ゼロバンゲートの話題もようやく落ち着きかけた頃だった。
「逃走事件」も「謎の勝者」も、少しずつ過去のものになりつつあった。
だが――
その沈静化を嘲笑うかのように、事件は起きた。
ウマ娘
「な、なんなの、このポスター!?」
廊下の掲示板に、
誰かが勝手に貼り付けた一枚の紙。
そこには、太い筆文字でこう書かれていた。
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私はゼロバンゲート
お前たちの不甲斐なさには失望した
真の強者だけがレースに出る価値がある
誰の挑戦でも受ける
―明朝、第2練習場にて待つ
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ウマ娘A
「犯行予告!?
追走祭で頭角を表したからってこんなことする!?」
ウマ娘B
「アホくさい、放っておきなよ……
でも……気になるかも……」
ウマ娘C
「これ、本当にゼロバンゲートが書いたの……?」
ざわつく廊下。
貼られたポスターの前に、次々とウマ娘たちが集まってくる。
- 怒る者
- 興味を持つ者
- 恐れる者
- 期待する者
反応は様々だったが、
ただ一つだけ確かなことがあった。
ゼロバンゲートの話題が、再び学園を支配し始めた。
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そして――
このポスターを貼ったのが“誰なのか”、
俺自身はまだ知らない。
榊原の“次の手”が動き出したのか。
それとも、別の誰かが勝手に動いたのか。
学園は、再び騒がしくなる。
ーー
俺は榊原の部屋に駆け込み、机の上にポスターを叩きつけた
ゼロ
「榊原さん!なんなんです!これは!?
こんなポスター、俺は知らないですよ!!」
榊原
「大声を出すな。
誰かに聞こえる」
榊原は落ち着いた声で言いながら、
机の上の書類を整えるように手を動かした。
榊原
「お前はなかなかに仕上がってきた。
期待以上と言っていい。
だが――場数を踏む機会がないのは致命的だ」
ゼロ
「……場数……?」
榊原
「そう。公にレースに出走するのは未だ無理だ。
そこで、非公式レースにウマ娘を誘う。
お前はウマ娘を真正面から迎え撃つ。
勝ち続ければ、誰もお前を無視できなくなる」
ゼロ
「やることが悪役そのものだ……」
榊原
「悪役? 違うな」
榊原はゆっくりと椅子から立ち上がり、
俺の正面に立つ。
榊原
「覆面をして、レースを掻き乱した。
その強さ、その神秘性。
お前は観客が求める“ダークヒーロー”として既に完成している」
ゼロ
「ダーク……ヒーロー……?」
榊原
「そうだ。
正体不明、圧倒的な強さ、そして孤独。
お前は“物語”として成立している。
だからこそ、世論はお前を求める」
ゼロ
「でも……こんなの……」
榊原
「腹をくくれ」
その言葉は短く、重かった。
榊原
「お前が走りたいと言ったんだ。
なら、走るための道を作るのは俺の仕事だ。
その道が“まっすぐ”じゃないこともある。
だが――走り切る価値はある」
ゼロ
「……っ」
榊原
「ゼロ。
お前はもう“ただの職員”じゃない。
走る側の人間だ。
そして、走る者は常に誰かに狙われる。
それが勝負の世界だ」
拳を握りしめた。
胸の奥で、恐怖と興奮が入り混じる。
ゼロ
「……俺は……
走りたいです。
でも……怖いです」
榊原
「怖くていい。
怖いまま走れ。
それが、お前の強さになる」
ゼロ
「……榊原さん……」
榊原
「明朝、第2練習場だ。
誰が来るかは分からん。
だが――必ず誰かが来る。
お前が貼ったと思われている以上な」
ゼロ
「……俺が……迎え撃つんですね」
榊原
「そうだ。
ゼロバンゲートとしてな」
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エルコンドルパサーは、カフェテリアの壁に貼られたポスターをビリッと破り、
その紙片を手のひらで強く握りしめた。
エルコンドルパサー
「やってくれましたね……
必ず、必ずリベンジしマース!
その時まで、負けることは許しませんよ……ゼロバンゲート!!!」
その瞳には、涙の影はもうなかった。
代わりに宿っていたのは、燃え上がる闘志だけだった。
ゼロは、人目を避けるために交代勤務を選ぶほど、
自分の置かれた状況をよく理解している利発な子です。
その賢さが、榊原の想定以上の成長につながっています。
走る才能だけでなく、“生き抜く知恵”があるからこそ、
ゼロは強くなれるのだと思います。