※原作ウマ娘の格下げになる展開はしません
※反則・妨害描写はありません
※恋愛要素はありません
※主人公は“逃げ”の走りのみで成長します
大外のゲート。
コースの最も外側だ。
そこに配置されたウマ娘は、勝負を諦めるか、あるいはさらに燃え上がるか――どちらかを選ぶ。
じゃあ、俺はどこにいるのかって?
そのさらに外側。
枠にも入らない、番号すら与えられない場所。
存在しないはずの走者が立つ、ただひとつのゲート。
ゼロバンゲート。
そこが、俺のスタート地点だ。
夜の校舎。
照明が落ちた後の静けさは、まるで世界から音が消えたみたいだ。
俺はいつものようにブラシを手に、
校舎裏の隅で膝を抱えるように座り込んでいた。
手は動いているのに、心だけがどこか遠くにある。
スマホの画面には、さっきから同じポスターが映っている。
「聖蹄祭 模擬レース 出走者募集中! 変装大歓迎!」
指が震える。
タップしようとして、できない。
「……馬鹿らしい」
そう呟いて画面を消そうとする。
でも、できない。
何度も消そうとして、結局また開いてしまう。
憧れのあの娘たち。
トゥインクルシリーズで輝く姿を、
俺は何年も、誰よりも近くで、でも“遠くから”見つめてきた。
自分はあそこに立てない。
ウマ娘じゃない。
枠にも入れない。
永遠に。
……でも、模擬レースなら。
「偽物でいい。一回だけ……
スタートラインに立ってみるだけなら……」
声に出した瞬間、胸の奥が熱くなる。
それは諦めでも妄想でもなく、
ずっと押し殺してきた“願い”の形だった。
翌日。
変装は雑だった。
黒いウィッグで耳を無理やり押し込み、
サングラスとマスクで顔を覆う。
勝負服は自作の黒一色。
尻尾はテープで背中に固定した。
――動いたらバレる。それが怖い。
受付で、震える声を絞り出す。
「ゼロバンゲート、です」
係の生徒が笑って返す。
「ゼロ番ゲート? 外枠好きなんだね〜。がんばって!」
スタートゲート。
一番外――いや、そのさらに外。ゼロ番。
他の出走者たちは楽しげに笑い合っている。
「今日は本気出さねーぞ〜」なんて声も聞こえる。
その横で、俺は俯いて息を整えていた。
心臓がうるさい。
胸の奥で暴れている。
「出来心だ。出来心でいい」
自分に言い聞かせる。
そうでもしないと、立っていられなかった。
ゲートが開く。
瞬間。
世界が静かになった。
足が、地面を蹴る。
反射でも、勢いでもない。
身体の奥底から湧き上がる“走りたい”が、俺を押し出した。
誰も追いつけない加速。
外枠から一気に内へ切り込み、先行集団を置き去りにする。
観客席がざわつく。
「誰だあいつ……!?」
残り600m。
暗闇が、俺の周りを包む。
耳の先が垂れ下がり、
尻尾の先がピンと空へそそり立つ。
会場照明が一瞬落ちたような錯覚。
シルエットだけが、光の奔流となって突き進む。
最後の直線。
ゼロ番ゲートから始まった男が、
誰よりも速く、誰よりも遠くへ――。
ゼロは16歳前後で、期限付きの職員として学園に雇われています。見た目は年齢よりも幼く見られます。
正式なウマ娘登録がないため、学園内では“存在しない者”として扱われています。
この立場が、彼の自己否定や行動の背景になっています。