放送席より静かにシンボリルドルフが話す
「ゼロバンゲート。
まずは礼を言う。
よく来てくれた。」
その声は、
怒りでも、挑発でも、賞賛でもない。
ただ“皇帝”として、
“学園の長”として、
そして“走りを愛する者”としての純粋な敬意だった。
ルドルフ
「もはや、言葉など不要だな。」
観客席が一瞬、静まり返る。
まるで全員が、
ルドルフの次の言葉を待っているかのように。
ルドルフ
「お前の覚悟――見せてもらうぞ。」
その瞬間、
会場の空気が震えた。
挑戦状ではない。
宣戦布告でもない。
これは“皇帝からの承認”だった。
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(……認められた)
覆面の奥で、
胸の奥が熱くなる。
逃げ続けてきた俺が、
今は“皇帝”に名を呼ばれている。
(見せてやる……俺の覚悟を)
拳を握りしめ
スタートゲートへ向かう足が自然と速くなる。
実況
「ゼロバンゲート……ゲートイン完了!!」
その瞬間、会場の空気がビリッと震えた。
観客のざわめきが波のように広がり、
スタンドの最上段まで熱が駆け上がる。
実況
「――あえて言わせてもらいましょう!!」
声が跳ね上がる。
観客が息を呑む。
実況
「ゼロバンゲートの“特等席”!!
最外周側に……今!!
ゼロバンゲートが入りましたァァァ!!!」
スタンドが爆発した。
「来たぞ!!」
「本当に出てきた!!」
「ゼロバンゲート!!」
「ヴィラン!!」
「ヒーローだろ!!」
「どっちでもいい!!走れ!!」
歓声、悲鳴、怒号、期待。
全てが渦巻き、最外周のゲートに吸い込まれていく。
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(ここが……俺の席だ)
最外周。
誰もが嫌がる位置。
どう考えても不利。
勝ちには遠い。
でも――
俺にとっては“特等席”。
(ここから全部ひっくり返す)
覆面の奥で、
呼吸が静かに整っていく。
(勝つために来たんだ……)
ゲートの前方を真っ直ぐに見据える。
実況
「学園最強を決めると言っても過言ではない皇帝杯――
今、スタートです!!」
スタートゲートが一斉に開く。
その瞬間、俺の身体が弾かれたように飛び出した。
ゼロ
(今だ!!
この瞬間だ!!)
外ラチ沿いの最外枠。
最も不利な位置。
だが、もう俺にとっては――
“逃げ道そのもの”だった。
ゼロ
(俺は外ラチから逃げ出す!!
3馬身……いや、4馬身……もっと!!
さらにその先!!)
脚が勝手に前へ出る。
地面を蹴るたびに、世界が後ろへ吹き飛んでいく。
ゼロ
(前だけ!!
前だけが俺の居場所なんだ!!)
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実況
「ゼロバンゲート、飛び出したァァ!!
これは速い!!速すぎる!!
外ラチ沿いから一気に前へ!!
3馬身差!!いや、まだ伸びる!!」
観客
「うおおおおおお!!」
「速すぎる!!」
「なんだあの加速!!」
「ヴィランじゃない!!怪物だ!!」
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エルコンドルパサー
(……来ましたネ、ゼロバンゲート)
静かに、しかし確実に闘志が燃え上がる。
エルコンドルパサー
(逃がしマセーン……今日は絶対に捕まえる!!)
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観客席からシリウスシンボリが見下ろす
「……フッ。
やっぱり逃げてねぇじゃねぇか。」
腕を組んだまま、
満足げに笑う。
シリウス
「行けよ、ゼロバンゲート。
“1番”ってやつを見届けてやるよ。」
実況
「ゼロバンゲート、独走!!
もはや、これはレースではありません!!
“自分に追いついた者とだけ戦う”――
そんなヴィランの挑発とでも言うべきでしょうか!!」
観客
「速すぎる!!」
「誰か追え!!」
「ヒーローはどこだ!!」
実況
「このレースにヒーローはいないのか――
……いた!!」
会場が一気に沸騰する。
実況
「第2コーナーを回っての直線!!
エルコンドルパサーが仕掛けてくる!!
怪鳥、ついに翼を広げた!!」
風を切る音が変わる。
脚が地面を叩くたびに、
ゼロとの距離が確実に縮まっていく。
エルコンドルパサー
(ゼロバンゲート……!
あなたの背中は……もう見失わない!!)
ゼロ
(来た……!
この気配……エルコンドルパサー!!)
背後から迫る圧。
風が変わる。
空気が震える。
ゼロ
(追ってこい……!
俺は逃げる!!
でも今日は――
逃げるためじゃない!!)
脚がさらに伸びる。
呼吸が深くなる。
ゼロ
(勝つために逃げるんだ!!)
実況
「エルコンドルパサー、加速!!
ゼロバンゲートとの差が縮まる!!
これは追撃というより――
“狩り”だ!!」
観客
「行けエル!!」
「逃げろゼロ!!」
「どっちがヒーローでどっちがヴィランだ!!」
「わからない!!でも最高だ!!」
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- ゼロは“逃げ”を“勝ち”に変え
- エルは“追う”を“宿命”に変え
- 観客は“恐怖”を“熱狂”に変えた
皇帝杯は、
ただのレースではなくなった。
私(筆者)は馬券を買ったことがありません。
勝つまで粘る性分なので、賭け事全般が苦手なんです。