劇場版ブルーアーカイブ:黎明の箱庭と失われた光   作:教頭

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08.祝福のヘイロー、絶望の産声

1. 消耗する命の灯火

 

イドフロントの最下層。そこはかつて砂漠の再生を夢見た技術の結晶であるはずが、今はただ、生命を物理的なリソースへと変換する屠殺場と化していた。アリスのスーパーノヴァによる一閃とネルの怒涛の銃撃が交差し、ボンドルドの堅牢な装甲はもはや原型を留めぬほどに砕かれ、火花を散らしている。しかし、彼は倒れない。それどころか、その動きには一切の衰えも、死への恐怖も見られなかった。

 

不意に、ボンドルドの背負った巨大なバックパックから、甲高い排気音と共に一つの「黒い箱」が排出された。

 

カラン、カラン……。

 

無機質な床を転がったその箱は、先ほどまで微かな温もりと拍動を宿していたとは思えないほど、今は冷たく、空虚な鉄の塊へと成り果てていた。

 

「……おや、レシーマが終わってしまいましたか。実に献身的な働きでした」

 

ボンドルドは、まるで使用済みの弾倉を捨てるかのような軽やかさで、新たなカートリッジを接続した。その瞬間、彼の亀裂が入った装甲から紫色の光が溢れ出し、砕かれた外殻が、まるで生体組織が再生するかのようにうごめきながら修復されていく。

 

「そんな……あれほど攻撃を叩き込んだのに!」 ヒフミが絶望に染まった声を上げる。その問いに応えるように、ボンドルドは慈愛に満ちた、耳を疑うほど穏やかな声で語り始めた。

 

「彼はタキク。素晴らしい少年でした。不遇な環境にあっても常に笑顔を絶やさず、『いつかコックになって、世界中のお腹を空かせた人たちに温かいスープを飲ませてあげたい』……。その純粋な夢は、今、私に戦い続けるためのバイタルデータという形で結実しました。見てください、この溢れる活力を。彼は私の中で、今も意気揚々とフライパンを振るっているのですよ。彼のおかげで、私はまた一歩、真実へと近づける」

 

「ふざけるな……ッ! 夢を、子供たちの命を何だと思ってるんだ!」

 

ネルが叫び、双銃『ツイン・ドラゴン』を乱射する。だが、ボンドルドは一切の回避動作すら行わず、その銃弾を再生した装甲で真正面から受け止めた。

 

 

 

2. 蓄積される「祝福」

 

二つ目、三つ目のカートリッジが、蒸気と共に排出される。そのたびにボンドルドの存在感は増し、周囲の空間が歪んだ愛の重圧に押し潰されていく。

 

「次はノキ。彼女は花が大好きでした。砂漠に覆われたこの地の果てで、『いつかイドフロントの周りを、色とりどりの花壇でいっぱいにしたい』と語っていた。彼女のその瑞々しく、繊細な感性は、今、私の知覚を極限まで研ぎ澄ませる神経伝達物質となりました。おかげで、砂狼さんの放つ、その一点の曇りもない弾道が……まるで風に揺れる花の茎のように、私には鮮明に見えるのです」

 

ボンドルドの動きが、一段と加速する。シロコの精密な狙撃を紙一重でかわし、彼は恍惚とした表情で(あるいは、その仮面がそう見えるほどに)語り続ける。

 

「そしてヌアヌ。彼は誰よりも足が速かった。『いつか誰よりも早く駆け抜けたい』。その飽くなき前進の意志、その強靭な脚力は、今、私の重装甲を駆動させる力強いトルクへと昇華されました。……素晴らしい。子供たちの夢は、不純物がないからこそ、これほどまでに純粋で、力強いエネルギーへと変換される」

 

先生は拳を握りしめ、爪が手の平に食い込んで血が滲むほどに震えていた。ボンドルドが饒舌に語るたびに、奪われた命が、閉ざされた未来が、ただの「使い捨てのバッテリー」として機械的に消費されていく。それは、キヴォトスの教師として最も容認できない、魂の冒涜だった。

 

「やめて……もう、聞きたくない……! やめてください……!」

 

コハルが耳を塞いで、その場にうずくまって泣き叫ぶ。だが、ボンドルドの残虐な「授業」は、最後の核心へと向かって加速していく。

 

 

 

3. 強制発現:偽りのヘイロー

 

ついに、残されたカートリッジは、あの『モモフレンズ』のペロロ様のキーホルダーが、赤黒い液体にまみれて虚しく揺れる最後の一つだけとなった。

 

「さあ……最後です。この実験の、そして私の探求の最終段階。最後の一押しを、彼女が……誰よりも私を慕ってくれたプルシュカが担ってくれます」

 

ボンドルドの背後で、最後のカートリッジがかつてない激しさで明滅を開始した。

ドクン、ドクン……。

イドフロントの鋼鉄の壁を震わせるほどの、巨大な鼓動が空間を支配する。

 

「プルシュカ。あの子は、このキヴォトスで出会ったあなた方のことも、心から愛していました。ですが、あの子の最大の夢は、『パパと一緒に歩むこと』。……今、その極限まで高められた愛と献身が、キヴォトスの神秘すらをも超越する奇跡を呼び起こします。彼女は今、私の盾となり、私の翼となろうとしている」

 

ボンドルドの頭上に、パチパチと紫色の放電が走り、光の粒子が収束し始めた。

それは本来、神秘を宿した生徒たちだけに許された「ヘイロー」と同じ形を形成しようとしていた。しかし、その輝きは神々しさとは無縁の、どす黒く、見る者の精神を汚染するような毒々しさを孕んでいた。

 

「な……に……? 数値が、理論上の限界値を突破している……」

 

ユウカの計算機が、ノイズ混じりの画面で測定不能のエラーを吐き出し続ける。

 

「嘘よ……ヘイローは、生徒たちの魂、神秘そのもののはず。それを、人工的に……他者の命と夢を極限まで圧縮して作り出すなんて、そんなことが許されるはずがない!」

 

「おやおや……。……ああ、これですか。これが、あなた方の言う『神秘』。なんと美しく、なんと効率的で、なんと合理的な力だ。ようやく、私もあなた方の隣に立つことができました」

 

ボンドルドの頭上に、漆黒の、中心にスリットの入ったような歪なヘイローが、完全な静止を保って発現した。

その瞬間、イドフロントの重力が変質したかのような圧力が生徒たちを襲い、周囲の空気そのものがドロリと重く沈み込む。

 

「プルシュカの夢は、『パパの力になりたい』という一点において、キヴォトスのどの生徒よりも、あるいはどの聖徒よりも純粋だった。その純粋な愛が、私にこの『輪』を授けてくれたのです。……素晴らしい。愛ですよ、先生。愛こそが、神秘すらも凌駕し、不可能な跳躍を可能にするのです」

 

 

 

4. 奈落の王、降臨

 

ヘイローを冠したボンドルドは、物理法則を嘲笑うかのように、ゆっくりと宙に浮き上がった。

背後の機械腕がクモの足のように広がり、その一つ一つの末端に、ヘイローから供給される膨大なエネルギーが奔流となって流れ込んでいく。

 

「見てください。プルシュカが、私の一部として、これほどまでに輝いている。彼女は今、私の頭上で、あなた方との再会を最高の形で祝っているのですよ。彼女の命が、こうして私の視界を広げ、私の腕を強くしている。これこそが、彼女と私の、永遠の絆の形です」

 

キーホルダーが、ボンドルドから放たれる激しいプレッシャーに煽られて、狂ったようにカチカチと音を立てて揺れる。それはまるで、箱の中に閉じ込められたプルシュカの魂が、助けを求めて泣いているようにも、あるいは狂った父への忠誠を叫んでいるようにも聞こえた。

 

「さあ、先生。……実験の続きといきましょう。この『ヘイロー』が、あなた方の掲げる『ヘイロー』を、どこまで、どのように凌駕できるのか。……おやおや、震えているのですか? 絶望、それもまた探求の糧です。喜んでください。あなた方も、私の次の研究……素晴らしい、実に素晴らしい『素材』になれるのですから」

 

ボンドルドの仮面から放たれる眩い紫の光が、イドフロントのすべてを、そして生徒たちの希望を白く、冷たく染め上げる。

それは、数え切れない子供たちの未来を、夢を、そして一人の少女の純粋な愛をすべて焼き尽くして輝く、地獄の夜明け——黎明の産声だった。




どうやっても原作のボンドルドを再現できない……!
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