厄ネタヒロインたちとラブコメをすることになった   作:灰鉄蝸

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21:闇の中の事実だけを!

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 一年前、あの日あのとき。

 ベルカ・テンレンは当初、まったくの蚊帳の外にいた人間だった。

 長い間、彼女の活動拠点は新大陸の北部に限定されていたし、そうあることが官僚組織によって定められていた。

 

 彼らは恐れていたのだ。

 自らの武力によって排除できないものを。

 その国家連合は歴史上、最も巨大な権力と武力を持った存在であるがゆえに――ただひたすらに恐れ続けた。

 異なる思想、異なる人種の敵国と同じく、異なる原理によって成立する知性体は脅威なのだ、と。

 

 

 

 

――救世連邦(Salvation Federation)

 

 

 

 

 聖書と資本主義と核兵器の聖なる三位一体に支えられた、ろくでもない素敵な祖国の名前だ。

 彼らによって環太平洋地域における対特異活動を一任された超国家組織――これを特異対策局と呼ぶ。

 

 人間が人間の生存領域を、超自然的存在から守るため作りあげた枠組みというわけである。

 この話にはありふれた結末が待っている。

 笑える話をしよう。

 

 

 

――超自然的存在との対峙において、最も効果的なのは同類を用いることだ。

 

 

 

 かくしてどう頑張っても始末できない人型特異を、エージェントとして雇用する皮肉な状況が出現するに至った。

 ベルカ・テンレンはそういう組織によって管理される人型特異の中でも、極めて稀な出自を持っている。彼女の背後には、養子縁組を名乗り出て、それを通してしまった世界的大富豪の影がちらついていた。

 

 救世連邦を名乗る連邦国家の中において、核爆弾でも殺せないとお墨付きの存在でありながら、権力の中枢に近しい資産家の庇護を受けるもの。

 触れえざるもの(アンタッチャブル)の誕生だった。

 

 

 

――そんなベルカ・テンレンが急遽(きゅうきょ)、極東管区への赴任を言い渡されたのが一年前のことだ。

 

 

 

 それはいつものような任務とは違っていた。

 その存在が確認された怪奇事件の捜査と鎮圧ではなく、地域全体の監視任務という地味なものだった。

 

 強力な異能を行使する特異対策官――ゼロハンターを張り付かせるには不都合で、明らかに渡される情報も制限されている。

 理由は明白だった。

 

 

 

――それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 太平洋をはさんで空港に降り立ったベルカは、そこでろくでもない事実と向き合うことになった。

 極東の島国の地方都市で起きた、文化劇場の崩落事故――その数少ない生存者リストに、旧知の幼馴染みの名があることに。

 

 人生でも有数の最悪な時間だった。

 ゼロハンターとしての職務を放棄して、今すぐに病院へ直行したい気持ちを抑えつけて、地獄のような数十時間を過ごして。

 ようやく友人知人の面会が許可されたとき、ベルカ・テンレンは真っ直ぐに彼の病室に向かった。

 

 市民病院の真っ白な個室。

 家族すべてを失ったという少年は――数年ぶりに顔を合わせた幼馴染みの少女に対して、いっそのこと清々しいぐらいにありふれた挨拶をした。

 

 

 

「――ベルカ、久しぶり。動画で見るより美人でびびるな、たぶん美人コンテスト優勝を狙えると思うぜ」

 

 

 

 ふてぶてしい態度の幼馴染みは、何もかもを失って、体中に包帯を巻かれていて、自分だって大怪我をしたはずなのに――まるで数年ぶりに会った友人にそうするように軽口を叩いた。

 最初、精神的に錯乱している可能性を疑うぐらいに。

 

 重ねて言おう。

 ベルカ・テンレンは一年前、あの日あのときに居合わせることができなかった。

 それでも、それでもひとつだけ胸に誓えることがある。

 

 

 

「……リョウマ、今時、美人コンテストはないでしょ。そういうの外見至上主義(ルッキズム)って言うんだよ?」

 

 

 

 くだらない台詞に、少女は微笑んだ。

 少年のちっぽけな矜持、強がりの一言に――この上なく救われた自分を見つけてしまったから。

 

 

 

 

 

 

「……これが、わたしのリョウマに対する隠し事だよ。わたしはね、知ってたんだ。一年前、君の家族が亡くなった崩落事故が……普通じゃないものだって」

 

 

 

 ベルカ・テンレンの独白が終わった。

 三人が和気藹々(わきあいあい)としていた先ほどまでの空気が嘘みたいに、リョウマの自室の中の空気は冷え込んでいる。

 

 頭を鈍器でぶん殴られたような衝撃があった。

 そのくせ少年の頭蓋骨の中の平凡な脳みそは、まるで名探偵の推理を聞かされた探偵助手のように、これまでちりばめられていた不都合な事実がひとつになっていくのを実感した。

 

 

 

――ベルカ・テンレンはエリア51生まれの超人である。彼女は秘密組織のエージェントとして怪奇事件に対処している。

 

 

 

――ちょうど一年前、リョウマの家族は亡くなった。その直後にベルカは極東のこの街に引っ越してきた。

 

 

 

――そして現在、リョウマが巻き込まれている死のループ。その起点と目される少女ホシノ・ミツキの母親もまた、同じ崩落事故で亡くなっている。

 

 

 

 すべては偶然ではなかった。

 むしろ一本の線で繋がるものだったのだ。

 しかしリョウマが納得したのは、そういう事実関係がベースの事件のことではなかった。

 あまりにも献身的に自分に対して世話を焼いてくれる幼馴染み――とびきり美人で優秀な少女が、時折、自分に対して覗かせていた負い目のようなもの。

 

 それに対する納得だった。

 激情が腹の底に渦巻いていた。どうして隠していたんだと立腹する気持ちだってある。

 あるいは刹那的な感情に身をゆだねるなら、ここでベルカに追い打ちをかけたっていいだろう。

 

 五秒で感情を落ち着かせる。一五秒で煮えたぎるような激情に冷や水を浴びせる。三〇秒かけて自分が本当に口にしたいことを見つけ出した。

 深呼吸する。

 ベルカもミツキも黙って、リョウマの反応をうかがっているから――呼吸音すらひどくうるさく耳についた。

 

 

 

「…………ベルカ、お前は優しすぎるよ。そんなの、お前にはどうしようもない事件だろ。俺に対して負い目を抱く必要なんて、どこにもなかったじゃないか」

 

 

 

 ベルカの青い瞳はこちらを見ていた。アイスブルーの瞳、冷たく冴え渡った知性によって支えられた頭脳。

 きっとそれは虚偽を見抜いてしまうだろう。

 一般人のイヌイ・リョウマが精一杯、取りつくろった建前なんてあっという間に崩されてしまう。

 

 だからこそ、嘘を言いたくなかった。

 そんな表面上の反応をしてしまったら、今度こそリョウマとベルカの関係には、覆せない負い目が入り込むようになる。

 くそ食らえだった。

 

 

「そりゃあ、隠し事されてたのは傷つくさ。でもお前がそれを口にできなかった理由もわかる。話を聞いてると、お前自身、必要な情報から切り離されてたんだろ? そんなの、一般人の俺に説明できることがなくて当たり前だ」

 

 

「……キミ、物わかりよすぎでしょ? もっと怒っていい、詰ってくれていい、罵ってくれていいのに」

 

 

「そういうのやめろよ、ベルカ。怒るのも憎むのも、本当は誰にとってもつらいことなんだぜ? 申し訳なさを抱えるのが贖罪(しょくざい)、みたいな気持ちでいてくれ」

 

 

「説教が上手いね、リョウマ。教会の神父だって目指せるかもよ?」

 

 

「俺、聖書のことは三日後に蘇ることぐらいしか知らないんだよな……通しで読むのつらくないか……?」

 

 

「リョウマ、話がもう脱線しかけてる……!」

 

 

 それまで緊張感に満ちていたベルカ・テンレンは、幾ばくかの戸惑いと安らぎをにじませて、がっくりと肩を落とした。

 金髪碧眼の少女は、断罪される瞬間を覚悟していたのに――あっさりとそれを受け流されてしまった現状に、気の抜けたような声を漏らしていた。

 

 

「怒るのは必要なことなんだよ、リョウマ。キミが直面した理不尽は、本来、キミにとってそういうものなんだから」

 

 

「ああ、今でもキレてるよ。理不尽にはいつだって全力で抗うのがモットーだからな」

 

 

 だが、それはたぶん今ではない。

 ベルカ・テンレンはリョウマの知るかつての姿と何も変わっていなかった。何もかもを持ち合わせているくせに、ひどく生真面目だから、どうしようもなく苦労する質なのだ。

 

 エリア51生まれの超人だの、秘密組織のエージェントだのという属性が付与されようと何も変わらない気性である。

 目下、彼女のことを一番振り回して、無茶振りしている側の自分が、こんな風に他人事みたいな感想を抱くべきなのかはわからないが――

 

 

 

 

「――お前のそういうところ、俺は好きだぜ

 

 

 

 

 イヌイ・リョウマは真顔でぶっ放した。

 ベルカはうつむいて、その乳白色の頬を赤らめた。黄金の前髪の隙間から、うるんだ瞳を覗かせて――少女は呟いた。

 

 

 

 

「……そういうこと、素面(しらふ)で言わないでよ。ばーか、ばーか

 

 

 

 

 気まずい沈黙とは別種のなんともない空気が、室内に漂っていた。

 生ぬるい温度の、互いが感じている愛情を確認し合うような呼吸音が聞こえた。

 幼馴染み二人の湿っぽい雰囲気を察して――これまで黙って会話を見守っていた黒髪の少女は、いい笑顔で頷いた。

 

 

 

「素敵ですね……お二人とも、なんだか……とっても素敵です! 恋は綺麗だから憧れる……きっと、こういうことなんですね……!」

 

 

 

 何故か文学的評論が飛んできた。

 リョウマは思わずツッコミを入れた。

 

 

 

「ホシノさんはいい空気吸いすぎじゃないか……? 当事者だって自覚あるよな?」

 

 

 

「はいっ! 最終的に美味しいとこ取りしていけたらいいな、って思ってます」

 

 

 

 あまりにもあんまりな略奪愛宣言に、ベルカが顔を引きつらせた。

 

 

 

 

恋愛インベーダー……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 











Q:なんで現代日本に存在しない内務省直轄の特務機関とかあるんですか?
A:そもそも救世連邦とかいうクソデカ異常国家が成立してるオルタナティブ・ヒストリーだから。



ベルカの厄ネタはまだあるらしい。




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