「…………ごめん、ちょっと落ち着いた。つまりリョウマは最近、夢の中で知らない女に話しかけられている、と。そいつはキミの存在に気づいてて、もうすぐキミに会いに行くなんて口走ってると」
ベルカ・テンレンは優秀である。
先ほどまで脳みそが粉々に砕け散って、うあーとうめきながら突っ伏していた少女は、もう立ち直って分析を始めていた。
その頭脳を最初から発揮してもらいたかった気もする。
「ああ、なんかこう……ホラーっぽいだろ。夢の中で予告して、じりじり近づいてくるタイプのお化けっていそうだし」
「ありえないことじゃないね。弱ったな、わたしってこういう精神系のやつは探知が弱いからなあ……んー、本部に連絡取って応援寄越してもらおうかな。大丈夫、ひとまずわたしが見張っておくから、当分は安心していいよ」
「助かる」
とりあえず相談してよかった、と胸をなで下ろした瞬間のことである。
ベルカの顔つきが変わった。
あまりにその表情が険しいものになったので、思わずリョウマは声をかけてしまった。
「どうした? なんか気づいたのか」
「いや、リョウマ──わたしがキミの家の周りに複合センサー仕掛けてるのは知ってると思うけど」
「知らねぇよ! いきなり幼馴染みの終わってるストーカー行為を告白されても困るんだよ!」
「ちゃんと打ち明けるわたしってえらいよね……好きになっていいよ?」
「どういう恩の着せ方だよ、俺のプライバシー終わってるだろ」
終わってるのは事実なので誰も擁護してくれなかった。
そんなことないよ、と言ってくれる人間がいない通話空間──アプリの向こうにいるミツキに至っては、いつでもどこでも、リョウマの頭の中を覗いてその感情や記憶を
たぶん人類史上、ここまで恐ろしい監視を受けてるのは冷戦中のスパイだっていなかったと思う。
イヌイ・リョウマは女の子にモテるのだ。
そういうことにした。
「それでね、今、この家の近くに人影があるんだ。キミがさっき言った夢の女の子──銀髪で褐色なんだっけ。そういう身体的特徴を備えている」
「…………それは、アレだろ。ちょっと肌の色が濃いめで、髪を染めてる子が通りがかったんじゃないか?」
「ここでめっちゃ特徴が一致するギャルが突然、現れた可能性に賭けるわけ?」
「すまん、ないわ。流石にタイミングよすぎるな、今は」
ともあれベルカ・テンレンの明らかに法に引っかかりそうな行い──ホシノ・ミツキが超能力で法を超越しているとすれば、こっちは超国家組織の権力で法を乗り越えているタイプだ──は有用だった。
今この瞬間、イヌイ家に接近してきているという謎の人物。
その身体的特徴の一致は、単なる偶然で済ませるには都合がよすぎた。
「あとね、リョウマ。これはたぶん、キミにとって大事なことだから真剣に聞いてほしいんだけど──」
「ああ」
「すごく可愛いよ、この子。もうまつげまでバッチバチに銀髪だから、たぶん地の色だね。ちょっと顔つきが幼い気もするけど、いや、でもリョウマの趣味って節操ないしな……」
「……俺の評判ボロボロだよな」
ミツキが携帯端末の向こう側で、戸惑うように声を上げた。
『待ってください、リョウマさんのおうちに怪しい人が突っ込んできてるんですか? かわいそう……リョウマさんのプライバシーの侵害ですよね』
「ちょっと待ってくれ、ナパーム弾ばらまきながら火の用心って叫んでる感じがしないか?」
『リョウマさんのことが心配ですから!』
自分のことを棚に上げる精神性が、チタン合金でできてるみたいに頑丈だと、ホシノ・ミツキみたいになれるのだと思った。
強気すぎて逆にツッコミの余地がない。
棚の上にありったけの馬鹿でかい不祥事を載せているのに、びくともしないような有様である。
『……あれ? でもあたしの
「決まりだね、
『どういうことです?』
「ホシノ・ミツキは人の心が読める能力者だよね。彼女の能力にとっての例外は、何らかの理由で例外になる根拠が存在している。ベルカ・テンレンがそうであるように──何も引っかからないって怖いことだよ」
ベルカに言われてみて、少年はようやくぞっとするような事態に気がついた。
人間に対する精神干渉──洗脳と読心──を可能とするホシノ・ミツキは、どうやらベルカが所属する組織にとっても要監視対象になっているようだった。
かなり物騒な組織のくせに、ミツキを殺害しない理由は不明だが、そこは超能力者を束ねる組織なりの根拠があるに違いない。
とにかく異能者として、ミツキの力の強さはベルカのお墨付きだ。
なのに彼女の探知能力に反応しない。
それはつまり──
「──
リョウマは口にしてみて気づいた。
それに関して言及すると、限りなく
どうやら最近、自分の周りにはそういう出自の女の子が多いらしい。
『リョウマさんのハーレム願望が、時空を歪めてヤバい女の子を呼び寄せた可能性ありませんか?』
ミツキはいきなり際どい指摘をしてきた。
リョウマは笑うに笑えないブラックジョークを聞いたような気分で、げんなりしながらうめくしかなかった。
仮にそうだとしても、どうにもできないのが困ったところである。
イヌイ・リョウマは全能者とかいう凄まじい超人の力の残滓みたいなものらしい。
そういうこともあるかもしれなかった。
「わからない。リョウマがそういう存在であるとして、彼がそれを自覚したのはほんの一月前の出来事だからね。もし因果関係を無視して、過去にさかのぼって作用する力の場合、その検証はわたしたちのいる世界では不可能だ」
「
「たとえがゲームなのはどうかと思うなあ。しかもPCゲームでよくあるやつじゃん」
リョウマは一応、センリから譲り受けた型落ちのゲーミングPCを持っており、セールのときに格安になったゲームを買いあさって遊んでいた。
そういうわけで例え話に時々、この手のゲーム由来の概念が出てくる。
軽口を叩きつつ、ベルカはため息をついた。
「流石に怪しいってだけで攻撃するのはヤバすぎるし──リョウマ、私の側を離れないで。一緒に行動しよう」
そうベルカが口にした次の瞬間である。
──ピンポーン。
インターホンが鳴った。
二人は凍り付いた。
「嘘でしょ……カメラから一瞬で消えた?」
ベルカが困惑しながら呟いた。どうやら金髪碧眼の幼馴染みは、イヌイ・リョウマの住む家を囲むようにして監視カメラの網を張り巡らせているらしい。
どうやって映像を確認しているのかはわからない。
もしかしたらベルカの持っている超能力で、感覚器を繋げるようにして視界に映しているのかもしれないが。
ともあれ、超常現象が起きていた。
──ピンポーン。
再びインターホンが鳴った。
リョウマは通話中のアプリを開いたまま、ゆっくりと立ち上がった。
「ベルカ、行こうぜ。確認しないと近所迷惑だ」
「こういうとき覚悟するの早すぎだよ、リョウマ」
「ホシノさん、変わったことがあったら教えてくれ。通話は維持しておくから」
『わかりました』
非日常ならば三人とも慣れたものだった。あの悪夢のような死のループの最中、イヌイ・リョウマとベルカ・テンレンとホシノ・ミツキは、誰が欠けてもたどり着けなかった決着を迎えたのである。
今さらどんな怪異が襲ってこようと、きっと何とかなるという実感があった。
少なくともそのようにリョウマは思っていた。
自室のドアを開けて、急ぎ足で階段を降りて、ベルカを先頭にして玄関のある一階にたどり着く。
インターホンの端末を手に取って、モニターに映る来訪者を見た。
──美しい少女がいた。チョコレートを溶かしたような艶々した褐色の肌に、さらっとした銀髪、エメラルドグリーンの瞳が印象的だった。
途方もなく幻想的である。
例えば金髪に白い肌のベルカは、これまた極東の地では滅多に見かけない美少女だ。黒い髪に赤い瞳、透けるような色白のホシノ・ミツキだって、浮世離れした美少女だと言い切れるだろう。
しかしこの異国情緒あふれる少女は、それとはまた別次元の異質さがあった。
身体的特徴が、ぱっとリョウマに思いつくこの地球の如何なる場所にもありえなかったのだ。
そう、まるで──
『すごいです、まるでダークエルフみたいですね……』
ミツキはリョウマの感覚器から情報を得ていた。
一人だけストーカーとしての格が違いすぎて、今この瞬間すら彼の五感を勝手に
少年は細かいことは考えないようにした。
泣いても喚いてもホシノ・ミツキはブレないタイプの恋愛インベーダーなのだから。
「どちらさまでしょうか?」
リョウマが呼び掛けると、画面の向こうでにっこりと少女は微笑んだ。
花開くような笑顔だった。
不覚にもドキッとした。そして褐色の肌の少女は、意味深にうなずいて、流ちょうな言葉でゆっくりと話し始めた。
『時を超え、空を渡り、幾万幾億の果てに──わたくしとあなたは再会する。すべては大神の予言の通りになりましたね、我が勇者よ』
リョウマは固まった。
いきなりファンタジーもののアニメで聞くような台詞を目と鼻の先でぶっ放されると、人間はどうしていいかわからなくなるのだと思った。
ちなみに銀髪に褐色の少女は、別に異世界ファンタジーっぽい法衣を着ていたりはしなかった。
身につけているのは春物の衣装だ。ブラウスの上からカーディガンを羽織っている。ボトムスがどうなっているかはわからないが、たぶん現代的な衣装のはずである。
次の瞬間、異変が起きた。
ガチャッと異音。
施錠されていたはずのドアが、ひとりでに解錠されていた。
「えっ?」
「リョウマ、そこから動かないで」
ベルカが油断なく彼の前に出た。少女はリョウマより背が低いけれど、足運びや姿勢のぶれなさがただ者ではなかった。
気持ちいいぐらい勢いよく、玄関のドアが開いた。
刹那、影と影が交差した。半袖のワンピース姿の少女が、その腕から黒い触手を発生させると同時に──銀光が閃いた。
リョウマは呆気に取られた。
火花が散った。
金属製の黒い茨と銀色の刀身がぶつかり合い、鍔迫り合いになっているのだ。
「……マジか?」
「おや、我が勇者はご無事のようですね。失礼いたしました」
「へっ?」
次の瞬間、ぱっと身をひるがえした褐色の肌の少女──右手に抜き身の剣を握っている──は、ベルカの追撃すら許さずにすっと後退。
恐ろしい身のこなしだった。
剣を降ろして、今の自分には敵対の意思がないことを表明した。
ベルカ・テンレンはしばらく、いきなりイヌイ家に押し入ってきた異郷の少女を、いぶかしむように見つめて。
「……ひとつ、質問しても?」
「どうぞ?」
「勝手にドアの鍵を開けて家に押し入るのって無作法では?」
「そうですね。わたくし、どうやら気がはやっているようです──愛しい人を前にした乙女心というのは、しばし、このような錯誤を引き起こします」
ベルカは外行きの愛想笑いで硬直した。
思考回路が本格的に意味わからない人間が、抜き身の剣を持って目と鼻の先にいる状況で、警戒を解くなんて誰にだって無理に決まっていた。
いきなり眼前で繰り広げられた銃刀法違反すぎる景色に、リョウマは呆気に取られていた。
褐色の肌の少女は、ふんわりとした
剥き出しの太ももはチョコレート色でむっちり肉感的だ。
その腰つきはびっくりするぐらい細くて、丸い曲線を描く尻とのコントラストがすごい。
『リョウマさんが……えっちなこと考えてます……!』
「俺が悪かった。実況だけは勘弁してくれ」
リョウマは死にそうな顔でうなずいた。ミツキは空気を読まずに、こういうことを言っているのではない。
極限まで空気を読んだ上で、あえて外してきているのだ。
強気すぎてリョウマはいつだって白旗を揚げていた。
たった今、初対面の少女に「こいついやらしい目であなたのことを見てますよ!」と通告されたリョウマは、たぶん社会通念上の死に近いギリギリの
恐る恐る銀髪に褐色の肌、どこか異世界めいた少女を見やる。
──甘くとろけるような極上の好意が、どろっとリョウマに向けられていた。
呆気に取られた。
それは目の前の不審人物を、いきなり他人の家に押し入ってくる危険人物と認識しているベルカでさえ戸惑うような雰囲気だ。
ものすごい好意を感じた。
混じりっけなしででろでろに蕩けた、ホットチョコレートみたいな好感度が、その甘い笑顔から漂ってくる。
少女は魅惑的な笑みを浮かべると、その胸の膨らみに手を当てて、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「わたくしはアシュモ・カーダドート。遠き天の星々の彼方、異なる世界……ニルスタリヤより参りました。
ぶっ飛んだ自己紹介が飛んできた。
異世界人を自称する少女は、ぽやぽやとした天然っぽさを
わけがわからなすぎた。
百歩譲って異世界から巫女がやってきたのだとして、どうしてイヌイ・リョウマの元に真っ先にやってくるというのか。
少年の顔に浮かんだ疑問、ベルカが次なる質問を発しようとした瞬間のことである。
アシュモの姿がふっとかき消えた。
「なっ──」
そしていきなり、リョウマの目の前にアシュモが現れた。ふわっと甘ったるい体臭が鼻孔に流れ込む。褐色の肌の少女は、いきなりリョウマの手を両手で握りしめると、そっと自分の胸元に導いた。
抵抗する暇などなかった。
信じてもらいたい、これは不可抗力だったのだ。
ふにっ、と柔らかな感触がした。布地越しにも伝わる体温と、とくんとくん、と脈打つ心臓の鼓動が感じられた。
「契りを交わしましょう。そして我らの子が大地を満たし、大海を制覇し、宇宙に届くことを願いましょう」
とろり、と褐色の肌の少女が微笑んだ。
リョウマの心臓は緊張しすぎて爆発しそうだった。
「ち、ちぎり!? いや、ちょっと意味がわからない──」
「恋は愛に至り、そして二人はむつみ合う……俗っぽく言うと子作りですね、勇者殿」
「断言していいのか、それ……」
リョウマはうわずった声でうめくことしかできなかった。アシュモ・カーダドートはリョウマより一回りは背が低かった。そのくせ胸はちゃんとあるし、曲線を描く体つきは艶めかしい。
どういうことかというと、胸の膨らみがしっかりと見えてしまった。
リョウマは本当に今度こそ、節操なさ過ぎる自分の眼球を呪いたくなった。
「難しいですね、社会通念が違う異世界はやりにくいものです」
アシュモはきょとんとして、小首をかしげてリョウマの反応に戸惑っていた。さっきまでの魅惑的な雰囲気が嘘みたいに、童女じみた無垢さが顔を現していた。
「ご安心を。わたくしはこの世界での身分証を持っていますし、この国に滞在することも問題なく可能です。たとえ官憲が横暴な質問をしたとしても、恐れるものは何もありません。産まれる子供が母を失うことはないでしょう」
「異世界人なのに身分証あるんだ……」
「様々な伝手によって、我が身は支えられているのです」
「それ偽造じゃない、ですよね?」
アシュモは曖昧に微笑んでいる。
謎の迫力があった。
一方、ベルカは何が何だかわからないという表情をしていた。自分の警戒を通り抜けて、瞬間移動してみせたアシュモの動きも想定外なら──いきなり
金髪碧眼の幼馴染みは、うかつに動けない状況に追い込まれていた。
下手に相手を刺激した場合、リョウマに危害が加わるかもしれないからだ。
『リョウマさん……その、すごい状況ですね?』
ミツキも戸惑っていた。右手は初対面の女の子のおっぱいに触り、左手は
この世の終わりみたいな状況である。
たぶん今のベルカに助け船は期待できなかった。
リョウマはゆっくりと噛みしめるように、アシュモに対してものの道理を説いた。
「俺を好きだって言ってくれてるのはうれしいけど……子供は早すぎる。俺はそういうの、ちゃんと育てていける状況じゃないから。ええっと、つまり、断ってるってことなんだけど」
きっぱり断ったつもりがしどろもどろになった。
イヌイ・リョウマは恋愛経験も女性経験もない。ばっちり童貞なので、初対面の女の子のおっぱいを触らされる状況の意味がわからなかった。
ちなみにがっちりと右手は固定されている。
アシュモ・カーダドートの腕力は、その細腕に似合わず、明らかにリョウマより強かった。
銀髪のロングヘアをさらりと揺らして、少女は深くうなずいた。
「たしかに当世における勇者殿は若く、未熟で、成人しておらず、肉欲に溺れて道を踏み外すことも懸念される年齢。あるいはわたくしとむつみ合うことが法に触れる可能性もあるでしょう、しかし角度を変えて考えてみて欲しいのです。一度きりの人生を、定命のものたちは懸命に走っています。ほんの百年で激変してしまう価値観よりも、数万年もの間、変わらなかった肉体の欲求は正しいのです。若き命は精力にたぎり、わたくしにはそれを受け止める用意があります」
「マジか……ああ、目がマジだな。なんか俺もわかってきた。たぶんこの子は本気でそう言ってる……」
「仮に真剣だったとしても肯定する理由がゼロだと思うよ、リョウマ」
ようやく立ち直ったベルカが、容赦なくツッコミを入れた。
思春期の男の子はめちゃくちゃ現金なので、目の前にすごく可愛くて雰囲気がえっちな女の子がいて、自分に対して好意的だと心臓がドキドキしてしまうのだ。
これでもイヌイ・リョウマは耐えていた。
必死に自分の右手を意識しないようにしていた。何を触っているのかを感じてしまうと、いよいよ、理性がダメになりそうな予感しかしなかった。
リョウマは物理的に動けないし、ベルカは彼を人質に取られているから動けない。
アシュモはそんな状況を理解しているから、ゆったりと笑っている。
「何より勇者殿──
突っ込みどころが爆発していた。
「ここ地球だよ!?」
ベルカのツッコミが虚しく
・属性ドカ盛り金髪巨乳幼馴染み(愛が重い)
・邪神の落とし子でナチュラルボーンストーカー黒髪ロングうすほそ美少女(愛が重い)
・異世界からやって来たエロコメ希望の褐色デカ尻神官(New!)
別に描写がR18になることはありませんが、R18をねじ込もうとアピールする美少女はいます。