲がり、最後には親指まで重なる。その小さな動きだけが、ほとんど変わらない表情の中で妙に目立っていました。
『みんなの魂が捻じ曲げられるだなんて、もう』
最後の一言は、少しだけ低かった。
それ以上、彼は何も続けませんでした。必要がなかったのかもしれません。少なくとも、わたしはその時、すぐに「大丈夫ですよ」とは言えませんでした。
何を根拠に言えばよいのか分からなかったからです。これからは絶対にナヌークの視線を受けません、なんて言えません。オンパロスはもう安全です、とも、そう言い切れるだけの知識を、わたしは持っていませんでした。
医療の場でも同じです。分からないものを「大丈夫」と言って安心させることは、優しさではありません。不安を取り除きたいからといって、存在する危険までないことには出来ないのです。
だから、彼の危惧そのものを、わたしは間違いだとは思っていません。
壊滅の星神ナヌーク。その存在を警戒すること。再びオンパロスへ眼差しを向けさせたくないと思うこと。それ自体は、わたしだって同じです。
問題は、その先でした。ファイノン様は危険を見つけると、その危険と自分の位置関係を考えます。そして時々。あまりにも自然に、自分だけを危険側へ置いてしまうのです。
『僕が
あの日。その言葉を口にした時の彼は、こちらを見ていました。
青い瞳に大きな揺れはありませんでした。自分が嫌われているとか、狙われているとか、そういう感情的な話をしているのではなく、危険因子の位置を確認するような言い方でした。
『視線を受けたという
わたしは、その時の感覚を思い出すと、今でも胸の奥が少し硬くなります。
言葉そのものは理屈でした。原因らしきものがあるなら、それを危険な場所から離す。感染源から患者さんを守るために隔離するように、火のそばから燃えやすいものを遠ざけるように、聞き方によっては合理的にすら思えてしまう。けれど、彼が「不穏分子」と呼んだものは物ではありません。
彼自身です。ファイノン様は、ご自分という人間を、危険を測る表の一項目として置いていました。わたしには、そう見えました。
その時も、彼は苦しそうな顔をしませんでした。自分を卑下して泣いているわけでも、誰かに否定してほしくて言っているようにも見えませんでした。
だから、余計に怖かったのです。もし彼が取り乱していたなら、落ち着くまでそばにいることが出来ます。思考が混乱しているのなら、順番に整理していくことも出来ます。お話をされるとき、ファイノン様は落ち着いていました。落ち着いたまま、自分がいなくなれば危険が減る可能性を検討していました。
そして、その考えはオンパロスだけで終わりませんでした。
『それは、星穹列車に乗車した場合も同じことが言える』
その言葉を、わたしが直接聞いたのは少し後だったと思います。グレーたんたちが、「それなら列車に乗ろう!」とファイノン様を星穹列車へ誘ってくださった。
その話を最初に聞いた時、わたしは嬉しかったのです。
オンパロスの外には、広い星空と知らない土地、たくさんの人々との出会いが待っています。土地の歴史や人々の暮らしについて知ることがお好きなファイノン様なら、きっと目を輝かせるものがいくつもあるのでしょう。
何より、列車なら。仲間と一緒なら。この方は一人で行ってしまわずに済むのではないか。そんな期待が、わたしの中になかったとは言えません。
けれど、あとで様子を見に来てくださったグレーたん、丹たん、なのたんの表情は、勧誘が上手くいった方々のものではありませんでした。
なのたんは分かりやすく口を尖らせていて、グレーたんもいつもより言葉が少なく、丹たんは静かでしたが、その静けさが普段よりわずかに重く感じられました。三人から聞いた内容と、その後ファイノン様自身へ確認した言葉は、ほとんど同じでした。
『幾ら君たちが強くったって、わざわざ目に見える爆弾を抱え込もうとしなくていいんだよ』
爆弾。自分を、そう呼んだのです。
なのたんは、たしかその場で怒ったそうですし、グレーたんも「そんな言い方をするな」と止めたと聞きました。わたしだって、同じ言葉を聞けば止めます。けれど、ファイノン様は誰かを傷つけるためにそう言ったのではないのでしょう。少なくとも、わたしにはそう見えませんでした。
むしろ反対です。列車のみなさんを危険へ巻き込みたくない。だから乗らない。彼は、そういう順番で考えているように見えました。
自分が列車へ乗りたいかどうかより先に、乗った場合に誰が危険になるかを考えている。そこには確かに彼らしい優しさがありますが、優しさで選んだ答えだからといって、安全であるとは限りません。誰かを守るためなら、どこまで自分を傷つけてもいいわけではないのです。
わたしがそのことを伝えようとした時、ファイノン様は少し困ったように笑いました。今とよく似た、相手を安心させようとする笑顔でしたが、その奥には、すでに結論を決めてしまった人の静けさがありました。
『それに、認めたくも言いたくもないけど』
彼はほんの少し目を伏せます。
『僕の魂には
その時だけ、声に露骨な嫌悪が混じりました。ナヌークという名を口にすることさえ厭うような響きでしたが、次の瞬間には、彼はまた冷静な危険評価へ戻っていきます。
『いつ爆発するかもわからない時限爆弾じゃないか。尚の事、僕は離れるべきだ』
わたしは咄嗟に「違います」と答えたはずです。
記憶の中の自分の声は、今思えば少し早口でした。
『ファイノン様は爆弾ではありません』
『でも、危険がないとは言い切れないだろ?』
『それとこれとは違います』
『違うかな』
『違います』
たしか、わたしは二度言いました。
彼は反論せず、ただ眉を下げて少しだけ困った顔をしました。子どもに無茶を言われた大人のようにも、こちらを心配させまいとしている人のようにも見えましたが、その表情の意味まで、わたしには決められません。
危険がある。自分が原因になり得る。なら、自分が離れる。ほら、理屈としてはおかしくないだろう、と。
それが、怖かったのです。彼の考えが支離滅裂だからではなく、あまりにも彼らしい順序で、最後まで繋がっていたからです。
ファイノン様は、オンパロスを嫌って離れたいのでも、星穹列車のみなさんと関わりたくなくて乗車を拒んでいるのでもありません。むしろ、この場所も、ここにいる方々も、列車のみなさんも大切に思っているように見えるからこそ、皆さんを守るためなら自分が離れるべきだという結論へ、あまりにも自然にたどり着けてしまう。そのことが、わたしにはどうしても怖かったのです。
嫌なら、引き留める理由を一緒に探せます。不安なら、安心出来る方法を考えられます。けれど、「大切だから離れる」と考えている人に、わたしたちもあなたが大切だから残ってくださいと伝えた時、その言葉は彼へどう届くのでしょう。
わたしたちを悲しませないために、ファイノン様がほんの少しだけ残ってくださるだけなら、それは本当に彼自身が望んだ選択と言えるのでしょうか。
記憶の中の声が薄れ、代わりにいま大講義場を渡っている風の音が戻ってきました。目の前には、ファイノン様がいます。
「ヒアンシー?」
少しだけ心配そうな声でした。わたしが長く黙ってしまったからでしょう。彼の眉尻がほんのわずかに下がっています。
現在のファイノン様は、記憶の中でナヌークについて語っていた時とは違い、穏やかな呼吸で力みなく立ちながら、まっすぐわたしへ視線を向けていました。むかしと違って覇気がない、という言葉だけで片づけるのは、きっと正しくありません。
今の彼には、日常を楽しむだけの力があります。会話への反応も早く、サフェル様の冗談には笑い、エンドモの話なら楽しそうに説明してくださる。アナイクス先生の口真似までしてみせますし、若木の成長を見れば素直に「良かった」と喜び、市民に声を掛けられれば自然に応じるのです。
そんな方を「元気がない」と一言で括ってしまえば、今ここにある彼の生活まで見落としてしまうでしょう。ただ、ご自身の未来について話す時だけは。
オンパロスを離れること、列車へ乗らない理由、壊滅やナヌークのことを口にする時、彼の視線は時折わたしたちを通り越し、もっと遠い場所へ向かうように見えるのです。まるで、自分が今立っている場所ではなく、これから危険が向かう先を、ずっと先回りして見ているかのように。
ファイノン様が本当はどこまで決めているのか、わたしには分かりません。いつ出ていくつもりなのか、本当に出ていくのか、そして何をしようとしているのかも、本人が語っていない以上、決めつけることは出来ないのです。
ただ一つ、彼が「自分が離れれば皆が安全になる」と判断した時、その選択肢を自ら捨ててくれる保証はありません。それだけは、過去の彼を知るほど、否定出来ませんでした。
怖いのは、ファイノン様が壊滅を憎み、ナヌークを止めようとしていることではありません。もし戦わなければならない日が来たのなら、わたしたちだって共に立ち向かうでしょう。問題は、その戦いの結果を考える時、ファイノン様が「壊滅がなくなるなら、自分も一緒になくなって構わない」と、ごく自然に計算へ入れてしまうかもしれないことだけが、どうしても怖かったのです。
本人から、そこまで直接聞いたわけではありません。だから、これはわたしの不安です。彼が実際にそう決めたと断定することも出来ません。
それでも、自分を不穏分子や爆弾と呼び、みんなを守るためなら自分が離れるべきだと考えた人の言葉を知っている以上、「そんなことは絶対に考えないでしょう」と楽観することも、わたしには出来ませんでした。
胸の奥が、細い針で内側から押されるように疼きました。痛いと呼ぶほど強くはないのに、呼吸をするたびそこにあることが分かり、忘れようとしても姿勢を変えた瞬間にまた触れてくる――そんな不安でした。
「すみません」
わたしはようやく口を開きました。
「ちょっと考え事をしていました」
「祭りのこと?」
「……それも、少し」
嘘ではありません。この祭りも、若木も、短冊も、すべては明日へ続く未来の話なのですから。
ファイノン様はそれ以上問い詰めませんでした。わたしの顔を少しだけ確かめるように見たあと、「そっか」と短く返します。
先ほどと同じ言葉。街を歩きながら、わたしが祭りを実感し始めたと話した時にも聞いた言葉です。けれど、今はその柔らかさが少しだけ胸へ沁みました。
「ファイノン様」
「うん?」
もう一度呼ぶと、今度は先ほどよりも声が出ました。聞きたいことはありましたが、ここで「いなくならないでください」と伝えてしまえば、また彼の善意へ縋るだけになってしまう気がします。
なら、何を言えばいいのでしょう。問い詰めるのではなく、彼の言葉を否定するのでもなく、わたしは視線をファイノン様から少しずらして若木へ向けました。
育てたばかりの葉が陽光を受けて淡く輝き、その向こうでは会場の準備が続いています。人々は今日の祭りが終わったあとにも明日が来ることを信じるように、笑い声を交わしながら忙しく動いていました。
「……この木」
「木?」
「来年には、どれくらい大きくなるでしょうね」
ずいぶん遠回りな言葉になりました。ファイノン様は若木を見上げ、枝の広がりから根元へ視線を移すと、少し考えるように顎へ手を添えました。
「種類と根付き方にもよるけど、今みたいに安定して育てば、今年より一回りは大きくなるんじゃないかな。枝も増えるだろうし」
「そうですか」
「うん。来年は、今年より高いところまで短冊を結べるかもしれないね」
その答えに、わたしは思わず彼を見ました。ファイノン様は若木の枝先を眺めたまま、何気なく「来年」と口にしたのです。
若木の成長を説明するための言葉にすぎないのでしょう。それでも、その一言は、彼がまだこの先の季節を思い描いているように聞こえました。
ファイノン様自身が来年ここにいると約束したわけではありませんし、そこまでの意味を読み取るのは、わたしの勝手なのでしょう。それでも、彼の口から「来年」という言葉が自然にこぼれたことだけで、胸に刺さっていた細い針が、ほんの少しだけ遠のいた気がしました。
「でしたら、来年はイカルンにも、もっと高いところまでお願いしないといけませんね」
「ははっ。今でも十分張り切りそうだけど」
「きっと張り切りますよ。『一番上は任せてください!』って」
「想像出来るな」
二人で少しだけ笑います。
何の解決にもなっていません。ナヌークのことも、壊滅のことも、ファイノン様がご自分をどう扱おうとしているのかも、何ひとつ答えは出ていないのです。それでも、わたしは今ここで見た彼の笑顔まで否定したくありませんでした。
同時に、記憶の中の言葉も忘れません。今日ここで笑っているファイノン様も、オンパロスの外へ危険の影を探しているファイノン様も、どちらか一方だけが本物なのではなく、わたしにはその両方が同じ一人の人として見えているのです。
だからこそ、笑えているから見なくていいとも、苦しみを知っているから笑顔まで疑うとも思いません。わたしはその両方を同じ一人の人として受け止めながら、確認表を胸元へ抱え直しました。
紙の端に残った浅い皺は、指で伸ばしても完全には消えませんでしたが、それでも文字も印も失われてはいませんでした。その些細な事実が、今のわたしの気持ちに妙に近いように思えました。
風がまた一本、若木の間を抜けていきます。ファイノン様はその葉擦れへ目を向け、少し先へ視線を移しました。
ケファレ様の神像を越えた向こう側へ、一瞬だけ視線を上げます。
空を見たのか、それとももっと遠くを考えたのか、わたしには分かりません。分からないからこそ決めつけず、ただ、その横顔だけは覚えておこうと思いました。
今ここにいる彼を見失わないために。そして、いつか彼の視線が本当に遠くへ向かう時、その変化を「大丈夫そうだから」という一言で見送ってしまわないために。
ファイちゃんの根っこに、こういう要素ありそうだなって思って……。
自分が、自分の大切に思ってる存在に害を為し得るなら遠ざかるか自滅かなんかしそう……自爆するなら嬉々としてナヌーク巻き込みに行きそうで震える。