厄ネタヒロインたちとラブコメをすることになった   作:灰鉄蝸

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35:神を滅ぼしましょう!

 

 

 

 ──ヤバいな。ホシノさんがめちゃくちゃ可愛い。

 

 

 

 リョウマの緊張感のない思考は、一瞬でミツキ本人に伝わっていた。色白の少女はぽっとその頬を赤らめて、照れくさそうにはにかんでいた。

 モデル体型で痩せ型の少女は、その細い身体をくねらせて、体温と体重をリョウマの胸に傾けてくる。

 いいにおいがした。

 

 

「照れます……! あたし、たぶん世界一可愛くなりますよ!」

 

 

「ちょっと強気すぎるだろ……!」

 

 

 二人のあまりにも弛緩(しかん)しきったやりとりを横目に、金髪碧眼の少女──ベルカ・テンレンは深々とため息をついた。

 この場で一番、責任感と戦闘能力があるから、あまりに馬鹿馬鹿しい台詞の応酬(おうしゅう)を浴びても、ベルカは何が起きているかの把握(はあく)に努めていた。

 黄金のポニーテールを揺らして、リョウマの方を一瞥(いちべつ)する幼馴染みは、何か聞かれる前に解説してくれた。

 

 

「ここは今、降臨した化け物の腹の中だから、普通よりも願望を叶える力が作用しやすいんだよ。リョウマが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って思った途端、そういう風に物事が再定義された。上書き保存されたはずのデータに、実はバックアップが存在したってストーリーに書き換えられたんだよ」

 

 

 ベルカは頭がいいから説明もわかりやすかった。

 先ほどまでミツキの身体を乗っ取っていた化け物の口ぶりだと、セキュリティアップデートが入って自我は統合されたような物言いだった。

 

 その理屈通りならすべては手遅れで、リョウマの叫びはただ単に現実を見ていない子供の戯れ言だ。

 だが、ここは普通の空間ではない。

 

 明らかに物理法則が通じない異界に成り果てた空間だから、普段ならば成功しない、リョウマの願望を叶える力があっさりと通ってしまった。

 その結果、ミツキは意識を取り戻して──こうしてリョウマの腕の中に飛び込んできた。

 

 

「……俺、マジですごいんじゃないか?」

 

 

「うぬぼれるなよ、リョウマ。それ濫用(らんよう)しすぎるとこの世から退場させられるルール違反ギリギリの力だから」

 

 

「気持ちよく俺に無双させてくれないな、現実!」

 

 

 がっくりとうなだれたリョウマは、さてどうしたものかと思う。

 とりあえずホシノ・ミツキを取り戻すことには成功したが──そもそもの今回の騒動の発端、一年前に降りてきた化け物は健在のはずだった。

 

 先ほどあいつは、ミツキの存在をVチューバーのアバターに例えていたけれど。

 わかりやすい概念だった。アバターが諸事情で引退したからって、中の人があの世に送られるわけではない。

 

 そう思考した瞬間、ぐらぐらと地面が揺れた。

 それまでメインホールを形作っていた建材が、ぐにゃぐにゃした不定形の何かに変わっていくような感触──途方もなく不吉な揺れだった。

 

 

「……お父さんが、怒ってます! なんていうか、上手く言えないんですが、リョウマさんが上手くやり過ぎた感じです!」

 

 

「俺のせいかよ!? あれ、っていうかイヌイじゃなくて名前呼び──」

 

 

「リョウマ、ラブコメは全部終わってからにしてくれるかな!」

 

 

 ベルカに一喝(いっかつ)された。正論すぎて反撃の余地もなかった。

 この手の怪異の専門家であるらしい特異対策官(ゼロハンター)の少女は、リョウマたちにわかりやすく現状を教えてくれた。

 

 

「……勝てるけど、その場合は二人も巻き込んで死なせちゃう。上手い勝ち方が見つかればいいんだけど」

 

 

「マジかよ。この状況でも勝ち筋はあるのすげえな! でも死にたくないな!」

 

 

「感心しながら怯えるの、リョウマさんらしくて素敵ですね!」

 

 

「キミたちもうちょっと緊張感持とうね!?」

 

 

 しかしそう言われても、イヌイ・リョウマにはこう言うことしかできない。

 人は死ぬ。いつか死ぬ。

 それがいつ何時訪れる理不尽であるのか、選ぶ術はない。

 

 その痛みを飲み込んで生きてきた少年は──死者を蘇生させられるかもしれないという悪魔の誘いを、きっぱりと未練諸共に断ち切っていた。

 断言する。

 

 

「──生きてればいつか死ぬぜ、ベルカ。それが百年後ならうれしいけど、五分後がそうかもしれないだろ」

 

 

「笑わせるなよ、リョウマ。この場で一番長生きすべきなのはキミだ。わたしがそう決めたから、絶対にそうさせてみせる」

 

 

 幼馴染みの青い双眸(そうぼう)が、じっと彼のことを見ていた。深い慕情(ぼじょう)と燃え上がるような熱を孕む、冴え冴えとした青(アイスブルー)の瞳。

 苛烈な意思だった。

 

 まったくこんなにも愛されてるなんて、イヌイ・リョウマってやつは幸せ者だと思った。

 しかしどうすればいい、と自問自答する。

 三人のやりとりの間にも、それまで文化劇場のメインホールだった空間は異質な何かに変貌し続けていた。

 

 華々しい内装と照明、音響設備が備え付けられた空間は、太古の昔に絶滅した大型陸上生物の骨と肉を、ぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて組み立てたパズルのようになっている。

 どくん、どくんと脈打つ壁。あちこちから突き出たあばら骨のような突起。ぎょろぎょろとこちらを見る大きな眼球。

 ついでに形容しがたい、異様な臭気も漂ってきている。

 異形だった。

 

 おそらくこの空間そのものが、降臨した化け物──ミツキの父を名乗るものが、現世での肉体として育ててきた器なのだろう。

 広大な近代建築物に擬態した生命──何万トンもの質量を持った肉塊である。

 最早、怪物というよりも怪獣と呼ぶに相応しいありようだった。

 

 

「アクションゲームなら、ロケットランチャーでぶっ飛ばす場面なんだけどな」

 

 

 軽口を叩く。

 秒単位で状況は悪くなっていた。

 明らかに周囲の空間は、臓物じみた肉塊の膨張によってせばまっているからだ。

 

 四方八方から迫り来る肉塊の壁──それは半ば現実逃避の言葉だったが、その瞬間、ベルカの表情によぎったのは奇妙な確信だった。

 気づくと幼馴染みの少女は、密着しているリョウマとミツキの間に割り込むようにして、その腕を滑り込ませてきた。

 白くて柔らかな手が、リョウマのゴツゴツした掌を手に取る。

 

 

「ベルカ!?」

 

 

「リョウマ、キミの考えた最強の能力を教えて。ホシノさん、あなたのお父さんの意思の中心がどこにあるか見えるかな?」

 

 

 その言葉が意味するところはひとつだった。

 

 

「わたしは()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 リョウマが絶句した直後、ミツキはその細面に強い決意を込めてうなずいた。

 金髪碧眼の少女が言わんとすることを理解して、それを支持すると決めたのだという意思表示。

 

 

「…………お父さんの急所は、あたしにはわかっています。だってあたし、あの人そのものだったから。ベルカさん、お願いです──あの人を殺してあげてください」

 

 

「その口ぶりだと、どうやら高次元に本体がいるってわけじゃなさそうだね」

 

 

「岸に打ち上げた(くじら)みたいな感じです。生命体としての存在、スケールはあたしたちよりずっと大きいですけど、その大きさのせいで不自由に押し潰されそうになっている。それが、あたしのお父さんだった人です」

 

 

 淡々と語る少女の声音に、肉親としての情は感じられなかった。あるいはミツキにとって、父母の正体という因縁は、すでに決着がついている事柄(ことがら)なのかもしれなかった。

 イヌイ・リョウマは全能者の忘れ形見みたいなものらしいが、別に全知全能の神様ではない。

 

 だからミツキの心の中でどんな心境の変化があったのか、この短い時間で察することはできなかった。

 それでいいのだと思った。

 自分はたぶん、どこまでいこうと──彼女たちに寄り添うことしかできない人間なのだから。

 リョウマは自信満々に笑ってみせた。

 

 

「……あるぜ、最強の異能。神殺しならこれだよなって、とっておきのやつが」

 

 

「さっすが、わたしの幼馴染み! 日頃からバトルもののアニメ見て変な考察してるだけあるね!」

 

 

「待てよ、なんか含むものを感じるぜ?」

 

 

「気のせいだよ、リョウマ。わたしはいつだって厨二病に優しい幼馴染みだからね」

 

 

 掌から伝わる熱に、絶体絶命のピンチなのに安心してしまった。

 気づけば右手をベルカが、左手をミツキが握っていた。白くて柔らかな女の子の手が、二人分、リョウマの掌にその命の熱を伝えてくれていた。

 

 まったく意味なんてない動作である。

 安心感以外に合理的な説明なんて何ひとつつかないのに、どういうわけか、きっと大丈夫だという気持ちになれた。

 

 

「リョウマ、説明はしなくていい。今この瞬間、この場所でならば──キミが想像するだけで、わたしの異能(ちから)はそれを具現化できる。厳密な理論について触れると長くなるけどね? ホシノさんはわたしに、だいたいの方向を教えてくれればいい。三次元的な投射方向を、多次元的な座標に変換するのはわたしがやる」

 

 

 ベルカの補足を聞きながら、リョウマはうなずいた。

 つまるところいつも通りだ。リョウマの持ち込んだ無茶振りを、ベルカ・テンレンはあっさりと具体的なプランに仕上げてくれた。

 必要なのは信じることだけだった。

 雑念を捨て去って、ただイヌイ・リョウマは想起する。

 

 

 

 ──俺が考える最強をぶち殺せる能力。

 

 

 

 不死なる理由。

 無敵である理由。

 そのような思考そのものが惰弱であり、最強には相応しくないという想いを昇華した異能のかたち。

 

 

 

 ──曰く、必滅兵装

 

 

 

 

「ベルカさん、あたしたちから見て右斜め前、七〇度ぐらいの角度です。その先に──お父さんがこっちを覗き込んでる穴があります!」

 

 

 ミツキは躊躇うことなく父殺しを選んでいた。

 ありとあらゆる余分な思考を捨て去った果てに──少年が思い描いた最強の一撃は、音もなく伝わった意思によって三人に共有された。

 

 

 

 ──イヌイ・リョウマはそのように空想を創造する

 

 

 ──ホシノ・ミツキは刺し穿つべき対象を証明する

 

 

 ──ベルカ・テンレンは以上の定義に従い生成する

 

 

 

 異口同音に、力ある言葉が三人の口から放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「「「──刺し貫く死(ミストルテイン)、投射」」」

 

 

 

 

 

 

 

 それは古き神話に名を残すもの。

 かつて存在した全能者に死を突きつけ、不死なる神を滅した伝説に基づく異能(ちから)──黒い茨が解き放たれる。

 

 禍々しい金属色が、うねり荒れ狂いながら、ベルカの左の掌から生み出された。

 如何なる音も響かせず、如何なる光も反射せず、まるで空間に穿(うが)たれた虚無そのもののような茨が、何もない虚空に着弾して。

 するりと姿を消した。

 

 

 ──そして五秒、一〇秒、一五秒。

 

 

 ありとあらゆる動きが死に絶えた。

 それまでリョウマたちを押し潰そうとしていた肉塊の壁は、その脈動を止めて、凍り付いたように静止している。

 息を押し殺して、少年が周囲を見渡していると──やがて悲鳴のような音が聞こえた。

 地響きだった。

 

 

 

 

 

 ──ぎゃああぁあああぁああァああぁあッ! 

 

 

 

 

 

 どこからか聞こえるのは、幾重にも音を重ねたような奇っ怪な断末魔だった。

 到底、人間の喉から発せられるとは思えない声だ。

 それが聞こえた刹那、弾かれるようにベルカはその両手を広げて──ぐいっと両手でリョウマとミツキの胴体を抱え込んだ。

 少女の細腕とは思えない、万力のような力強さで締め付けられる。

 

 

「えっ、おい、まさか──」

 

 

 

「よしっ、逃げようか! ちょっと加速のGがヤバいから失神したらごめんね!」

 

 

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

「きゃあああああああああ!?」

 

 

 

 

 ミツキの悲鳴が鳴り止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──その夜、この世に降臨した語られざる神の一柱が消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──跡形もなく、夢のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 













邪神「高次元の上位者なのでこのまま力技で押し潰します!(やけくそ)」

リョウマ「まあ待てよ(厨二病ノートから最強異能を引っ張り出す)」

ミツキ「あっちの方に本体ありますよ!(無慈悲な誘導)」

ベルカ「シュッ(即死攻撃)」

だいたいこんな流れでボンクラトリオに滅されました。



リョウマくんは少年漫画的な能力バトルについて考えすぎて「つまり最強キャラがごちゃごちゃ屁理屈こねる時点で強そうじゃないよな…!」などとアンチすれすれの発想に至ったらしい。
こいつハーメルンで面倒くさい二次創作投稿してそうなんですよ…!

自分のオリジナル異能に北欧神話を引用する程度の厨二病。






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