【完結】仲正イチカは悪い大人についていく   作:曇りのち晴れ男

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エピローグ 素晴らしき神の恵み

 

 ──戦いは、終わった。

 

 長い長い一日が明け、私たちは満身創痍でトリニティ総合学園へと帰還した。スタジアムでの激闘、ブラックマーケットの混乱、そして保護された生徒たち。

 それら全ての事後処理は正義実現委員会へと引き継がれた。普段なら「面倒くさい」と逃げ出したくなるような膨大な報告書作成や事情聴取も、今回ばかりは私が先頭に立って完遂した。これが、私たちの責任であり、ケジメだからだ。

 

 首謀者である葛原カノンは、厳重な拘束衣と、幾重もの特殊手錠で雁字搦めにされ、再び連邦矯正局の奥底へと護送されていった。彼女が最後にどんな顔をしていたか、私はあえて見なかった。ただ、その強烈な「悪意」は、もう二度と私たちの平穏には届かない。

 

 そして──一番の懸念事項は、ワタヌキさんの処遇だった。

 

 傷害、違法薬物の売買、ブラックマーケットとの癒着。事情があったとはいえ、彼女の犯した罪は重く、法的に照らし合わせれば、カノンと同じく矯正局行きは免れない状況だった。けれど。

 

「絶対に、ダメですッ!! 彼女には帰る場所があるんです!!」

 

 私と先生は、なりふり構わず動いた。連邦生徒会への陳情、トリニティ上層部への嘆願、正義実現委員会への根回し。先生はそれほどないにしろ信頼をフル活用し、私は校内を駆けずり回って、彼女の減刑を求める署名を集めた。

 

『彼女は更生を誓っています』 『友人が、アオちゃんが待っているんです』 『どうか、もう一度だけチャンスをください』

 

 先生の鬼気迫る交渉と、私の必死の懇願。何より大きかったのはシャーレの先生の介入だろう。シャーレの先生の一声が決め手になり──彼女の罪が消えることはなかったが、最悪の事態は回避された。

 

 彼女が送られることになったのは、カノンがいるような暗い独房ではなく、あのハノさんが送られたところと同じ『社会復帰を前提とした更生施設』。厳しい監視下には置かれるが、そこでは通信や面会の自由もあり、真面目に務めれば早期の仮釈放も認められるという。

 

 それは、決して絶望ではない。彼女が自分の罪と向き合い、胸を張ってトリニティという「日常」に帰ってくるための、必要な「時間」が与えられたのだった。

 

 ■■■

 

 数日後、私はキサラズ学園へと向かった。荒廃した地区が多いキサラズだが、彼女──タケルさんがいるこの場所だけは、いつも静謐な空気が流れている気がする。学園のベンチに腰掛けると、竹箒で落ち葉を掃いていた彼女が、手を止めてこちらに向き直った。凛とした金髪が、風に揺れている。

 

「……そうですか。あの一件、ようやく片付いたんですね」

 

「ええ。まあ、先生とも色々ありましたけど、なんとかなったっす」

 

 私が報告すると、タケルさんは深く安堵したように息を吐き、穏やかな瞳で空を見上げた。

 

「良かった。……本当に、良かったです」

 

 その横顔は、憑き物が落ちたように晴れやかだ。かつて先生の教え子だった彼女もまた、この戦いの中で悩みながらも、自分の信じる道を貫き通した一人だ。

 

「ところで、祈りはまだ続けてるんすか?」

 

 私が尋ねると、彼女は少しだけ照れくさそうに、けれどはっきりと頷いた。

 

「ええ、もちろん。もう日課ですから」

 

「ふふ、真面目っすねぇ。でも、そういうところがタケルさんらしいっす」

 

 私は縁側から飛び降り、パンパンとスカートの砂を払うと、とっておきの提案を切り出した。先ほどまでタケルさんと一緒にキサラズ学園を掃除していた用務員さんがゴミ箱に落ち葉を捨てているのが見える。

 

「そういえば、おすすめの温泉があるんすけど、今度四人で行かないっすか?」

 

「え、温泉?」

 

 私がそう提案すると、タケルさんは目を丸くする。「四人で」というのは、私と先生、タケルさん、そしてウタハさんのことだ。『思春期相談窓口』のメンバーで、一度ゆっくり羽を伸ばしたいと思っていたのだ。

 

「場所はレッドウィンターの秘湯なんすけど、面白い噂があるんすよ?」

 

 私は声を潜め、怪談話でもするように身を乗り出した。

 

「なんとお盆が浮くんすよ! 透明人間がいるっす」

 

「……はい?」

 

 タケルさんの思考が停止したのが分かった。美しい顔がポカンとしている。

 

「いや、だから、廊下で勝手に空中に浮いたり移動したりするらしいんす! 絶対透明人間が住み着いてるんすよ~! これを見に行かない手はないっす!」

 

 無論私はその透明人間が実在することも、誰なのかも覚えている。あの温泉のことを思い出すとき、一時だって忘れたことは無い。

 

「……イチカちゃん。それは単に、風のいたずらか、あるいは……」

 

「いや、透明人間っす! 絶対!」

 

 私が根拠のない自信満々の顔で断言すると、彼女は呆れたように、しかし最後には降参したようにふわりと微笑んだ。

 

「……分かりました。そこまで言うなら、お付き合いしますよ」

 

「やった! 決まりっすね!」

 

 平和になったキヴォトスで、透明人間を探しに行く温泉旅行。そんな馬鹿げた休日が過ごせるのも、私たちが日常を取り戻した証拠なのかもしれない。

 

 ■■■

 

 トリニティ総合学園、正義実現委員会本部。その一角にある待機スペースで、私は湯呑みを片手にぼんやりとテレビ画面を眺めていた。

 

 映し出されているのは、キヴォトス地区対抗卓球大会の中継映像だ。高速で飛び交うピンポン玉。激しいラリーの応酬。そのコートの片側に立っている選手に、私は見覚えがあった。

 

「……おっ、決まった」

 

 鋭いスマッシュが決まり、実況がその名前を叫ぶ。『オオイシ選手、見事な一撃です! 以前の不調が嘘のような快進撃!』

 

 画面の中で、汗を拭いながらガッツポーズをする少女──オオイシさん。かつては「自分には才能がない」と嘆き、ラケットを置くことさえ考えていた彼女が、今はあんなにも堂々とした表情で、スポットライトの下に立っている。

 

「……やるじゃないっすか」

 

 ズズズ、と熱いお茶をすすりながら、私は自然と頬が緩むのを感じた。私たちが関わった生徒たちが、こうして自分の足で歩き、輝いている姿を見るのは悪い気分じゃない。むしろ、極上の茶菓子よりもお茶が進むというものだ。

 

「待たせましたね、イチカ」

 

 背後から凛とした声がかかり、私は湯呑みを置いて立ち上がった。振り返ると、大量の資料を抱えたハスミ先輩が、少しすまなそうな顔で立っていた。

 

「お疲れ様です、ハスミ先輩」

 

「ええ、お疲れ様です。……身体の具合はどうですか?」

 

「もうバッチリっすよ。この通り」

 

 私が軽く腕を回してみせると、ハスミ先輩は安堵のため息をつき、それから眉を下げて一枚の書類を差し出した。

 

「カノンの件が片付いたばかりだというのに、こんなすぐに次の任務についてもらうことになって、申し訳ありません。本来なら、もっと長期の休暇を取らせてあげるべきなのですが……」

 

「いえいえ、気にしないでください。暇してると余計なことを考えちゃうタイプなんで、働いてる方が性に合ってるっす」

 

 私は笑って書類を受け取った。それは、今日の警備配置図だった。

 

「そう言ってもらえると助かります。……ですが、決して無理はしないように。現場の指揮はあなたに任せますが、何かあればすぐに連絡を」

 

「了解っす。……さてと、仕事しますか」

 

 私は書類を小脇に抱え、立ち上がりかけたところで足を止めた。そういえば、もう一つ確認しておかなければならない大事なことがあった。

 

「あ、そうそう。ちなみに……ハノさんの件は……」

 

 私が恐る恐る尋ねると、ハスミ先輩はふっと表情を和らげ、安心させるように頷いた。

 

「ええ、問題なく。書類は全て受理されましたよ。彼女が矯正局から出たら、正義実現委員会で請け負います」

 

「よかったぁ……。恩に着るっす」

 

「ふふっ。あなたがあそこまで深く頭を下げるなんて、初めてのことでしたからね。断れるはずもありませんよ」

 

「あはは……まあ、あの子には色々……」

 

 私は照れ隠しに頬をかくと、今度こそ軽く手を振って背を向けた。

 

「じゃ、行ってきます!」

 

「ええ。気をつけて」

 

 ハノさんが正義実現委員会の一員として加わる。新しい仲間が増える予感に、私は足取り軽く本部を後にした。

 

 ■■■

 

 正義実現委員会の本部を後にして、しばらく。

 トリニティ自治区のゲートをくぐり、ミレニアムサイエンススクール方面との境界付近に差しかかった時のことだ。

 

 ふと、通りの向こうに目をやると、見覚えのある女子生徒が隣のパートナーらしき少女と腕を組んで、べったりと歩いているのが見えた。

 

 周りの目も気にせず、ピンク色のオーラを放ちながら二人の世界に入り込み、楽しげに笑い合っているその姿は──紛れもなくナカムラだ。以前、金銭トラブルだなんだと大騒ぎを起こした彼女だが、どうやら無事にハッピーエンドを迎えたらしい。

 

「あぁ……本当に結ばれたんすね……」

 

 私はその幸せすぎて少し直視しづらい光景を遠目に見ながら、しみじみと独りごちた。

 

「まぁ顔は確かに良かったっすからね」

 

 中身はともかく、顔面偏差値だけは無駄に高かった記憶がある。まあ、平和なことはいいことだ。末永くお幸せに。私は苦笑しながら視線を外し、歩調を早めた。

 

「おや、もう彼を『見てきた』のかい?」

 

 不意に投げかけられた声に、私は足を止めた。視線の先には、背丈ほどもある大きな機材バッグを背負い、白衣をなびかせているウタハさんの姿があった。

 

「はは、まだなんすよね。そのうち帰ってくると思うっす。多分雀荘行ってるんじゃないっすかね?」

 

「ふっ、彼らしいな」

 

 ウタハさんは苦笑して「まあいい」と呟くと、真剣な眼差しで私に向き直った。

 

「それより例のカノンのUSBだが……解析が終わったよ」

 

「えっ、もうですか? さすが仕事が早いっすね」

 

「中身は……極めて悪質なものだった。連邦生徒会の厳重なセキュリティを破り、様々なサーバーに侵入するためのウイルスプログラムが入っていたんだ」

 

「ウイルス……?」

 

「ああ。それも痕跡を一切残さず、ヴァルキューレの動きや、今後の連邦生徒会の極秘動向などがすべて手元で分かるようになる代物だ。まさに、犯罪者のためのマスターキーだよ」

 

 ウタハさんは、天才エンジニアとして純粋な技術的恐怖を感じたのか、ぞっとしたように溜息をついた。

 

「これを奴が使っていたと思うと……」

 

「ひぇぇ……末恐ろしいっすね……」

 

 背筋が寒くなるのを感じて、私は思わず身震いした。もしあの時、私たちが彼女を止めれていなければ、キヴォトス全土が彼女の手のひらの上で踊らされていたかもしれない。そう思うと、改めて今回の事件の大きさを痛感する。

 

 ウタハさんは話題を変えるように一度言葉を切り、少しだけ視線を下げて、言いにくそうに口を開いた。

 

「……彼女のことは、残念だった」

 

 名前は出さなかったが、それが矯正局へ送られたワタヌキさんのことを指しているのは明白だった。私は努めて明るく、首を横に振った。

 

「いいんすよ、やれることはやったっす。事実ワタヌキさんの罪は軽くなったっすから」

 

「……彼女は、また戻ってこれるだろうか」

 

 ウタハさんの問いかけに、私は目を閉じた。脳裏に浮かぶのは、あの日瓦礫の山の中で泣きじゃくっていた彼女の姿。『帰りたい』と叫んだ、子供のような本音。そして何より、そんな彼女を全力で受け止め、待ち続けると誓ったアオゾラさんの笑顔。今の彼女には、帰るべき場所と、待っている人がいる。それさえあれば、人はどれだけ深い闇からだって、必ず這い上がってこれるはずだ。

 

 たとえどれだけ暗い過去があっても、這い上がる意志さえ残っていれば、未来はきっと手を伸ばしてくれるから。

 

 私は目を開け、確信を込めて言い放った。

 

「……当たり前じゃないっすか」

 

「……愚問だったな」

 

 その答えが聞けて満足だったのだろう、ウタハさんは一瞬笑ってから、すぐに次の質問を投げかけた。

 

「そういえば、同じく矯正局に行ったカノンは何か聞いてるのか?」

 

「矯正局で、イチカを出せ~殺してやる~……って暴れているらしいっすよ。破壊しか楽しみがなかった人が、憎しみを知った瞬間っすね」

 

「二度と戦闘はしたくないな……」

 

「皮肉にも、彼女の作った強化薬剤しか倒し方が見当たらないっすからね……」

 

 ウタハさんは一瞬笑った後、すぐに私の様子を心配そうな目で見つめる。

 

「強化薬剤……。そうだイチカ、身体はもう問題ないのか」

 

「はい、今日ばっかりは寝てられないっすから!」

 

 私が痛みを隠して力こぶを作る真似をして見せると、ウタハさんは呆れたように、けれどどこか嬉しそうに口元を緩めた。

 

「君も大概タフだな。……まあいい、データはこちらで適切に処理しておく。礼を言うよ」

 

「はは。じゃあ、また今度!」

 

「ああ、また」

 

 ウタハさんはひらりと手を振り、颯爽とミレニアムの方角へと去っていく。私はその背中を見送りながら、大切な事務所への道を急いだ。

 

 ■■■

 

 トリニティの自治区にも、いつも通りの穏やかな午後が戻ってきた。思春期相談窓口の事務所。窓から差し込む陽光は暖かく、舞い踊る埃さえも平和の象徴のように見える。私は窓枠に肘をつき、眼下を行き交う生徒たちをぼんやりと眺めていた。

 

「うーん、まだすこし頭痛いっすね……」

 

 こめかみを指で押さえる。ズキズキとした鈍痛が、奥の方に残っている。あの時、カノンに対抗するために自ら飲んだ強化薬剤。その副作用は、まだ完全には抜けていないらしい。けれど、この痛みさえも、私たちが「地獄」から生還した証だと思えば、そう悪いものでもなかった。

 

 事務所で警備配置の書類を整理していると、廊下の向こうから何やら地鳴りのような音が聞こえてきた。敵襲? いや、殺気はない。あるのは、凄まじい熱気と黄色い歓声だ。

 

「せーんーせっ! 私の話を聞いてくださいよぉ!」

「ずるい! 次は私だってば!」

「先生、この数学の問題が分かんなくて……!」

「皆さんでもみくちゃになって……私も混ぜてください♡」

 

 ドカドカと事務所のドアが悲鳴を上げ、その中心にいた人物が部屋の中へと雪崩れ込んでくる。もみくちゃにされ、服を引っ張られ、もはや人の形をした何かなのか判別がつかない状態になっているのは──紛れもなく、私たちの先生だった。

 

「うおおおお!! お前ら一旦外で待っとけぇぇぇ!!」

 

 先生は必死の形相で生徒たちを押し留めると、這う這うの体で事務所に入り込み、私の目の前でドアを閉め切って鍵をかけた。ドン、ドンドン! とドアの向こうからノック……というより打撃音が響くが、先生は扉に背中を預けてズルズルと座り込んでしまった。

 

「は、はは……なんか穏やかじゃなくなってきたっすね」

 

 私が苦笑しながらおしぼりを差し出すと、先生はそれを受け取り、乱れたネクタイを緩めながら大きく息を吐いた。

 

「はぁ……はぁ……恋の相談とか猫の捜索とか色々お願いされてよ……何でも屋じゃねぇんだぞ……」

 

「あはは。まあ、それだけ『相談窓口』の先生として信頼されてるってことじゃないっすか?」

 

「信頼されるのは嬉しいが、限度ってもんがあるだろ……。世論も手のひらくるくるしやがって……俺は今日、普通に申請終らせて帰るつもりだったんだが……」

 

「まあまあ。どうせ明日からも同じことするんすから、今更っすよ」

 

 私はドアの向こうの喧騒を指差して、ニカっと笑った。

 

「当分は退屈しなくて済みそうっすね、先生?」

 

 先生は天井を仰ぎ、観念したように、けれどどこか楽しげに口元を緩めた。

 

「……違いない」

 

 私たちの戦いは終わったけれど、この騒がしくて愛おしい日々は、まだ始まったばかりのようだ。

 

「おっ、やっぱりヒゲ剃るとハンサム顔じゃないっすか。見直したっすよ」

 

「うるせぇな。……鏡見て自分でも違和感しかねぇんだよ」

 

 先生は照れ隠しのように鼻を鳴らし、自分のデスクへと向かった。その背中は、以前のような「世捨て人」のそれではない。

 

「……ようやく、本当の意味で先生って呼べるっすね」

 

「ああ。『シャーレの』じゃないがな」

 

 先生はデスクに置かれた新しい辞令書を、少し眩しそうに指先で弾いた。そこには『トリニティ総合学園・思春期相談窓口顧問』という肩書きが記されている。

 

 カノンの一件解決への貢献、シャーレの先生からの口添え、そして何より──被害者であったタケルさん自身や、救われたワタヌキさんたち生徒による嘆願署名。それらが実を結び、先生はただの「補助員」というアルバイト扱いから、正式に教職員としての籍を取り戻したのだ。

 

「大変だったっすもんね! タケルさんの事件で、上の人たちのイメージ払拭するの本当に苦労しましたし!」

 

「あぁ……マジで心折れそうになったな。面接で何回『暴力反対』って言わされたか」

 

 先生は深いため息をつきながらも、その表情はどこか晴れやかだ。過去の傷は消えない。けれど、その傷を背負ったまま、再び「先生」として歩き出すことを、この人は選んだのだ。

 

「先生ぇ~っ! 本当におめでとうっす~!!」

 

 感極まった私は、勢いよく先生に飛びつこうとした。

 

「バカ、やめろ」

 

 けれど無慈悲に私のタックルは、先生の掌によっておでこで受け止められた。

 

「むぅ。ケチっすね」

 

「事案だぞ。それに……浮かれてる場合か」

 

 先生は私の頭を軽く押し戻すと、真剣な眼差しで窓の外を見据えた。

 

「今度は、お前が頑張る番だ」

 

「……分かってるっすよ」

 

 今日は、歴史的な日だ。エデン条約の調印式。トリニティとゲヘナ、長きにわたる対立に終止符を打つための重要な儀式。私は正義実現委員会の一員として、その警備任務に就くことになっている。

 

「そんなに気張ることでもないんすけどね、はは」

 

 私は笑って見せるが、空気は張り詰めている。カノンの事件は片付いたが、キヴォトスにはまだ不穏な空気が漂っている。何かが起こる予感。

 

 けれど……。

 

「もし何かあったら、また助けてくださいね? 顧問の先生」

 

「あぁ。……茶沸かして待ってるから、さっさと片付けてこい。終わったら麻雀やるぞ」

 

 今の私には「帰る場所」がある。私は愛銃の点検を終え、動作を確認した。カチャリ、と小気味よい金属音が事務所に響く。

 

 先生のそのぶっきらぼうな優しさが、私の背中を押してくれる。私は大きく背伸びをして、元気にドアを開け放った。

 

 ドアの前で待機していた生徒たちをかき分けながら、私は輝くような日差しの中へと飛び出す。

 

 どんな困難が待っていても、私たちなら大丈夫。

 

 だって、ここには最強で最高の「相談窓口」があるのだから。

 

「じゃあ、行ってくるっす!」

 

 

~fin~

 

 





 どうも、曇りのち晴れ男です。
 ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。

 まずは皆さまがこの小説を最後まで応援してくれて、ここまで人気な作品へと昇華してくださったことにとても感謝しています。前作『その日、合歓垣フブキは警察に成った』の4話を執筆している時くらいにこの話のプロットが生まれましたが、その時はここまでブックマークや感想、高評価をもらえるとは思っていませんでした。

 この話の原点は、第六話『ごめんね』が始まりです。
 そうなんです、なんとプロットの開始位置は六話なんです。
 最後にハノが縄を首にかけて、イチカがそれを止めるシーン。あのシーンを絵で言うワンドロのようなノリで書いたのが始まりです。

 その時にすでにハノが開催した『あのゲーム』のことは決まっていて、話の構成もほとんど今の六話のままです。

 元々は相談窓口などなく、純粋に佐倉とイチカのバディ物になる予定だったのでしたが、「どうやって元先生とイチカが関わるんや?」と言うことになり、「よし、ほんなら思春期の相談窓口をトリニティに作ってしまおう、そこにろくな仕事見つかってない佐倉ぶちこもう」ということになり、今の思春期相談窓口ができました。



 タケルについての設定でお話ししたいことがあるのでこの場を借ります。
 学園やタケル本人の名前から分かった方もいると思います、彼女はヤマトタケルの神秘を宿しています。
 ヤマトタケルは日本神話の軍神と言われる人物で、非常に戦闘能力が高いと言われています。キヴォトスにおいて腕力だけの強さはアケミなどの存在でその限りではないと感じたため、動体視力と言う能力で戦力が上がっています。

 あまり自分のオリキャラの強さを盛ることはしたくないため、あくまでも『ヤマトタケルの神秘』という対象に絞って述べさせていただくのですが、神殺しのエピソードがいくつかあるこの神秘なら、小鳥遊ホシノの神秘にも匹敵するんじゃないでしょうか。もし別作品でヤマトタケルの神秘を使うオリキャラがいたらぜひ見てみたいですね。



 ブルアカをやってる方は分かると思いますが、全体を通して、エデン条約編のオマージュが多いです。主にどことは言わないですが、あっ! と思うシーンは何個かあったと思います。そもそもの時系列がエデン条約編とリンクしているので、もう一つのエデン条約編のような感覚で書いていました。まったくエデン条約関係ないけど……。
 もしブルアカをやってなくてエデン条約編を知らない!と言う方がいたら、見てみると本編中の細かな部分がわかるかと思います。



 そして前作「その日、合歓垣フブキは警察に成った」のあとがきを見てくださった方はご存じかと思いますが、私は力を入れた小説を書く時にテーマソングを決めて書きます。
 今回は「ずっと真夜中でいいのに。」の「海馬成長痛」をテーマとして書いています。
 色々選曲した理由はありますが、一つ特筆して挙げるとすれば「誰が僕を分かった気になれんのかね」と言う歌詞があり、この作品の登場人物たちほとんどすべてに当てはまるような歌詞だったからですね。

 オオイシの理解してもらえない劣等感、ハノの絶望、ワタヌキの怒り。そして常設イベント『T・T・T』でのイチカの暴走や佐倉の過去。それらがすべてその歌詞にこもっているような気がして選曲いたしました。ぜひ聞いてみてください。

 1話・2話・4話・6話・8話・11話・12話・エピローグのラストで流れるようなイメージですね。まるで刑事ドラマのエンドロールかのようなイメージで執筆していました。



 また、本小説内では書けなかったエピソードなどをおまけとして明日投稿したいと思います。俺・私はイチカの小説を読みに来たんだ! という人にとってはそんな特別なものでもないっちゃないので、もし気になれば読んでみる程度でいてください。



 小説内で気になることなどがあれば、遠慮せずダイレクトメッセージを送信してください。できる範囲でお答えいたします。

 とは言うものの、今見返しても私からすれば『もうちょっとできたな~……』と思う箇所はいくつもあるので、『忘れちゃった♡』といった返答も多々あると思います。ご了承ください、ご容赦ください……。



 さて、色々書いてしまいましたが、そろそろ締めくくりたいと思います。
 今回これほどたくさんの人に私の小説を見ていただき、一時はルーキーランキング1位にまでいました。良い機会と思いますので、今年の10月にある『せんアカ』にこの小説を少部数で出展したいと思っています。

 本文全てをA5サイズの冊子にまとめ、挿絵をいくつか挟みたいと思っています。
まだまだ先の話ではありますが、もしサークル枠を確保できた時、冊子として欲しい方がいたらぜひ来てください。その際はおまけエピソードを執筆してあとがきでご報告いたします。

 もし私の体力が残っていれば、冊子限定のエピソードなども入れようと思っていますが、実際どうなるかはその時の私に聞いてみてください。無責任極まりありませんね。



 そういえば先日2月3日に二十歳の誕生日を迎えました、ツバキと同じです。これからは二十代を楽しみつつ、小説を書いていきたいと思います。

 あとは次回作についてですね。次回はすでにいくつかの案があります。主人公はそれぞれキキョウ・カンナ・ヒナのどれかですね。もしかしたら増えるかもしれないです、悩ましいです。

 いずれにしろ私らしくのんびりと書いていこうと思います。



 最後にもう一度、ここまで読んでくださった方々に再度お礼を申し上げたいと思います。

 長い間の愛読、とてもうれしい評価や、様々な考察や心の温まる感想を送っていただき、誠にありがとうございました。
 自分の小説と、『ある一冊』以外の活字がまともに読めない私は、小説を書く時のクオリティは低いと思っています。それでもこんなにたくさんの人に見てもらえて、とても幸せで楽しい時間を過ごさせていただきました。

 これからもよろしくお願いいたします。

 ――曇りのち晴れ男






良ければ評価・感想等よろしくお願いします。
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