厄ネタヒロインたちとラブコメをすることになった   作:灰鉄蝸

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12:捕食者タイプの美少女だ!

 

 

 

「…………ちょっと待ってください、イヌイさんの中であたしの死がすごい軽く流されてませんか?」

 

 

 ホシノ・ミツキは困惑しきっていた。

 目の前にブレザーの制服姿の素晴らしい美少女がいた、と思っていただきたい。日光を透かしそうなほど白い肌に、艶やかな黒髪のロングヘア、そしてルビーのように赤い瞳。ほっそりとした体つきは華奢で折れそうなほどだ。

 

 切れ長の目に小顔と相まって、恐ろしいほど綺麗な子という印象。

 リョウマがやくたいもなくそう思考していると、ミツキは追い打ちをかけてきた。

 

 

「命が軽すぎませんか? いえ、この際はっきり言ってしまうと――イヌイさん、自分の命の扱いも軽すぎます」

 

 

「ああ……俺の思考とか記憶とかを遠慮なくのぞき見るのもマナー違反じゃないか?」

 

 

「そこは慣れてください。大丈夫ですイヌイさん、人間はどんな環境にも適応できると思います」

 

 

「俺の心の自由、かつてなく脅かされてるっぽいな……!」

 

 

 リョウマは今、学校にいた。進学した高校の廊下の一角で、ホシノ・ミツキと会話していた。

 新入生にとっては貴重な猶予期間(ゆうよきかん)――要するに体験入部したりして、高校生活と密接に結びついた時間をどう使うか選べる期間だ。

 

 ちなみに他人事みたいな態度だが、もちろんリョウマも当事者である。

 一週間ほど時間が戻ったため、イヌイ・リョウマは無事に平日を迎えており――現在は火曜日の放課後だった。

 

 部活動の見学やら体験入部やらのため、校内を移動する一年生の姿は数多い。当然のことながら友人と雑談しながら、次はどこに行こうか決めるものも珍しくない。

 なのでリョウマとミツキの会話はさほど、目立ってはいない。

 

 

「ホシノさん、落ち着いて聞いてくれ。俺がループしてるっていうのは、あくまで俺の主観だ。俺が完全に狂っていてリアルな妄想をしてる可能性も否定できない」

 

 

「涼しい顔で自分が狂ってる前提で話すのは……ちょっと変ですよ!?」

 

 

「大げさだね、ホシノさん。俺はいつだって平常運転さ」

 

 

 ホシノ・ミツキはその端整な顔立ちに、心からの疲労感を浮かべていた。

 

 

「イヌイさんのこと、ちょっとわかってきました。思ったより……だいぶ変な人です……! ふざけてないし真剣なのもわかりますけど!」

 

 

「人の心を読んだり洗脳したりする子に変って言われるの傷つくな……!」

 

 

 ともあれミツキが言わんとすることもわかる。

 眼前で白昼堂々振るわれた凶刃、二人そろって血みどろ(スプラッター)の死に様――普通ならば取り乱して、トラウマを負って、幼馴染みを疑ったり拒んだりするのが筋ってものだろう。

 

 恐怖も拒絶も、当たり前の日常ってやつには必要な反応なのだから。

 そういう意味では、リョウマの早すぎる環境適応――和気藹々(わきあいあい)と犯人であるベルカと会話して、直々に殺された理由の推理まで尋ねる――は度を超している。

 

 端から見るとサイコ野郎の行動かもしれない。

 しかしながらリョウマにも言い分はあった。

 

 

「ホシノさん、でも考えて見てほしいんだ。俺の立場でぐだぐだ葛藤しても、状況は何ひとつよくならないってことを。できる限りの試行錯誤(トライ・アンド・エラー)ってやつさ」

 

 

「えっ、勢いで秘密をネタバレして、問い詰められて十分で白状してますよね?」

 

 

「俺の記憶を読み込みながら問い詰めるの禁止していいか?」

 

 

「イヌイさん、時代はタイムパフォーマンスです。わずらわしい説明時間を飛ばして、あたしと情報共有できるのって格好いいですよ!」

 

 

「二酸化炭素削減の次は効率化で俺のプライバシーが蹂躙されてる……!」

 

 

 春の陽気は素晴らしかった。

 ぽかぽかと温かな空気に、ご機嫌な青空、風に舞う桜の花びら――学校の敷地の隅には桜の木が幾本も植えられていた――窓ガラスごしにも美しい景色が見えた。

 

 目の前にいる黒髪の少女は、殺風景な学校の廊下の中にあってなお華やかだった。

 つまるところ美麗なのだ。

 少女はほんのりと頬を赤く染めた。

 

 

「それ、照れます」

 

 

「照れてもいいけど……マジで反応に困る……」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 リョウマの記憶するところでは、お花見をすることになった前回のループでは、体験入部の期間中、ホシノ・ミツキはほとんど接触してこなかった。

 

 チャットアプリ越しの会話がほとんどで、かなり控えめ――言い換えると消極的で慎重――なコミュニケーションに終始していたのだ。

 ゆえにリョウマはふらふらと校内を散策して月曜日から金曜日までの放課後を過ごしたし、連んでいたのもクラスメイトぐらいだったはず。

 

 しかし今は違う。

 ホシノ・ミツキは火曜日の放課後――つまり今、リョウマの元を訪ねてきたのだ。

 行動パターンが違いすぎた。

 その理由はおそらく――

 

 

「――ホシノさん、俺の記憶を読んで、タイムリープのことを信じたからここに来たんだよな?」

 

 

「はい、正解です。イヌイさんが同じ時間を繰り返してるってお話、とっても面白かったので――来ちゃいました」

 

 

 ミツキはニコニコと上機嫌そうに微笑んでいる。

 うかつだったな、とリョウマは反省する。

 自分が知っているループものの定番は、つまるところ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という前提で成り立っている。

 

 創作(フィクション)におけるお約束は、条件を変えた試行錯誤の過程を楽しむためにできているから、自然とそういう筋書きになるのだ。

 でもそれは、ホシノ・ミツキには通用しない。

 

 どうやら少女の読心能力の射程は限りなく長いらしく――対面していなくても頭の中をのぞき見るぐらいは朝飯前のようだった。

 ゆえにリョウマが何かする前に、ミツキの側が行動を起こした。

 

 

 

――あんまりいいシチュエーションじゃないよな、これ。ベルカに殺されたことを、もう彼女は知ってしまった。

 

 

 

 先ほどの「あたしの死の扱いが軽い」という言及は、冗談めかしていたが、嘘偽らざる本音でもあるだろう。

 普通に考えて悪感情を抱くだろうし、敵対的な行動をされても不思議ではない。

 そのようにリョウマが思考した刹那、にんまりとミツキが笑った。

 

 

「イヌイさんのお話の中で、あたしは死んじゃいましたけど――いいですよ、許してあげます」

 

 

「それって()()()()()()()()()()()()には気にしてるってことかい?」

 

 

「自分の命は大事ですよ、イヌイさん。もちろんイヌイさんにとっての自分の命だってそうです。あたしは確かに悪い子です。誰かの心を読み取ることも、自分に都合よく操ることもします。でも――()()()()()()()()()()()()()なんてありません」

 

 

 皮肉が効いてると思った。

 ミツキの発言はある種、彼女自身の独特の価値観――人の心など操れて当然なのだ――ゆえの傲慢さがあった。

 

 個人の自由とか尊厳とか、そういう視点に基づくと最低の言い様かもしれない。

 だが、そんな少女の方が――()()()()()()()()()とのたまうリョウマやベルカより、よっぽど命を大事にしているのだ。

 それがおかしなことに思えたから、リョウマは笑った。

 

 

「参った、確かに俺とベルカの方がド外道かもな。ああ、許してくれると助かるよ」

 

 

「はい、許してあげちゃいます。でもこれで貸しひとつですよ?」

 

 

「そんなのありか……恩の押し売りだよな」

 

 

「イヌイさん、自分がミンチよりひどい死に方しても許してあげる心ってすごいと思いません? あたし、ご褒美がほしいんです」

 

 

 強引すぎる論理展開だった。

 実際に自分で体験したリョウマと違って、ミツキは彼の記憶をのぞき見て知っただけにすぎない。

 

 飛び散った鮮血と肉片の深紅など、所詮、ホラー映画の特殊メイクと大差ないグロテスクさだろう。

 そう思う。

 

 しかしその強引さに、少女が自分に向けている好意の熱量が感じられて、リョウマは嬉しくなってしまう。

 現金なものである。

 たぶん自分は美人に弱くてチョロい。

 

 

「はい、もっとチョロくなっていいですよ。あたし、そういう人、好きですから」

 

 

「これ、誰かに聞かれたら面倒くさくないか?」

 

 

「イヌイさん――()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ミツキはにっこりと微笑んだ。

 ものすごい美人は笑うだけで迫力が出る。

 リョウマは冷や汗を掻いた。

 

 

「ああ、放課後にものすごい美人と仲よさそうに話すのって……誤解を招きそうだよな!」

 

 

「大丈夫です。イヌイさんが幼馴染みの人のおっぱい好きでも、あたしは気にしませんよ?」

 

 

「一番、知られたくなかった場面だよ……!」

 

 

 完全に会話の主導権を取られていた。

 泣きたいぐらいぐだぐだの流れ――思えば人の心を読むのが常時発動してる超能力者なんて反則(チート)もいいところだろう。

 

 上手いこと話題を切り出して情報を聞き出すなんてスパイみたいな真似、普通の高校生にできるはずもなかった。

 リョウマがそう自戒した刹那、黒髪の少女は小首をかしげた。

 

 

 

「訊きたいことって――ええ、イヌイさんが聞いたっていう歌について、ですよね。その質問、答えてあげてもいいですよ?」

 

 

 

 リョウマは耳を疑った。

 明らかにわけありの少女の意味深な反応、おそらく一番、聞き出すのが難しいと思っていたのだけれど。

 

 からかわれているのかと思ったが、ミツキの表情に嘘は感じられなかった。

 わかっている。

 たぶん彼女は本気だ。

 

 

「……マジで? いいのかな、訊いちゃって」

 

 

 呟いてから気づいた。

 もしかしなくても、質問に答える対価として、ご褒美が求められていることに。

 ホシノ・ミツキは浮世離れした美少女である。

 長い黒髪をひるがえして、異世界からやって来たお姫様みたいに――少女は天真爛漫(てんしんらんまん)にその右手を差し出した。

 

 

 

「――イヌイさん、部活はもう決めました?

 

 

 

 捕食者の笑みは、見惚れるほどに美しかった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、少年の報告を聞いて――ベルカ・テンレンの脳は破壊された

 通話中のスマートフォンの向こうから、地の底から響くような断末魔が聞こえてきた。

 

 

 

うぐぉおぉおおおおおおぉ…………リョウマが、わたしの知らない女になびいていく……!』

 

 

 

「人聞き悪いな、俺がクソ野郎みたいだろ」

 

 

 

『クソボケ野郎だとは思ってるよ、反省しろッ!』

 

 

 

 幼馴染みのツッコミをするっと聞き流して、リョウマはため息をついた。

 

 

 

「ああ、まあな――ホシノさんと同じ部活に入ることになった。代償として情報提供してもらえる、ナイスな取引だろ?」

 

 

 

 ベルカは辛辣(しんらつ)なコメントを寄越した。

 

 

 

『わたし知ってる。ミイラ取りがミイラになるって、こういう場面で使うんだよね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










洗脳も辞さないナチュラルボーン倫理観モンスター「人の命が軽すぎませんか!?」

素で人の命が軽い会話してた幼馴染みコンビ「……反論できない…!」





幼馴染みヒロインの脳は破壊と再生を繰り返しているらしいです。






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