厄ネタヒロインたちとラブコメをすることになった   作:灰鉄蝸

33 / 33
33:逆説的に証明します!

 

 

 

「リョウマ、こいつの言うことに耳を貸しちゃダメだ。願いを叶える魔法には、落とし穴がある──無制限の望みを叶え続ければ、いずれキミは、この世界から切除される。それが神話に名を残すだけの全能者の末路──現実世界にそぐわないほどの超越を、この世界は決して許容しない」

 

 

 

 ベルカ・テンレンは、気遣わしげにリョウマに声をかけた。

 勘弁してほしかった。

 こっちはさっきから衝撃の展開が続いていて、情緒が思考に追いつかなくて参っているというのに。

 

 あちこちを切り裂かれ、粉砕され、ズタズタに食い荒らされたメインホール──ほとんど観客席は原形を留めていないのに、舞台の上に立っている少女だけは無傷のままだった。

 黒い長髪に真っ白な肌、切れ長の目に赤い瞳、ほっそりした小顔の美しい少女。

 

 ホシノ・ミツキがそこに立っている。

 たった今、自分はこう言われた。

 一年前、怪異の出現によって奪われた家族すべての命を取り戻すことだってできると。

 惨劇を引き起こした張本人がのうのうと甘くささやいてきた。

 

 

 

 ──ああクソッ、調子が狂うな。ホシノさんの姿だからか?

 

 

 

 きっとそうなのだろう。

 何せイヌイ・リョウマは可愛い女の子にすこぶる弱くて、チョロくて、綺麗な娘に「好きです」とずっと言われ続けたら舞い上がってしまう。

 

 やはりこれまた美少女の幼馴染みに「信じて」と無茶振りされたら、すっかりその気になってうなずいてしまうぐらいだ。

 ああ、認めよう。

 

 

 

 ──俺はどうにも優柔不断のクソ野郎らしい。

 

 

 

 参ったな、と思う。

 ここで決断的な格好いいヒーローなら、ベルカかミツキ、どっちかに好意の対象を絞って誠意を見せていい感じに場を収めるに違いない。

 

 男の子は可愛い子にモテモテのハーレムが大好きだが、それはそうと、現代社会でハーレムを押し通そうとするやつは狂っているとしか思えないからだ。

 選ぶことは勇気であり誠意であり意思なのだ。

 

 

 ──クソ野郎になるのも大変なんだな。しょうがねぇか。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 リョウマの頭をよぎった突拍子もない考えは、全能者の真実──ベルカと自分は、かつて存在した神に等しい異能者の願いの果て──を聞いたその瞬間から、逃れようもなく脳髄に居座っている。

 

 ベルカの抑制を振り切って、ミツキの甘言をはねのけて、最低のクソ野郎になる覚悟が必要だった。

 何度か瞬きする。

 それだけでよかった。

 

 

「──ああ、ひとつ訊いてみてもいいか? ホシノさんと違って、どうやら俺の心を読むことはできないんだろ? ちゃんと質問させてくれよな」

 

 

「リョウマ!」

 

 

 金髪のポニーテールを振り乱して、ベルカがこちらを振り返る。ミルク色の染みひとつない肌を、心なしか青ざめさせて──幼馴染みは本気で焦っているらしかった。

 

 なるほど、端から見ているとイヌイ・リョウマが陥落したように見えるかもしれない。

 少しは信じてくれよな、と思いつつ、リョウマはふてぶてしく笑った。

 心配するな、と無言で告げる感じ。

 

 

『ええ、何でも訊いてください! あたしはもう、ホシノ・ミツキという個ではないですから──失われた機能はありますが、もっと便利で使いやすくなってますよ!』

 

 

 そんな少年の心の機微など、化け物はまるで感知していないようだった。

 そりゃあそうだろう。

 根本的に人間を見下している節がある異形のもの──こいつが世界の外側の神様(アウターゴッド)なのか、それとも外宇宙の異星体(エイリアン)なのかは定かではない。

 

 正直、あまり興味もない。

 だが、彼にもわかることはあった。

 イヌイ・リョウマは獰猛に笑ってこう告げた。

 

 

 

 

「──()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 凄絶な怒気が宿っていた。

 軽薄にへらへらと笑っていたホシノ・ミツキのかたちが、思わず、ぴたりとその動きを止めるほどに──リョウマは剥き出しの激情を露わにしていた。

 

 交渉のポーズではなく、ただ怒りをぶつけるための言葉だった。

 その非合理性に対して、怪物は戸惑うように言葉を返してきた。

 

 

『舐めるとか舐めないとか、不良漫画の世界ですか? どうでもいいと思いませんか、最終的には全部を好きなかたちにできるんですから』

 

 

「それにな、お前はホシノ・ミツキを嘲笑った。あの子はまあド外道かもしれないが、笑われる謂われはない。(ゆる)されるのも、(さば)かれるのも、立ち直るのも、ホシノさんの人生だ」

 

 

『今さら口にしたところで──どうにもならないって理解できませんか?』

 

 

 粘っこい悪意が、せせら笑うように黒髪の少女の口から放たれていた。

 ああ、そうだな──ホシノ・ミツキ本人なら、決して他人に対してこんな侮辱的なニュアンスの嘲笑は出てこないだろう。

 

 リョウマは冷ややかな視線を、決然と見返した。

 この世ならぬ深紅の瞳が、射貫くように自分を見ていた。

 

 

 

 ──()()()()()()()

 

 

 

 胸の中で渦巻く感情を、ただ言葉にして喉から発した。

 

 

「ホシノ・ミツキはズレていて、押しつけがましくて、強引で独りよがりで、プライバシーの概念をけろっと無視していく生まれながらのストーカーだったかもしれないけど──」

 

 

「リョウマ、ちょっと言いすぎじゃない? うん、異論は特にないけど無慈悲に事実を言い過ぎっていうか」

 

 

「待てよベルカ、今ちょっと俺のターンだから」

 

 

「あ、うん……?」

 

 

 微妙に緊張感がないやりとりがはさまれた。

 リョウマは咳払いして仕切り直すと、すぅっと息を吸い込んで畳みかけるように言いたいことをぶちまけた。

 

 

 

「お前がついさっき、自分で口にしたことだろ──どんな願いも叶えられる。惨劇も、犠牲も、絶望も、何もかも書き換えられる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 リョウマが切った啖呵(たんか)に対して、ミツキは無反応だった。せせら笑うような嘲笑を顔に貼り付けたまま、微動だにしない少女のかたち──瞬間、ベルカが右手を横凪に振るった。

 同時にその腕から発生した無数の黒い茨──黒色の金属で編まれた触手の群れが、音を置き去りにして縦横無尽(じゅうおうむじん)に空中を暴れ回った。

 

 姿形の見えない何か、おそらく物質ですらない力場のようなものを、ベルカ・テンレンはぐちゃぐちゃに引き裂いて無力化していた。

 敵の攻撃だった。

 遅れてやって来た音速超過の衝撃波が、ぱぁんと火薬が弾けるような騒音をまき散らす。

 

 

 

「語るに落ちたな、図星だろ? そうじゃなければ、お前はもっと、俺に対して心地いい言葉をささやいてくるもんな!」

 

 

 

 リョウマはたった今、化け物から殺意を向けられたという事実に足が震えそうだった。ベルカが守ってくれなければ、今頃、死ぬよりひどい目に遭っていただろうとわかる。

 こいつは一年前、何の意味もなく大勢の人間を殺傷した化け物なのだ。

 

 その本質は無慈悲で無神経で残酷でしかありえない──そうでなければ、イヌイ・リョウマの家族がこの世を去ることもなかっただろう。

 死んでも屈したくないクソ野郎ってことである。

 そう、別にこの状況をどうにかできる確信などなかった。

 

 

 

 ──だけど今の反応でわかった。俺には、ホシノ・ミツキをどうにかできる力がある。

 

 

 

 ゆえに信じた。

 願いを叶える全能者の力、かつて時間と空間を書き換えた権能の断片──そのようにミツキを乗っ取った化け物はささやいていた。

 ならば彼にもできるはずだ。

 

 何も歴史を書き換えるとか、死んだ人間を全員生き返らせるとか、天変地異を起こそうとか、大それたことを願うわけではない。

 ほんのささやかなご都合主義を期待して、この世界に押しつける。

 リョウマは傲慢に吠えた。

 

 

 

 

「──ホシノ・ミツキはまだここにいる。眠っているだけだ。もういいだろ、そろそろ起きてくれ!」

 

 

 

 

 呼び掛けるだけの愚かしい行いだった。

 その滑稽(こっけい)さを耐えきれないとばかりに、黒髪の少女は鮮やかな嘲笑をその美しい顔に貼り付けた。

 メインホールに設置されたスピーカーのすべてが、リョウマの耳元で呪いの言葉を発する。

 

 

 

『無駄ですよ。あなたは物語の主人公なんかではありません。うぬぼれた全能者が、自分に都合のいい恋物語をさえずるための肉人形──これほど惨めで哀れなトロフィーはありません』

 

 

 

 予想の範疇(はんちゅう)だった。改めて断言されると結構こたえたし、一瞬、ベルカが切なげにその身を震わせたのも見逃してはいなかった。

 あれはたぶん、罪悪感に震えているって雰囲気だ。

 

 まったくどいつもこいつも、イヌイ・リョウマが理想の彼氏みたいなことを言いやがる。

 思春期真っ盛りで(ほだ)されやすくて、おっぱい大好きで気が多いクソ野郎に期待しすぎである。

 そう、自分は今──最低の開き直りをしている。

 ゆえに確信があった。

 

 

 

 ──きっと地獄の底にいようと、耳を疑う告白だろうから。

 

 

 

 やけくそで後戻りが効かない最低の発言を、彼はたった今、決断的に口にしようとしていた。

 あとはもう勢いだった。

 声の限りに叫んだ。

 

 

 

 

「──どこの世界に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 俺は現代社会でもハーレムみたいなの、いいなって思ってるんだぞ! お前らの定義するご都合主義の対極だろ、俺はクソ野郎でいい!」

 

 

 

 

 言い切った。

 あまりにも壮絶な上に、内容は優柔不断を煮詰めた情けなさすぎる台詞だった。

 金髪碧眼の幼馴染みが、ゆっくりと振り返る。

 ベルカ・テンレンは真顔だった。

 

 

 

 

「覚えておけよリョウマ、現代社会でハーレム目指すのは基本的にクソ野郎だってことを……!」

 

 

 

 

 切なすぎる哀哭が、リョウマの喉からほとばしった。

 ちょっと泣きそうだった。

 

 

 

 

 

「──わかってる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 












邪神「お前は全能者が作ったお人形遊びの理想の彼氏! 肉人形!」

リョウマくん「ハーレム上等のクソ野郎が理想の彼氏なわけねーだろ!(逆説的証明)」

ベルカ「いや、ちょっと引く…!」


自らの尊厳を代償に人間賛歌を歌っているらしい。









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