スポットライトを浴びた舞台の上で、黒髪の少女は笑っていた。
ホシノ・ミツキのガワを被った何か──おそらくこの世ならぬ怪異が、にっこりと微笑みかけてくる。
リョウマの方だけを、そのまなざしは射貫いていた。
『まずはそうですね──初歩的な勘違いから正してあげますね。リョウマくん、あなたたちの世界はどういう風にできていると思います? 異能や怪物なんて存在せず、地味に積み上げられた歴史の
声音も所作も外見も表情も、何もかもがミツキそのものだったのに。
だが、
その違和感に頭がくらくらしながら、胸いっぱいの反骨心だけを頼りに、少年は自分自身の本音を叩きつけた。
「ホシノさんの身体を乗っ取って、俺の家族を殺した化け物が、正しい歴史観の授業をしてくれるのか?」
皮肉いっぱいの罵声を浴びせかけたつもりだった。
しかしそんな彼の怒気なんてまるで通じていないかのように、ミツキの姿をした怪物はへらへらと笑っている。
『ええ、はいっ! 何もわからずに押しつけられる選択なんて嫌ですよね? あたしはあなたに選んで欲しいんです。自分の意思で後戻りできないものを選ぶことに意味があります。人間の意思は素晴らしいんです。この世界に取り返しがつかない傷痕を作れるんですから』
限りなく人間の生命も尊厳も軽んじているものにしか出せない、薄っぺらい
リョウマの人生に、心に消えない傷痕を刻んでいった化け物は、建前だけでも申し訳なさそうにするという初歩的な礼儀さえ持ち合わせていなかった。
むしろ彼の怒りや憎しみを、面白がっているかのようにころころと喉を鳴らしている。
不愉快だった。
あんなに傷ついて、苦しんでいたホシノ・ミツキの姿形で、そんな風に軽薄に振る舞うことが許せない。
リョウマは叫んだ。
「やめろ! そんな風に……ホシノさんを
『その理解は不正確ですね。あたしはホシノ・ミツキですよ? 全体の割合から見れば一五年しか生きていない肉の器は、ほんのちっぽけな欠片にすぎないかもしれませんけど──ええ、リョウマくんはそんなこと気にしなくていいですよ?』
断絶があった。
結局のところお前の感情なんてどうでもいい、と突きつけられるような感覚──その横でベルカ・テンレンは冷然と周囲を見回して、灰色のマネキン人形もどきをずっと警戒している。
何かが妙だった。
あれほど雄弁にオカルトについて解説してくれたベルカは、どういうわけか今、リョウマに何も言ってくれない。
鉄火場で喋る余裕がないのだろう、とは思うが。
ぬぐえない違和感があった。
そんな彼の疑念を見て取ってか、ミツキがまた喋り始めた。メインホールの音響機器から、よく通る声が発せられる。
『──ふふふっ、ベルカさんも答えを知ってると思いますよ。でもあなたには黙っているでしょうから、あたしが答え合わせしますね』
どういうことだ、と確認する暇もなく。
ホシノ・ミツキの姿形を奪い取ったものは、うっとりした口調で言及し始めた。
この世界のありようを。
『
大した寝言だと思った。
「……そりゃ、途方もない話だな。俺が趣味でしたためたメモ帳の中身みたいだ」
自虐気味の
ちなみに呪術バトルアクションもののオリジナル術式はざっと八種類ほど存在し、そのうち二種類は原作最強キャラにも勝てると自負している。
自負しているが、これをインターネット上に公開しない程度の理性が、イヌイ・リョウマには存在していた。
ともあれミツキは何事もなかったかのように、話の続きをし始めた。
『
それは途方もない
ミツキが語るおとぎ話は、人類史を覆い尽くす妄想のようだった。
『彼らは夢を見ました。大地を焼く焔、海原を割る剣、星を生む卵、太陽を砕く牙、銀河を飲み込む竜、
リョウマにはわかっていた。たった今、ミツキの姿したものが語ったのは、全部が元ネタありきの与太話なのだと。
「ご大層な話だな。で、そいつが現実のものだって保証はどこにあるんだ? さっき出てきた名前は全部、人間が作ってきた神話や宗教の
『ええ、ええ、その通りです! すべては現実から駆逐されました! 彼らの存在を表すものは、今や空想の産物として
笑えるほど陰謀論の文脈だった。
真実の抹消された偽りの歴史ときたか。先ほどこいつは陰謀論を鼻で笑っていたが、今まさにそのものの発想でクソみたいな虚言を弄し始めた。
そう思いたかった。
なのにリョウマが今、感じているのは──薄ら寒い実感だった。
ありえない。そんなはずはない。
そう思うのに──
「リョウマ、こいつの話を聞かないで」
「あ、あぁ──」
やっと発せられた警句は、タイミングを逸していたせいで効果が薄かった。
理性では、ホシノ・ミツキの姿をしたものの言葉を聞くべきではないとわかっている。
なのに彼は逃れられなかった。
このメインホールの音響のすべてが、まるで最初からそうあつらえられたかのように──リョウマを狙い定めていた。
『世界は異形を許しません。一番、
「そろそろご高説は切り上げてもらおうかな、あなたをなんて呼ぶべきかわからないけど」
瞬間、ベルカの周囲から黒色の茨が現れた。それはまるで虚空から発生したかのごとく、突如として出現して──観客席に座っている灰色の人影を容赦なく蹂躙し始めた。
人型が壊れていく。
そうした破砕された肉と肉が、空中で乱舞していた。
どうやらベルカはこの劇場を構成する要素のひとつひとつを、しらみつぶしに解体すると決めたようだった。
『ベルカさん、ここでお話を止めるのはよくないですよ! 誰にだって本当のことを知る権利がありますから。そうですね、あたしのことは──ホシノ・ミツキでいいですよ。だってどんなに変わり果てた残骸だとしても、あたしの一部でしたから』
轟音。
暴風が吹き荒れる。
幾重にも重ねられた茨の鞭は、それ自体が意思を持つかのように荒れ狂っていた。
それはまるで、神話において神々を脅かした竜のように縦横無尽に振る舞って──その周囲に群がる灰色の肉塊を、触れるだけで破砕していた。
粉塵の発生すら許さず、破壊した端から煙のように消えていく異形が見えた。
だが、それだけだった。
どういうからくりなのか、黒い金属の茨は、決してホシノ・ミツキに触れられない。
スポットライトを浴びている舞台の上の役者に、どれだけ観客が罵声を浴びせようと演技を止めさせることはできないとでも言いたげに。
耳がおかしくなりそうなほどの騒音は、しかしリョウマの耳には聞こえなかった。
代わりに耳元でささやくような声量で、ミツキの甘やかな声が聞こえてきた。
『この世界はたった一人の少女が、自らの救いを願ったあとの残骸なんですよ。イヌイ・リョウマくん、最初の問いかけの答えにはこう答えましょう──』
笑う、笑う、笑う。
黒髪の少女、深紅の瞳の乙女、浮世離れした異界の姫君がステップを踏む。
照らされた舞台の上で両手を広げ、芝居がかった口調で──そいつは断言してみせる。
『──あなたは
耳にした言葉を理解するのに、きっかり五秒かかった。
リョウマは呆けたように立ち尽くして、震える喉でみっともない言葉を漏らしてしまう。
「…………はっ? 待てよ、待ってくれ、意味がわからねぇ……そんなの誰が、願うって……」
そこまで口にしてから気づく。
気づいてしまう。今の今まで当然のものとして
新大陸のエリア51生まれの超人で、世界有数の大金持ちの養子で、ありとあらゆる才覚を持ち合わせた天才で──どうして自分のような凡人と幼馴染みなのかわからない女の子。
それが誰なのかを、イヌイ・リョウマは知っている。
何を口にすべきかわからず硬直した少年を嘲笑うように、くすくすとホシノ・ミツキの形をしたものはさえずる。
『もう知ってますよね。その名前も
ああ、ああ、と喉を張り上げて。
少女は踊る、嘲笑する、涙を流す──何故そうするのかもわからないまま、操られた身体を抱きしめるように。
とびきり愚かしい物語を、
『この
ベルカはただ、頷いてみせた。
「──だからどうしたの?」
・いあいあ系邪神がパパでバ美肉されてるボーイミーツガール系ヒロイン
VS
・世界改変で存在しない歴史を叩き込んだ疑惑が浮上した幼馴染み系ヒロイン
VS
・呪術バトルアクション漫画の二次創作で最強キャラを作っていた主人公
ハッピーエンドは揺るぎないのでご安心!
ここから怪異をぶん殴り、リセットさせず、ヒロインとイチャラブに持っていく無茶振りをリョウマくんはされている…!
させる。