悪役令嬢CEO、青い鳥のSNSを買収したらX星人に侵略された件 作:よよよーよ・だーだだ
――ヨーロッパの格言
【ニュース】「ツブヤイター」が「X」に改称 マクスウェル氏、「星を超えたコラボレーション」を発表
世界最大のSNSプラットフォーム「ツブヤイター」を運営するツブヤイター社のCEOエリナ=マクスウェル氏は昨日xx月xx日に行われた記者会見にて、プラットフォーム名を「X(エックス)」に改称することを発表した。同時に、宇宙から来訪した知的存在「X星人」との共同運営を正式に開始することも明らかにした。この決定は業界に激震をもたらし、専門家やユーザーの間で大きな波紋を呼んでいる。
マクスウェル氏は「X」という名称について、「未知なる可能性を象徴する記号であり、境界を越えてつながるプラットフォームの新たな姿を体現している」と説明。「ツブヤイター」という親しみある名称からの転換は大胆な決断であるものの、未来志向の挑戦を象徴する一歩だと述べた。
「このプラットフォームは、もはや単なるSNSではありません」とマクスウェル氏は語る。「Xという名前は、未知への挑戦、そして星を越えて新たなつながりを創造するというわたしたちの使命を表しています。『X星人』との協力は、まさに『星を超えたコラボレーション』。人類と宇宙の叡智を融合させ、新しいSNSの在り方を示します。」
ツブヤイター社が発表した声明によれば、新たな運営体制の目的は「SNSの健全性と創造性を取り戻す」ことにある。具体的には、X星人の高度な技術と知見を活用し、現行のSNSが抱える問題――誹謗中傷やフェイクニュース、フィルターバブル――を根本から解決する新しいシステムを構築するという。
また、X星人がもたらす技術についても詳細が発表された。その一例として、新しいデータ処理技術「ゲマトロン演算」や、それを基盤に開発された新型AIが挙げられている。この技術は、膨大なデータをリアルタイムで分析・最適化し、より透明性と公平性のある運営を可能にするとされている。
X(旧ツブヤイター)内では賛否両論が巻き起こっている。「#X星人歓迎」「#X時代の幕開け」「#WeLoveX」といった肯定的なハッシュタグがトレンド入りする一方で、「#X星人の陰謀」「#宇宙人に任せるな」など批判的な声も多数寄せられている。特に、X星人の技術がどのようにユーザーのデータにアクセスするのかについては議論が集中しており、透明性を求める声が高まっている。
記者会見の最後、マクスウェル氏はこう締めくくった。「この新しい挑戦が不安を呼ぶのは理解しています。しかし、変化を恐れていては未来はありません。Xは、私たちが生きる世界そのもの。このプラットフォームが未来に何をもたらすかは、ここにいるすべてのユーザー次第です。」
今後、Xがどのように進化し、SNS業界や社会にどのような影響を与えるのか、世界中の注目が集まっている。
(文:スティーブ=マーティン / ユナイテッド・ワールド・ニュース特派員)
インターネットの動画配信サイトで可愛い動物の動画を観ていたあなたは、動物動画を観る合間に十数秒のコマーシャル動画が流れるのを目にする。
今回の広告はツブヤイター社からのコマーシャルだ。そういえばツブヤイター、Xって名前に変わったんだっけ。まあ誰もそうは呼んでないけど……なーんてことを思いながら、あなたは動画広告を眺める。
流れた内容は下記のようなものだった。
「「「ドラドラドラ~♪」」」
金色に輝く小さなドラゴンたちが画面に現れ、あなたは思わず目を留めた。
緑色のふわふわした髪を揺らし、蝙蝠のような両手の翼で羽ばたきながら、画面の中でピョンピョンとジャンプする。宝石のように丸い瞳で、上目遣いにじっと見つめるその仕草。見る者の心を惹きつけるように計算されたその姿はまるで愛らしいペットのようで、動物が好きなあなたも思わず口元を緩めてしまう。
そのうちの一匹が、音声合成された可愛らしい声で喋り始めた。
「やあ皆! ボクたち、ツブヤイター社の新しいマスコット、ドラット三兄弟だよ! ボクたち、これから始まる新しいツブヤイター、「
はじめに、長男がつぶらな瞳をキラキラさせながら、ぴょんぴょん飛び跳ねて説明を始める。
「まずボクから! みんな、『フォロー中のタイムライン』、最近ちゃんと見れてた? 見たい人のつぶやきが表示されなかったり、勝手におすすめに切り替わったり……困ってたよね?」
長男が少し申し訳なさそうに首をかしげる。その仕草がまた可愛らしい。
「でもね、もう大丈夫! 新たに実装されたゲマトリア演算ネットワークのおかげで、フォロー中タイムラインは完全時系列表示に戻ったよ! しかも勝手に切り替わらない! 『つぶやき』っていうのはね、“今この瞬間”に誰かが思ったことを見るから楽しいんだよね♪」
画面に「100%時系列表示保証!」という文字が躍る。長男が誇らしげに胸を張った。
「それに、間引きや広告も一切ナシ! フォローした人の全部のつぶやきが、ちゃんと流れてくるようになったんだ。見逃しなんて、もうさせないよ!」
続いて、次男が元気よく前に飛び出してくる。
「次はボクね! みんな、検索機能、使えてた? 検索しても古いつぶやきしか出てこなかったり、リアルタイムタブが死んでたり……あれ、本当にごめんね!」
次男がぺこりと頭を下げる。その律儀な仕草に、あなたは思わず「可愛い……」と呟きそうになる。
「でも安心して! 検索エンジンが完全リビルドされたの! 最新のつぶやきも、数年前のつぶやきも、ぜーんぶ一瞬で見つかるようになったよ! リアルタイム検索も完璧に復活!」
画面に検索窓が表示され、瞬時に結果が並ぶアニメーションが流れる。
「それからね、リンク付きつぶやきの減点もナシ! 外部リンクを貼っても、ちゃんと表示されるよ。だって、面白い記事や情報をシェアするのが、SNSの楽しみ方のひとつでしょ? ボクたちは、みんなの『つぶやき』を大切にしたいんだ♪」
最後に、三男が恥ずかしそうにもじもじしながら登場する。
「え、えっと……ボクね。み、みんな……通知、ちゃんと届いてた? それから、DM、送れてた……?」
三男が小さな声で尋ねる。その控えめな様子に、思わず「頑張れ」と応援したくなる。
「あのね……今までは通知が遅れたり、DMが送れなかったり、エラーばっかりで……ほ、本当にごめんなさい……!」
三男が深々と頭を下げる。すると、長男と次男が両脇からフォローする。
「「大丈夫だよ! もう直ったんだから!」」
三男が顔を上げると、目に涙を浮かべながらも笑顔になる。
「う、うん! 今回のアップデートで、通知システムとDM機能が完全刷新されたの! リアルタイムで届くし、エラーもほとんどなくなったよ! 大規模障害も、もう起こさせないって約束するよ!」
三兄弟が横一列に並ぶ。すると、次男が少し表情を改めて前に出た。
「それとね……もう一つ、大事なお話があるんだ」
次男の声のトーンが、わずかに真剣になる。
「実は前に画像生成機能を入れたんだけど、あれは失敗だったんだ」
次男が小さく頭を下げる。
「色々な問題が起きちゃって、みんなを不快にさせたり、傷つけたりしちゃった。本当にごめんなさい。あれは、『つぶやく』っていう原点から外れちゃってたよね」
画面に「画像生成機能:廃止」という文字が静かに表示される。
「だからボクたち、考え直したんだ。AIは何のためにあるんだろうって。AIは、みんなの『つぶやき』を邪魔するものじゃない。みんながもっと良い"つぶやき"を生み出すお手伝いをするものなんだって!」
次男の目が再びキラキラと輝き始める。
「それで生まれたのが、新しいAIコンパニオン『ドラットくん』だよ!」
画面に、小さな金色のドラゴンが一匹、ふわりと現れる。それは三兄弟と同じデザインだが、もっと小さくて、優しげな雰囲気を持っている。
「ドラットくんは、みんな一人ひとりに付く、専属のお友達なんだ! つぶやきたいことがあるけど、どう言葉にしたらいいかわからない……そんなとき、ドラットくんが相談に乗ってくれるよ!」
画面には、ユーザーがドラットくんと会話している様子が映し出される。
ユーザーのプロンプトに、すぐさまドラットくんは答えを生成し始めた。
「ね、すごいでしょ? ドラットくんは、みんなが本当に伝えたいことを引き出してくれるんだ。言葉がうまく見つからないとき、どう表現したらいいか迷ったとき……ドラットくんがいつもそばにいるよ!」
次男が嬉しそうにくるりと一回転する。
「しかもね、ドラットくんは一人ひとりにパーソナライズされてるから、使えば使うほど、みんなのことを理解してくれるようになるんだ。まるで、昔からの親友みたいにね♪」
画面には「あなただけのドラットくん」という文字と、様々なユーザーの隣で寄り添うドラットくんたちの姿が映し出される。
三兄弟は意気揚々と語り続ける。
「アルゴリズムに振り回されるんじゃなくて、みんなが見たいものを見られる。それが『つぶやく』っていうことの原点だよね!」
「政治とか難しいことも大事だけど、日常の何気ないつぶやきや、好きなことを語り合う場所……それが、ボクたちが取り戻したかったSNSなんだ!」
「だから……もう一度、信じてほしいな。ボクたち、本気だよ……!」
三匹が再び揃って、満面の笑みを浮かべる。
「「「新しいXで、もう一度“つぶやこう”! みんなの声が、ちゃんと届く場所にするって、約束するよ!」」」
……コマーシャルが終わってから、あなたはしばらく画面を見つめたまま動けなかった。可愛い動物の動画が再開されているが、もう内容を追う気にはなれない。
心の中が、温かい。久しぶりに感じる、この感覚。
『昔のインターネット』。
……そうだ、確かにあった。
掲示板で見知らぬ誰かと語り合って、誰かの日記を読んで、動画にコメントを投げ合って、ただ人と人が言葉を交わしていた。
楽しかった。自由だった。温かかった。
あなたはスマートフォンを手に取り、アップデートされたX(旧ツブヤイター)のアプリを開いた。
タイムラインが時系列で流れている。流れているのは、馴染のフォロワーによる何気ないつぶやきだ。
……ああ、そうだ。
これだ。これが見たかったんだ。
続いて検索窓を開いてみる。サクサク動く。ストレスがない。
通知を確認する。リアルタイムで届いている。友達からのリプライ、いいね。
本当に、直っている。
そして画面の隅に、小さな金色のドラゴンのアイコンが光っているのにあなたは気づいた。「ドラットくん」と書いてある。
あなたは、少しだけ迷ってから、タップした。
小さなウィンドウが開くと、金色のドラゴンが画面の中でちょこんと座っている。
その声は、コマーシャルで聞いたものと同じ。優しくて、温かい。
あなたは、少し考える。
今日、何があっただろう。
何を、誰かに伝えたいだろう。
ああ、そうだ。
あなたは、楽しかった出来事についてドラットくんに話しかける。
ドラットくんが、嬉しそうに翼を羽ばたかせる。
あなたは、今日あった出来事を話す。
ドラットくんは、じっくりと聞いてくれた。相槌を打って、ときおり質問をして、一緒に喜んでくれる。
そして、こう答えた。
画面に、文章が表示される。あなたは、その文章を読む。
……悪くない。
いや、むしろ良い。自分が言いたかったことが、ちゃんと言葉になっている。少しだけ手直しをして、あなたはつぶやきを投稿した。
すぐに、いいねが付く。
「いいね!」
「良かったね~」
「また遊ぼうよ」
友達からの、温かい反応。
……ああ、そうだ。
これが、SNSだったんだ。
誰かに何かを伝えて、誰かがそれを受け取って、また誰かが返してくれる。
ただ、それだけ。
でも、それが嬉しい。
あなたは、ドラットくんに「ありがとう」と言った。
ドラットくんが、にっこり笑う。
そして小さなドラゴンは、画面の中で安心したように丸くなった。
……あなたは、スマートフォンを置いて、窓の外を見る。
空は青く、雲が流れている。どこかで、鳥が鳴いている。
ふと、また何かつぶやきたくなる。
今度は、この青空のことを。
あなたは再びスマートフォンを手に取って、Xを開く。タイムラインには、世界中の人々の小さなつぶやきが流れている。誰かの日常、誰かの発見、誰かの喜び。
それらを眺めながら、あなたは投稿ボタンを押した。
シンプルな一言だったが、それでよかった。だって、それが『つぶやき』なのだから。
画面の中で、ドラットくんが小さく尻尾を振っている。
あなたは、微笑んで、スマートフォンを閉じた。
……きっと、大丈夫。きっと、楽しくなる。
新しいXで。新しい『つぶやき』で。
そんな予感がした。
「新生ツブヤイター、X――つぶやきという原点へ。」
「Powered by Xlien Technology」
『星を超えたコラボ』開始から半年後。
「ラリー、現状のレポートを」
「はいは~い」
わたし:エリナ=マクスウェルはいつものようにソファに身を沈め、冷えたダイエットコーラを片手にラリーへ尋ねた。
ラリーがデータを分析しながら答える。
「まず数字から。デイリーアクティブユーザー数、前週比で12.7%増。平均滞在時間も28%アップです。特に、一度離れていた層の復帰率が顕著で――」
「つまり、戻ってきたってことね」
「ええ、その通りです!」
ラリーが嬉しそうにホログラムでグラフを表示する。右肩上がりの曲線。美しい。
わたしはダイエットコーラの缶を傾けながら、タイムラインを開いた。
「トレンドは?」
「『#ドラットくんありがとう』『#タイムライン神アプデ』『#WeLoveX』……肯定的なハッシュタグが上位を占めていますね」
ラリーの言葉に答えるように、画面にユーザーのつぶやきが次々と流れてくる。
当たり前のことを当たり前に実装しただけ、ユーザにはきっとそう見えているのだろう。しかしそれは並大抵のことではなかったのだ。
「前の技術チームは『技術的に不可能』って言い張ってたわ。データ量が膨大すぎて完全時系列表示は負荷が高すぎる、検索エンジンのリビルドには数年かかる、リアルタイム通知のバグ解消はインフラ的に無理だった……」
「でも、ゲマトリア演算ネットワークなら?」
「三週間よ」
わたしは画面から目を離さずに答えた。
「X星人から提供されたゲマトロン演算を使っただけで、たった三週間で全部実装できた。従来の計算リソースの何千分の一で、何万倍ものスループットを実現できるなんて……正直、最初は信じられなかったわ」
ゲマトリア演算ネットワーク、X星人が地球にもたらした革命的な情報処理システムだ。
彼らの説明によれば、従来のバイナリ演算とは根本的に異なる、多次元空間での並列演算を可能にする技術らしい。
画面を次のつぶやきへスクロールする。
AIコンパニオン、「ドラットくん」。
これもまた、ゲマトロン演算技術の賜物だ。
「ドラットくんの応答速度、最新のデータは?」
「平均0.8秒です。しかも、ユーザー一人ひとりに対してパーソナライズされた応答を生成していて、それでこの速度……従来のAIモデルじゃ考えられない柔軟さですよ」
「パーソナライズの精度は?」
「ユーザー満足度調査で92.7%が『自分のことを理解してくれている』と回答しています。使えば使うほどリアルタイムで精度が上がる学習モデルも、ゲマトロン演算だからこそ実現できたわけですね」
「恐るべき技術ね……」
わたしは感心しながらも、次の項目へと目を移した。
「新機能、
「どちらも予想を上回る好評です。特にXフォームスは、リリースから一週間で50万人以上が利用登録してますよ」
そう言ってラリーは、次なるタイムラインを表示した。
「公的機関への手続きをツブヤイター上で行えるXフォームス、特に確定申告機能が好評のようです。まあ『代わりに確定申告をやってくれるAIが欲しい』といえば、ネットの愚痴の定番でしたからね」
「ふーん、そうなの……」
わたしからすれば「手続きがそんなに面倒なら、プロの税理士に頼めば?」と思わないでもない。けれど、ラリーにそれを言ったら「それはあなたが金持ちだからですよ、エリナ」と窘められてしまった。
「一般の人は、年一回の確定申告のために税理士雇う余裕なんてないんです。だから毎年確定申告の時期になると、書類と格闘して頭を抱えてるんですよ」
そういうものなのだろうか。言われてみれば、確かにわたしは税務関係の書類を自分で処理したことなど一度もない。マクスウェル家には専属の会計士チームがいるし、個人的な確定申告だって全部プロに任せている。
わたしが世間知らずなのかもしれないが、どうも腑に落ちない。
「生成AIについては皆『プロのクリエイターに頼め』って口を揃えて言ってたくせにねぇ……」
まぁ、好評なら何よりだが。気を取り直し、わたしは次の話題に切り替えた。
「それで、Xウォレットの方は?」
Xウォレットは、ツブヤイターに追加した決済システムだ。銀行口座やカード情報と紐づけることで、お気に入りのユーザへの投げ銭、サブスクや通販サイトでのEC決済、個人間の送金まで全部ツブヤイター上で行うことが出来るツールである。
ラリーがデータを分析しながら答える。
「はい、こちらも大好評です。ドラットくんが自動で家計簿をつけて、無駄遣いを指摘してくれて、貯金プランまで提案してくれる。しかも各種サイトの投げ銭やEC決済と連動してるから、ネット上の支出管理が完全自動化できると」
「……エリナ、また首傾げてますね?」
ぎく。図星だった。
「だって……」
「分かってます。『お金の心配なんてしたことない』んでしょう?」
「……言い方」
「でもね、世の中の大半の人は、毎月の支出を気にしながら生活してるんですよ。『今月あとどれくらい使える?』『この出費、本当に必要?』って」
だから、とラリーは言う。
「AIが自動で家計簿つけてくれて、『この調子なら今月あと3万円使えます』とか『この支出は削減できそうです』とか教えてくれるのって、すごく助かるんでしょうね」
「ふーん、そんなもんなの……」
わたしは改めてデータを眺めた。Xフォームスの利用者数は右肩上がり。Xウォレットの決済額も順調に伸びている。
「……それにしても、すごい勢いね」
「ええ。Xウォレットの決済件数、前週比で37%増です。このペースなら、来月には既存の決済サービスを抜くかもしれません」
XフォームスとXウォレットは、Xの次なる構想に向けた試金石としてスタートした新機能だ。
しかし、これらはあくまで第一歩に過ぎない。わたしが本当に目指しているのは、もっと大きなビジョンだ。
次に実装するのは、
ユーザーの現在地をリアルタイムで把握して、災害時には最適な避難ルートを提案する。ゲマトリア演算で膨大なデータを瞬時に処理できるから、渋滞情報や避難所の混雑状況まで考慮した、本当に『その人にとって最適な』ルートを導き出せる。
災害が起きてない平時だって使える。旅行の計画を立てたり、観光ルートを提案したり……ドラットくんが『今日はここに行ってみたら?』って教えてくれる。まるで、いつも一緒にいる旅のパートナーみたいに。
それから、
ユーザーのタイムラインを分析して、その人の興味関心、スキル、人柄を読み取る。それを元に、AIが自動で履歴書やポートフォリオを生成してくれる。
タイムラインには、その人の『本当の姿』が現れている。趣味、得意なこと、どんなことに興味を持ってるか……それを全部AIが分析して、『あなたにぴったりの仕事』を見つけてくれる。企業側も応募者の『生の声』を見られるから、ミスマッチが減るだろう。
「ほかにも色々考えているわ。歩数・睡眠・心拍データをウェアラブル連携で記録して健康的な生活を支援するX Health、各種家電と連携して自宅をスマートホーム化できるX Home、タイムライン解析から相性の良い相手をマッチングするX Match……」
「ふむふむ、なるほど。たくさん機能を追加していますが、これらでエリナはどんな世界を目指しているんです?」
「……わたしが目指す世界、か」
わたしは思考を巡らせながら答えた。
「目指すのは『なんでもできるスーパーアプリ』よ」
「なんでもできるスーパーアプリ?」
スーパーアプリ。それは、一つのアプリで生活のあらゆる側面をカバーする、究極のプラットフォームだ。
SNS、決済、行政手続き、防災、旅行、就職、教育……すべてが、Xという一つの空間に集約される。
「……ラリー、わたし、子供の頃にね、『サマーウォーズ』っていうアニメを見たのよ」
「ええ、日本のアニメ、インターネットの仮想空間を舞台にした作品ですね」
「そう。わたし、あれを見たとき思ったのよ。『こんな世界、本当に作れたらいいのに』って」
幼い日の記憶が蘇る。モニターの光に照らされた部屋で、一人でアニメを見ていたあの頃。現実では息苦しかったけれど、画面の向こうには自由で楽しい世界が広がっていた。
あの作品に出てくる仮想空間では、みんなが自由にアバターを作って、買い物をして、仕事をして、学んで、遊んで……生活のすべてがその空間にあった。
そんな素晴らしい世界を実現したいのだ、わたしは。
「Xを、ただのSNSじゃなくて、『生活そのもの』にするの。朝起きたらXを開いて、ドラットくんに『おはよう』って挨拶する。今日の予定を確認して、ニュースをチェックして、友達とつぶやきを交わす。仕事を探して、勉強して、買い物をして、旅行の計画を立てる。そして夜、ドラットくんに『おやすみ』って言って眠る……」
わたしは微笑んだ。
「そんな世界を作りたいの。人々の生活を、もっと便利に、もっと楽しく、もっと豊かにする。それが、わたしの夢よ」
「素敵な夢ですね、エリナ」
「ええ、そうでしょう?」
わたしは再びソファに戻り、画面を見つめた。タイムラインには、今日も幸せそうなつぶやきが流れている。
SNSは『世界の会話の場』だった。でも、これからは違う。Xは『世界そのもの』になるのだ。人々が生きる場所、学ぶ場所、働く場所、遊ぶ場所……すべてが、ここにある。 画面の中で、ドラットくんのアイコンが小さく光っている。
金色の小さなドラゴンたち。彼らは今、世界中の人々に寄り添っている。
「……そういえばラリー、X星人のアカウント、どうなってる?」
「ああ、あれですか。すごいことになってますよ」
そう言って、ラリーが画面を切り替える。
X星人がXにアカウントを作ったのは、Xの新体制が軌道に乗り始めた頃のことだった。
X星人との共同運用の開始には当然、反発もあった。
プライバシーの問題だとか、地球の文化を侵略されるのではないかとか、あるいはただの悪趣味な炎上マーケティングだとか……そんな声が噴出していた。
でも、X星人たちが自らアカウントを作ってタイムラインに“降臨”すると、状況は一変した。
そしてこの投稿には、猫を撫でるX星人の手の写真が添えられていた。
X星人自身に聞いたところ最初は「地球の文化に触れるための一環」として作ったらしいが、X星人のつぶやきは注目を集めている。特に宇宙人の立場から地球の文化を観察し、感想を述べるシリーズが人気だ。たとえば、こんな投稿。
終始こんな塩梅で、大真面目ながらもどこかとぼけたつぶやきを続けるX星人。そんなユーモラスな姿が瞬く間に話題を呼び、今では世界的なトップインフルエンサーの仲間入りを果たしている。この「地球文化を真剣に分析しているようでいて、妙に間が抜けた愛嬌のある言動」が人気の理由だろう。
かくいうわたしも時々、X星人のつぶやきをチェックしている。そのたびに「こんな風に地球での暮らしを楽しんでくれるなんて、思いもしなかった」と感心してしまう。
こんなX星人のつぶやきに対し、Xユーザーの反応はほぼほぼ好意的だ。
「星を超えたコラボレーション、大成功ですね、エリナ」
「ええ、そうね、ラリー」
実際、Xのダッシュボードに表示されているデータは、すべてが順調であることを示している。
ユーザー数の推移を示す曲線が、美しい右肩上がりを描いている。ツブヤイター改革によって、タイムラインが時系列に戻り、検索機能が復活し、通知も正常に動作するようになった。そうして「つぶやきやすくなった」ことで、一度離れていたユーザーたちが戻ってきた。そして新規ユーザーも増え続けている。
ユーザーが増えれば、当然データも増える。より多くの「つぶやき」、より多くの行動履歴、より多くの嗜好情報……それらすべてがゲマトリア演算ネットワークで解析され、新しいサービスの開発に活かされる。XフォームスやXウォレットは、その膨大なデータがあったからこそ実装できたのだ。
そして新しいサービスが始まれば、さらにユーザーが増える。「確定申告が楽になった」「家計簿が自動でつけられる」「防災に役立つ」「就活に使える」「勉強がはかどる」……そんな口コミが広がり、また新たなユーザーがXへ集まってくる。
「ユーザーが増えれば、データが増える。データが増えれば、新しいサービスが生まれる。新しいサービスが生まれれば、またユーザーが増える……完璧な好循環だわ」
満足しながらタイムラインを読み流していると、ふとこんなつぶやきが目に留まった。
かつて幼い頃のわたしが希望を抱き、心の底から夢中になった、自由で楽しい“あの頃のネット”。その片鱗が、このXには確かに存在しているようだった。
「ええ、そうよ、そうだわ、ラリー。ネットって本来、こういうものだったはずよねっ……!」
……わたしは目を閉じた。
頭の中に、未来の光景が広がる。
世界中の人々が、Xを使って笑っている。
ドラットくんと一緒に、楽しく暮らしている。
災害が起きても、すぐに安全な場所へ避難できる。
仕事を見つけて、学んで、成長できる。
それは、ユートピアだ。誰もが幸せに暮らせる、理想の世界。
夢の中で、わたしは見た。
無数の人々が、Xの中で笑っている光景を。
そして、わたし自身が、その中心で微笑んでいる姿を。
それは、美しい夢だった。
そして、わたしはその夢が現実になることを、疑わなかった。
それは、本当に美しい夢だったのだ。
2話目で登場したアカウントは殆どが「シン・ゴジラ」から。これも画面をコマ送りして一個ずつ確認しました。
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