エルコンドルパサー
「シッポがたった!!
ここからがワタシの勝負!!
ゼロバンゲート!!捕まえてやるデース!!」
その叫びは、
観客席の奥まで突き刺さるほどの鋭さを持っていた。
エルコンドルパサーの脚が地面を叩くたびに、
芝が爆ぜる。
風が裂ける。
空気が震える。
猛禽類が逃げる獲物に爪をたてる。
エルコンドルパサー
(あなたの覚醒……待っていたデース!!
ここからは――
“ワタシの狩り”デース!!)
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実況
「エルコンドルパサー!!
しっぽが立ったゼロバンゲートに対し、
まったく怯まない!!
むしろ加速している!!
これは……これは怪鳥の本能!!
ゼロを捕まえに行く!!」
観客
「行けエル!!」
「逃げろゼロ!!」
「二人とも速すぎる!!」
「これが皇帝杯か!」
実況
「レース終盤!!残り600……500……400!!
エルコンドルパサー、ゼロバンゲートを捕らえる!!
しかしゼロバンゲート、譲りません!!
このまま決着を迎えるのか!!」
観客席が揺れる。
悲鳴と歓声が混ざり合い、
皇帝杯はついに最終局面へ突入した。
ゼロ
(もう少しだ!!逃げ切れる!!)
呼吸ができない。
肺が焼ける。
視界が揺れる。
でも――
ゼロ
(苦しい……でも……面白い……楽しい……)
胸の奥で何かが震えている。
恐怖でも、焦りでもない。
やっとわかった
これは――
走ることそのものの快感。
ゼロ
(ここから俺を出さないでくれ……
まだ……夢を見させてくれ……
誰も!誰も!!邪魔しないでくれ!!)
叫びは心の中だけ。
でも、その願いは風に溶けて消えていく。
なぜなら――
既に背後にあった影が、
真横に来ていた。
エルコンドルパサー
「ゼロバンゲート!!
忘れたとは…言わせマセーン!! 」
「「Remember!! I'm …エルコンドルパサー!!!」」
その声は、
勝利を確信した者の咆哮。
観客席の奥まで突き刺さるほどの、
圧倒的な自信と誇り。
実況
「聞こえました!!
エルコンドルパサー、堂々の名乗り!!
ヴィランを倒し、
ヒーローとなるのは自分だという咆哮!!」
観客
「行けエル!!」
「逃げろゼロ!!」
「どっちが勝つんだ!!」
「これが皇帝杯だ!!」
実況
「最後の直線!!
エルコンドルパサー!!
ゼロバンゲートを追い抜きましたァァァ!!!」
会場が爆発した。
悲鳴。
歓声。
怒号。
熱狂。
全てが渦巻き、
皇帝杯はついに――
“ヒーロー vs ヴィラン”の構図をひっくり返した。
終わった――。
その言葉が胸の奥で、
ゆっくりと沈んでいく。
自分がプライドを折った相手。
あの時、彼女の涙を見て、
一度でも“勝負から逃げよう”とした瞬間があった。
(あの時点で……俺はもう、勝てない宿命だったのかもしれない)
そんな考えが、
静かに、しかし確実に胸を締めつける。
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ゴールラインを踏む。
脚が止まる。
身体が止まる。
ゆっくりと減速しながら、
世界の音が全部消えていく。
歓声も、実況も、風の音すらも――
何も聞こえない。
何も感じられない。
ただ、
時間だけが止まったように、
俺の周りを静寂が包む。
(……負けたんだな)
その実感すら、
どこか遠くの出来事みたいだった。
俺は空を見上げた。
青い。
どこまでも、青い。
その青さが、
やけに胸に刺さる。
(逃げて、逃げて、逃げて……
最後の最後で、追いつかれた)
悔しい。
苦しい。
でも――
どこか、少しだけ、
満たされている自分がいた。
(……これが、俺の走りだったんだな)
空は何も答えない。
ただ、静かに広がっているだけだった。
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エルコンドルパサーの最後の叫び
”Remember’’’’忘れたとは言わせないからな!”は
彼女は復讐したかったのではなく、
己を乗り越えたかったからです。
それが伝われば幸いです。