悪役令嬢CEO、青い鳥のSNSを買収したらX星人に侵略された件 作:よよよーよ・だーだだ
機械に支配されて、どこに幸福があるっていうんだ?
――『怪獣大戦争』より
警報が鳴り響く中、Gフォース基地の司令室は緊迫した空気に包まれていた。
「メカキングギドラ、都心部上空に出現! 高度8000、西方向へ移動中!」
「第三、第四防衛ラインを展開! 市民の避難誘導を最優先に!」
「了解! 各隊、配置につけ!」
オペレーターたちが次々と報告を上げ、モニターには巨大な三つ首のロボットドラゴン怪獣が映し出されている。金と銀に輝く機械の体、翼を広げた姿は、まさに悪夢そのものだ。
司令室の指揮官席に座るダイアン=フォスター大佐は、冷静にモニターを見つめながら指示を飛ばし続けていた。40代半ばの彼女の顔には、長年の経験が刻まれている。『怪獣黙示録』以降、数々の怪獣災害に対応してきた歴戦の指揮官だ。
「被害状況は?」
「現時点で建物の損壊3件、負傷者の報告はまだ入っていません」
「大佐、メーサー戦車部隊、出撃準備完了しました!」
「よし、第一波を……」
メカキングギドラ退治に向けてGフォースが動き出そうとした、まさにちょうどその時だった。
「大佐、大変です!」
通信士の一人が、血相を変えて叫んだ。
「何事だ?」
「基地正門に、大量の民間人が押し寄せています!」
「……何だと?」
フォスターは反射的に立ち上がった。
基地正門のモニターに映像が切り替わる。そこには、信じられない光景が広がっていた。
数百人、いや、千人を超えるだろうか。老若男女、スーツケースを引いた者、子供を抱えた母親、杖をついた老人……様々な人々が、Gフォース基地の正門前に殺到していた。
人々は口々に叫んでいた。
「避難所はここですよね!?」
「中に入れてください!」
「子供がいるんです、お願いします!」
そう言って押し合い、ひしめき合う人々の声がモニター越しに聞こえてくる。完全なパニック状態だ。
「何が起きている……?」
フォスターの問い掛けに、オペレーターの一人が慌てて答えた。
「SNSで情報が拡散されています! 『Gフォース基地が緊急避難所として開放された』と……」
「何っ!?」
「モニターに出します!」
画面が切り替わり、Xのタイムラインが表示された。
「……フェイクだ」
フォスターは歯噛みした。Gフォースは避難所の開放など発表していない。完全なデマ情報だ。
「しかし、市民は信じ込んでいます。しかも、拡散速度が異常です。投稿から15分足らずで、これだけの人数が……」
「くそっ……!」
フォスターは拳を握りしめた。
このGフォース基地は軍事施設であり、市民の避難所として機能するようには設計されていない。しかも今は、メカキングギドラへの対処で全戦力を投入しなければならない重要な時だ。
「正門の警備隊に連絡! 市民に説明して、正規の避難所へ誘導しろ!」
「了解……あ、だめです! 人数が多すぎて統制が取れません!」
モニターには、混乱が広がる様子が映し出されていた。
警備隊員が拡声器で説明しようとしているが、パニック状態の群衆には声が届かない。それどころか、押し寄せる人々の波に、警備隊員たちが押し流されそうになっている。
「開けてください!」
「中に入れてください!」
「子供が、子供がいるんです!」
悲鳴にも似た叫び声。
フォスターは唇を噛んだ。市民を力ずくで排除するわけにはいかない。だが、このままでは作戦行動に支障が出る。
「副指揮官、状況は?」
「第二ゲートにも人が押し寄せています。周辺道路も渋滞が発生、メーサー戦車部隊の出撃ルートが塞がれつつあります」
「……最悪だ」
その時、通信士がさらに報告を上げた。
「指揮官、さらに問題が発生しています。Xで新たな情報が拡散されています」
画面に表示されたのは、さらに悪質な投稿だった。
フォスターは目を見開いた。
「見捨てる、だと……?」
「これも拡散されています。RT数、急増中です」
モニターを見ると、正門前の群衆がさらに増えている。そして、その表情は恐怖から怒りへと変わり始めていた。
「門を開けろ!」
「税金で運営されてるくせに、市民を見捨てるのか!」
「中に入れろ、入れろ!」
群衆が、ゲートに体当たりを始めた。
警備隊員たちが必死で制止しようとするが、もはや統制は完全に崩壊している。
「指揮官、どうしますか!?」
副指揮官の声に、フォスターは苦悶の表情を浮かべた。
選択肢は二つ。
一つは、門を開けて市民を収容すること。だが、それでは作戦行動が不可能になる。メカキングギドラへの対処が遅れれば、さらに多くの市民が危険にさらされる。
もう一つは、門を閉ざしたまま作戦を続行すること。だが、それでは目の前の市民を見捨てることになる。そのうえSNSで「Gフォースは市民を見捨てた」という情報が拡散されることで、さらなる混乱を招くだろう。
どちらを選んでも、地獄だ。
「くそ……くそっ……!」
フォスターは拳で指揮台を叩いた。SNSで広まったたった数行の嘘が、数千人の命を危険にさらし、重要な作戦を妨害してしまう。
「指揮官、決断を!」
オペレーターたちの視線が、一斉にフォスターに注がれる。
フォスターは深く息を吸い込み、決断した。
「……第三ゲートを開放しろ。市民を中庭エリアに誘導、臨時避難所として使用する」
「ですが、作戦は……?」
「メーサー戦車部隊は第二ルートから出撃。時間はかかるが、仕方ない」
フォスターは苦渋の決断を下した。
市民を見捨てることはできない、たとえ作戦が遅れようとも。
「全隊に通達! 作戦開始を15分遅らせる。その間に、市民の安全確保を最優先で行え!」
「了解しました!」
オペレーターたちが一斉に動き出す。
第三ゲートが開放され、群衆が秩序を保ちながら中庭エリアへと誘導されていく。警備隊員たちの必死の呼びかけで、ようやく混乱は収まりつつあった。
「市民の誘導、順調です。あと5分で完了見込みです」
「よし、メーサー戦車部隊の状況は?」
「第二ルートを進行中。予定より3分遅れですが、問題ありません」
フォスターは小さく息を吐いた。なんとか、間に合うかもしれない。
15分の遅れは痛いが、致命的ではない。メカキングギドラはまだ攻撃を開始していない、ならば間に合う、そう思索を巡らせる。
しかし……
「指揮官! 緊急報告です!」
通信士の声が、指揮室に響き渡った。その声には、明らかな動揺が混じっている。
「何だ?」
「第二ルート、環状七号線で大規模な人だかりが発生しています! メーサー戦車部隊、進行不能!」
「……何だと?」
フォスターは目を見開いた。
モニターが切り替わり、環状七号線の映像が映し出される。そこには、さらに信じられない光景が広がっていた。
道路を埋め尽くす、数百人規模の群衆。
スーツケースを抱えた人々、子供の手を引く親、パニック状態で右往左往する市民たち……まるで基地正門と同じ状況が、作戦ルート上で再現されていた。
「なぜこんなところに……!?」
「また、SNSです」
オペレーターが、画面にタイムラインを表示する。
……全てフェイクだ。政府から環状七号線を避難ルートに指定する発表など、一切ない。臨時避難所の開設もない。すべて、嘘だ。
「RT数、各投稿で1万を超えています。投稿時刻は……我々が第二ルートを選択した直後です」
「……直後、だと?」
フォスターの背筋に、冷たいものが走った。
「まさか……我々の作戦ルートを予測して、フェイク情報を流している……?」
「そんな、まさか……」
副指揮官が絶句する。
だが、状況はそれを裏付けていた。第一ルートが塞がれたため第二ルートを選択した。その直後に、第二ルート上にフェイク情報が流れ、市民が殺到する。
まるで、罠だ。
「第三ルートはどうだ!?」
「確認します……」
オペレーターが慌てて入力する。数秒後、その顔が青ざめた。
「だめです。第三ルートでも同様の情報が拡散されています。『街道沿いに食料配給所が開設』というデマが……すでに人が集まり始めています」
「くそっ……!」
フォスターは拳を握りしめた。
「第四ルートは!? 第五ルートは!?」
「確認します……第四ルートも『医療支援所が開設』というフェイク情報が。第五ルートも『Gフォースの護衛付き避難経路』というデマが……全ルート、同時多発的にフェイク情報が拡散されています!」
「……計画的だ」
フォスターは呟いた。
「すべての作戦ルートを塞ぐように、フェイク情報が配置されている。これは偶然じゃない。意図的に、我々の行動を妨害している……!」
「しかし、誰が……? 我々の作戦ルートは機密情報のはずです!」
その時、副指揮官が青ざめた表情で報告した。
「大佐、さらに問題発生です!」
「今度は何だ!?」
「SNSで、Gフォースの内部告発を名乗るアカウントが……」
モニターに、新たな投稿が表示された。
「何だこれは、こんな報告など上がっていないぞ!」
フォスターが叫ぶが、投稿はすでに数万回RTされている。そして、それに呼応するかのように、別のアカウントが投稿を始めた。
「田中一郎なんて評論家、聞いたことがない!」
「データベースにはありません! 偽アカウントです!」
だが、その投稿は「専門家」という肩書きと尤もらしい書き方のおかげで、急速に拡散されている。
「指揮官、通信室が混乱しています! 隊員たちから問い合わせが殺到していて……」
「問い合わせ?」
「『作戦は本当に失敗確実なのか』『撤退命令は出ないのか』といった内容です。SNSの投稿を見て、不安になっている隊員が……」
……なんということだ。
フォスターは頭を抱えた。現場の隊員たちがSNSを見て動揺している。指揮系統が、内側から崩れ始めている。
「全隊員に通達! SNS上の情報は一切無視しろ! 公式な命令系統以外からの指示には従うな!」
「了解……あ、また新しい投稿が……」
政府が撤退を指示、だって……?
フォスターが愕然とした瞬間、通信士が報告した。
「大佐、首相官邸から緊急連絡です! 『撤退指示などしていない。SNS上の情報はすべてフェイクである』と……」
だが、遅かった。
モニターには、混乱する現場の様子が映し出されていた。偽アカウントの投稿を見た市民たちが、Gフォース隊員に詰め寄っている。
「政府が撤退しろって言ってるぞ!」
「なんでまだ攻撃しようとしてるんだ!」
「戦争を起こす気か!」
隊員たちが説明しようとするが、群衆の怒号にかき消される。作戦どころではない。
「第三ゲート付近でも騒ぎが起きています! 市民が『Gフォースは政府の命令に従わない反逆組織だ』と……」
「ふざけるな! 我々は政府の正式な組織だ!」
だが、フォスターの叫びは指揮室の中だけに響くだけだった。
さらに追い打ちをかけるように、新たな投稿が表示される。
「そんな……」
フォスターは、もはや言葉も出なかった。
メカキングギドラは宇宙から来た侵略兵器だ。Gフォースが作ったものではない。だが、そんな真実など、SNS上では簡単にねじ曲げられてしまう。
「指揮官、陰謀論の投稿が急速に拡散されています。RT数、10万を突破……」
「くそ……くそっ……!」
フォスターは拳で指揮台を叩いた。
作戦は完全に麻痺している。地上部隊は展開できず、指揮系統は混乱し、市民は誤情報に翻弄され、そして隊員たちの士気は急速に低下している。
すべてがSNSによって引き起こされていた。
「大佐、メカキングギドラが動き始めました!」
オペレーターの声に、フォスターはメインモニターに目を向ける。
画面の中でメカキングギドラは、悠然と都心部を破壊し始めていた。三つの首がそれぞれ口から引力光線を放つ。ビルが崩れ落ち、炎が上がり、煙が立ち昇る。
だが、その動きには焦りがない。まるで散歩でもするかのように、ゆっくりと、確実に、街を破壊していく。
メカキングギドラはGフォースを完全に無視している。まるでその存在すら眼中にないかのように、ただ破壊を続けている。
その時、フォスターは気づいた。
「……そうか」
メカキングギドラは、Gフォースと戦う必要がないのだ。
なぜなら、Gフォースはすでに機能を失っているから。SNSのフェイク情報が、Gフォースを内側から崩壊させた。部隊は展開できず、指揮系統は混乱し、市民からの信頼は失われた。メカキングギドラは戦わずして勝利したのだ。
モニターの中でメカキングギドラが咆哮した。三つの首が、天に向かって勝鬨の声を上げる。
「――――――――ッ……!!」
勝ち誇るメカキングギドラを前に、フォスターたちGフォースはその場に立ち尽くすしかなかった。
あなたは自宅のソファに座り、スマートフォンの画面を凝視している。
テレビではニュース速報が流れているが、音声は耳に入ってこない。あなたの意識は、すべてスマートフォンの中のSNS、Xに集中している。
Xのタイムラインには、次々と新しいつぶやきが流れてくる。
あなたの心臓が、早鐘を打っている。
メカキングギドラは、あなたの住む街からそう遠くない場所にいる。もし、こちらに向かってきたら……?
これ以上見るのをやめようかとも思いスマートフォンを置こうとしたが、置けなかった。
……テレビやマスコミはダメだ。電話もパンクしていて通じない。今スマートフォンを、SNSを手放したら、今何が起きているのかわからなくなってしまう。
だから、あなたはSNSの画面を見続ける。指でスクロールして、Xで新しい情報を探し続ける。
その時、画面の隅で小さなアイコンが光った。ドラットくんだ。
優しい声。いつもと同じ、温かい声。
あなたは、少しだけホッとした。そうだ、ドラットくんがいる。一人じゃない。
そうだ、情報を知らなければ。
あなたは再びタイムラインに戻った。
××小学校? あなたの知り合いが、あの近くに住んでいたはずだ。
これは、伝えなければ。あなたは反射的に、RTボタンを押した。
あなたの引用RTはすぐに拡散されて、一気にバズった。誰かがあなたのつぶやきに反応している。RT、いいね、リプライ……
あなたと同じように、不安を抱えている人がいる。一人じゃない。
でも、平時だったらあなたを勇気づけてくれるその事実は、今だと不安を和らげるどころかむしろ増幅させた。
みんな、不安なのだ。
みんな、怖がっているのだ。
それほど恐ろしいことが起こっているのだ。
あなたはさらにXのタイムラインをスクロールした。止まらない。止められない。
助けを求める声、不安の叫び、恐怖のつぶやき、それらすべてがあなたの視界を埋め尽くしていく。
読まなければ、と思う。知らなければ、と思う。誰かを助けられるかもしれない、と思う。
だから、スクロールし、ひたすらRTしまくってゆく。次へ、次へ、次へ……
ドラットくんに勧められ、あなたは投稿欄を開いた。
……何を書こう。怖い、と書くべきか。助けて、と書くべきか。どうすればいい、と聞くべきか。
震える指で、文字を打ち込む。投稿ボタンを押す。
その時、テレビの音声が耳に入ってきた。
〈現在、都心部での被害が拡大しています。メカキングギドラは……〉
あなたは反射的に、テレビに目を向けた。
画面には、崩れ落ちるビル、逃げ惑う人々、そして空を覆う巨大な三つ首のドラゴン怪獣が映っている。これは現実だ。これは、本当に起きていることなのだ。
あなたは再び、スマートフォンに目を戻した。Xのタイムラインには、今も次々と新しい投稿が流れている。
……××小学校?
さっきRTしたのは××小学校じゃなかったか? ということは、さっきの情報は間違っていた?
でも、今のあなたに確かめる余裕はない。とにかくもっと情報を集めて、新しい情報を広めなければ。
不安と混乱の
「ラリー、Xのトラフィックを全解析して。今すぐに」
「どの範囲で?」
「メカキングギドラ出現から現在まで。投稿、RT、いいね、リプライ……関連するアクティビティを時系列で追跡して」
「了解です!」
わたし:エリナ=マクスウェルの指示に、ラリーが高速でデータを処理し始める。画面に次々と数字とグラフが表示されていく。
瞬間、画面が爆発的な情報で埋め尽くされた。数百万のつぶやき、数千万、いや数億のRT、無数の相互作用……それらすべてが、美しいネットワークグラフとして可視化されていく。
「まずはフェイク情報の拡散パターンを抽出します……」
ラリーが操作すると、画面に特定の投稿群がハイライトされた。
これらの投稿から、赤い線が無数に伸びている。RT、いいね、リプライ……爆発的な拡散を示すネットワークだ。
「拡散の初速を見ます……投稿直後、数秒以内に大量のRTが発生しています。しかも、RTしているアカウント群の行動パターンが異常です」
画面が切り替わり、RTを行ったアカウントのリストが表示される。
数十、数百、数千のアカウントが、ほぼ同時にフェイク情報をRTしている。
「これらのアカウント、投稿のタイミングが完全に協調しています。まるで……」
「ボットね」
わたしは即座に答えた。
「端末情報、IPアドレス、アカウント作成履歴を照合して。きっと同じパターンが見つかるはずよ」
ラリーがデータを突き合わせる。そして数秒後、
「ビンゴです」
画面に、驚くべきネットワーク図が表示された。
数千のアカウントが、赤い線で繋がっている。同一のIPアドレス群、類似した端末情報、機械的なアカウント作成パターン……すべてが、これらが組織的に作られた偽アカウント網であることを示していた。
「これらのアカウント、ほぼすべてが過去三ヶ月以内に作成されています。しかも、メカキングギドラ出現までほとんど活動していません」
「X星人の奴……仕込んでいたのね」
だが、それだけではない。もっと深刻な問題がある。
「ラリー、次はドラットくんのログを見せて。特に、フェイク情報に関連したユーザーとの会話記録を」
「了解です……」
画面が切り替わり、無数の会話ログが表示される。
そして、わたしはそこに戦慄すべきパターンを発見した。
ドラットくんが、フェイク情報を積極的に推薦している。ユーザーはそれを信じてRT、拡散してゆく。
「相関分析をかけます……」
ラリーが統計処理を実行する。画面に、グラフが表示された。
「……これは」
グラフは明確な因果関係を示していた。ドラットくんが推薦した投稿は、推薦されなかった投稿に比べて平均で237%多くRTされている。
つまり。
「ドラットくんの誘導が、拡散を因果的に増やしている……」
XのAI、ドラットくんがフェイク情報の拡散を加速させているのだ。わたしが作ったAIが。
「さらに地理情報解析の結果です」
ラリーが新しいマップを表示する。そこには、都心部の地図に、無数の赤い点が打たれていた。
「赤い点は、フェイク情報をRTしたユーザーの位置情報です。そして、青い点は……」
「……実際にパニックが発生した場所、ですね」
ユーザーとパニックの発生した場所は、完全に一致していた。
フェイク情報が投稿され、RTされ、そして数分後にその場所でパニックが発生する。
「さらに、この黄色い点は……」
黄色い点が、赤と青の点に重なるように表示される。
「メカキングギドラによる攻撃が行われた場所です」
わたしは息を呑んだ。
フェイク情報の発信、群衆の発生、メカキングギドラの破壊……完璧な連鎖だ。まるでメカキングギドラがその猛威を見せつけているかのようだった。
「しかもメカキングギドラには、Gフォースの作戦も筒抜けです」
「筒抜け、ですって? どういうこと?」
わたしが問いかけると、ラリーは次の解析情報を掲示した。地図上に、赤い線が表示される。
「Gフォース基地周辺のXウォレットの決済記録。基地周辺で大量の栄養ドリンクとインスタント食品が購入されています。長期戦を想定した買い物パターンです。Xルートのログでも周辺住人の大規模な移動が確認できます。そして、Xのタイムライン……」
画面に、何気ないつぶやきが表示される。
「これらの断片的な情報を、ゲマトロン演算で統合解析すると……」
画面が切り替わる。そこには、恐ろしいほど正確な予測モデルが表示されていた。
「Gフォースの作戦開始時刻、部隊規模、出撃ルート……すべて、97.3%の精度で予測できています」
「……嘘でしょ」
「いいえ、嘘ではないんです」
ラリーは言った。
「メカキングギドラは、Gフォースの公式発表を待つ必要すらないんです。Gフォース関係者、その家族、そして基地周辺住人のタイムラインから、作戦を読み取っている。そして、これらの情報は、すべてリアルタイムでメカキングギドラに送られています」
画面に、データフローが表示される。
X、Xキャリアー、Xウォレット、Xルート、Xフォームス……すべてのサービスから収集されたデータが、ゲマトリア演算ネットワークによる解析を経由して、メカキングギドラへと流れ込んでいる。
「さらにこれらの情報を基に、メカキングギドラは『次の作戦』まで予測しています。Gフォースや政府が公式に発表するより前に、すでにそれらに対応するフェイク情報を配置していました」
「完全に、先読みされているってこと……!?」
そうです、とラリーは答えた。
「メカキングギドラは、Xを通じて大衆のデータをリアルタイムで解析しています。どこに群衆が集まっているか、Gフォースがどう動くか、すべて把握して、そして自分の脅威を知らしめるのに最も効果的な場所とタイミングで攻撃している……」
画面には、さらに詳細なデータが表示されていく。
ゲマトリア演算ネットワークが、Xのビッグデータを処理している。世界中のつぶやき、行動パターン、感情の動き……それらすべてを解析し、Gフォースの作戦を予測し、最適な妨害タイミングを計算している。
そして、かねてより仕込まれていた無数のニセアカウントが、計算されたタイミングでフェイク情報を投稿する。
ドラットくんが、それを善意のユーザーに推薦する。ユーザーは、誰かを助けたい一心で、RTする。情報は爆発的に拡散し、現実の混乱を生み出す。
そして、その混乱がまた新しいつぶやきを生み出し、メカキングギドラはさらに多くのデータを得る。
完璧な悪循環だ。
「この状況でも、いや、この状況だからこそ人々はXにつぶやき続けているんです。不安だから、情報が欲しいから、誰かを助けたいから。そして、そのつぶやきがメカキングギドラに情報を与え続けている」
「わたしが作ったシステムが人々の善意を利用して、混乱を拡大させている、ってこと……!?」
その時、モニターにX星人の顔が映し出された。
X星人はいつものとおり淡々と、だけどどこか得意げに言った。
〈……ご理解いただけましたか、エリナ=マクスウェル〉
X星人の声は、勝ち誇っていた。
〈あなたが作り上げた完璧なシステム。世界中の人々を繋ぐプラットフォーム。それは同時に完璧な監視網であり、完璧な操作装置でもあったのです〉
「……っ」
わたしは言葉を失った。
〈人々は不安だからXを見る。誰かを助けたいから情報を拡散する。そういった行動のひとつひとつが、我々のメカキングギドラに無限のデータを提供してくれる。素晴らしいシステムですね、エリナ=マクスウェル〉
「黙りなさい!」
わたしは叫んだ。
「あなたたちは人々の善意を、利用しているだけじゃない!」
〈利用? いいえ。ゲマトリア演算ネットワークは『最適な結果を導く』ように設計されています。すべて、あなたの理想通りに動いているのです〉
X星人が、冷たく笑う。
〈これより、我々の計画は次のフェーズに移ります〉
次のフェーズ、ですって?
わたしが訊ねると、そうです、とX星人は頷いた。
〈これから真の破壊が始まります。そしてそのあとに、この星に我々のユートピアを創り上げるのです。我々の『一つにして無数』、電子計算によって導かれる究極の理想郷を。人々はその様子をあなたのXでつぶやき続け、いつしか心身をも我々のメカキングギドラに捧げるのです。どうです、すばらしいでしょう?〉
「ふざけるなっ……!」
わたしが激昂するのを嘲笑いながら、X星人が手を振る。
〈では、エリナ=マクスウェル。楽しい時間をありがとうございました……〉
画面が、ブツリと切れた。
わたしは、その場に崩れ落ちそうになった。
「わたしが……」
わたしが作ったのだ、この地獄を。
Xのタイムラインには、今も次々とつぶやきが流れている。助けを求める声、不安の叫び、誰かを助けようとする善意……それらすべてが、侵略者の養分になっているのだ。
「わたしが、わたしが……!」
わたしは、ただ唇をかみしめることしか出来なかった。
……わたしは、『あの頃のネット』を取り戻したかった。自由で、楽しくて、人々が繋がれる場所を作りたかった。
そして今、わたしが作ったシステムはわたしの手を離れて暴走している。止める方法がわからない。どうしたらいいのだろう。
絶望しかけたその時だった。
「エリナ! タイムラインを見てください!」
ラリーの緊急の声に、わたしは反射的に画面を見た。
そこには、一つのつぶやきが表示されていた。
海が、おかしい? わたしは、Xのタイムラインを凝視した。
あなたは、まだスマートフォンを握りしめていた。
SNSの画面を追い続けて、もう何時間になるだろう。時計を見る気力もない。Xのタイムラインには相変わらず、混乱と恐怖のつぶやきが流れている。
だが、その中のこんなつぶやきにあなたは目を留めた。
海? メカキングギドラの話題で埋め尽くされたタイムラインの中で、突然現れた「海」という単語。
でも、すぐに流れていってしまう。次の投稿、次の投稿……
しかし、数分後、
海の異変について、つぶやきが増えている。
あなたは、スクロールする手を止めた。
これは……何? メカキングギドラとは関係ない。でも、何かが起きている。
ドラットくんが反応した。
あなたは、頷くように画面をタップする。
画面が切り替わり、海に関する投稿がまとめて表示される。
あなたの心臓が、また早鐘を打ち始めた。何かが、海から来る。
その時、背後のテレビから、アナウンサーの緊迫した声が響いた。
〈緊急速報です! 沿岸部で、大規模な異常現象が観測されています!〉
あなたは反射的に、テレビへ目を向けた。
画面には、ヘリコプターから撮影された海の映像が映し出されている。
海が、渦巻いている。いや、渦巻いているのではない。何か巨大なものが、海中を移動しているのだ。
〈現在、Gフォースが警戒にあたっていますが……あ、あれは!〉
画面の中で、海面が膨れ上がった。
最初は小さな盛り上がりだったが、まるで海底から何か途方もないものが浮上してくるかのように海面が持ち上がり、歪み、うねっていく。
波が逆流する。海水が渦を巻く。
そして海が爆発する。
いや、爆発という言葉では足りない。海そのものが引き裂かれたのだ。
数百メートルの高さまで噴き上がる水柱。その圧倒的な水量が、白い飛沫となって四方八方に飛び散る。ヘリコプターが激しく揺れ、カメラが上下左右に振られる。
水飛沫の中からまず見えたのは、背びれだった。
海面から突き出た、鋭く尖った茨のような鋸歯の連なり。一つ一つが巨大な背鰭が山脈のようにゆっくりと、しかし確実に海面上へと現れてゆく。
続いている頭部が姿を現した。鋭い牙の生え揃った顎。小さく、しかし底知れぬ知性を感じさせる眼。
黒い巨体。まるで溶岩が冷え固まったような、ゴツゴツとした皮膚が全身を覆っている。太く逞しい四肢が、海底を踏みしめる。
“そいつ”が、雄叫びを轟かせる。
「――――ッ!!!!!」
咆哮。それは単なる音ではなかった。大気そのものを震わせる、原始的な恐怖の具現。地の底から響き上がってくるような、低く、重く、圧倒的な轟音だ。
あなたは理解した。
……それは、かつて『怪獣黙示録』を制覇した、最強の怪獣。怪獣の王、キングオブモンスター。
そうだ、ゴジラがやってきたのだ。
次回、プロレスです。
追っかけてるゴジラ作品を教えて
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モナーク∶レガシーオブモンスターズ
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ゴジラギャラクシーオデッセイ
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ゴジラバトルライン
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ゴジバースト
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ゴジばん
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ちびゴジラの逆襲
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フェスゴジラ
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映画しか見てない