ゼロバンゲート〜枠外からの挑戦者〜   作:茶坊主(ぽんぽん)

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スタートライン2

エルコンドルパサー

息も絶え絶えになりながら、肩で大きく呼吸しつつ――

「はぁ……はぁ……ゼロバンゲート、その正体を暴いてやりマース!!」

 

勝者の誇りと、

長い追走の果てに辿り着いた達成感が混ざった声だった。

 

そして、

震える手で俺の覆面へと伸びる。

 

エル

「……きゃあ!?

 男の人!?」

 

覆面が剥ぎ取られた瞬間、

会場が一瞬だけ静まり返った。

 

風の音すら止まったような、

あの奇妙な静寂。

 

---

 

観衆が期待していたのは――

 

- 息を飲むほどの美形

- 敗れてなお、悪役としての風格を保つ“宿命のヴィラン”

- あるいは、壮大な計画の序章を語り出すような、圧倒的存在感

 

そんな“物語的な怪物”だったのかもしれない。

 

だが――

 

そこにいたのは、

どこにでもいるような、

冴えない顔をした、”ただの俺”だった。

 

汗で髪は張り付き、

息は荒く、

目は虚ろで、

勝者の背中をただ見つめているだけの――

 

”男のウマ娘”。

 

観客席から、ざわめきが広がる。

 

「え……ウマ娘なのに、男?」

「誰だよあれ……」

「もっとこう……なんかあると思ったのに……」

「顔、普通じゃん……」

「いや、でも……あいつ、あの走りで……?」

 

期待が崩れ、

驚きが混ざり、

そして――

少しずつ、別の感情が生まれ始める。

 

(……これが、俺か)

 

覆面の下に隠していたものは、

強さでも、悪でも、華でもなかった。

 

ただの俺。

逃げて、走って、

必死に足掻いてきた俺。

 

(……冴えないな)

 

でも――

その冴えない顔で、

俺はここまで来た。

 

強敵に追われ、

観衆に恐れられ、

学園に揺さぶりをかけ、

皇帝杯の主役にまでなった。

 

冴えない顔のまま、

必死に走って、

ここまで来た。

 

それだけは、

誰にも否定できない。

 

けれど俺は、叱られた子供のように、

耳もシッポも垂れ下がり、

しゅんと立ち尽くすしかない。

 

何を話せばいいのか。

何を期待されているのか。

もう分からなかった。

 

観衆の視線が痛い。

生徒会の視線が鋭い。

エルコンドルパサーの視線は真っ直ぐで、

シンボリルドルフの視線は重かった。

 

シンボリルドルフ

「男のウマ娘……?

 ゼロバンゲート……君は……

一体どういうことだ!!」

 

皇帝の声が、

レース場全体に響き渡る。

 

その問いは、

怒りでも、非難でもなく――

“理解できない現実への驚愕”だった。

 

俺は口を開きかけた。

 

「俺は――」

 

その瞬間。

 

帽子を、

乱暴に――しかし迷いなく被せられた。

 

太い腕。

温かい手。

榊原だ。

 

榊原

「ゼロ、よくやった。

 何も言わなくていい。」

 

その声は、

いつものぶっきらぼうな調子なのに、

どこか優しかった。

 

榊原は観衆の前に立ち、

堂々と名乗りを上げる。

 

榊原

「あー、レース場まで降りてきてすまない。

 ゼロバンゲートのトレーナーの榊原だ。」

 

ざわめきが広がる。

 

榊原

「こいつに覆面を渡し、

 変装してレースに出るように促したのは俺だ。

 挑発的なビラを貼って挑戦者を募ったのも、

俺のやったことだ。」

 

観客席がさらにざわつく。

生徒会の表情が変わる。

 

榊原

「こいつは、ただ走りたかった。

 そこに俺がつけこんだ。

 それだけだ。」

 

その言葉は、

ゼロを守るための“盾”だった。

 

俺の罪を、

俺の責任を、

全部、自分の背中に背負うための。

 

---

 

(榊原さん……)

 

胸が締めつけられる。

 

俺のせいで。

俺のために。

俺を守るために。

 

榊原さんは――

全部、自分がやったことにした。

 

(違う……違うんだ……

 俺が……俺がやりたかったんだ……)

 

でも、

言えなかった。

 

帽子のつばが、

俺の視界を隠してくれた。

 

涙がこぼれたのを、

誰にも見られずに済んだ。




榊原を書いていく時にはモデルとなった人物がいました。
対して、ゼロには明確な容姿の設定もモデルも存在しません。
それは、ゼロはこの物語を見る”目”でもあるからです
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