明朝、俺はまた挑戦者を待っていた。
昨日よりも空気が重い。
胸の奥がざわつく。
そして――来た。
歩いてくるだけで、周囲の空気が変わる。
まるで重力が増したような圧迫感。
挑戦者は俺の前に立ち、
上から下まで舐めるように視線を走らせたあと、
静かに名乗った。
???
「シリウスシンボリだ。
お前がゼロバンゲートで間違いないな……」
その名を聞いた瞬間、背筋が凍った。
(シリウスシンボリ……!
俺でも名前を知ってる…… 、
まさか俺に直接対決を挑んでくるなんて……)
たじろぐ。
でも逃げるわけにはいかない。
俺は無言で頷いた。
シリウスシンボリ
「無言……?
馴れ合うつもりはねぇってことか。
気に入った。早速始めようぜ。」
落ち着き払った声。
その一言で、俺は逃げ場を完全に塞がれた気がした。
俺は逸る気持ちを押さえ込み、
セオリー通り、最外周側――外ラチ沿いのスタートラインに立った。
外ラチは視界が開ける。
逃げるには最適。
だが、相手が強者なら“丸見え”になる危険な場所でもある。
シリウスシンボリは、そんな俺の選択を見て鼻で笑った。
シリウスシンボリ
「外ラチか……そっからでも勝てるって?
名前通り、ふざけたヤツだ。
だが、その挑発、買ってやる。
いつでもいい。お前のタイミングで走り出せ。」
挑発――
そんなつもりはない。
ただ、俺にはここしかないだけだ。
だが、シリウスは俺の沈黙を“覚悟”と受け取ったらしい。
その落ち着き払った声が、逆に逃げ場を塞ぐ。
(最初に引き離す……
3馬身……
前だけを見る……)
呪文のように自分に言い聞かせる。
呼吸を整え、視界を一点に絞る。
シリウスの気配が、背中に刺さる。
(行くしかない……!)
俺は地面を蹴り飛ばした。
風が裂ける。
視界が一気に開く。
外ラチ沿いのラインを、一直線に駆け抜ける。
スタートダッシュは完璧。
昨日のスピカ戦で得た経験が、確かに身体に残っている。
(3馬身……!
離せ……!)
全身が悲鳴を上げる。
だが、足は止まらない。
その瞬間――
背後から、重い気配が迫ってきた。
彼女はまだ動いていない。
ただ、静かに俺の走りを見ている。
その“余裕”が、何より恐ろしい。
シリウスシンボリ
「いいスタートだ!
だが、まだ荒い!」
背後から飛んできた声は、叱咤でも嘲笑でもない。
ただ純粋に“走り”を見抜いた者の声だった。
シリウスシンボリが、わざと遅れ気味にスタートを切る。
その動きに迷いはない。
まるで俺の走りを“観察”しているかのようだった。
俺は振り返る余裕なんてない。
ただ前だけを見る。
外ラチ沿いを必死に駆ける。
だが――
分かる。
(詰められてる……!)
最初に開けたはずの距離が、
確実に縮まっている。
足音が重い。
風の切り裂き方が違う。
背後の気配が、まるで巨大な獣が迫ってくるようだ。
シリウスシンボリ
「まだ逃げるか!
久々に面白いヤツにあった!
楽しませてくれよ!」
その声は、追う者の声ではない。
”捕食者”の声だった
シリウスシンボリは、物語のどこかで必ず立たせたいと決めていた存在でした。
多くを語らず、ただそこに立つだけで空気を変える。
その“静かな強さ”をどう描くか、ずっと試してきました。
そして書いているうちに、彼女の魅力に自分が飲まれていくのを感じました。
ゼロが彼女と出会った意味を、これから描いていきます。