ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜   作:茶坊主(ぽんぽん)

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黄金の船がやってきた

そして明朝。

 

約束の場所――第2練習場。

 

まだ朝日は上がっていない。

空は薄青く、風は肌を刺すほど冷たい。

 

そんな中、最初に現れたのは――

 

白い長髪の女

「いやぁ、早起きは三文の徳っていうが、

本当にその通りだなぁ」

 

肩をゴキゴキ鳴らしながら、

まるで散歩に来たかのような軽さで登場する。

 

続いて、眠そうな声が響く。

 

短髪の女

「ふぁー……眠い。

 朝っぱらから叩き起こされた身にもなれっての……」

 

目をこすりながら、

それでも興味は隠せない様子で辺りを見回す。

 

そして――

 

赤い髪の気の強そうな女

「なんで私まで……って、ちょっと待って。

 本当に誰かいる!?

 ヤバい奴なんじゃない?

 もう帰りましょうよ……!」

 

赤い髪の女は警戒心むき出しで、

短髪の女の背中に隠れるようにして周囲を見渡す。

 

短髪の女

「おいおい、ビビりすぎだろ。

 でも……確かに誰かいるな」

 

白い長髪の女

「おーい、そこの影のやつー。

 出てこーい。

 朝練なら一緒にやってやるぞー」

 

薄闇の中、

確かに“誰か”が立っている。

 

その姿は静かで、動かない。

まるで風景の一部のように。

 

だが――

その存在感だけは、異様に濃かった。

 

赤い髪の女

「ねぇ……本当に帰らない?

 あれ絶対まともじゃないって……!」

 

短髪の女

「……いや。

 あれは……来るぞ」

 

白い長髪の女

「面白くなってきたじゃねぇか」

 

風が止む。

 

影が、ゆっくりと動き出す。

 

ゴールドシップ

「やっと会えたな!

 お前がゼロバンゲートか!

 最初にこのゴールドシップ様と会えたのは幸運だと思え。

 今、降参すれば、ゴルシ様の手下に加えてやってもいいぞ。

 そこの2人みたいにな!」

 

ダイワスカーレット

「誰が手下よ!

 ちょっとアンタ……ゼロバンゲートだっけ?

 もうこんなことやめなさい。

 ちょっとした悪ふざけよね?」

 

ウォッカ

「ふぁーあ……何でもいい。

 朝練の前にとっとと片付けちまおうぜ……」

 

三者三様の空気。

軽口、警戒、眠気。

だが、彼女たちの足取りには“本気”が滲んでいた。

 

そして――

俺は、彼女たちと対峙した。

ひるんでいる暇はない。

時間をかければかけるほど、野次馬が集まってくる。

そうなれば、俺の正体がバレるリスクが上がる

 

だから――

俺は顎をスタートラインの方へしゃくった。

「早く始めよう」という、無言の合図。

 

その瞬間、空気が変わった。

 

ウォッカ

「おい、コイツ……アタシらをシカトしてやがんのか……?」

 

ゴールドシップ

「上等じゃねぇか。

 おい、そんだけ煽っておいて、今更“3人がかりは卑怯”なんて言わねぇよな!?」

 

ダイワスカーレット

「アンタたちも、いい加減にしなさいよ!

 非公式のレースなんて、生徒会やトレーナーにバレたら、怒られるどころじゃすまないわよ!」

 

ウォッカ

「スカーレット!怖気付いたんなら、お前は降りてもいいぜ?」

 

ダイワスカーレット

「な!?

 怖気付いてるわけないでしょ!」

 

スカーレットと呼ばれた女の声は震えていたが、

その足はしっかりと地面を踏みしめていた。

 

短髪の女は眠そうな目をしているくせに、

いつでも飛び出せるように腰を落としている。

 

ゴールドシップは――

相変わらず何を考えているのか分からないが、

その目だけは獲物を見つけた肉食獣のように光っていた。

 

そして、

その視線の先にいるのは――俺だ。

 

ゴールドシップ

「んじゃ、始めるか。位置について〜よ〜い…」

 

ゴールドシップが、勝手に腕を振り下ろした。

 

ゴールドシップ

「スタートォォ!!」

 

その瞬間、空気が爆ぜた。

 

今までのレースじゃない。

最初から全員が俺を敵視している。

 

(前だけを見て走れ)

 

榊原の言葉を反芻しながら、

俺は視界が最も開ける外ラチへ向けて、

地面を蹴り飛ばした。

 

スタートダッシュは完璧。

覆面の下で息が熱くなる。

 

ゴールドシップ

「得意技で来たか!

 甘いぜ! お前ら、あいつの進路を塞げ!」

 

スカーレット

「なんでアンタが命令すんのよ!?

 それに外ラチに誘い込むつもりかもしれないのよ!」

 

ウォッカ

「アタシはアタシの好きなようにやらしてもらうからな!!」

 

ゴールドシップ

「おいおい……お前らがアイツの邪魔してる間に、

 アタシがカッコよく1位かっさらう寸法だったじゃねーか!」

 

スカーレット

「そんなの知らないわよ!!」

 

ウォッカ

「勝手に仕切ってんじゃねぇ!」

 

三人の声が後ろでぶつかり合う。

だが、俺は振り返らない。

 

(怖い……)

 

足は震えている。

背中に刺さる視線が痛い。

 

でも――

 

(逃げるという選択肢は、もうない)

 

覆面の奥で、俺は歯を食いしばった。

 

外ラチ沿いの風が、

まるで刃物のように頬を切る。

 

それでも、前へ。

ただ前へ。

 

ゴールドシップ

「もういい! お前ら退け!!」

 

ウォッカ

「いや、一番取るのはアタシだ!」

 

ダイワスカーレット

「ちょっと! ライン取り合ってる場合じゃないでしょ!!」

 

三人の声がぶつかり合い、

足音が重なり、

進路が乱れた。

 

その一瞬――

ほんの一瞬だけ、

彼女たちの“隙”が生まれた。

 

俺はそれを見逃さなかった。

 

(突き放すなら……今しかない)

 

覆面の下で息を吸い込み、

背筋を伸ばし、

シッポを立てる。

 

榊原に叩き込まれた“逃げの姿勢”。

 

地面を蹴る。

風が背中を押す。

視界が一気に開ける。

 

俺は――

全速力で逃げた。

 

ゴールドシップ

「おいおいおい! あいつマジで逃げやがった!!」

 

ウォッカ

「チッ……速ぇ……!」

 

ダイワスカーレット

「だから言ったでしょ! 乱れたら追えないって!!」

 

三人の声が遠ざかる。

足音も遠ざかる。

 

でも油断はできない。

彼女たちは本物のウマ娘。

一度噛み合えば、すぐに追いついてくる。

 

だから――

今、逃げる。

 

ゴールドシップ

「あんの、チビすけ! 逃がすか!!」

 

ウォッカ

「待て、そっちはコースじゃないぞ!!」

 

白い長髪の女――ゴールドシップと名乗った奴が、

突然トラックを横切って俺めがけて突っ込んでくる。

 

その動きは、もはやレースではなかった。

 

ゴールドシップ

「喰らえ、悪者! ゴルシちゃんキーック!!」

 

ゼロ

(嘘だろ!? 飛び蹴りしてきた!?)

 

本当に飛んできた。

足を伸ばして。

空中で。

俺の顔面めがけて。

 

なにがなんだかわからない。

俺はただ走っているだけだ。

ケンカを売った覚えなんてない。

 

なのに――

なぜか命を狙われている。

 

(当たったら終わる…!)

 

本能が叫んだ。

「これ以上関わるな」と。

 

俺は身をひねって飛び蹴りをかわし、

そのまま地面を転がった。

砂を払う暇もなく、反射的に走り出していた。

 

足が勝手に動く。

呼吸が荒い。

心臓が痛いほど跳ねる。

 

(逃げろ……!)

 

レースでも勝負でもない。

これはもう、

生存本能のスプリントだった。




ゴールドシップは奇想天外ですが、彼女がいるだけで
ゼロの“ダークヒーロー”が一気にショータイムになります。

彼女がゼロを追う理由は……深い意味なんてありません。
ただ「面白そうだから」です。

そのノリが、物語をとんでもない方向へ転がしてくれます。
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