厄ネタヒロインたちとラブコメをすることになった   作:灰鉄蝸

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20:クソボケ・アッセンブル!

 

 

 

 結論から言おう。

 イヌイ・リョウマが抱いた抵抗感なんてものは、恐ろしく綺麗で個性(アク)が強い少女二人がそろえば無意味だった。

 つまりこういうことだ。

 

 リョウマの部屋には今、ベルカ・テンレンとホシノ・ミツキがいる。金髪と黒髪の美少女が二人、並んで自分の部屋のベッドに腰掛けている。

 非現実的なぐらい絵になる景色だった。

 

 生活感が死んでいると評判のリョウマの部屋は、殺風景で面白みがないけれど。

 二人と相対するように、ベッドから少し離れた勉強机の椅子に座って、リョウマは二人と向き合った。

 

 余計なことは考えない。

 思考すると即座にミツキに見抜かれる状況下では、如何なる想像力の行使も社会通念上の死を意味するからだ。

 

 

 

「――それじゃ始めるか、作戦会議。お題はホシノさんとベルカが俺に隠してることについてだ」

 

 

 

 思い切って本命に突っ走るまで一〇秒要らなかった。あまりにも堂々とした問いかけに、金髪碧眼の幼馴染みは呆然とした表情でうめく。

 

 

「すごいねリョウマ、なんで当事者の目の前でそれを言えるわけ?」

 

 

 我ながらどうかと思うが、感情的に腹が立つことをわめき立てても――間違いなく問題は解決しないし、あるいは感情的であることを利用されて丸め込まれる可能性があった。

 彼の幼馴染みはすこぶる有能で理性的で、人間味のある感情の扱い方も心得ているからだ。

 

 そして頭脳戦ができるほど優秀ではないリョウマにできるのは――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 想定の範囲内だったので、リョウマは涼しい顔で軽口を叩いた。

 

 

「俺がここから青春のモラトリアムを始めて延々と悩むのが好みか? 今はタイムパフォーマンスの時代らしいぜ、ベルカ。ショート動画にできそうなぐらいサクサク進めていかないとな」

 

 

「クソッ、わたしが嫌いなまとめ方しやがって……!」

 

 

「ショート動画は面白いですよ、ベルカさん! 興味なかったアニメとか映画とか知ることもいっぱいありますし!」

 

 

ぬぉおおぉおおお……一概に否定しづらい……! 一理ある、あるけど、あえて言っておこうか! わたしは倍速で映画見るのとファスト動画は許せない(たち)だよ! できればレビュー動画も見ないで体当たりで作品と向き合ってほしいと思ってる!」

 

 

 ベルカ・テンレンは超天才で有能だが、偏屈さも極まってる映画オタクだった。具体的には今日が初対面の少女に対して、異様な映画に対する愛着心を覗かせるぐらいには。

 この場で一番、モラルがぶっちぎりで低い少女――ホシノ・ミツキは隣に座るベルカに、奇異の感情を隠しもせず、小首をかしげた。

 

 

「えっ、待ってください。事前に評判わからない映画に時間使うのは……厳しくないですか?」

 

 

 人の心を読み取って操る異能の少女は俗っぽい。神秘的な振る舞いなんて考えもせず、むしろ携帯端末(スマートフォン)で享受できる恩恵にどっぷりだった。

 二時間ある映画だとか一クールあるアニメだとかは、手をつける前に面白いかどうか、ショート動画を眺めて決める。

 

 それは現代人らしいコンテンツとの向き合い方である。

 つまりこういうことだ――()()()()()()()()()()()()()天才少女の対極的感性。

 

 

「つまらない映画を見終わったあとの虚無感もきっといい経験になるよ!」

 

 

 ベルカ・テンレンは思想が強いタイプの映画オタクだった。

 もちろんそれは初心者(ビギナー)のホシノ・ミツキに肯定される日なんてやってこない寝言である。

 ミツキはちょっと引いていた。

 

 

「いえ……あたしは映画は面白い方がいいと思います!」

 

 

 正論である。

 ですよね、とミツキが赤い瞳でリョウマをちらっと見てくる。

 何でもいいがこっちの心を読み取って反応してくるのはやめてほしい。

 

 ミツキは曖昧に微笑んでいる。

 たぶん彼女の道徳も、ゆるくてふわふわだった。

 

 

「ちなみに好きな映画ってある?」

 

 

 ベルカ・テンレンは立て直しが早かった。名作も駄作も、等しく愛する行為として事前情報を集めずに向き合うという信仰心を否定されようと――そのことで人を嫌いになったりはしない。

 そこはベルカの美徳かもしれなかった。

 悪感情がない問いかけに対して、にっこりとミツキは笑って応じた。

 

 

「ゾギラ・ネガティブワンですね! こう、ドカーンって街が吹き飛ぶシーンがすごくって!」

 

 

「特撮映画はちょっと予想外……! あのシーンはいいよね、わたしも慟哭する主演俳優の叫びがよくって……ブルーレイで何回も見直すぐらい好きだよ!」

 

 

「あの叫びは見入っちゃいますよね。すごく悲しい場面なのに絵が綺麗で……!」

 

 

 何故か特撮映画の感想で女子二人は盛り上がっていた。

 脱線の仕方が凄まじすぎて、もうリョウマが目指していた既定路線(レール)なんてどこにも見えなかった。

 

 長年の付き合いでわかった。

 自分は今、ベルカによって煙に巻かれている。

 釘を刺すことになった。

 

 

「待てよ、俺は真面目な話をしてるんだぜ? 二人とももうちょっと真剣になってくれ」

 

 

 乳白(ミルク)色の肌と透けるように白い肌、それぞれが際立つような美しい顔が二つ、一斉にリョウマの方を向いた。

 対照的な青い瞳と赤い瞳が、リョウマのことをじっと見ていた。

 

 綺麗であることは、決して脅威を減らすものではない。

 困ったことにちょっと怖い。

 気圧(けお)された少年に対して、ベルカはため息をついた。

 

 

「ごめんリョウマ、いい感じに脱線してうやむやになるのを狙ってた」

 

 

「意外と小賢しい立ち回りするよな、お前」

 

 

「インテリジェンスと讃えてくれたまえ、ワトソンくん」

 

 

「嫌なホームズだな……」

 

 

「根本的な話をすると、ホームズは嫌なやつだと思うんだ。絶対に半径一〇〇メートル圏内にいてほしくないタイプの変人奇人じゃん」

 

 

「その言い方だと殺人事件を起こすみたいに――」

 

 

 リョウマはそう口にしてから気づいた。信頼と実績の殺人者、時と場合によっては幼馴染みの首を刎ねる少女に対して、この一言はあんまりすぎる。

 だらだらと冷たい汗をかき始めた少年を横目に、ベルカはにんまりと笑う。

 皮肉と傲慢と自負をことこと鍋で煮込んだような幼馴染みは、相手が世界一の名探偵だろうと揺るぎなかった。

 

 

「名探偵なんて怖くないよ、わたしは強いからね」

 

 

「暴力で突破する前提なのはダメだろ。だけどホームズならきっと何とかしてくれる……!」

 

 

「キミの中のホームズ、巨大化して三分間だけ怪獣と殴り合うぐらいはやりそうだよね」

 

 

「すげぇな、その台詞は自分のことを怪獣だと思ってないと出てこないだろ」

 

 

 リョウマの軽口に対して、金髪の少女は冷たい一瞥(いちべつ)で応じた。

 

 

「うん、生殺与奪を握られてるのに緊張感が足りないと思うんだけど」

 

 

「俺がびびってようと、ふてぶてしい顔してようと、お前がその気なら余裕で即死するだろ。じゃあ怖がるだけ損だと思わないか?」

 

 

「その他人事みたいな態度をやめな、リョウマ」

 

 

 何故か叱られていた。

 おかしい、そもそも隠し事をされていたのは自分の方である。

 イヌイ・リョウマは首を傾げたあと、何かがズレている会話に対して率直な感想をぶつけた。

 

 

「待てよ、この場で最弱は間違いなく俺だぜ? 人の心を読み取ったり、いきなり首を刎ねたりできないか弱い生き物だからな。そう思うと俺、健気で泣けてこないか? もっと同情して俺に優しくてもいいだろ」

 

 

「健気な人間の口から出てきていい台詞じゃないでしょ……!」

 

 

 イヌイ・リョウマは真面目である。

 であるからして質が悪いと心得ている幼馴染みは、あまりに堂々としたボケッぷりに戦慄しているようだった。

 

 二人のやりとりを眺めていたミツキが、くすくすと笑っていた。

 和やかな空気だった。

 そして鈴を転がすような声音で、幽霊のように儚げな雰囲気の少女がささやいた。

 

 

「お話しする順番は、たぶんベルカさんからがいいと思います。イヌイさんが知りたいことって、きっとそういうことでしょうし」

 

 

 ホシノ・ミツキは浮世離れした美少女で、常人とかけ離れた価値観で生きている異能の魔人である。

 だが、決して愚かではない。

 

 むしろ人間心理についての洞察力と頭の回転は凄まじい。

 すでにリョウマが本当に知りたいことが何なのか、それとなく察しているようだった。

 観念したようにベルカは目を閉じた。

 

 

「二対一じゃ分が悪いか……うん、そもそも特異対策局(ゼロハンター)のわたしに、ホシノさんの目の前で喋れってわりと酷な要求だよ?」

 

 

「ベルカさんの立場だと難しいと思います。でもあたしたち、お互いを少しだけ信用してるじゃないですか」

 

 

「そうだね、わたしたちは――リョウマを通じてお互いを知ってる。なのに目と鼻の先でおしゃべりしてるなら、そういうことになるか」

 

 

 ベルカは自嘲にも似た皮肉っぽい微笑みを浮かべた。

 どういうことかわからず、リョウマが声を出しかけた瞬間――幼馴染みは答え合わせをしてくれた。

 

 

「リョウマ、わたしがホシノ・ミツキのことを全然信じていないなら――迷わず彼女を殺すべきだった。逆にホシノ・ミツキがベルカ・テンレンを脅威だと思ってるなら、自分が操れるありとあらゆる人間を使って潰しにかかるべきなんだよ」

 

 

「……そうなってないのは、お互いの誠意ってことか?」

 

 

「キミの家に突入して抜け駆けするのを誠意と呼んでいいなら」

 

 

「すげぇな、どっちに転んでも俺のプライバシーは死んでるよな?」

 

 

 この話題には救いがない。

 明らかにこちらを好いてくれている美少女二人が、時と場合によっては血なまぐさい関係になりかねないのも、たぶん真っ先に巻添えで散っていくのが自分なのも――こんなに恐ろしいことはないだろう。

 

 リョウマはちょっぴり浮かれていたと反省した。

 飛び抜けて美しい少女が二人、並んで自宅を訪れてくれているなんて、多少、舞い上がっても許される環境のような気がしたけれど。

 

 

「そうか、俺って今、ホラー映画の犠牲者みたいな感じなんだな」

 

 

「リョウマ、失言によっては悲しく辛いことになるぜ?」

 

 

「ジャンルがSFホラーかサイコホラーか選ぶときなのか?」

 

 

「こいつ軽口に思慮深さ(デリカシー)がないっ!」

 

 

「軽口叩くときに慎重なやつは、そもそも喋るべきじゃないだろ」

 

 

 幼馴染み二人のやりとりを見て、ニコニコと黒髪の少女は笑っている。切れ長の目を細めて、天使みたいに綺麗な女の子は声を弾ませた。

 

 

「素敵ですね、真実が明らかになってお二人の関係がどうなるか――あたし、わくわくします!」

 

 

 魔性の少女は嗜虐的(サディスティック)な楽しみを隠そうともしていなかった。何でもいいが、リョウマと同じくミツキの命もわりと風前の灯火である。

 その状況でこの発言は大物すぎる。

 

 ある意味でベルカに対する親しみと信頼が厚くなければ、こんな発言、しようと思ってもできないだろう。

 リョウマは胡乱なものを見る目で、ホシノ・ミツキを眺めた。

 心の底からこう思った。

 

 

 

 

普通の神経って難しいよな

 

 

 

 

 ベルカ・テンレンは天を仰いだ。

 

 

 

「こ、この二人の発言聞いてるとわたしがおかしくなる……!」

 

 

 

 この場において生殺与奪を握っているはずの少女は、異次元の飛躍に満ちた会話に翻弄(ほんろう)されっぱなしだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 












イヌイ・リョウマ:名探偵ホームズに対する信頼がデカすぎる。

ベルカ・テンレン:クソ映画やクソアニメで時間を溶かすのも儀式らしい。

ホシノ・ミツキ:面白くなってきましたね…!(謎の他人事感)


おそらく全員が変。






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